第15話
「それでどうだ?間者から何か情報を得る事は出来たか?」
「いや……それが」
俺が口を濁していると張済は苦笑いを浮かべながら言った。
「おそらく董卓を甘く見ているのだろうな」
「そうなのかな?」
俺が聞き返すと張済は強く頷き言う。
「うむ、呂布奉先よ!お前も騙されてるぞ!」
俺はその言葉を聞いてイラッとして睨みつけるが、何故か張済は得意げな表情をしたまま言い続ける。
「これは全てを完璧にするための策なのだ」
「ん?」
その態度に俺は疑問の声を上げた。
しかし、張済はそれに全く気にする事なく続ける。
「お前の持つ聖龍の旗を囮にして、董卓を討つ!」
確かに董卓配下の兵達は俺たちに疑いを持っているらしい。
それなら確かに俺が持つ聖龍の旗を目印にして仕掛けてくる可能性は少なくないだろう。
そんな俺の言葉に張済は更に得意げな表情で頷くと得意げに言ったのである。
「私がお前に対して疑いを持ったのは、あの黄巾党との戦いの時だ」
俺は確かに張済には疑われても良いような事はしてきたので黙って聞く事にしたのだが……それでも疑問に思っていたのだ。
「何故分かったんだ?」
すると張済はその質問を待っていた様に不敵な笑みを浮かべて答える。
「私の前であれだけの事を為しておいて、未だにお前は自分の正体も明かさんのはなぜなのだ?」
(なるほど、李儒の言う通り俺の言動でバレてしまったんだな)
張済の言葉に俺は心の中で納得すると頷く。
「それを俺も聞こうと思っていた」
俺が素直に言うと張済は先程よりも満足気な表情を浮かべると力強く頷き言ったのである。
「この策ならばお前は間違いなく董卓軍にとって、欠かせない存在となる!私はそう確信している!」
だが、俺は首を横に振ると否定する。
「それは董卓も同じだろ?」
その質問に張済は深く頷くと言葉を続けた。
「ああ、だからこそ呂布は董卓軍にとって必要不可欠な存在となり、奴にとっては邪魔となる。分かるな?」
「その隙を付くわけか」
俺の答えに張済は頷くと話を続けたのである。
「左様!上手くすれば敵の大将を始末する事も出来るかもしれぬ!まぁ、それほどの度量があるかどうかは別だが……」
そんなやり取りをしていた時だった。
部屋の入り口の方から声がする。
「なら私が消してやろう!」
そんな言葉に驚いて俺は入り口の方を見るとそこには李儒の姿があった。
「誰だ?」
張済は警戒心をあらわにして鋭い視線を向けながら訊ねる。
それに対して李儒は落ち着いた様子で答える。
「私はただの文官です」
そんな態度に張済は少し安心したのか表情を緩めたが、それでも警戒を解く気はないらしい。
「いや、呂布の傍にいたという事は間者だと聞いたぞ」
「まさか私が間者だと思ってらっしゃるのですか?」
李儒は溜息をつくと張済に言った。
「では、なぜ呂布殿に密書を届けたとお考えで?」
「それは呂布の手柄を奪う為であろう!」
その言葉に李儒は大袈裟な様子で肩を落とすと首を振る。
「これは困った方ですね」
そんな態度を見て張済が目を細めると兵士に向かって怒鳴ったのだ。
「おい!衛兵!この男は間者だ!縛り上げよ」
その言葉に兵士達は困惑した表情を見せながらも武器を手に近づいてくる。
それを見ていた李儒が溜息をついて俺を見た。
(え?この流れで俺?)
