第12話 好意の返し方
そういえばレイゼルって、改めて考えると立場的に私と同じような立場なのよね。
たくさんの異性からの愛を向けられ、関係を結ぶ。
それが仕事であるかないかの大きな違いはあるけれど。
「ねぇレイゼル、あなた、今までたくさんお客さんをとってるわよね?」
「え? は、はぁ……まぁ」
「なら、そのお客さんに好意を向けられることもあるわよね?」
こんなに眉目秀麗で女性にやさしくてその上テクニシャンで……。
うん、惚れられない要素がどこにもない。
「あぁ、そう、ですね。しょっちゅうですね」
おぉ、さすが人気ナンバーワン男娼。
すごい自身だわ。
「大勢の人から好意を向けられて、告白されることだってあるでしょう? そういう時ってどうしてるの? やっぱり快楽を与えて有耶無耶にするの?」
「お前なぁ……一応王女なんだからもう少し慎みを持て」
王女だっていう認識あるんだ……。
「そうですねぇ……そういう男娼も少なくはないみたいですね。その場限りの愛してるとともに快楽を与えれば、納得して帰っていく」
やっぱりそうよね。
一回目の私と同じ。
「でも僕は違いますね」
「え?」
顔を上げると、珍しく真顔でレイゼルが私をまっすぐに見つめていた。
「僕は、いただいた好意すべてに、ごめんなさいをしています」
「えぇ!? き、きっぱり断ってるんですか!?」
そんなことして大丈夫なの!?
よく今まで生きてこれたわねこの人!!
「さ……刺されたり、しない?」
両手を組んでびくびくしながらそう尋ねると、レイゼルは一瞬だけきょとんとして私を見てから、ぷっ、と噴き出した。
「あっははははははは!! そう、そうですよね!! 刺されてもおかしくないですよねはははははっ」
何がおかしいんだこの男。
まさか刺されるのが好きっていう特殊性癖とかなんじゃ……。
「お前絶対今変なこと考えてるだろ……」
「うっ……」
セイシス、また人の脳内のぞいたわね。
「やっぱりリザ王女は魅力的ですね。僕なんかの身の安全を気にしたり、僕の性癖の心配をしてみたり」
レイゼルにも脳内を覗き見る能力がある、だと!?
「ちなみに僕やセイシス様が特殊能力を持ってるわけじゃなくて、リザ王女が割とわかりやすいだけですからね?」
「ふぁっ!?」
レイゼルの言葉に深くうなずくセイシス。
何なんだこのコンビ。
「刺される、というか、刺されそうになったことは確かにありますよ。逆上したお客様がナイフを取り出して向かってきたこととか」
「!? やっぱりあるんじゃない!!」
「ははっ。大丈夫。すぐに取り押さえましたから。こう見えて僕、幼い頃から剣術と体術は学んできましたからね」
さすが元子爵家の令息。
そこら辺の教育はしっかりとなされていたのね。
それがこんなところで役立つなんて、何事もやっておくもんだわ。
「何でそんな正直に? 安全を考えたら絶対……」
「そう。嘘の言葉と快楽でごまかしてしまったほうが、都合がいい。でもね、それはその人に対して誠実とは言えないんですよね」
「誠実?」
男娼がお客さんに誠実、って、全く結びつかない。
私が首をかしげると、レイゼルは苦笑いしてから目の前の紅茶を一口口に含み潤し言葉をつづけた。
「こういう世界ですから、ある程度の割切りが必要なのは僕も理解しています。でも、何度も会う人には僕も人間だから情ぐらい沸きます。そして人と人として関わってしまう。ある意味、男娼としてもただの男としても中途半端なんです、僕。だからこそ、応えられない思いに応えることはできない。ごまかすことは、好意を寄せてくれた人にも、本当に惹かれている人にも失礼ですから。好意に応えられないなら応えてはいけない。応えないのが、相手への優しさでもあるのですよ」
「応えないことが、優しさ……」
一回目の私とはまるで違う。
一回目の私は、ただ自分の苦しみを紛らわせたくて、ただ早く世継ぎを産んで楽になりたくて、応えられない好意を利用してしまった。
その結果があの地獄絵図だ。
置かれた立場は似ていても、自分の言葉の重みを理解して自分の危険よりも相手のことを考え行動するレイゼルとは雲泥の差ね。
「そう……そうよね。好意のない相手には応えない。誠実であることは……大切、よね」
一度目の人生でそれを理解していたなら、もっと違う人生になっていたのかしら、私?
考えても仕方がないことだけれど。
「はい。その誠実はすべて、あなたのために」
「へ?」
あ、あれ?
何か風向きが変わって──。
これはまずい、かもしれない……!!
「僕がお客さんと最後まですることがないのも、お客さんの好意を馬鹿正直に断り続けるのも、全ては──」
「あぁぁあぁああああああ!!!!!!」
最後まで言わせないわよ!?
全て私のためだなんて!!
そんなフラグ修復、絶対させるもんですか!!
「れ、レイゼル!! そろそろ時間だわ!! 今夜も色々聞かせてくれてありがとう!! 明日は遠路はるばるフロウ王子が来られるから、私も早く寝て明日に備えないと!! それじゃまた明日ぁぁああ!!」
「え? ちょ!?」
バタンッ。
取り付く島もなくまくしたてると、私はレイゼルを外へと押し出し扉を閉めた。
「ふぅ……」
「ふぅ……じゃねぇよ。何勝手に追い出してんだよ」
「うっ、うるさいわね!! 危険だったんだから仕方ないでしょ!!」
あのまま最後まで言われてたらせっかく折ったはずのフラグが復活するところだったわ!!
レイゼルには悪いけど。
「ったく……明日レイゼルに謝っとけよ?」
「わ、わかってるわよ」
本当、ちゃんと謝っておかないと。
そうだ、明日の夜のお茶請けはレイゼルの好きなクッキーを用意しよう。
確か一回目の時にクッキーが好きだって言ってたものね。
「授業が終わったなら俺も寝るかな」
「今夜もありがとう、セイシス」
なんだかんだ言いながらも毎晩閨授業に付き合ってくれてるんだから、感謝しなきゃよね。
「ふっ。珍しく素直じゃん」
「うるさいわねっ!! 私だって感謝を伝えることはあるわよ!!」
ただしセイシス以外には、だけど。
セイシスは昔から知ってる悪友みたいなものだからか、どうしても素直に感謝を伝えることが難しいのよね。
「感謝のしるしになんでも一つだけお願いを聞いてあげても良いわ!!」
どうだセイシス!!
これで私の誠意が伝わることでしょうよ!!
「ふーん……なんでも、ねぇ」
「えぇ!! 女に二言はないわ!!」
私がそう言い切ると、セイシスはふっと不敵な笑みを浮かべてから扉の方へと歩いて行った。
「んじゃ、考えとく。覚悟して待ってろよ? おやすみ、リザ」
悪い笑みを浮かべてから、セイシスは部屋を後にした。
……はやまった……気がする。
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