第29話 嫌われていなければいいけど(光編)
私は一方的な想いで、距離を詰めてしまった。あまりに一直線な姿にあきれ返っていなければいいけど。
寝言で「好き」といってしまったことで、心証をさらに損ねた。眠るまではいいとしても、心の声を漏らすのは完全NG。タイムスリップできるなら、あの発言だけはなかったことにしたい。
隆三と接するようになってから、いいところを何一つ見せられていない。評価を下げ続けて、最終的に絶交される場面が浮かんだ。
光はラインを確認すると、誰のメッセージも入っていなかった。隆三からの連絡がないことに、大きな不安をおぼえる。
「デートはどうだったの?」
母に質問され、返答に窮した。
「デートというほどではないよ。二人ではなく、三人でカラオケ店にいったから」
「そうなんだ。二人きりだと思っていたよ」
「二人きりで何度も遊びたいというのは、ハードルが高すぎるよ。友達を交えながら、距離を詰めていければいいと思っている」
「そっか。好きな人とうまくいくといいね」
娘の恋愛を応援していた母親は、顔が急に険しくなった。
「光ちゃん、ストーカーまがいのことをされているの?」
「それをどうして・・・・・・」
「クラスメイトの女の子が教えてくれたの」
クラスの女の子とは誰なのか。そのようなことを考えていると、
「ストーカーはとんでもない行動に出ることもある。身を守るために、これを持っていくといいよ」
母に提示されたのは、高圧電流のスタンガン。襲われそうになったら、気絶させてでも逃げてこいというメッセージだ。
「おかあさん、ありがとう」
「娘には長く生きてほしい。母親としてはそのことを切に願っている」
英彦は危険人物で、どんな手段を用いるかわからない。スタンガンを手元に置くことで、抑止力にしたほうがよさそうだ。
「おかあさん、ありがとう・・・・・・」
「光ちゃんのために、すき焼きにしようと思っているの。しっかりと食べて、元気を出してね」
「いたせりつくせりだね・・・・・・」
「光ちゃんを見ていたら、元気をなくしているんだもん。母としては、見ていられないよ」
おかあさんの優しさを受け取ったことで、気分は少しだけ楽になった。
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