第8話

【孫乾vs陳宮】

陳登を殿として南陽城へと引き返した黄忠と奉先であったが、ここで思いもよらぬ敵と遭遇する事になった。

それは陳宮軍3000が軍師陳宮の命を受けた部下達が強行して、黄忠達呂布軍を追いかけて来た事だった。

しかし黄忠は戦う事を嫌がった為、その兵力の大半を城内に退避させてしまった。

そんな黄祖軍の前に姿を見せたのは呂布ではなく張遼であった。

「ここはわしが受け持つ。皆は急ぎ城内へ」

張遼はそう言って黄忠達の退却を援護し、見事に退却させると自ら陳宮軍に突撃を開始するのであった。

この時、奉先は一人で馬に乗りながら城壁に寄り掛かり様子を伺っていた。

そんな奉先に陳登が近付き話し掛けてきた。

「奉先殿、あそこにおられる方は味方でしょうか?」

その指差す方には髪を上に纏め大きな大剣を手にした女性が一人立っていた。

「呂布将軍の軍師、貂蝉です」

それを聞いた陳登は眉を寄せて言う。

「女性であのような立派な武器が扱えるとは驚きましたな……」

すると貂蝉に見つかっていた奉先が苦笑いをしながら陳登に言う。

「女性の武人であのような大剣を使いこなしているのは恐らく彼女がこの世で一番でしょう」

そんな奉先の話を聞いた陳登は感心する様に貂蝉を見つめていたのである。

5一方、張遼と陳宮の戦いは一方的になると思われたが、ここで思わぬ出来事が起きた。

それは何合か打ち合った時に陳宮が気付いた事だった。

「貴様……その二本の剣は何?」

すると張遼が答える。

「私の主君は寡兵で大軍と戦う事を好まれる方です」

「なるほど……では先程の呂布将軍から逃げたと言う報告は虚報なのじゃな?」

「いえいえ、将軍はきちんと南陽の守備に向かっております」

それを聞いた陳宮はしめた!と思った。

「わかった……ここは通そう」

そう言うと陳宮は兵を引き始めたが、張遼にはそれが罠か判断出来なかったのである。

6 そんな二人を少し離れた場所から眺めている者がいた。

奉先と別れた呂布である。

そんな呂布に向かって二人の人物が近づいて来た。

二人は共に鎧を着て呂布の前に跪(ひざまず)くと言うよりも膝を付いて奉先であった。

「お初にお目に掛かります。高順、字を漢升と申します」

呂布が頷くともう一人の男も答える。

「李蒙、字は子文と言います」

そんな二人に戸惑いながら呂布は言う。

「面を上げよ……張遼ならまだ陳宮と争っているのか?」

その言葉に顔をあげながらその者が言う。

6人の将軍の中で最初に曹操軍に降ると言い、その後も劉備軍を裏切り曹操軍に戻ってきたと言う魏続であった。

「張遼とは互角の戦いを繰り広げていたのですが、後方から陳宮が現れ、張遼は退却せざるおえなくなったのです」

「ほう、あの呂布も恐れる陳宮か……高順と子文と言ったな?」

そう言った呂布の視線の先にいたのは諸葛亮であった。

その後呂布は李蒙に言う。

「お前達二人は俺と一緒に来い!奉先を援護するぞ!」

そう言うと奉先の元へと駆け出すのであった。

「殿、二人が来ましたか?」

そう聞くと呂布は頷いた後に李蒙と子文に言った。

「俺が指揮を取る!高順の指揮下に入れ!」

一方、張遼の方は予想外の苦戦に徐々に追い込まれて行っていた。

そんな状況の中、呂布が手勢を連れて現れたのである。

「将軍のご到着だ!」

張遼は思わずそう言ってしまったが、呂布軍の軍師である陳宮がこの状況は好都合と言わんばかりに、先程と同じ様に大声で叫びながら撤退を始める。

「呂布が現れたぞー!総員退却せよ!!」

しかしそれは嘘であり、同じ手で誘い出そうとしたのであった。

それを聞いた高順は舌打ちをする。

「呂布将軍のお出ましだと?陳宮の奴、今度はそう来たか!」

高順は悪態をつくと敵陣へと突撃しながら叫んだ。

「撤退している奴など放っておけ!敵将は俺が討ち取る!!」

その号令に配下の兵は鼓舞され、高順を先頭に全力で駆け出すと一瞬で呂布と陳宮の近くまで駆け寄る事が出来た。

しかし、ここで思いもよらぬ事態が起こったのである。

先頭を駆ける高順の前に突如として李蒙が現れたかと思うと、騎乗したまま彼に向かって剣を振り下ろしたのである。

間一髪で攻撃を避けた高順であったが、勢い余って陳宮から離されてしまう。

「何をする!」

しかし呂布軍の兵に槍で突かれ、呂布にも弓で射られた為、陳宮を追う事が出来なかったのである。

その頃、諸葛亮は城の一番高い物見櫓から戦況を見守っていた。

そんな所へ李蒙が走りながらやって来る。

