第32話 とんとん拍子だが
結婚が決まったらとんとん拍子だった。今回は親にはいうこともない、と
分二の親たちも経営者で自由に息子を育てている。來も自分のところも自由であるが放置である。
分二の可愛がられよう。親バカや過保護ではない。
なんとなく也夜との結婚式とは真反対なことをしていくことに違和感を感じてきた。
人もそんなに多く呼ばずに少人数、タキシードも着た色や形を避け、場所も違う。
分二はもちろん初めての結婚式ともあって見るもの全てが初めてでキラキラ目を輝かせていた。
來はつい言ってしまった。
「分二、僕に気を遣ってないかい」
「なんで?」
「だって……なんかさ、僕の前の結婚式と違うようなものにしようとしていないかなって」
「……え? そんなことないよ」
分二はいろんな服をあてがって來に見せた。
「だって分二は友達や取引先の人とか親戚もたくさんいるのに呼ばずに……もっと呼んでもいいよ。僕はそう……職場の人とかだけだけど。僕のことは気にせずたくさん呼んでくれよ。家族いないから僕は建前とか本当気にしないし」
「いやいや、人が多いのが反対に嫌だよ。だから君のプロポーズもあえて店ではなくて家でしたろ? それにあまり人を多く呼ぶと後が大変だよ? ご祝儀を呼んだ人全員に渡せるかい? まぁ渡さないわけじゃないけど」
ふと前の結婚式でたくさん互いに呼んだのを思い出したがほぼゲイや独身の物ばかりで、ここ数年で何人か結婚したが也夜との結婚がなくなったからなのか気を遣われて來は式に呼ばれなかった。
ほとんど也夜を通じて仲良くなったから仕方がないとは來は思ったが。
「別にケチってわけじゃないけどさ。日本てそういう義理とかなんかそんなのあるから嫌なんだよ。うちの親もそんな感じ。さーさーぼくはこれにしたから來は」
と分二が気に入ったタキシードのサイズ違いのものを店員に探してもらっていた。
淡いピンクのタキシードと白色寄りのクリーム色のタキシード。それぞれラメも入っている。
それよりもあんなに笑って了承してくれた分二の親たち、本当は也夜の親みたいに同性婚は気に食わないのだろうか、とモヤモヤしていた。
結婚式についてのあれこれは口出しはなかったし、ただお呼ばれするだけだから文句は言わないとのことだったが。
「もし気に入ったら何枚でも着ようよ。前撮りで何枚か撮ればいい」
確かにここ数年でデザインは増えたと思ってはいたがそんなに着たいというわけではなかった。
また也夜とのことを思い出す。來は色々也夜にこれを着たらどうかとかどちらかといえば分二のポジションであったなと。
それを笑いながら選んで選んでと。也夜はモデルともあって本当になんでも似合った。
正直分二はモデル体型ではない。也夜とは全く違う。
來は頭を振った。また思い出してしまった。なんて失礼なんだ、と。
「疲れたかな? 來……」
「かもしれない。昨日は夜遅くまで働いてて」
「連勤だったしご飯残してたし。無理しないで。僕は試着してくるからね」
分二もなんとなく感じ取って1人何着かタキシードと小物を持って試着室に行き、來はソファーに座った。
確かに忙しかったのは事実だが也夜とのことをまた思い出してしまったことと、自分のことを本気で愛してくれる分二には申し訳ないという気持ちと、前日職場で一緒だった
美園に分二との結婚式をすることを話をしたら最初は黙って聞いていた彼女だが、あまりいい顔をせず。
最後には
「おめでとう」
とは言ってもらえたが複雑な顔をしていた。あれから也夜を見に行こうともしなかった來。一度は顔を出した方がいいのか? と聞くと別にいい、と言われたのだ。
とても冷たいものであった。
1人でいると気持ちが楽になってきたのか來はタキシードを眺めた。
今度こそしっかり結婚式はできるのだろうか。周りだけでなくて分二の親も認めてくれるのだろうか。
「お客様、大丈夫ですか?」
他の店員から声をかけられた來。
「大丈夫です……」
「すごく顔色悪いです……何か飲み物持ってきますね」
店員が飲み物を取りに行くと試着室からその声を聞いた分二が上はジャケット、下は下着という中途半端な格好で慌てて出てきた。
たまたま貸切にしていたもののスタッフは慌てて制止するものの來は分二を見た。
「……なんて格好してるんだよ、分二」
「やっぱ、やめようか……今日は」
來は頷いた。
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