第12話 初めてのクエスト
家を買い、家具も揃えた翌日。
私は一人で冒険者ギルドにやって来ていた。
今日から冒険者として一緒にクエストを受けようと思っていたのだけど、あいにくどうしても外せない用事があるとかでアイリスとヴェイルはいない。
二人とギルドの補助があったとはいえ、もらったお金を昨日の買い物でごっそりと失ったから生活のためには稼がないと。
なるべく大金を稼げるクエストがあればいいな。
と、そんな風に考えながら掲示板を見ていると、気になるものを見つけてしまった。
「これは……?」
人捜しの依頼みたいだ。
降魔の森に近いけど、ぎりぎり範囲が被ってない中規模の安全とされる森で最近行方不明になる冒険者や町の人が増えている、と。
依頼人は、娘が行方不明になった東商会の会長さん。報酬もかなり気前がいい。
娘のためならいくらでも出すといったところだろうね。
ただ、安全な森での人捜しなのにどうして誰も受けないかと言うと、これ見たら分かるんだけどクエスト失敗の判が四つくらい押されている。
本人を見つけなくても、もし行方不明になっていた人が亡くなっていたら遺留品を持ち帰るだけでも成功になるこのクエストで四回の失敗。
それはつまり、受けた四チームは帰ってこなかったということじゃないんだろうか。
なんだかきな臭い。けれど。
「これ放置すると絶対にアイリスたちが受けに行っちゃうよね……」
もし、何か異変が起きているとしたらアイリスたちを巻き込みたくない。
正直人間がどうなろうとあまり興味がないって思う自分もいるけど、アイリスもヴェイルも私を助けてくれた恩人だもの。
二人が危険なことをする前に調査しておかないと。
掲示板から紙を剥がし、受付に持っていく。
「すみません。このクエストの詳細を教えてください」
「あぁはいこれ……は!? 本当にこれを受けるんですか!? かなりの高レベル冒険者が失敗したクエストですよ!?」
あぁ、そんなにヤバいんだこれ。
まぁでも、私なら全然問題になんてならないし、報酬に目がくらんでるから多少の危険も目をつぶることを伝える。
受付のお姉さんは、しばらく私と紙を交互に見比べていたけど、やがて大きくため息を吐いて分厚い資料をカウンター下から取り出した。
「始まりは三週間ほど前のことです。どうやら農家の男性が森に行って行方不明になったのが最初みたいですね。で、次にその男性を探しに行ったご両親が。そして依頼人である東商会の会長さんの娘さんが行方不明になり、ようやく事態が発覚したのです」
「一般の人が少なくとも四人、消えていると。冒険者は?」
「最初に単独で向かった方が一人。次に三人パーティーの方々が。そして二人パーティー、三人パーティーの方々と続いて誰も戻ってきませんでした」
「結構被害が大きくなっちゃってますね……」
「はい。ですので、ギルドとしては何か強大な魔物に襲われたのではないかと考えております」
その線は高い。疑問は、魔物がその森に留まり続けているというところだけど。
魔物であれば一つところに留まるなんてドラゴンのような最上位種かそれに準ずる特別種くらいしかあり得ないだろうし、そんな奴が出れば大気中の魔力の淀みでアイリスくらいの実力者なら気づかないはずがない。
だから……あぁいや待った。まさかもう解決しているなんてことないよね?
(まさかと思うけど……犯人ってあのジェネラルウルフじゃないわよね?)
初日にぶっ飛ばしちゃったあいつ。
あいつもまぁまぁ強かったし、徘徊ルートにこの森と最初の遭遇地点が被っていただけ……とか?
だとしたら後は行方不明者の亡骸か、もしくは奇跡的に生存していたらその場所を探し出して保護するだけ。
よしこれだ。稼がせてもらおう。
「行ってきます。任せてください」
「え? あの……アイリスさんたちと一緒じゃなくて大丈夫ですか? もしメランコリーさんに何かあれば当ギルドが辺境伯様から睨まれそうなんですけど……」
「大丈夫ですって! 私こう見えて強いので!」
目立たないようにするという誓いはどこへやら。自分から強さをひけらかしちゃってるし。
でも、そう言わないと安心してもらえそうにないから仕方ない。
こちとらレベル100オーバーだぞ。負けるわけなかろう。
「そういうことなら……ですが、くれぐれも気をつけてくださいね」
クエストを受諾し、冒険者ギルドを後にする。
目指すは不穏な森。多分楽勝なクエストになるだろうけど、一応気をつけていきましょうか。
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