第47話 家族
少し愛は強いかもしれないが
しかし
でも分二は也夜が目を覚ました今、どう思うのだろうか。
離れてもなお也夜のサイトを継続にも携わっている。
「……店の拡大とか従業員の増員も考えてくれているんだ。もし僕が分二と別れると言ったら……」
「店が経営できなくなるのが怖いと言うのか」
「ほとんど僕は分二に店のことを任せてて。だから……」
大輝は頭を抱えた。
「すまんな、來」
「僕が分二と一緒になることを選んだんだよ。だから大輝は……そんなふうに思わなくてもいいよ」
來はこれ以上言葉が出なかった。
店を出る。とくにあれから大輝とは話さなかった。大輝は後悔と申し訳なさでいっぱいのようだったが來は大輝から離れたことはちゃんと自覚しており、また戻ってきては自分の選択した道を大輝に救ってもらおうだなんて……と思わなかったようだ。
大輝はわざと自分から離した。だからもう助けを得たり戻ったりはしない。
ここに今日来るべきではなかった。と。そしてもう二度と来ては行けない。
同じ美容室、師弟関係恋人関係だったがライバルでもある。
仕事だけでなくプライベートでももう自分は大輝の元には行ってはいけない、來はそう誓った。
帰り道、以前リカが勤めていた美容室の前に通りかかった。オーナーが変わったのだうか店名は変わっていたし内装も違っていた。もうここの前は通ることもなくあまり見ることはなかったのだが來は足を止めた。
なぜなら店の中にリカがいたのだ。
アイドルも辞めたという彼女はまたこの美容室で働いているのか、と驚いてしまった。学校も中退したはずだと思いながらも彼女が掃除をしている。見た目は地味であるがやはり他の女性とはオーラは違う感じがする。
中にいるリカがじっと外から見ている來に気づいた。來は立ち去ろうと思ったが
「來……」
リカが店から出てきた。
「久しぶり……今仕事中だろ」
「じっとずっと見てて先輩から行ってきたらって」
來は中にいる他のスタッフとも目があって恥ずかしかった。
「今お客さんも少ないから。控室に来て」
「わかった」
リカに言われるがままに店内に入るとやはり内装も雰囲気もスタッフもなぜか匂いも変わったと來は感じ取った。
場所も変わった控室。ドアを閉められ來はすぐ近くの椅子に座らせられてリカも目の前に座った。コーヒーを出されたが來好みの甘めのコーヒーだった。
「美容学校入り直したんだ」
「そうなんだね……この店てことは学校は同じ?」
「うん、先生から声かけてもらって……情けないよね」
「そんなことないよ。本当に美容師になりたいんだ」
「なりたい、普通にそのまま美容師になればよかった。遠回りになったけど一から勉強してるけどさ、少し前から技術も少し変わっててクラスメイトも自分よりも若い子や年上とか様々入ってて楽しいんだ」
久しぶりにあって喋るのに2人はそうでないかのように自然に話せるのがやはり……と思った。
「來の店もすごいね、結構人気だし。求人は出さないの」
「おかげさまで今度もう少し採用を考えているけど中途がメインかも」
「そうだよね。大輝さんの店も求人あったけどあのカヨさんいるところは無理かなぁって」
「いや、カヨさん今妊娠してるからしばらくはいないんじゃないの。まずはあそこで大輝さんの元で学ぶのをお薦めしている」
「いやあの人だったらすぐ子供産んで戻ってきそうー」
リカもカヨが苦手だったのは來も知っている。
「いやー育休産休でもらってからのさらにまた妊娠して出産してお金もらうんじゃないかって大輝さん言ってた」
「あぁ、そういうがめついところありそう」
2人は笑った。
「これ聞かれたらまずいから程々に」
リカは來をじっと見ている。
「そいやさぁ也夜が目を覚ましたんだよね」
流石元ファンのリカ。きっとというか多分來は聞かれるのは覚悟していた。
「あぁ……一回会ったよ」
「そうなんだ。家族の特権だね」
「家族……」
リカの言葉に來はびっくりした。
「だから私はもう來とはもう会わない方がいい」
だからか、2人きりでも距離感を感じたのはと。それよりもまず家族ではない、と來は複雑になる。
彼女は今、來が分二と付き合っていることは知らないらしく、そこまで伝わってないようである。でもリカから來からは身を引く、そんなことを言われてしまった。
「そうか……心配してたからこうして美容師目指していることを知れて、元気でいることもわかったからホッとしてる、少しでも心のつっかえが取れた」
「こんな私を心配してくれてるだなんて。ほんと優しいね、來。そういうところがアレなのよ……也夜とお幸せにね」
いつかリカは知るのだろう、他の男と一緒であることを。でもまた会うことはしないようにしよう、そう思えばいう必要もないだろうし知られたところでどうもない……と來は思った。
だが初めて自分と也夜が家族だと言ってくれた、そのことがただただ嬉しかった。
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