暁に映る 東洋の華
三浦薫
第一部
第1話 紫の華の意味
都の大通り、朱雀通りを厳かに馬車が通る。その後ろを終わりが見えないほど長い行列が続いており、広い朱雀通りが行列と観衆で埋め尽くされていた。
馬車と馬、行列は皆赤い布で修飾されており、新月の夜にも関わらず、街は赤で満たされて明るい。人々は行列の雰囲気に誘われて二階や三階、大通りの端や、店の影から行列を眺めていた。
『なんとまぁ煌びやかな』
行列を眺める人々が感嘆の声を漏らす。
『どこの花嫁か?』
『王家の娘が劉家に嫁ぐらしい…』
そう、馬車の中で静かに座っているのは、王家の娘、王玲瓏である。彼女は煌びやかな赤い花嫁衣装に身を包み、面紗で面を覆い、手にいっぱいの紫の華を抱えている。玲瓏の花嫁衣装はさまざまな赤色の糸で刺繍が施されており、豪奢であったが、面紗の下、玲瓏の顔は微かに青く、薄く紅を刺した唇は震えていた。
彼女はこれから、顔も知らない、ただ噂だけを聞いたことのある男と婚姻関係を結ぶのである。宋皇国の大将軍家の息子、劉暁蕾の元へ。
王玲瓏が嫁ぐ先は宋皇国大将軍家の長男であり、東方民族鎮圧をして名高い、暁蕾の元であった。玲瓏の未来の夫は、道ゆくだけで彼を一目みた女たちが失神するほど美男子らしい。どこまでが本当なのかはわからないが、彼には多くの噂がまとわりついていた。玲瓏は噂でしか彼をしらず、あったこともなかったので、噂に頼るほかなかった。
この国、宋皇国にはとある風習がある。それは、花嫁が新月の夜に紫の華を持って輿入れをすると言うもので、その後、幸せで穏やかな結婚生活が待っているという。結婚相手を自身で決めることのできない高官の娘は特に、この風習を信じて日取りを決めていた。
玲瓏も例外ではなく、彼女は父、王融信に頼み込んで婚姻の日取りを新月の夜にしてもらったほどである。
馬車が劉家の邸の門前着いて、慣習に基づいて儀式が始まった。王家から劉家へ、玲瓏が入るための儀式である。門前には劉家の当主である大将軍と玲瓏の夫となる暁蕾が赤い衣装に身を包み2本の柱の様に立っていた。侍女の助けを借りて馬車からおりた玲瓏は面紗の影から夫の顔を見ようと試みた。しかし、赤に透けた暁蕾の顔は、詳しくは見えなかった。
それから、両家は劉家の邸で婚姻の宴を楽しみ、その後は新婚夫婦を初夜へと送り出すのである。
初夜へと近づけば近づくほど、玲瓏は唇と腕とが震えが止まらなくなり、彼女は拳を強く握り締め、心の内を見せない様にと努めていた。
暁に映る 東洋の華 三浦薫 @kaoru_miura
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