第19話 魔王の怒り

 ゴードウィン。そう名乗っていたわねたしか。

 四人衆最後の一人。実力はたかがしれてる。


『無駄な足掻きだ! もうすぐ俺の仲間が……』

「ルーシー……ルーヴェル……ミーシィー……」

『あぁ!?』

「全員殺してきたけど? 残ってるのはお前だけだから」


 後ろでセレスティアナさんが驚いて目を見開いていた。

 すべて見ていたわけじゃないけど、ヴェイルがそれを肯定してますます信じられないものを見る目を私に向けてくる。


『全員殺しただぁ!? 見え透いた嘘を……』

「嘘かどうかはすぐに分かる。あっ……理解する前に死ぬかもしれないけどね」


 そう言ってやると、ゴードウィンが腕を突き出してきた。

 魔力を感じ、障壁が張られる。


『“ダークバレット”!』


 ゴードウィンの魔法が飛んでくるけど、効くわけないじゃないそんな豆鉄砲。

 魔法は跳ね返され、ゴードウィンに命中して服を破り、皮膚を剥いだ。


「なに、が……!?」

「メランコリーの魔法を反射する技!」


 セレスティアナさんは見るの初めてだっけ? ヴェイルが簡単に効果を説明してくれる。

 教えたわけじゃないけど、やっぱりこれくらいは分かるか。

 さて。じゃあ本物の【ダークバレット】がどういったものか教えてあげないと。


『てめぇ! 何しや……』

「“ダークバレット”」


 私は優しいから、左手の指先五つ分で勘弁してあげる。

 でも、勢いよく飛んだ闇の弾丸は二発が右肘、もう二発が左膝に当たって、最後の一発が右目を抉り、さらに先の合計四発がゴードウィンの右腕と左足を呆気なく吹き飛ばす。


『がっ!? 何だ……この威力は……!?』

「大した魔法は使ってないけどね。……で? まさかあれだけ大口叩いておいて使えるのがそれだけ? まだそこら辺に転がってる石ころのほうが私にダメージを与えられるけど?」


 これは冗談じゃない。こいつの攻撃より石に躓いて転んだ方が痛い。

 挑発してやると、すぐに乗ってきたゴードウィンが残った左手を掲げた。

 重力を押しつける黒い球体が生まれる。


『これならどうだ! “グラビティ・スフィア”!』

「はい残念」


 せっかくの魔法もまた反射。

 体重の三倍の重力がゴードウィン自身に跳ね返される。

 てか、たかが三倍なんて笑わせてくれる。これはお手本を見せてあげないと。


『さっきからこれは……魔法反射か……!?』

「ようやく気づいたんだ。でも、もう遅い。“グラビティ・スフィア”」


 手の先に作りだした黒い球体。

 それがゆっくりとゴードウィンに近付き、既にあった球体を消滅させて頭上で輝く。

 次の瞬間、ゴードウィンが押し潰されて地面が陥没し、全身の穴から血が流れ出した。


『ぐぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁッ!』


 ははっ、いい悲鳴。

 闇の第五階級魔法【グラビティ・スフィア】を使うのならば、三倍の重力場じゃなくてせめての重力場は作り出さないと。

 あぁ、安心してね。まだまだ殺すつもりはない。ちゃんと死なないように魔法で守ってあげてるからね。もっともーっと苦しめてから殺してあげる。

 アイリスにやったこと。悔やみながら絶望に震えるがいい。


「燃えろ」


 短く呟いて、ゴードウィンを漆黒の炎で包み火だるまにしてやる。


『あぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』


 絶叫と共にのたうち回る姿はとーっても無様で愉快。

 やりすぎるとさすがに死んじゃうから、冷やしてあげましょうか。


「凍てつけ」


 局地的な猛吹雪が吹き荒れ、炎を瞬時に鎮火していく。


『ぁ……がぁ……第九……階級魔法の……【インフェルノ・ピラー】……だと……!? てめぇ……にんげ……ん……じゃ……』

「メランコリーさん……第九階級魔法を……!?」

「何を勘違いしているの?」

『は……?』

「私が使ったのはの【ファイアトーチ】の術式を弄ったもの。まさかあの程度が【インフェルノ・ピラー】に見えたなんて言わないよね?」


 ゴードウィンの顔がはっきりと絶望に歪む。

 それそれ。その顔が見たかった。お前が殺してきた人たちもきっと同じ顔をしていたでしょうよ。

 さて。もう飽きた。

 さっさと殺しちゃうか。


「喜んで。そろそろ殺すから」

『ま……待て……待って……ください……! 命だけは……助けて……』

「私言ったよ? 命乞いで助けてもらえるなんて思うなって」


 双剣の一本を抜いて心臓に突き立てる。同時に魔法も発動だ。


「“クリエイト・アンデッド”」


 絶命と同時に魔法が発動し、ゴードウィンが上位アンデッドのリッチーとして生まれ変わった。

 格闘戦主体に見えるこいつが魔法に特化したリッチーなんて笑えるわね。

 まぁ、私としては自我の残るアンデッドならなんでもいいけど。


『アンデッドに……? 助けてくれた……?』

「まさか。“エンチャント・インビジブル・スカーフ”」

『隠蔽魔法だと? 何を……』

「“フォール・オブ・ゲヘナ”」

『っ!? そんな……! それだけは!』


 手を伸ばしてくるけど、地面に漆黒の空洞が口を開いてゴードウィンが落ちていく。

 先にかけた魔法のせいで、お前が神々に気づいてもらえるのは何万年先になるのかしら? そこから許されるまで何千年かかるのかな?

 無限の苦痛を半永久的に味わい続けろ。それを以てアイリスへしたことの罰としてあげる。

 自我をわざわざ残してあげたんだから、気が狂いそうになるでしょうね。

 転生したらその苦痛の記憶が綺麗に消えることを祈ってあげる。だって私は優しいから。

 ゴードウィンは泣き叫びながら暗黒空間に引きずり込まれていき、やがてこの世界から完全に消え去った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る