第6話 遭遇

 食べ物よし、マントよし、魔法の杖よし、財布よし、イブ様のお菓子よし。

 マルコは自分の部屋で荷造りしていた。

 イブ様からもらった石は杖の先に埋め込むようにはめ込んでる。

 破壊の光線が出る石を手に持っていると危ないとの判断だった。

 マントは急ごしらえで作ったもので継ぎはぎだらけだ。


 いざ家を出るとなると感慨深いものがあった。

 家族との思い出が頭をよぎる。

 父マナセとの修行。

 母エラの料理。

 アベルたち治療した村のみんな。


 そういうものがぐるぐる頭を回っていたが英雄ロウとの思い出に至る。

 すると再びポルトの街へ向かう気持ちが強くなった。


 時刻は早朝。

 日が出たばかりである。

 マルコは荷物の入ったバッグを背負うと外へ出る。

 そこには父マナセ、母エラ、友人のアベルがいた。


「見送りにきたよっ!」


 マルコの肩にアベルが手を置く。


「行ってくるよアベル。親父とお袋も元気で」


 マルコはみんなと握手した。


「今から行けば夕刻までにはポルトに着けるはずだ。特にお前は若いからもっと早く着くかも知れないがな。確か夜になってしまうと門が閉めれて街へは入れなくなるはずだ。分かれは寂しいが急いだほうがいい」

「ありがとう親父」


 父マナセなりの励ましだった。

 一日の距離とは言え初めて村の外へ出る。

 途中に分かれ道も無いそうだ。

 迷う心配もないだろう。


「頑張って! いつでも帰ってくるのよ」


 母エラはうっすら涙を浮かべていた。

 マルコはもう一度母エラと握手した。


「何かあったらポルトへ行くからさ。害獣とかモンスターが出たらよろしくっ!」


 アベルはニコニコしていた。


 マルコたちは村のはずれで別れる。

 母エラはいつまでも手を振っていた。


 マルコは村が見えなくなると祝福を使うことにした。

 初めて行く場所だ。

 用心するのは良いことである。


「祝福・魔除け!」


 マナセが崇めている神々に祈りを捧げ始めてから初期に授かった祝福である。

 安全な村では使う必要がなかった。

 今思えば村にはマナセが張った結界があったはずだ。

 それを突破したあのクマは何だったのだろうか?


「そのうち調べてみるか」


 マルコはそのような事を考えながら歩く。

 途中小腹がすいたらイブ様にもらったお菓子を食べる。

 いつものクッキーに見えるが中に干した果物が入っていた。

 ちょっと奮発したらしい。


「ふふっ、イブさんらしいな」


 甘いお菓子のおかげか疲労はなかった。


 日も高くなってきたころ前方に粗末な柵のようなものが見えてきた。

 木で作ったやぐらのような物も見える。

 やぐらの上には弓矢を持った人が居た。

 粗末な門にも男が数人居る。


「ッ! 悪意だ!」


 マルコには常時発動している祝福がある。

 その中の1つが悪意感知だ。


「あの門、良いものじゃないな。いや関所か? 検問所か?」


 マルコは杖を握り締めると粗末な関所へ向かった。

 魔除けでは悪意ある人間までは防げないのだ。


 関所へ着くと何やらもめ事が起きているらしい。

 商隊が関所に引っかかっていたようだった。

 木漏れ日の村は最近少しばかり景気がいい。

 最近は商売人も村へ良く来るようになっていた。


「ひいいいいっ。そんなに税をとられてしまったら商売あがったりですー。ご勘弁をー!」

「うるせえっ、これは領主様がお決めになった税なんだよっ!」


 門ではちょっとした騒動になっていた。


 俺が門に近づくと強烈な悪意が襲ってきた。


「おい、そこの杖の男! 止まれっ!」

「魔術師や神官の類かもしれない気をつけろっ!」

「いったん商隊の方は放っておけっ! 何人か魔術師の方へ行けっ」


 これはマトモな兵隊なのだろうか?

 関所の者たちの武器は剣だったり斧だったりして統一性がない。

 皮鎧も劣化が激しいようで表面がボロボロだ。

 盗賊なのだろうか?

 向けられた悪意からするとマトモではない。


「こいつらはきっと兵隊に化けた盗賊ですっ! たすけてくださーい! もともとこの場所にはこんな関所は存在しません! おそらくこいつらが勝手に建てたものです!」


 門の向こうから商人らしき男の叫び声が聞こえた。

 普通の人より小綺麗な白いローブを着ており整ったあごひげも蓄えている。


「なるほどっ! そういうことか! ならばっ!」


 マルコは医療の神を信仰している。

 戦いは本意ではない。

 それでも杖を櫓へ向ける。


「盗賊は仕方ないとイブ様も言っていた。でもあまり無駄に殺したくない」


 マルコは大きく息を吸うと意識を集中する。


「祝福・破壊光線ッ!」


 櫓へ向けて祝福を放つ。

 光線は赤い光を発しながら櫓の柱を焼き切る。

 あまり丈夫に作られていない櫓はミシミシと音をたてて傾き始めた。


「おいっ、櫓が倒れるぞっ! 早く逃げろっ!」

「ひいいいいっ!」

「あいつ祝福って言ってたぞ」

「神官だ! 戦の神官に違いねぇ」

「あんなのに勝てるわけねぇ」

「にげろっ! にげろー!」

「バカヤロウッ! 敵はたった一人だぞ! 何逃げてんだッ!」


 ズシーン!

 地上に居た10人ばかりの盗賊たちは散り散りになって逃げて行く。

 しかし盗賊の頭らしき者を含めた何人かは戦意があるようで逃げていない。


 俺は追い打ちのつもりで粗末な門も破壊する。


「祝福・破壊光線!」

「ひいいいっ、やっぱ本物の戦の神官だ! まってくれ~」


 盗賊は一人を除いて逃げ出した。

 櫓の上に居た弓を持った盗賊だけは逃げそびれた。

 落下時にどこかぶつけたらしく地面に横たわっている。

 マルコが倒れた盗賊へ近寄るとまだ息はあった。


 近くにいた白いローブの商人らしき男に声をかける。


「たぶん商人さんですよね? この盗賊まだ息がありますよ。たぶん軽傷です。どうしましょう?」

「あなた様は戦の神の神官様ですね? ありがとうございます。それでしたら縛っておきましょう。街の衛兵に突き出すんです」

「俺は戦の神官じゃないんだけどなぁ」


 ポルトの街まではまだ道半ばだった。

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