第14話 魔人を倒す

 現れた二人の魔人に対し、こっそりと【レベル・アナライズ】で強さを測る。


(男がレベル37……女がレベル42。この世界の中では強い方だね)


 心からアイリスにこのクエストを受けさせなくてよかったと思う。

 こいつら相手だとアイリスとヴェイルの二人では勝てなかっただろうし、きっと同じようにゾンビにされていたことだろう。

 あんな美少女二人がゾンビになるなんてこの世の大きな損失だよ。私が先に防ぐことができてよかった。


「てめぇ……何笑ってやがる!」

「疑問。おかしなことはない」


 おっと、いつの間にか笑っていたみたいだ。

 それが男魔人の怒りに触れたらしく、あぁいや女魔人も怒ったのか武器を取り出した。

 鈍く光るハルバードが私の顔に向けられる。


「俺たちの計画を狂わせやがってこの野郎! 生きて帰れると思うな!」

「肯定。お前はここで殺す」


 地面を強く踏み込んだ女魔人が一瞬で距離を詰めてきた。

 手にしたハルバードが私の首を狙っているけど……残念。

 そこは既に射程内だよ。私は魔法よりも近接戦が得意だということを教えてあげないと。


「ッ!? 疑問。なぜ……」

「こいつッ! 躱せルーシー!」


 この女魔人ってルーシーって名前なんだ。殺しちゃう前に知ったよ。

 ルーシーのハルバードは闇の防御に弾かれ、離脱する前に下方向から双剣を振り上げる。

 腰からクロス方向に振り抜いたから、血飛沫を散らしながらルーシーの体は綺麗に四等分になって血だまりに沈む。


「驚愕……人間……じゃ……ない……」


 それだけ呟いて、ルーシーは息絶えた。

 まず一体。残るはこの男魔人だけ。


「てめぇ……本当に何者だ……!?」

「そっちが名乗るのなら教えてあげる。恐怖で顔が歪むだけだと思うけど」


 あぁ、世界が変わってもどう言い繕っても私は魔王なんだ。テンション上がるとすぐこういうこと言い出しちゃう。

 これも絶対に邪神様に食べさせられた黒煉の果実の影響だな。


「……魔王軍幹部が一人、【処刑人】のベルモット様に仕えし四人衆に名を連ねる、ルーヴェルだ!」

「要するに下っ端ね。納得の実力」

「黙れ人間ッ! 貴様こそ何者なんだ!」


 さて。じゃあ信じてもらえるか分からないけど名乗りましょうか。


「私はメランコリー=アゼルレン。お前たち魔人では絶対に勝つことのできない、異世界の魔王よ」

「異世界の魔王……!? 何をバカな……」


 冷や汗を流すルーヴェルに向けて、全身から発した闇の魔力を叩きつけてやる。


「ぐあっ!? そんなバカな! この闇の力……魔王様以上の……!? 貴様は……いや、貴女様は本当に!?」

「分かった? じゃあ、さようなら」

「ま、待って! 待ってください! なぜ魔王である貴女様が人間の味方を!?」


 私としては人間の味方をしているつもりはない。

 ただ私の目的とアイリスたちを守ることが合致しているだけ。どうでもいい人間なんか見捨てるに決まっている。

 今回はそんな大層な心構えじゃないけど。


「お金のためかな」

「……は?」

「このクエストって結構報酬がいいのよ。だから、そのためにお前たちを殺す」

「で、でで、でしたら! もうすぐ我が同胞が軍を率いて近くの町を攻め滅ぼします! ゾンビによる先制攻撃計画は失敗しましたが、貴女様がいてくださればあの町の富はすべて――」


 双剣を凪いだ。

 風の刃が一直線に飛び、ルーヴェルの首を綺麗な横一文字で切り落とした。

 驚愕の表情を浮かべた後に倒れるルーヴェルの体から血が噴水のように噴き出す。

 魔人二体、討伐完了。

 でも、どうやらまだ終われないみたいね。


「魔王軍が来ているのね。近くの町……絶対にバネルサじゃない」


 なんで家を買ってすぐにそれを壊されないといけないのか。

 それに、あの町は私にとって理想的な環境。それを脅かされるとあってはたまったものじゃない。

 クエストはもう終わりだけど、魔王軍を撃退したら追加報酬とかもらえたりしないだろうか。

 きっともらえるよね。弱い魔物しかいなかったとか適当に嘘をつけば、私の実力もバレることなく目的を達成できて万々歳な結果になるんじゃない?


「よーし! あと少し頑張りますか!」


 次の相手は魔王軍。

 私が率いていた魔王軍よりも確実に弱い敵だ。負けることのない勝ち戦に向かうとしましょう。

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