第36話 どうすれば

 美園みそのよりも先にタクシーから降りた。マンションは地下駐車場があり地下まで降りてもらった。

 美園がカードを持っているから支払いは良いと言われ來はありがとうというが無言であった。


 少しそのことに悲しさを感じるがしょうがないかと部屋に戻る。


 ドアを開けると空いている。

「ただいま」

 いつものように声をかけると

「おかえり」

 分二ぶんじの声だった。そしてすぐ玄関まで分二がやってきた。


「……おかえり」

「ただいま」

 もう一度。


 二人少し気まずい感じである。でもすぐ分二はいつもの笑顔になった。


也夜なりや、目が覚めたってな」

「うん。名前呼んでくれた」

「えっ、呼んでくれた?」

「うん」

 分二はびっくりした顔をしている。そりゃそうだろうと思いながらも


「ねぇ、分二が也夜のこと……」

「なにを」

「目を覚ましたこと……ネットとかで拡散した?」

「なわけないだろ」

 笑いながら被せ気味に返答した分二。


「でもすぐネットで流れるなんて病院内とかそういうので漏れるんだろ」

「……だろうね、ごめん」

「ううん」

 また気まずくなる。


「でも也夜、本当に目を覚ましたんだね」

「うん」

「よかったね、らい

 返答に困る來。


「……だからと言って僕らの結婚は無しにならないからね」

 やはりそうきた、と。分二は來を抱きしめる。


「だよね? 來」

「……分二」

「なんだよ、YESじゃないの?」

 抱きしめる力が強くなる。


「YESとかその前に……分二は也夜のファン?」

 と來が聞くと分二は離れた。


「……ファンじゃないわけでもない」

「ずっと気になってたんだよ。ファンでもなければなんなんだろうって」

「そりゃ彼は人気者だし素敵な人だとは思っているよ」

「そうなんだ」

「それだけだよ? で、YESは? 來……」

 分二は微笑む。


「まだ也夜はこれから治療やカウンセリングが必要らしい。今日が何日だってことも言ってはいけないほどだった。だから……これから……どうなるのか」

「……」

「記憶はあるようだし、僕のことは認識してくれた。だから……」

 すると分二は來の手を握った。


「だから何? ……結局は也夜の親は君たちの結婚を反対した、だからもう無効になっているよ。それにこの家のことも彼のお金でもあるから返すなりなんなりして僕らは別の家に住めばいい。いいでしょ?」

「……」

 あまりの提案に來は返事ができない。


「それにベッドの上で他の男や女が上がってるだろ? 僕ずっと我慢してたけど本当はすっごく嫌なの。他の人がいたベッドで寝てたなんて。ここで! 捨てて新しくしたかったけどさぁ……でも來が、この上で他の人たちと乱れていた、それを考えるだけで……なんだろう、矛盾する……なんだか変に興奮する自分もいるんだ……」

 分二はつま先立ちをして來にキスをする。舌を無理やり入れ込む。


 來は分二がここまで狂気的になるだなんて思わなかったようだ。

 也夜とは違ったドSさでそれはそれで來は発情させられてきたことでやっぱり自分はドMなのかと思ってはいたが今ばかりかは違う。


 今までにない狂気。分二から感じる。來はされるがままにその場でしゃがみ分二の気が済むまで彼のいう通りに服従させられた。


 苦しくても辛くてもその狂気からは今逆らえない。

「なぁ、好きだよね。こうやってくれるんだから好きなんだよね……僕のこと。來がこんなことを他の男にしてるの知ったら也夜、どう思うかな……」

 來は返事ができない。頭を掴まれ分二の気が済むまで……。


 結局は分二が嫌だと言っていたベッドの上でも……。


 也夜はもう目覚めているのになんでこんなことをしているのだろう。


 気の済むまで愛を吐き出した分二は横で寝ている。

 來は彼に布団をかけて全裸のまま立ち上がって浴室に行きシャワーを頭の上から浴びて声を上げて泣いた。


「也夜っ……也夜っ……」



 涙が止まることなく溢れ出す。





 そして寝室に戻り寝た。



 目が覚めたら横に也夜がいるはずだったのに。


 朝起きたら横に分二がいる。



「おはよう、來……昨日はごめん」

「……おはよう。大丈夫だよ」

 頭を撫でられた來。分二はまた笑顔だ。


「ねぇ、答え聞いていいかな……」

「……僕もひとつ聞いていい?」

「いいよ」



「分二はいつから也夜を知っているの?」

 分二は一瞬真顔になった気もするがまた笑顔に戻った。


「多分來よりも先に知ってたと思うよ」

 今日は互いに休みだった。



「……そうなんだ。モデルの時?」

「ううん。それよりも前さ」

「まさかアイドルの時……」

「うんうん、そうだよ」


 そう、也夜はモデルの前にアイドルをしていた。それを來は知っていた。

 しかしそのことを誰かから聞いて也夜に話をしたら不機嫌になったことを思い出した。


 アイドル時代を知っている人がこんなに身近にいたのかと。


「その時の話を教えて欲しいな」

「そんな話聞いてどうなるのかなぁ」

「今日は互いに休み出し、話をしたい」

「わかったよ」

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