第10話 装備を買った!
アイリスとヴェイルに連れられ、武具屋にやって来ましたよ。
店の中に入ると、奥のカウンターで椅子に座った小さな男性が居眠りをしているのが見える。
小柄でどっしりとした体格。カウンターの上に置かれた酒樽。立派な髭。鍛冶職人らしき服装。
誰がどう見てもドワーフ族だねこの人は。
元の世界だとドワーフ族は絶滅してしまったから、こうして本物のドワーフを見るのってなんというか特別感を感じるんだよね。絶滅の原因は魔王軍なんだけど。
いや待ってほしい。これも私が悪いんじゃなくて部下のせいなんだ。
まさかドワーフとエルフの仲が険悪だなんて思わないじゃんか。実際にドワーフの国を攻め滅ぼしたのは幹部の一人でダークエルフの女だけど。
この世界ではドワーフもエルフも仲良くしていると信じたいし、余計なトラブルを避けるなら確証が得られるまでは両者を近づけさせないようにするのが賢いかな。
なんて考えていたら、ヴェイルがいきなりカウンターを力いっぱい蹴りつけた。
ガツン、という音が響いて男性が飛び跳ねるように目を覚ます。
「なんじゃなんじゃ! 敵襲か!?」
「敵じゃなくてお客さんです。接客してくださいモロノフさん」
もしかして、ヴェイルって案外物事を荒事で解決するタイプなのかな? 全然イメージなかった。
そんなヴェイルに叩き起こされたドワーフの男性は、ため息を吐いてお酒を口に運ぶ。
「なんじゃお主らかい。で、なんじゃい? アイリスの嬢ちゃんが武器でもぶっ壊したか」
「私そんな荒々しい使い方しないけど!?」
「メタルゴーレムに剣を投げて先っちょ欠けたのもう忘れたのか? あんなバカな使い方するとは思わなんだ」
「ごめんなさい……」
アイリスそんなことしてたんだ。
「……ん? 初めて見る顔だが、その子は?」
「あ、初めまして。私はメランコリーといいます!」
自己紹介をして頭を下げると、ドワーフの男性が髭を擦りながら近付いてきた。
「ワシはこの店の店主、モロノフじゃ。よろしくな、メランコリーの嬢ちゃん」
「はい。よろしくお願いします!」
「モロノフさんは町一番の職人なんだよ! でね、今日はメランコリーの武具を揃えに来たんだ」
アイリスがそう言うと、モロノフさんは私のことを観察するように周囲を一周回り始める。
鋭い視線がちょーっと気になるけど、何をしているのだろうか。
と、思っていたら、モロノフさんが頷きながら私から離れていく。
「えっと……?」
「メランコリーは魔法使いだから、必要なのはローブか軽鎧か、あとは短剣辺りになるのかな?」
「アイリスの嬢ちゃん、まだまだじゃの。お前さん、本当に魔法使いか? お前さんのメインウェポンは双剣じゃろうに」
え、すごい。ちょっと見ただけで分かるもんなんだ。
「それに、防具も必要ないように思うがな。まぁ一応軽鎧で使えそうなのを見繕ってみるが……」
闇を張り巡らせることで防御を万全にしていたのも一瞬で見抜かれた。
さすがに手段までは分からないみたいだけど、ただ者じゃないねこの人。
「確かに、魔法は便利だから使ってますけど双剣で切り込むのが一番得意ですかね」
戦ったことなんてほとんどないしその数少ない戦闘も大体魔法で片付けたから魔法使いの方が多分正しいんだろうけど。
「すごいねモロノフさん。どうして分かったの?」
「嬢ちゃんの立ち方を見てみろ。右足が無意識のうちに前へ出ている。双剣使いによくありがちな姿勢じゃ。それに、すぐ攻撃に移れそうな癖して防御はスッカスカ。ド素人か防具に頼らない防御手段を持っているかの二択だと考えられるから、アイリスの嬢ちゃんたちと一緒ならド素人はありえない。なら、防具を必要としない防御手段があるんじゃろ」
全部正解だよほんと何者なのこの人。
常闇の使徒が一回だけ助言してきた内容とほとんど同じ。元の世界でこの人が敵にいたら割とマジで危なかったかもしれない。
軽い恐怖を感じていると、モロノフさんは私たちに背中を向けたまま聞いてきた。
「で、予算は?」
「あー、あんまり考えてないです」
「かなり出せますけど、わざと高いもの売りつけないでくださいね」
「どつくぞヴェイルの嬢ちゃんよぉ。ワシを何だと思っとるんじゃ。出せる金額の中で一番良さそうなものを探してるだけじゃわい」
怒ったような、呆れたような声音で言われてしまった。ヴェイルがしゅん、としている。
しばらく考えながら店内を歩いたモロノフさんは、店の奥に引っ込んで武具一式を持って来た。
どこにでもあるような革の鎧と、赤茶色の薄い輝きを発する見事な双剣を持ってきた。
「ワシからオススメするのはこれじゃな。防具は初心者向けの革鎧でいいとして、双剣の方はオリハルコンで打ったワシ自慢の逸品じゃ。特別に売ってやる」
「オリハルコン? ほらやっぱり高いの売りつけるじゃないですか」
「待ってヴェイル。もしかして……」
「アイリスの嬢ちゃんは気づいたか? メランコリーの嬢ちゃん。お代はいいからそこの鉄の剣を持って振ってみな」
あ、この人言葉は悪いけど化け物だ。一瞬でそういうのにも気づく……あぁいやアイリスも気づいたみたいだから、もしかしたらこの世界でも一般的なのかも。
言われたとおり、鉄の剣を持って力を入れると、剣は一瞬光って粉々に砕けてしまった。
「え……」
「鉄や鋼程度じゃ嬢ちゃんが発する魔力に耐えられん。オリハルコンやミスリルのような特別な金属じゃないとすぐ木っ端微塵じゃ」
「そういうこと。だから、オリハルコンを最初に持ってきてもらってすごく助かります」
「ワシをあまり見くびるでないぞ。これくらい見抜けなければ武具屋なんてやれんわ」
「それを見抜けない人がほとんどだと思うんだけどなー……」
「勉強不足でした」
ヴェイルが落ち込んじゃったけど、普通は分からないはずだって。
とりあえず、お金を払って武具を受け取り、店の端を借りて装備させてもらう。
オリハルコン製なだけあってしっかりした額が飛んでいったけど、まぁいいや。
モロノフさんにお礼を言って店から出た。
さて、と。次は拠点の見積もりかな。
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