第46話 真実は
「元気そうね。あなたのところのカラー担当のことも仲良くしてるんだけど予約もいい感じで楽しいって」
「そうやって聞くと嬉しい」
「大輝さんは今接客中だから座って待ってて」
ふとカヨさんの体を見ると前よりも寸胴である。
「赤ちゃん、順調に育っててね。だから今はレセプション担当なの。あなたのところの
「いや、カヨさんはここにいるのが似合いますって」
來はやはりカヨが苦手なようである。
「不採用かーがっかり。て、ここが一番。大輝さんも私がいないとダメなのよー」
とふんふんと鼻歌を歌いながら去っていくカヨ。相変わらずだ、と思いながら大輝の後ろ姿を見る來。
あの後ろ姿、そして振り返った時の笑顔で來は恋に落ちた。
これが恋なのか、そして彼と深い仲になり始めてキスをし抱かれ愛されこれが愛なのか、それを肌で感じた時のことを思い出す。
もう大輝には愛されることはないだろうが愛を來に初めて最大級与えてくれた人。
氷が溶けてコーヒーが薄まってしまった。早く飲めばよかっただなんて思いながらも愛おしかった人の働く後ろ姿を見つめる。
「ありがとうございました、またお待ちしております」
時間が経ち大輝が客を見送っていた。ずっと彼のことを見ていた來は無駄な動きもない大輝の働く姿を久しぶりにまじまじと見れてよかったとソファーから立ち上がって仕事終わりの大輝を見つめる。
「おう、お待たせ。一時間は空いてるからまずはシャンプーするか」
「はい……久しぶりです」
「そうだなぁ、久しぶりにだな」
大輝のシャンプーでの指遣いも好きだった。まだ出会った頃は大輝の店は人が少なくシャンプーからブローまで全部大輝がしてくれた。
シャンプーの時にふと彼の体から香る匂いが來にとってたまらなかった。
「頭がカチコチだぞ。考え事のしすぎだな」
「……ですねー、あー気持ちいい」
「新入りの子の実験台してやってないのか」
「やってるけどまだ力が足りないから。少し人に対してビビってるのかも」
「前の子は容赦なく力入ってたらしいな」
「そうです。加減ってもの……ああっ」
「変な声出すなよ。まぁ今ここにいないからいいけど」
「つい」
「ついって……馬鹿か」
こういう会話も久しぶりである。大輝への依存を解くために距離を置かれていたのだが会話は前と同じようにできることが嬉しい來はもっとして欲しい欲動に駆られてしまう。やはり昔の恋人は恋しい。
「はい、ここまで。あと流しは新人の子に入ってもらうから」
「……はぁい」
少しがっかりするが新人の子の手つきも悪くはない。小柄な男の子の割には手は大きくしっかり流してくれている。
だが語尾に「っす」がつくところがまだ若いと感じるが自分も高校、専門学校生の頃はまだまだ至らないところもあって大輝や先輩、客からも注意されたと懐かしむ。
個室を用意してくれたから2人きりの空間。少し緊張気味の來。なんで互いのことを知って愛し合った仲なのにこんなに緊張するのだろう、不思議には思うが大輝の指が自分の頭に触れると彼はドキドキしている。
「髪の毛もしっかり切り揃えてあるな。これは……」
「はい、新人の子に。腕はいいですよ……助かります」
「美園ちゃんが退職するのも痛手だがスタイリストが腕を上げてくれればなんとかなるだろ」
「はい……でも腕はいいけど会話が苦手で。とにかく技術を重きに置くよう指導はしています」
こんなところまでも仕事の話になってしまうがそう話もできるのも同じ職業の仲同士、師弟関係でもあるからだろう。
「仕事の話ばかりであれだろ。話したいことが仕事のこと以外であるだろ」
図星だ、見透かされた……大輝はなんでもわかるようだ。
「
「……」
「うまくやってるか?」
「うん……」
「あいつもさ、昔は結構派手にやってたから……仕事のことはしっかりしててもな」
それは聞いてはいたが大輝から分二と
「大輝は分二と也夜付き合っていたことは……」
「知ってたよ」
「……なんで言ってくれなかったの」
そうである、それを知っていたら……今の関係も変わっていたはずだ。
「ひどい別れ方したもんでね。それにお前と分二はビジネスパートナーとして歩むと思ったら……いつの間にか、といいたいがいつかはそういう関係になるとは思っていた。でもあの分二のことだからもうないかと思ってはいたが」
「……別れさせられたんですもんね」
そう來が言うと大輝の手は止まった。
「それは分二から聞いたか?」
「……うん。也夜は事務所の人から前の事務所辞めて移籍する時に2人は別れろって」
「……」
「違うの?」
大輝は黙って頷いた。
「……也夜が分二から離れたんだ」
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