俺の目の前まで来た兵士に俺は頷くと縄で縛られる。
そんな様子を張済は満足げ見つめていたのである。
その後、すぐに李儒を連れて部屋を後にした。
(まぁ、呂布奉先は太師のお気に入りだからな)
そんな様子を見ながら張済は少し不安げな表情を浮かべていたのだが本人は気が付いていない。
数日後、俺は一人で外に出ていた。
外での風を感じながら考えていると李儒が目の前に現れ声をかける。
「呂布殿、面白い事が起こりましたよ」
「どうしたの?」
俺がそう答えると李儒は顎髭を撫でながら目を細めて言う。
「あの作戦で呂布殿に恨みを持っている者がいたのでしょう。見事に張済は消されました……」
そんな李儒の言葉に一瞬、聞き間違いかと思ったが確かにこの男は言ったのだ……『張済は消された』と……
「は?」
俺は聞き返す様に首を傾げた。
そんな様子に気にする事なく李儒は続ける。
「残念ながら呂布奉先の名は、さほど広まっておりません。今あるのは曹操軍を何度も退けている小覇王と呼ばれる程」
それは確かにそうだが俺は納得のいかない表情を浮かべた。
すると李儒は少し嬉しそうに笑みを浮かべながら言う。
「董卓軍内でも呂布奉先の人気は高いようですよ」
「え?そうなの?」
正直、今の現状でも十分に驚いているのだが。そんな俺の様子に満足げな表情を見せた李儒は更に続ける。
「そこで……一つ提案があります」
そんな提案に俺は何気に嫌な予感を感じながら頷くと李儒が言った。
「呂布奉先の暗殺を計画している者がおります」
そんな物騒な言葉に俺は頭を掻くと呆れた表情で答える。
「結構大変な事になったな」
だが、俺のそんな言葉を聞きニヤリと笑みを浮かべて答えたのだ。
「そこで……その暗殺計画を利用して、あの小覇王に近付こうと思うのですが?」
そんな李儒の提案に俺も不敵な笑みを浮かべて答える。
「そりゃいいな」
すると李儒も満足げな表情をしながら頷くと。
「では、善は急げと申します。この計画には呂布殿にも参加してもらいます」
俺もその作戦が気に入ったので頷き答えたのだ。
呂布は急に一人で出かける事になったのだがその理由を張済は知る事はなかったのである。
呂布奉先の暗殺計画を進めていたのは程遠志という名の黄巾党の将である。
黄巾党討伐に向かった董卓軍と戦う度に戦況が膠着状態に陥っていたのである。
そんな時は何か策がないかと頭の切れる人物を探して街をうろついていると一人の文官を見かけたのだ。
程遠志はその文官の後をつけると自分が宿泊していた宿へと辿り着いたのだった。
(あの文官……何者だ?)
程遠志は訝し気に思いながらも聞き耳を立てて中の様子を伺っていると、そこで驚くべき話を耳にした。
程遠志はこの文官が暗殺計画を立てている者だと知ると笑みを浮かべる。
(これは好都合だ)
程遠志は期待を胸に部屋へ入るとその文官に対して言った。
「我が軍には貴殿の力が必要なのです」
すると文官はその申し出に警戒心を持つ事なく快く受け入れてくれたのである。
そんな様子を見ながら程遠志は自分の計画を実行する日が近いのかもしれない。
「あの……」
俺は文官に言った。
「なんです?」
文官は返すので
「この体制……非常に困るのですが」
と俺は言う。
文官にベッドで押し倒された的な体制に困り果てる。
「え?押し倒しているんですけど」
「…………え?」
「このように……えろ」
「ひゃう」
首筋を舐め出す。
俺は慌てて言った。
「やっぱりこういうのは良くないと思うのですよ」
「何故です?」
そんな俺の反応に文官は不思議な様子で訊ねるので俺もなるべく真剣な顔で答える。
「いくら利用されてるとは言え、無闇にこういう事をして良い事にはならないかと……」
(あれ?なんだろう……この感じ……前にも似たような事があったような気が)
そんな俺の反応に文官はニヤニヤと笑みを浮かべるとまたしても舐め始める。
「ひゃう!くすぐったいんですけど!」
「やめませんよ……可愛い反応ですね……ありがとうございます」
「うぅ……」
身じろぐ俺。
「いい反応ありがとうございます。まあこの辺にしておきますかね」
「(ほっ)」
そんな俺の安堵も束の間、文官は真面目な顔で質問する。
「でも呂布奉先殿は太師にも警戒されてたんですよ?そう簡単に暗殺出来るとは思いません」
その発言に俺もハッとして真顔で聞く。
「そうですね」
そんな俺の態度に文官は小さく笑みを浮かべ俺に頭を下げたのだ。
「私の名は段珪と申します……軍師が不在の時の代理を務めております」
その言葉を聞いて俺は軽く頭を下げると言った。
「ああ……軍師である李儒からの……」
そこまで俺が言うと段珪は慌てて口を塞ぐ。
「しー!今はお静かに」
(あ……ごめん……)
俺は思わず謝ってしまうが、すぐに気を取り直して聞いた。
「で、その段珪さんの依頼を引き受けると?」
「はい」
そんな俺の答えに段珪はニヤリと笑みを浮かべると作戦の概要を話し始めた。
程遠志は呂布と共に暗殺計画を練った。呂布も段珪の策を聞いて李儒に提案した事を思い出す。
そんな様子を見て程遠志は不安げに話しかける。
「こんな男に任せて大丈夫なのですか?」
程遠志の心配そうな様子に俺は答える。
「問題ないよ」
(コイツを信用するしかないんだよな)
そんな俺の思いを感じ取ったのか程遠志は頭を下げたのだ。
「では、呂布殿……よろしくお願いいたします」
その会話を聞いた張済は言い表せない程の不快感に襲われていた。
そんな中、張済の天幕に兵士が訪れ報告をする。
「李儒様の策通りに敵の暗殺部隊がこちらに向かっております」
その報告に張済も計画の成功を確信するのであった。
(全ては私の作戦通りに事は進んでいるのだ!)
そんな自信に満ちた張済の元に程遠志からの手紙が届いたのである。
(私の策通りこの暗殺計画が進んでいる事に違いない)
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