第35話 葛藤
だが病院関係者たちから表が報道陣やカメラマンが待ち伏せている、と言われ先に出て行った社長たちから裏にタクシーを回したと伝えられた。
どうやらこの病院はタレントや政界有名者も受け入れることも多いらしく対応は慣れたものであった。
來は自分がよほど有名人ではないのになんか有名人になったような気もしたがいちばんの有名人は
そこそこ名前が知られているだけでもカメラマンがくるのか、実際建物の上から覗いたら数台報道の車や記者らしき人が数人いたのを確認した。
案内してくれた病院関係者曰く報道陣専用の会見部屋もあったりもっとすごい有名人だと記者どころかファンが群がるとのことだ。
ファンらしき人物入るかどうかわからなかったが一部では病院は割れててお見舞いや品を渡すファンもいたらしいが全部それらは受け取りなどは辞退。
ファンの中でもそれらを辞めようという決まりもあったのかそういうことはなさそうと美園は言ったが也夜のファンはしっかりそれらを守れてるマナーの良き人たちばかりに彼は支えられていたんだと改めて実感した。
それなのにその相手である自分は……と複雑な気持ちにもなる來だった。
「……てか、どうするの」
美園に声をかけられた來は
「どうするって」
と返事をすると美園は呆れた顔をしていた。
「
今自分が戻る先は分二がいる部屋。そしてそこはもともと也夜も住むはずだったところである。
分二に連絡した來だが、そうか、という返事で
『今日は僕が晩御飯用意したから。食べるよね?』
と連絡があった。
その後絵文字もあっていつもの分二だ、と思ったがやはり本人に会わないとわからない。來は不安である。
來の婚約者だった也夜の目覚めにそうか、だけなんて、と。
「まだリハビリとか検査とかあるから退院はすぐじゃないだろうけどもすぐ考えないと……それに……今の状況、今何年なのか伝えることでさえも看護師さんに止められたから……」
「ショック受けるかな」
「さぁ、本人次第よ」
「……」
「この二年間のあなたの行動聞いてお兄ちゃんショック受けるだろうね。まさか途中で、他の人に手を出したなんて」
「……それは……」
ふと來は思い出した。
それは也夜と付き合っていた夜のことだった。どちらかといえば也夜が來の反応を楽しむことを重きに置いたセックス手前の行動をよくしていた。
入浴後、熱った体を重ねて何度も抱擁してキスをして也夜は來の耳元で囁く。その時だけ低い声にそそられ來は鼓動が増す。
それがたまらなくいてもたってもいられなくなる。
也夜の一つの囁きの中に
「來は僕以外の人が目の前で誘いをかけたらどうなってしまうのだろうね」
と言われたことがあった。女性経験のなかった來だが、入浴前に見ていたバラエティ番組でグラビアアイドルが水着で胸を揺らしてお笑い芸人とわちゃわちゃしていたのだ。
芸人たちはアイドルの水着に興奮していてカメラも水着のアップを多めに写している。
そういう番組は少なからず見かけはするが來はつい見入ってしまった。
きっとその姿を也夜が見てのことだろう。
「也夜はどうなんだよ、見てたじゃん」
「ん?」
惚けた顔をする也夜は來の首筋にキスをするをすると來は気持ち良くて声を出してしまった。
まさか数年後、來はリカという年下のアイドルを部屋に連れ込んで寸前までするとは思わなかったのだが……。
「だって來……女の子の胸ばかり見てた。ああいう子が好きなのかな?」
と言いながら來にキスをする。來は頭を横に振って否定するが也夜の動きに反応して身体は再び火照り悶えていく。
「違う、違うってば!」
「なにが違うの? もう……すごく身体が熱い。心臓もバクバク鳴ってるよ。僕までもドキドキしてきた」
「それは……っ!」
「想像してるでしょ? 女の子とのこと」
「そんなことないっ! 意地悪、也夜!」
「はははっ」
「やめてっ……やめて……」
也夜は普段日中は揶揄うことはないのだが二人きりでいる時、こうやって言葉責めして來が困り果て悶えるのを見ることで興奮するというドSになるのである。
來はドMではないしかと言ってドSでもないがこうやって言葉責めしてくる也夜が変なことに好きなのだ。
だから言葉責めも嫌ではない來はもっと也夜に責めて欲しい、もっと耳元で囁きゾワゾワさせて欲しい。
挿れられるのはあまり好きじゃないがそれに似た性快楽を得られる……身体負担の少ない性衝動。
來はそれが好きだった。
が、そんなことを思い出したら下半身が疼いてしまった來。隣に美園がいるのに。
荷物を上に載せておいてよかった、と思いながらも……。
不思議とリカと同じ性別の彼女に手を出すことはできない。彼女に魅力がないわけではない。
セクシーさはリカよりも断然優っている。なのに。
それは也夜の妹だからなのか。誰かには妹とsexして子供を産めばいいのにとか言われたけど嫌悪感が少しあったのはそれだったのだろうか。
「……お兄ちゃんを傷つけることだけはしないでね」
美園は最後まで來に目線を合わせなかった。
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