第7話 対応は天と地ほどの差
隆三は待ち合わせ場所にやってくる。指定された時間から、すでに15分が経過しており、完全なる遅刻だった。
遅刻したのは理由がある。お出かけをしようとする前に、母からいろいろな家事をするように命じられた。友達と待ち合わせしているといっても、家のことをやってからにしろといわれた。子供の都合を考えない、最低な親であると思った。
手伝いを終えたあとは全速力でこちらにやってきた。限界を超えた走りをしたために、完全に息切れしてしまった。
「七瀬君、遅刻だよ」
15分も遅れたとあって、さすがに不機嫌そうだった。5分くらいなら笑顔でいられても、15分はさすがにきつい。
元カノは一秒でも遅れようものなら、不機嫌になって家に帰っていた。自分のドタキャンは許せても、他人の遅刻は許せないという度量の小さい女だ。
光も同じかなと思っていると、対応は異なっていた。遅刻した男の前から、いなくなることはなかった。これだけのことなのに、器が大きいと感じた。
「ごめん、いろいろとやるきょとができて・・・・・・」
息切れをしていた男は、呂律がうまく回らなかった。
「七瀬君、これで汗をぬぐう?」
光はポケットの中から、ハンカチを取り出す。赤のチューリップ柄が描かれており、可愛さを感じられた。
「天音さん、ありがとう」
ハンカチを受け取るときに、指と指が触れた。細さを感じられる指からは、人間の温かみを感じる。
沙月と交際していたとき、肌の接触は一度もなかった。いつかはするかなと思ったけど、最後までそうならなかった。
ハンカチで汗を拭きとったからには、洗濯をして返す必要がある。光にそのまま渡すのは、失礼に当たる。
ポケットの中にしまおうと思っていると、光から声をかけられた。
「汗を拭きとったハンカチは、こちらにちょうだい。家で洗濯をするよ」
汗に触れる表面積を少なくしようとするも、すべての場所がびっしょりになっていた。このような状態で、ハンカチを返すのは悪いと思った。
「天音さん、どうしたらいいの?」
「七瀬君、気をつかわなくてもいいよ」
ハンカチを渡すときにも、かすかに指に触れる。女に免疫のない男は、ちょっとだけドキッとする。
「七瀬君、しばらくはゆっくりと休もう」
沙月とは異なり、相手のことをしっかりと考えることができる。容姿は劣っていても、性格は格段に上をいっている。
「天音さん、いろいろとありがとう・・・・・・」
光は顔の角度をちょっとだけ変えた。
「これくらいは当然だよ。あの女が異常すぎただけだよ」
「・・・・・・」
「体のいい男として、利用されていただけみたいだね」
光はどういうわけか、隆三の手を握ってきた。予想していなかったできごとに、脳内思考は一時的にストップする。
「天音さん・・・・・・」
光は慌てたように、手を離した。
「ごめんなさい」
手を握ったあとは、二人の間に微妙な空気が流れ続ける。口をきくこともなく、時間だけが過ぎていった。
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