第4話

そう俺が驚いていると、諸葛亮が楽進に対して質問する。

「主を裏切るとはどういう意味かな?」

楽進は関羽を睨みつけると言ったのだ。

「この者は魏続殿から玉璽を盗むだけでなく、密かに蜀の地へ攻め入る準備をしていたのです」

それを聞いた関羽は笑みを浮かべて言う。

「それは誤解ですよ。私はただ曹操様に呂布軍の現状を知って頂く為にお目通りさせて頂く様にお願いしていただけ。何か邪推するような事を言いましたか?」

(そう仕向けたのはお前だろ!)

俺は関羽を睨んでいたのだが、劉備が楽進に向かって言ったのである。

「もしもこの話が本当ならどうするつもりなのだ!」

そんな劉備に対し楽進は叫ぶ。

「関羽の首と魏続殿の首を持ってお目通りさせて頂きます」

(こいつ本気だな)

俺がそう思っていると諸葛亮も答えたのだ。

「私も許します」

その言葉に俺は思ったのである。

(そんな簡単に楽進や諸葛亮を信用しても良いのだろうか?)

そう思って関羽を見ると、奴は俺にだけ見える様にニヤリと笑みを浮かべたのであった。

(やっぱり信じちゃ駄目だ!)

そう思った俺が何か言おうとした時、楽進がいきなり剣を抜くと関羽に襲い掛かったのである。

その予想外の出来事にさすがの曹操軍の武将達も驚き動揺していたのである。

そんな状況の中、楽進の剣が関羽を襲う。

「であ!」

叫び声と共に剣を振り下ろすが、関羽は身体を躱すと楽進の腕を取り投げ飛ばしたのだ。

(痛そうだ!)

そんな関羽を見て劉備は叫ぶ。

「待て!矛を収めるが良い」

楽進は慌てて立ち上がると剣を収めると俺を見る。

(分かったよ!俺は止めないよ)

俺が頷くと諸葛亮も立ち上がり言った。

「確かに我らが口を挟む話ではありませんでしたな。関羽殿の言葉、私も信じよう」

その態度から劉備の怒りは収まるどころか逆に増していくようであった。

「関羽!どうあっても魏続を殺したいというのか?」

関羽は冷静に答える。

「確かに私は魏続殿を傷つけました。それは反省しておりますので償いをさせて頂きたいです」

劉備はそう言うと魏続に向かって言ったのだ。

「魏続よ。楽進が本当にお前を殺したいと言うのならお前の好きにするが良い。だが、張飛は違うぞ?あれは関羽が先に魏続に手を出したと言ったのだ」

「劉備様!」

これには関羽も驚いた様で劉備に訴えるように言ったのだが劉備は首を横に振って答える。

「反意を抱く者を生かしてはおけない」

(そうだ!もっと言ってやれ!!)

俺は心の中で叫んでいると関羽が俺の首に腕を回して言ったのである。

「では、そのようにお伝えしようと思います」

俺はそんな関羽の腕を振りほどくと奴の頬を拳で殴った。

(ちっ!避けられたか)

「どういうつもりかな?呂布奉先殿」

怒りを押し殺しながら言う関羽に俺も怒りを爆発させるように答えた。

「どうあっても魏続を殺す気か?」

俺の怒声に対して関羽は鼻で笑って答える。

「悪いが呂布殿はここで死んでもらう!」

関羽は剣を構えると今度は俺に斬りかかって来たのだ。

その動きは俺の予想を超えており、とても躱せるものではなかった。

(しまった!斬られる!)

そう思った瞬間である。

甲高い金属音と共に関羽の剣を劉備が槍で受け止めたのだ。

「なに!?」

関羽が驚いている隙に、劉備は鋭い突きを繰り出して魏続の前に立つ諸葛亮に迫る。

それと同時に関羽の身体にも楽進が長棍の一撃で攻撃を加えてきたのだ。

「ぐぁ!」

関羽の苦痛の声と諸葛亮の喜びの声が同時に聞こえる。

「なかなかやりますな」

そんな楽進の言葉に劉備は答える。

「確かに呂布奉先の強さには感動を覚えたが、結局正体を現してしまったな」

(え?何がどうなってるんだ?)

そんな俺の疑問に答えたのは劉備ではなく楽進であった。

「いくら強くても戦い方には癖が出る。目を見れば分かりますよ。私がよく知る戦い方だったので」

俺は意味が分からなかったので質問しようとしたのだが、劉備は俺に向かって言う。

「悪いが今のうちだ!ここでお別れしよう」

劉備はそう言って俺の腕を引っ張ると門の方へと走り出す。

そんな状況を見守っていた魏続が関羽に尋ねる。

「お前は本当に呂布でなかったのか!」

(いや……俺は間違いなく呂布だぞ?)

