第11話 商業ギルドで不動産
ヴェイルの紹介でやって来たのは、冒険者ギルドからちょっと離れた所にある似たような外観の建物。
どうやらここは商業ギルドという、商人たちのギルドみたいだ。
こちらの世界では土地や家屋なんかの不動産売買はすべて商業ギルドが行うらしく、家が欲しければここだと。
ヴェイルが扉を開け、アイリスと並んで中に入ると、若い女性の受付が話しかけてきた。
「商業ギルドへようこそ! アイリス様、ヴェイル様。領主様よりお話は伺っておりますのでどうぞこちらに!」
にこやか笑顔で奥に通された。
明らかに来客用のちょっと豪華な部屋で待たせてもらっていると、少しして腰の曲がったおばあちゃんが杖をつきながら入ってくる。
「あたしゃ商業ギルドギルドマスターのローバさ。老婆じゃないよローバだよ」
「あ、はい」
「なんだいノリが悪いねぇ。ババァジョークは嫌いかい」
反応に困って微妙な返事をしたら、ローバさんにも苦笑いされてしまった。
どう返すのが正解だったのだろう。
もう少しこっちの世界の会話というのを学ばないといけないかなと思っていたら、ローバさんがゆっくり椅子に腰を下ろす。
「さて。嬢ちゃんが家を探しているんだってね」
「あ、そうなんです!」
「エドフォンの小僧から話は聞いてるよ。まぁちょいと待ってな」
ヴェイルのお父さんを、仮にも子爵なのに小僧呼ばわりなんて、一体この人はいくつなんだろう。もしや相当に偉い?
ローバさんに得体の知れなさを感じていると、私たちの前に複数の紙が置かれる。
「あたしがおすすめするのはここらかね。この四つならいい感じの物件だと思うよ」
「見せてもらいますね」
真っ先にアイリスが紙を手に取った。
「最安値物件がこれ……かなり安いですね。理由が?」
「ギリッギリ町から離れているからね。それも降魔の森に近いから、万が一魔物に襲われるかもしれないし町まで買い物に出かけるのがとても不便なんじゃ」
それは確かにお安くしないと売れない。というか安くしても売れる?
きっと私たちみたいにある程度強い人しか買わないだろうね。
「町の中心地にあるこの二つは……」
「市場に近い方が、縦に長くて階段が急、さらに部屋が全体的に狭い。冒険者にはあんまりおすすめできん」
「換金しないで取っておくアイテムとかも多いですから」
それは言える。
私は亜空間があるから気にならないけど、確かに魔王軍にもコレクションとしていろんなものを部屋に飾っている魔族も多くいた。人間も貴重なものがあれば置いておきたくなるだろうし、それらを保管する部屋は必要だね。
「もう一つのギルドに近い方は、ずいぶん傷んでいてね。町ができるよりも前に完成した建物がまだ残っているのさ」
老朽化がすごい!
この町がいつ頃できたのかは知らないけど、そんな古くにできたものなんて絶対にすぐ壊れるじゃん!
これもまた魔王軍の話なんだけど、築城から数百年以上経った砦に籠城した部隊がいたのね。で、接近してくる人類軍に儀式魔法を使ったら、その反動衝撃に砦が耐えられずに崩落したって事件もあったのよね……。
丈夫に作っている砦でも老朽化したら簡単な衝撃で崩れるのに、屋敷になるとほんの少しのきっかけで木っ端微塵よ。
「最後のこれは……いいんじゃないですか?」
「そうじゃろう? ぶっちゃけ、これ以外は売るつもりはない」
おい。
「市場からもギルドからもほどよい距離。町の端にあるけど不便じゃない。近くには自然で遊べるところも多く、畑付きでこのお値段。どうかなメランコリー」
「いいと思う。気に入った」
アイリスから見せてもらった外観図やその他の情報で、私もここが気に入った。
どことなくかつての魔王城の一部に似ているというのもポイントが高い。あれで案外見た目が気に入っていたんだなと改めての発見だ。
お値段も全然私の手持ちで買える額。いいね!
「家具なんかも必要じゃろう? 大まかな予算は小僧から聞いておる。全部屋オススメセットで揃えて嬢ちゃんの手持ち同額でどうじゃ?」
手持ちすべてか……ちょっとそれはどうだろう。
こちらの世界での家具の物価とかイマイチだし、もっといい条件が他にあったりは……。
「破格だよ! 私たちも出すから全財産飛ぶことはないし、いいと思う!」
食い気味にアイリスがオススメしてくる。
でも、そこまで言うのならここがいい場所なんだと思うな。
よし、じゃあここで決めますか。
「ここにします!」
「毎度! これが契約書と鍵だよ」
こうなることが分かっていたとばかりにローバさんが契約書と鍵を渡してくる。
契約書にサインして、お金を払って鍵を三つ受け取った。それらをアイリスとヴェイルとで分け合う。
さてさて、こちらの世界にきてから何もかもが順調だぞ。
無事に生活拠点の家も手に入れて、私は満足です。
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