第16話 魔王軍襲来

 降魔の森近くにある大きな川。

 そこには立派な砦があるんだけど、魔王軍撃退のために立ち寄ってみたら大変な騒ぎになっていた。

 迷惑かなとも思ったけど、走り回っている兵士さんがいたから呼び止める。


「あのー、大丈夫ですか?」

「大丈夫なわけあるか! アンデッドの軍勢が森を抜けて迫ってきている! きっと大規模な魔王軍の部隊だ!」

「君は冒険者か!? 今勇者様を呼びに伝令を走らせたから、君は安全な場所に逃げるんだ!」


 おっとそれはまずい。

 こんな早くに勇者と鉢合わせするわけにはいかない。向こうが私にどんなアクションを取るか分からないから。

 もし勇者、もしくは仲間に聖女のような私が魔王だって一発で看破する奴がいたらおしまいだ。あっという間に人類の敵になってしまう。

 アイリスとは敵対したくないから、まだまだ勇者と会うわけにはいかない。

 勇者は王都にいるみたいだし、ここで魔王軍を叩き潰せば途中で勇者を王都に引き返させることもできるだろう。

 意味は違うけど一粒で二度美味しい。魔王軍は私が殲滅します!


「勇者なんて必要ありませんよ。魔王軍は私が潰しますので」

「何を言って……」

「こう見えて私、強いですから。アンデッドが百体や二百体来たところで余裕です」

「今回の敵は軽く二千は超えていると斥候から報告があった! 数が違いすぎる!」


 よくぞまぁその数のアンデッドを集めたものだ。相当時間がかかっただろうに。

 まだ見ぬ敵に感心していると、風に乗って腐臭が漂ってくる。


「来たぞ!」


 砦の上で森を眺めていた兵士が叫ぶ。

 そちらを見ると、木々を抜けて大量のゾンビやグールといったアンデッドが押し寄せてきているのが見えた。

 その中心、アンデッドに囲まれて骨の馬に騎乗している女が一人。

 どうせあの魔人たちの仲間だろう。レベルもそんなに大差ないはず。

 それよりも厄介なのがあいつが乗っている馬の方だ。あれはソウルイーターじゃないわよね?

 ソウルイーターならレベル60に迫る強さがある魔物だ。魔人よりもそっちに警戒が向く。

 でも、騎乗できているということは特別な魔法を使っているか、それともこの世界のソウルイーターは弱いのかそもそも別種なのか。

 やっぱり【レベル・アナライズ】を使った方がいいのかな。

 いや、違う。まさか……。


「あいつが魔人の言っていた、ベルモットという幹部?」


 やっぱり使おう。レベル的に負けることはないけど、万が一のジャイアントキリングは避けたい。

 目に力を込めて魔法を発動させる。


(女がレベル38。馬がレベル27。女はただの魔人で、馬は別種か)


 だとしたら私の世界にはいなかった魔物だ。

 レベルは低いから弱いと思うけど、どんな力を持っているか分からないから少し怖い。

 まぁ魔法は全部反射するからそこまで警戒する必要はないんだけどね。

 でも、本能で実力差を察したのか、兵士たちが退いて砦に立てこもり籠城戦の構えを取っている。

 でも、悪いね。あなたたちの出番はないよ。

 肩をすくめてゆっくりと歩き出すと、アンデッドたちを横に捌けさせて女も進んできた。


「貴女、一つ質問をしてもいい?」

「なにかな」


 聞きたい内容は大まか予想ができるけど。どうせ魔人二体の行方とかそういうのでしょ。

 ここまで連携が取れている魔人が連絡手段を持っていないはずがない。倒されたことは既に伝わっているはず。


「ルーヴェルとルーシーって魔人がいたと思うんだけど……知らない?」

「倒したよ。一撃だった」


 私がそう答えると、魔人は目を丸くした。

 けど、すぐにお腹を抱えて笑い始める。


「面白い冗談を言うのね。ルーヴェルはとーっても低い確率の奇跡が起きたら一撃もあり得るかもしれないけど、ルーシーを一撃なんてあり得ないわ。勇者の仲間に治癒こそされたけど致命傷を負わせるほどの技量があるのに」

「でも、事実だし」


 あのルーシーって魔人はそんなに強かったのか。本当に一撃で倒しちゃったから見せ場を作ってあげられなくて申し訳ない。

 話を聞くかぎりは、私の魔王軍で言うところの軍団長クラスといったところかな。魔王軍の中では強い方だろう。

 てか、いいな。軍団長クラスで勇者の仲間に致命傷とか。私の軍にもそれほどの実力者がいれば、あんなに追い詰められることもなかったでしょうに。

 まぁ、いいや。

 信じてもらえないから、別にそれでもいいんだけど転移魔法で放置してきたルーシーとルーヴェルの頭をここに呼び寄せる。

 指を鳴らすと次元の門が開き、二人の首が転がった。

 それを見て女が目を細める。


「……驚いた。本当に倒したのね」

「まぁね。逃げるなら部下だけ倒すからいいけど」

「四人衆が一人、この私ミーシィーが仲間の仇を前に逃げるとでも?」

「逃げるのは恥じゃないよ」


 実際、私も逃げてきたからここにいるわけだし。


「殺してあげる。貴女も死者の列に迎えてあげるわ」

「それは勘弁。死にたくないからここに来た訳だしね」


 女が手を掲げると、不気味な髑髏のようなオーラを纏う魔法が発動した。

 こいつはどうやら即死魔法の使い手らしい。

 飛んで来た魔法は私の前に生じた障壁によって跳ね返され、驚愕に目を見開いたミーシィーが回避を選択する。

 ミーシィーの魔法は乗っていた馬に当たり、一瞬で馬を絶命させた。

 私も右手を向け、魔法陣を浮かべて戦闘を開始する。

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