第43話 溺れてく

 分二ぶんじの告白があっても特に変わりはなく進み、身体の関係もいつも通りだった。

 どちらかといえば性欲の強い分二がらいに対しての愛し方が異常、と言うのもあるのだが。來は也夜なりやの時のように互いが気持ちよくなるように触るだけの行為だったのが一番よかったのだが分二はそれでは足りないのだ。


 也夜が目覚めてからと言うもののさらに執拗に來との行為を求めるようになった。

 もう離れないよう、自分の色に染めどこにもいって欲しくない、それ一心が故に……分二は來を愛し、來もそれに応えるよう愛に溺れた。


 親に愛されなかった來は嫌な行為でも自分を愛してくれるのであれば、というそんな気持ちもあったのだろう。


 だがこんな生活はもう続かないだろう、來は思っていた。刻一刻と選択の時は近づいている。

 美園みそのが自分の店で働いている限り也夜との関係は切れないだろう。


 それに也夜の目覚めは彼を信じて待っていた人たちの元にもすぐ知らせは届き渡り喜んでいた。

 そして中には來と也夜は再び結婚するのではないのかということを期待している。

 しかしもう分二のプロポーズを受けて結婚間近まできていた。


 これが公になったら……待っていた人たちはどう思うのだろうか。ただでさえ來とリカのことも一部でバレていたときのように。


 刻一刻迫る重大な選択が待ち構えているのに來はそれに目を瞑るよう、分二に抱かれる。


 このまま世界が破滅すればいい、でも也夜のことは好きだ……変な矛盾に押し潰されようとしている。


 もしここで也夜の元に戻るとなったら……出資をしてくれた分二がもう離れるとなれば美容室はどうなるのであろうか。


 だが分二には也夜を結婚式前に呼び出し事故に遭わせ2年も眠らせたということもある。


 來はそんなことも思ったが今は分二との愛に溺れる、それしか無くなっていた。

 彼は性欲に溺れやすい。溺れるとダメな人間のようだ。


 ただ現実を見たくないのか心の隙間を埋めるためだろうなのか。來にはわからない。


「ねぇ、來」

「なあに、分二」

「僕から離れないでね」

「わかってるよ……」

 口づけを交わしさらに溺れていく。


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