第11話 変人王女?
「で、明日はフローリアンのフロウ王子と面会なんですよね? 大変ですね、連日いろんな男との逢瀬があるだなんて」
「人聞きの悪いこと言わないでくれる!?」
閨教育(という名の夜のお茶会)6日目。
夜寝る前のこの時間が一日で一番疲れる時間であることは間違いない。
「はははっ。本当にあなたは面白い方です。こんなに美しく煽情的な身体を持ちながらも実はものすごくうぶなところも、反応がいちいち面白いところも、全てが魅力的で、可愛らしい」
そう言って私の髪を一束手にして唇を落とすレイゼルに、からかわれているのだろうと分かってはいても免疫不足の私は顔を熱くさせてしまう。
「はいはいそこまでー。うちのお姫様のキャパオーバーなんで離れて離れてー」
強引に私たちの間に割って入って座り込むセイシス。
今回ばかりはこの強引さに助けられている部分が大きい。
「あらら、もうセイシス様判定出ちゃった。残念」
「勘弁して……」
レイゼルといると心臓がいくつあっても足りないわ。
たとえ人生一度目はビッチ悪役王女だとしても、あの時はただひと時の現実を忘れる時間が欲しかった。
たった一人の王位継承者としての重責に潰れかけて、私を恋い慕う者達でその重責を紛れさせながら何とか立っていたのだから。
幼い頃にお母様を亡くし、父も後妻を迎えることなく、全ての重いものが私に乗せられた。
現実逃避だってしたくなるわ。
溺れたくだってなる。
何かにすがりたくもなるのよ。
だけどだめだ。
私がすがることで相手に私を許すことになる。
そうすれば相手はもっと私に愛を向ける。
相手が一人ならばそれでもまだよかったけれど、あの時の相手は5人。
全員を平等に本当の意味で愛することのない人間に、5人全員の愛が向けられて、保たれていた秩序の中、その愛されていた一人の人間に本当に愛する人ができてしまったら……。
「秩序は崩れ、愛憎と化す、か……」
「なに病んでんだよお前」
はっ!! しまった、つい口からぽろっと……!!
「ち、ちがっ!! この間読んだ本の話よ!!」
「あぁ、たくさん読んでるっていう官能小説?」
「えぇ!? 僕というものがありながら、官能小説なんか読んでるんですか!? それなら僕を使ってくれたらいいのに」
「ち、ちがっ!! そういうのじゃなくて!! ていうか、使わないから!! 一生!!」
もー何なのこの人達っ!!
絡みづらいわ!!
「あっはっは!! でもリザ王女はものすごく人気がありますからね。秩序が崩れれば愛憎に巻き込まれそうです」
不吉なこと言わないでぇぇぇええ!!
あなたがそのフラグの一員だから!!
「貴族の男たちの間ではもちろん、国外でもあなたの美貌は有名ですし、なんなら男娼たちの間でもあなたは度々話題に上がりますからね」
「話題に? あぁ、いろんな男と寝てるって?」
明け透け無く言った言葉に、レイゼルがまた噴き出す。
「ふはっ。たしかにそれもですけど……。容姿だけではなく、あなたがいろいろとされている改革について、皆感心しきりなんですよ。孤児院の子供の就職先問題を解決したり、様々な国との貿易を取りまとめてくださったおかげで珍しい物資が入るようにもなりましたし、娼館に専門医を配置してくださった。そのおかげで、心や身体に傷や病を抱えながらも働き続ける子が減りました」
あらためて言われるとなんて反応したらいいのかわからない。
それらは全部、一度目の人生があったからこその功績だ。
孤児院の件はカイン王子と結婚して貿易が盛んになって、各企業の働き手不足が深刻になったからこそ人員確保のために考え付いたものだし、貿易を盛んに行い始めたのは、あまり貿易を盛んに行っていないほぼ鎖国状態のフロウ王子の国であるフローリアンの行く末を見たからだ。
花の国フローリアンは自国の花が他者によって自然のままの姿を変えるのを防ぐため、貿易を極端に制限している。
自国の花は他国に売ることを惜しまないが、新しいものを取り入れることはしない。
その結果一度目の人生では、歴史的大不作が起こった際に物資不足で大飢饉が起きた。
あれを見ているからこそ、私は積極的に他国に掛け合って貿易を盛んにおこなうようにしはじめたのだ。
娼館の問題もそう。
一度目の人生でレイゼルが話してくれた娼館の実態。
ひどい客もいて、心や身体に傷を負う娼婦や男娼も多いのだという。
だけど職業柄普通に治療院に行っても門前払いをされることも珍しくはないから、多くの娼婦や男娼は心や体に傷を負ったまま、限界を超えるまで働き、命を落とすこともあるのだ、と。
それを聞いていたからこそ、二回目の人生では娼館の環境改善に手を付け、専門医を常駐させることにした。
どれも一度目があったからこそ。
そう考えれば、一度目も無駄じゃなかった、ってことなのかしら?
「皮肉なものねぇ……」
「リザ王女ってよくわからない独り言多いですけど、これ通常運転何ですか?」
「別名変人王女ともいう」
聞こえてるわよ二人とも!!
ていうかそんな別名はないっっっ!!
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