困惑する俺に諸葛亮は言う。

「無駄口を叩かずに逃げるが宜しいか」

そんな諸葛亮の目にも関羽を捉えて離さない熱い想いを感じとっていた。

関羽は走り去る劉備の後姿を見つめ呟く。

「おい!呂布よ。貴様は本当にこれで良いのか?」

その声に対して劉備の代わりに俺が答える。

「お前に何が分かるんだよ!!」

俺の言葉が信じられなかったのか関羽は苦笑して言ったのだ。

「この関雲長、その志を知らずして中華は治まらぬ」

そんな関羽の戯言を無視して俺は劉備の後を追って門の方へと走り出した。

途中で諸葛亮とも合流し、何とか城門を抜けると目の前に関羽軍が待ち構えていた。

「覚悟は出来ていますかな?呂布奉先殿」

その言葉に答えず劉備は自らの手で印を結ぶと叫ぶ。

「玄徳軍!我に続け!!」

その言葉を合図に蜀軍は関羽軍に攻撃を始める。

その様子を振り返りながら俺は言った。

「良いのか?」

俺の問いに劉備は答える。

「ここまで関羽が仕掛けてきたのには何か裏があるはずだ」

その言葉通り関羽軍は攻撃してきた蜀軍に対して消極的な動きを見せたのである。

そんな中、諸葛亮が俺の隣にやって来て言ったのだ。

「確かに曹操様に連絡をする前ならそれも理解出来ますが、後宮に玉璽がなかったとしたらそれは有り得ますまい……私も曹操様にお願いし、関羽軍を追い払う事を進言してまいります」

そんな諸葛亮に俺はお礼を言って劉備の方を向いた。

「劉備、俺はお前を信じても良いのか?」

俺の問いに劉備は大きく頷くと言ったのだ。

「もちろんだとも。この危機を救えるのは天下を目指す俺達しかいない」

(こいつは何を勘違いしてるんだ?)

そう思いながら俺は大きくため息を吐くと言ったのである。

「(関羽は俺の身体見た事許さん……特にあそこ見た事許さん。抱いてもらうまで許さんからな)」

そんなことを考えていたのだ。

邪だな俺って……

すると諸葛亮が俺に声をかける。

「呂布殿、ありがとうございます」

そんな諸葛亮を見て俺は答えた。

「俺があんたの身体を見ても良いのか?」

冗談のつもりで言った俺に対して諸葛亮はあっさりと答えた。

「構いませんよ?その為に助けて頂いたのですから」

(本当に良いんですか~)

心の声は口にはしない。

だが、俺は心の中で呟いたのだ。

(なんだこの変なやり取りは……)

そんな事を考えている暇もなく、劉備は俺と諸葛亮を連れて城内から脱出する為、東門への移動を開始したのであった。

【広都近郊 張飛】

私こと張飛は呂布が劉備達を逃がす為の時間稼ぎをしている間に城門へ辿り着くと近くにいた関羽に向かって叫ぶ。

「我が名は張飛!蜀軍の武将としてではなく魏続殿の友人として貴公に頼みたい義がある!」

そんな私の言葉に意外にも相手は返答したのである。

「ほう?その頼みとは何だ?」

関羽の反応に少し驚いたのだが、私はそのままの勢いで言ってしまう。

「魏続殿を助けさせてはくれぬか?」

私の言葉を受けて関羽はしばらく考えた後に答える。

「助けてやっても良いが条件がある」

そんな関羽の言葉に私は頷いて答えた。

「貴殿に敵対した事、心からお詫び申し上げる……私に出来る事があるのならば何でも致す!」

私の言葉に関羽は笑って答えたのだ。

「そう警戒するな。少し試してみただけだ」

(試された?)

そんな事を思っていると関羽は私に尋ねてきたのである。

「ふむ。これから俺は天子を救出に向かわねばならないのだが、それについて来る事が出来るか?」

そんな関羽の質問に対して私は答える。

「何としてでもついて行く所存だ!」

私の返答を受けて関羽は頷くと、後ろに控えていた大将らしき人物に合図を送る。

するとその武将が城門を開け放ったのである。

(あの者が指揮をとるのか?)

そんな事を考えつつ関羽に付き従って歩き始めた。

「呂布殿」

「はい。何でしょう?諸葛亮殿」

「身体を見たいと先程言ってましたけど」

「あれは言葉のあやで……その」

「別にみたいな見せますけどお風呂とかで」

「え!?ほんとですか?」

【長坂】

趙雲は武人でありながら念には念を入れて玉璽を保管している宝物庫の前まで来ると見張り達を説得して道を開けさせた。

(これは私の勘なのだが……私はまだこの呂布という男を認めてはいないが何か違う気がする)

そんな思いからの行動であったが予想通りであったのだが、宝物庫の前で警戒に当たっていた者が一人だけいたのだ。

「やはりそう来ましたか」

その声に反応した趙雲の目の前には見知った顔が立っていたのである。

「また会ったな、張遼」

その張遼は何も答えずに武器を構えると趙雲に向かって突進してくる。

趙雲も武器を構えて迎撃したのだ。

二人の武器がぶつかり鈍い金属音が響く中、張遼は言う。

「ここで何をしている?」

槍と戟が激しく交差する中で二人は言葉を交わした。

「誤解です」

そんな趙雲の言葉に張遼は鼻で笑うと言ったのである。

「だろうな」

そんな張遼の言葉に趙雲はわざと尋ねたのだ。

「では何故?ここで戦おうと?」

すると張遼は少し驚いたような顔をすると答える。

「この宝物庫を守るのは私の使命だからだ」

(守る?)

趙雲がその言葉の意味に気が付くよりも早く、張遼は言葉を続ける。

「とは言え……実はそう答える様に言われているのだがな」

そう答えた瞬間、張遼が横へ飛び去ると背後に黒い影が立っていた。

「呂布奉先か!」

趙雲が驚きの声を上げるが、張遼はそれに対して答えたのである。

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