第15話 町への強襲

 用事が終わって、私はヴェイルを連れて冒険者ギルドに来ていた。

 思ったよりも早く片付いたから、何か適当なクエストでも受けようかなって考えている。


「この時間ですと……薬草採取がいいですかね。満月草は初心者が受けにくく、必要な薬草なので」

「そうだね。ついでに、収穫祭で使う木材も採ってこようか」


 今日忙しかったのは、もうすぐ来る収穫祭の準備を手伝ってほしいと言われたから。

 必要な材料と何がどれだけ不足しているかの確認だけだったから、思ったよりも早く終わったんだけどね。

 ヴェイルも似たようなもので、大まかな資金の計算と祭り期間中の町の構造の確認をして作業を終わらせた。

 これから本格的にいろんな建築物が用意される。と、なると毎年事故が起きて怪我する人がどうしても増えるからね。

 満月草は骨折なんかに高い効果を発揮するからこの時期は必須だし、少し強い魔獣が生息している森の奥に自生しているから、レベル10以上の冒険者しか受けることができないクエストとして採取依頼が診療所から出されている。

 皆が困っているクエストだし、私たちが受けないと。


「じゃあ早速……あれ?」

「どうしました?」

「ずっと気になってた人捜しのクエストが消えてる。また誰かが受けたのかな?」

「本当ですね」


 近いうちに私たちが受けようと思っていたクエストがない。

 あれは結構危ないみたいだから私たちの仕事だと思っていたんだけど……。


「あぁそれ、メランコリーさんが今朝受諾しましたよ」


 いつの間にかカウンターから出てきていたお姉さんにそう言われた。

 なるほどメランコリーが……。


「メランコリーなら大丈夫そうだね」

「ですね。私たちよりも強いですから」

「でも単独ですよ!? 本当に大丈夫でしょうか……」


 単独なら話は変わってくる。大丈夫かな?

 心配になってきた。今すぐ行った方がいいかも。


「ねぇヴェイル」

「ええ。行きましょう!」


 掲示板に紙を戻して、駆け出そうとしたその時だった。


「あ!」


 お姉さんが声を張り上げる。

 なんだろうとそちらを見ると、ボロボロの女の子が入り口に立っていた。


「ここが冒険者ギルド……」

「あなた、商会の娘さんですよね!? 無事でしたか!」

「……はい。お姉さんに助けてもらって」


 さすがはメランコリー。まさかもうクエストをクリアしていたとは。

 けど、なんだろう、この感覚。この女の子から感じる得体の知れない気配は……。


「さっすがメランコリー! ……アイリス様?」

「……うん」

「良かったです! それで、メランコリーさんはどちらに?」

「……あのお姉さん、メランコリーって名前なんですか?」

「ええ。最近冒険者になった期待の新人でして……」


 お姉さんが答えた、まさにその時だった。

 ギルド中に闇の魔力が満ちて、思わず私は剣を抜く。


『なるほどメランコリーか。ミーシィーの作ったゾンビをいとも容易く屠るあの力……危険だな。ベルモット様に報告しなくては』


 低く響く不気味な声。

 目の前で女の子の口から黒い靄が吐き出されていく。

 周囲の冒険者も異変に気づいて武器を持つけど、もう遅い。手遅れかもしれない。

 女の子が倒れ、靄は三メートルくらいある大男へと変貌した。

 全身の肌は黒く、あり得ないほどに膨れた筋肉。間違いない、魔人だ!


「え、え……?」

「皆逃げて! 早く!」

『逃がさねぇぞ。俺の目的はミーシィーが来る前にこの町の冒険者を皆殺しにすることだからな!』


 魔人は女の子の体を踏み潰した。

 血肉が近くにいたお姉さんの顔にかかり、恐怖で座り込んでしまう。


「あ……あぁ……」

『まず女。てめぇは邪魔なんだよ!』


 魔人がお姉さんを持ち上げた。

 ヴェイルが魔法を構え、私も切り込もうとするけど。

 でも、その前に魔人が動いて大きく口が裂け、お姉さんの頭が噛み砕かれる。

 血が飛び、聞いたことがないような悲鳴がいくつも鼓膜を震わせた。

 ヴェイルの魔法が飛ぶけど、魔人は腕を振って魔法を打ち消してしまう。

 私の剣も腕の筋肉で弾かれてしまった。


「くっ!」

「強い!」


 周りの冒険者も怯え、戦うことができずにいる。

 食べ残したお姉さんの亡骸を放り捨てた魔人が咆哮を轟かせる。


『多少の計算違いはあるが修正できる範囲内だ。俺は目的通りてめぇらを皆殺しにしてやるッ!』

「そうはさせないッ!」

『威勢がいいな女! 俺は【処刑人】のベルモット様に仕えし四人衆の一人、ゴードウィン様だ! お前たちのような雑魚とは違う……レベル43の暴力を! その身で味わいながら死んでいけ!』


 こいつがゴードウィン……! 名前を聞いたことがある。

 ベルモットという魔王軍幹部に仕える四人衆のうち、ゴードウィンはルーシーという魔人と並んでかなりの人を殺していたはず。四人衆は他にミーシィーとルーヴェルという魔人がいるみたいだけど、ゴードウィンとルーシーは特に強いらしい。

 噂では勇者様も一度戦って撤退したという強敵。勝てるか分からない……いや、勝てないと思う。

 でも!


「ヴェイル。助けを呼びに行って」

「で、ですがアイリス様……」

「私が時間を稼ぐ! 負けるわけにはいかない!」

『よく吼えた! 貴様も殺して頭を噛み砕いてやる!』


 死ぬと分かっていても、退けない戦いもある。

 走って出ていくヴェイルと、何人かの冒険者が助けを呼びに行ってくれた。

 残った冒険者たちは、私の後ろで武器を構える。まだ勝負は分からない!

 ……でも、ね。

 ごめんねメランコリー。一緒に冒険……したかったね。

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