第13話 森の異変を調査します

 クエストを受けて、件の森にやって来ました。

 でも、楽勝だと思っていた私の認識は最初の一歩で崩壊する。

 森に足を踏み入れた途端、空気が変わってどこか懐かしい雰囲気を感じ取っていた。


「犯人はジェネラルじゃなかったか~」


 てっきりあいつだと思っていたのに。というかそれだと楽だったのに。

 私が懐かしいって感じるということは、つまりこの異変を起こしているのは――、


「魔人か~。面倒なのが出てきたな~」


 これは魔王軍時代のあの感覚。人間とは違う魔族独特の気配だ。

 既に視線を感じる。わずかに魔力も含まれているから、きっと監視系の魔法を使って見られているんだろう。

 まぁ、仕掛けるなら仕掛けてこいって話よ。返り討ちにしてやる。

 仕掛けてこないのは機を窺っているからか、それとも私の闇の魔力に気づいているからか、それとも別の狙いがあるのか。

 分からないけど、来ないなら来ないで私の自由にさせてもらおう。

 視線に気づかないふりをしつつ、慎重に地面の痕跡を探す。

 と、見つけた見つけた。


(足跡複数。杜撰な……いや、あえて隠してないのね)


 足跡を見つけた冒険者を罠にかけるためか。

 魔人の狙いに気づかないふりをして足跡を追う。聞かれたくない言葉は思うだけに留める。

 しばらく進むと、前方に洞窟が見えてきた。同時に近くの木に血痕のようなものが確認できる。

 すると、呻き声のような音が聞こえ、土を踏みしめる音まで一緒に聞こえてきた。


(なーるほど。ここで仕掛けてくると。にしても……)


 洞窟から現れた人影を見て、つい苦い顔をしてしまう。


(第八階級魔法【クリエイト・アンデッド】かしら? まさか行方不明になった人をゾンビにしているとは)


 老若男女複数の腐った人間がゆっくりとした動きで歩いてくるのが見えた。

 服装や装備品は、すべてギルドで聞いた行方不明になった人と特徴が同じ。つまり、全員が殺されてアンデッドにされていたというわけね。

 ……あれ?


「一人足りない……」


 聞いていた人数と合わない。勝手な予想だけど、服装を見るに商会の娘さんがいないようだけど……。

 もしかしたらどこかで生き延びている? だとしたらこの森にいる魔人って結構なポンコツか間抜けか雑魚か。どれでしょうね。


「まぁ、いっか。今はこの人たちをどうにか、ね」


 元冒険者のゾンビが弓を撃ってくる。

 ゾンビになって筋力の枷が外れているのか、かなりの速度だ。効かないんだけどね。

 腕を凪ぎ、空気圧で矢をへし折る。


「私は神聖魔法は使えない。だから……ごめんね」


 目を閉じて謝る。

 アンデッドには火炎系統以外の基本魔法が効きにくい。だから、アンデッドが相手の場合は火炎魔法で焼き払うか、ゴーストのようなタイプだと神聖魔法の一つで第四階級魔法の【ターン・アンデッド】で浄化してやるのが常だ。

 でも、魔王は闇の魔力の影響で神聖魔法が使えない。

 だからといってこんなところで火炎魔法も使えない。ならどうするか。

 あまりにも外道な方法だけど、これしかない。

 ゾンビたちに左手を向け、顔を背ける。


「永久の闇へと沈め。“フォール・オブ・ゲヘナ”」


 魔法が発動し、ゾンビたちの足元に巨大な漆黒の空洞が現れる。

 第十一階級魔法の【フォール・オブ・ゲヘナ】。アンデッドのみを対象とした闇の魔法で、効果範囲内にいるすべてのアンデッドを無限の苦しみが伴う暗黒空間に幽閉するというあまりにも冒涜的な魔法。

 噂では光の神々にも位というものがあり、高位の神々によって許されたと判断される者のみが暗黒空間から抜け出せて、正常な円環の流れに戻ることができるとされている。一度発動させてしまえばこちらではどうすることもできない。

 この世界の神々が彼らに気づいてくれることを祈りつつ、すべてのゾンビを一掃した。


『なッ!?』


 おいおい魔人さんよ。声が漏れてんぞ~。

 慌てたような息づかいと共に再び声が聞こえなくなった。

 さて、と。私は遺留品の捜索と、商会の娘さんを探すとしようかな。

 怪しいのは洞窟だよね。どっちか見つかるといいんだけど。


「“ファイアトーチ”」


 指先に炎を灯し、灯りにして奥へと進んでいく。

 洞窟の半ばまで進んだ頃だろうか。

 小さな横道を見つけ、その奥からかすかに音が聞こえる。


「誰……?」


 若い女の子の声だった。

 そちらに灯りを向け、奥まで照らすと泥だらけの少女の姿が見える。

 ボロボロの姿で分かりにくいけど、でも特徴からすぐに商会の娘さんだと分かった。

 虫を食べて生き延びていたのかな。口周りに緑の体液が付着していて、髪も歯も泥水で汚れていた。


「お姉さん……あれ……ゾンビは……?」

「全部倒したよ。貴女は無事?」

「倒した、の? あれ全部?」


 少女が驚きに目を見開いていた。

 うん、私そんなに弱そうに見えるかな。少し傷つく。

 というか、この子そういえば……。


「ッ!」


 疑問を思い浮かべた瞬間、闇の魔力が周囲で膨れ上がった。

 ゾンビを倒したから、森の魔人を怒らせちゃったかな。


「森を抜けたら一人で町まで帰れる?」

「え? あ、はい」

「そっ。なら、転移で飛ばすから逃げてね!」


 早口で呪文を唱えて少女を転移魔法で森の外まで飛ばした。

 これでクエストのクリアは達成だ。あとはこいつを、いや、こいつらをぶちのめす。


「さーて。あなたは何者?」

「それはこちらのセリフだ! 貴様、まさか勇者か!?」

「否定。こいつは勇者じゃない」


 洞窟の入口側から現れた二人の人物。

 角が生えた男と、尻尾の生えた女。

 どちらも紛う事なき魔人の特徴だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る