第45話 分二の愛

「元気ないな、らい

「そんなことないよ」

 分二ぶんじがシャワーを浴びてきたばかりで髪の毛を來に向ける。乾かして、の意味である。

美園みそのちゃんがまさか結婚かぁ。それに仕事も辞めちゃうって……いい人材失ってしまったなぁ」

「だね……」

 分二が來をじっと見る。


「まさかぁ、美園ちゃんが辞めることで元気ないとか」

「……それもある」

「こないだ、美園ちゃんと休憩に一緒に入って彼女がすごく泣いていたってスタッフから聞いてたから」

 それは知ってると來は分二の頭をわしゃわしゃっとさせた。


「宥めさせるの大変だったって。來が何か言ったのかと思ったけどさぁ」

「特に僕は何も言っていない」

「その後、君も目を真っ赤にして出てきたって聞いたぞ」

「……」

「美園ちゃん、綺麗な子だもんな。もしかして……結婚することがショックだったか」

「……ショックというか、その」

分二は少し拗ねた感じで

「僕という相手がいるのに、美園ちゃんが結婚したことにショックを受けるだなんて」

 と言った。來は手を止めた。

「違うっ……ただ、その……」

「その?」


 分二は來の手を握った。

「お前も男だな……リカちゃんともそうだった」

「だから違うって」

「リカちゃんと美園ちゃんはタイプが全然違う……」

「だからっ……」

 來は声を荒げた。分二は笑った。

「冗談だよ……まぁ美園ちゃんがおまえに好意を抱いているのは知ってたし」

「……」

「知っちゃったんだね、それを。悲しかったねぇ」


 分二に頭を撫でられる來。

「もし知っていたら……付き合っていたのかな。也夜のDNAもあるし、子供を産ませることもできたよね」

「……分二!」

「あの子も結構しっかりしてそうで……心の弱い子だ」

「分二、美園ちゃんに何を……」

「変なこと言うなよ僕は何もしてないよ。それに僕はあんなツンとした子が苦手だったんだ」

「……」

「でも、美園ちゃんはお前のことが好きだった」

「分二は知ってたのか。いつから?」


 分二はうーん、と唸る。


「來、也夜は美園ちゃんと付き合わせたかったのは知ってるか」

「本人には聞いてないけど今思えば也夜が彼女のことを……よく話してた」

「……ふふっ」

「なんで笑うの?」

「でも來は流しちゃったんでしょ」

「……」

 來の上に分二が乗る。


「也夜はね、自分の代わりに美園ちゃんと付き合って欲しかったんだと思う」

「代わりだなんて。ただ美園ちゃんが僕のことを好きだって言いたかったんだと思う」

 すると分二は來にキスをした。


「美園ちゃんの気持ちを気づかせて來には美園ちゃんと付き合って欲しかったと思うんだ」

「……!!!」

 來は返事ができない。間髪入れずに分二が舌を絡めてくるのだ。そしてあっという間に服は脱がされて2人裸になる。


 分二が優位になる。來は放心状態で天井を仰ぐ。


「……也夜はね、僕と元の関係に戻りたかったんだよ……」

「……!!! そんなことはっ!!! あっ!!」

「來は僕の代わりにしかすぎなかったけど残念ながら君はネコ、本当は也夜がネコだった。さぞかし不満足だったのだろう……君との関係……」

 來の中に分二が入っていく。來は呻く。


「実はね、僕と也夜は離れ離れになってたけど彼は僕のメアドを知っていた。そこに何度も也夜は僕に会いたい会いたいと送ってきたんだよ」

 そんなことは知らなかった、と來は絶句するものの、分二による愛を受け入れて声を出す。


「でも僕は送っちゃダメだ、送り返しちゃダメだと思って返していなかった」

「あああっ!!!」

來は叫ぶ。

「でもとある時ぱったりこなくなった。メールが……」

「んあっ!!!」


「來、君と言う存在のせいで……僕はすぐ調べて君が働いていた美容院まで行った。偶然を装って。大輝は僕の友達だったから。たまに頭を洗ってくれたのが……來……君だったんだよ。世間は狭いって……。也夜にとって來が僕の代わり? 全然違うじゃないか」

「ああああっ!!!」

 來はいつも以上の分二の愛の強さに理性を失い返答もうまくできない。


「君もこんなんだから……也夜は満足したのだろうか、毎晩のように僕らは愛を求め合った。君の相手をしていたら……也夜は……」

「也夜っ……也夜はっ……」

 息も絶え絶えに來は答えようとするが何度もくる波にうまく発することができない。


「……也夜もこんなふうに……って一緒にはしたくない。だって君は也夜の代わりではないから」

「分二ぃっ!!!!」


 來は最大の波に飲み込まれたのちに目の前がブラックアウトして仰向けに果てた。






「來は也夜の代わりにはならない……來は來でしかない。そのように也夜も來は僕の代わりにはならなかったと思うよ……」

 來の上に分二は覆い被さる。彼も息も絶え絶えに、でもまだまだ來の首筋、ほっぺ、唇にキスをした。


 目を瞑ったままの來。

 息も荒くもう力が出なかった。

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