「丞相!至急指示をいただきたい!!」

息を切らせて言う李蒙に対し諸葛亮は冷静に言い放つ。

「高順将軍は敵軍に突撃し、孤立している模様です」

しかしその言葉を聞いた李蒙の表情は悲観的になる。

「敵の追撃を食い止められるのですか?」

それに対して諸葛亮は首を横に振り答える。

「恐らく無理でしょう……」

「それでは私の判断が間違っていたと?」

その言葉に諸葛亮が目を細めて言う。

「いえ……まだ完全に負けた訳ではありません」

「ではどうすれば良いのですか?!」

李蒙は苛つきながら尋ねる。

「我々がその高順将軍を救うのです」

意外な言葉に、李蒙は目を見開き聞き返す。

「どう言う事ですか?」

そんな李蒙に対して諸葛亮が答える。

「これ以上無駄に兵の命を散らす訳には行きません……我々の全兵力を持って呂布を討ちます」

奉先は一人で腕組みしながらその様子を眺めていたが陳宮の軍師である張遼が高順と激しい武を繰り広げているのを遠くの方から眺めて呟いた。

「さすが高順殿だな」

すると張遼が陳宮の元を離れ、奉先の方へと走りながら剣を向けて叫ぶ。

「その首貰い受ける!」

そんな張遼に向かって横から呂布軍の弓兵が矢を放ったのである。

それに気付いた陳宮は叫んでしまう。

「子幹!避けよ!!」

しかし、間に合わずに張遼に無数の矢が突き刺さると膝を付きうつ伏せになって倒れる。

「将軍……申し訳ありませぬ……」

張遼は最後にそう言うと地面に倒れ息絶えたのであった。

それを見て陳宮は声を上げると自軍の方に向かって逃げ出す様に走り出したのである。

「おのれ!このまま負けてたまるか!」

そんな陳宮の後を高順が追い掛ける。

その様子に気付いた呂布だったが、城外にいる敵よりも城内に残してしまった兵達の心配の方が先だったため、そのまま曹操軍の方に視線を向けて言う。

「曹操軍は私が全て倒す!奉先、全軍を持って城を取り戻せ!」

それを聞いて高順も頷くと陳宮を追いかける。

「皆の者!敵は一人だ!はぐれるなよ!!」

そんな高順の声に部下の兵たちは鬨(ときの声を上げる)の声を上げたのである。

その様子を見た奉先が隣にいる諸葛亮に向かって言う。

「我らの役目は終わったな」

諸葛亮はただ一言だけ答える。

「そうですね……」

陳宮は必死に逃げるが、その足取りは重く段々呂布軍と離れるばかりか城からも離される形になっていた。

そんな陳宮に高順と彼の部下達が追いついて来たのである。

「今度こそ覚悟しろ!」

高順がそう言うと陳宮はあっさり膝を付いた。

「さすが高順将軍だ!」

味方の兵士達はそう言って歓声を上げる。

そして陳宮の首に剣を突き付けようとしたその時、兵士が声を荒げて叫んだのであった。

「高順将軍!上です!!」

その声に高順はふと空を見上げると、そこには大きな黒い固まりが舞いながら降下して来るのが見える。

「これは!」

慌てた高順は陳宮から離れ飛び退いたその瞬間、無数の矢が彼に向かって飛んで来たのである。

それは空から舞い降りた呂布軍の弓兵部隊だった。

流石の呂布軍の弓兵部隊もこの距離からでは致命傷を与える事は出来なかった。

「将軍!ご無事ですか?!」

空から呂布がそう言いながら高順の方へと舞いながらやって来たのである。

「奉先か!助かったぞ!」

そう言って呂布に答えた高順だったが、その直後に背中に激しい痛みを感じたのである。

そこにはいつの間にか陳宮の部下と思われる者の大剣が深く突き刺さっていたのだった。

高順は振り向きざまに何とかその者を斬り伏せたが、急所に当たり既に瀕死の状態であった。

そんな高順に今度は数十本はあろうかという矢が襲いかかっると彼は部下の目の前で息絶えたのだった。

「将軍!!」

そう言いながら駆け寄った部下の兵は見るも無残な高順の遺体を見て涙を堪えきれずにいたのである。

そんな高順を奉先が見ている頃、曹操軍でただ一人取り残されている陳宮は天を見上げ呂布に命乞いをしていた。

「私を逃がしてくれ!」

しかし呂布はそれに答えず、冷たい目をしたまま腰に差した剣を抜く。

それを見た陳宮はこのままでは殺されると察したのか城の方へと駆け出したのである。

その行く手を塞いだのは高順の仇討ちを果たそうと意気込んでいる諸葛亮だった。

「まさかお主達が出てくるとは思わなかったが、私を討ち取れると思われておられるなら心外だな……」

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