第36話 キャンセルしたくなかった(美香編)

 美香は遊びに誘った日から、ほとんど眠れていなかった。


 体は正直な反応を示し、38℃以上の高熱を出す。どんなに会いたいと思っていても

風邪をうつすわけにもいかない。泣く泣くキャンセルせざるを得なかった。


 今回の一件で、評価を大きく下げたのは確実。恋人争いから、一歩後退することとなった。


 美香のところに、母の美鈴がやってきた。


「美香ちゃん、卵雑炊を食べて元気を出してね」


 病人が食べやすいよう、卵、白米、少量のねぎだけとなっていた。


「何かあったのかは知らないけど、睡眠はしっかりととろうね。体の調子を整えるにあたって、睡眠は必須だよ」


「おかあさん、わかった」


「美香ちゃんにとって、悪いことがあったの?」


 母に正直な気持ちを打ち明けた。


「そういうわけではないよ。好きな人を遊びに誘ったときから、興奮を隠せなくなってしまって」


 おかあさんの顔は優しいものに変わった。


「おかあさんと全く同じだね。おかあさんもデートに誘ったあとから、夜の睡魔は完全に逃げていった。待ち合わせの日には、39度以上の熱を出したんだ」


 親子そろって高熱を出すとは。美香は血のつながりを、感じずにはいられなかった。


「美香ちゃんの好きな人って、どんな男なの。頭のいい人、イケメン、それとも・・・・・・」


 母のつまらない話を聞いたことで、体調を一時的に悪化させた。


「ゴホゴホ、ゴホゴホ・・・・・・」


「美香ちゃん、卵雑炊を食べて元気になってね」

 

 母が退室したあと、塩雑炊を口に含む。塩気がしっかりと聞いていて、とってもおいしかった。

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