第34話 勇気をふりしぼって(美香編)

 連絡交換をするも、遊びに誘うことはできなかった。


 光、ともみなどは、カラオケ店で一緒に過ごしたという情報を得ている。指をくわえているだけでは、好きな人に声をかける前に決着がつく。美香は勇気を振り絞って、隆三を遊びに誘ってみる。


「よろしかれば、遊びのいってくどさいまそんか」


 正しい文章は、「よろしければ、遊びに行ってくださいませんか」である。指の震えによって、一部の文字が乱れてしまった。解読するまでに、無駄な時間を使わせるかもしれない。


「こんにちは。どこに行きたいですか?」


 遊びに誘うことだけを考えて、どこに行くのかは二の次になっていた。


 美香は直感で、いきたいところを伝える。


「喫茶店でゆっくりと過ごしたいです」


 今度はチャン文字を打てた。緊張は少しは溶けたようだ。


「わかりました。いつにしましょうか?」


「今週の土曜日でお願いしたいです」


 隆三からの返事はすぐに送られてこなかった。美香は断られるのかと、大いに不安になった。


「予定はOKです。他についてくる人はいませんか?」


「できゅるきょとなら、ふたりきゅりで・・・・・・」


 緊張のあまり、文字は再び乱れた。


「わかりました。遊びに行きましょう」


 約束を取りつけるだけで、こんなに疲れるとは。デートに誘う、デートに誘われるのは天と地ほどの差があることを知った。

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