第9話 生活基盤を整えに

 あったまいてぇ~。

 調子に乗って飲み過ぎた私は、無事に二日酔いの状態で目を覚ましました。

 ガンガンと痛みが響く頭を押さえながら上体を起こすと、窓から差し込む光に目を灼かれる。


「あぅ」

「ふふっ、最強の冒険者とは思えない可愛らしい声ね」


 聞き覚えのある声が聞こえてそちらへと顔を向ける。

 と、そこにいた椅子に腰掛けてこちらを見ているセレスティアナさんと目が合った。


「おはようメランコリーちゃん。気分はどう?」

「めっちゃ頭痛いです……ここは?」

「ここは冒険者ギルドの私の部屋。あなた、昨日飲み過ぎで倒れて私の所に担ぎ込まれたのよ。アイリスちゃんがとても慌てていたのには少し笑っちゃったけど」

「うぅ……面目ない」


 まさか魔王である私が二日酔いでぶっ倒れることになろうとは。

 おかしいぞ。私には毒物や劇物、あらゆる呪いにも通じる完全耐性があるはずなのに。

 今まで潰れるほど飲んだことはなかったから分からなかったけど、まさかアルコールはこの耐性で防ぐことができないとでも言うの……!?

 完全耐性があるから飲みまくったのに……今度から自重しよう。


「気をつけてね? 一応、ギルドには飲み過ぎで倒れた人用に回復魔法による看病付きの緊急宿泊部屋もあるけれど、ここは一泊金貨五枚を徴収するから」

「えと……この国の貨幣価値とか詳しくないんですけど、それってお高いんですか?」

「銅貨百枚で銀貨一枚。銀貨十枚で金貨一枚よ。そして、ここらの宿なら平均で一泊銅貨四十枚ってところかしら?」

「Oh……」


 単純に百倍以上のお値段。もう二度と潰れるまで飲むのはやめよう……。


「今回はアイリスちゃんを助けてくれたことだし、私の部屋ということで無償でいいけど……次からは気をつけてね」

「肝に銘じます……」


 ぺこぺこと頭を下げてから、何度もお礼を言って部屋を後にした。

 異世界初日から何という醜態を晒してしまったのか。

 てか、二日酔いで倒れる魔王なんて過去にも未来にもどの世界にも私くらいのものだろう。ああ恥ずかしい恥ずかしい。

 もう顔を真っ赤にして一階部分に降りていくと、待合ベンチに座っているアイリスとヴェイルが見えた。

 アイリスは私のことを見ると素早く駆けてくる。


「メランコリー大丈夫!? 昨日はゲロ吐いて倒れちゃったんだけど!」

「心配かけてごめん、大丈夫だよ。あと、アイリスは可愛いんだから言葉遣い気をつけた方がいいと思う」


 超絶美少女の口からゲロなんて言葉が出てくるなんて嫌だ。私は実物を出しちゃったらしいけど。

 とりあえず心配してくれたことにお礼を伝えると、二人とも胸をなで下ろして安心したようだった。


「さーて! じゃあ早速クエストを……」

「もう朝の十時過ぎなので、残っているのはろくでもないものか誰もやりたがらないクエストだけでしょう」


 なんてこった。

 こういうクエスト類も早い者勝ちなのか。こんな時間まで寝ていたら稼ぐことはできない、と。


「その分報酬は高かったり、報酬も危険も知名度も低かったりするものが残っていると思いますね」

「私たちはそういうクエストの中で難しいものを選んで受けているんだけどね。でも、今日はクエストじゃないよ」

「そうなの?」


 てっきりクエストを受けて初めての冒険デビューになるものとばかり。


「今日はいろいろと買い物に行こうと思ってね。メランコリーは家が欲しいって言ってたし、武器も持ってないでしょ?」

「魔法使いでも短剣なんかは護身用に持っていた方が便利ですから」

「武器なら……」


 持っている、と言いかけて亜空間に収納しているものを思い出す。

 私が一番よく使っている、魔双剣ディザスエデン。邪神が落としていったこの武器は、使い手によっては神の世界を焼くだけの力を秘めているとかなんとか。

 実際、次元移動魔法は成功させるだけの魔力とこの世界と他の世界を隔てる次元の壁を斬り裂かなければ成功しないのに、この武器ならあっさりとその壁を破っちゃったからね。

 あまりにも強力すぎるから却下。

 他には……魔剣アールカーン。空間そのものを斬り裂いてあらゆる防御を無視する斬撃を放つ結構ヤバい武器。

 それに、魔刀サクリファイス。傷を付けた相手の血をその者が死ぬまで吸い取り続け、その血を使って自身を回復させるという一度でも傷を付けられたら死が確定する武器。

 どっちも強力すぎてこの世界で使うのはあまりにも危険すぎる。

 私、まともな武器を持っていないぞ……。


「……武器、買いに行きたいです」

「決まりだね! あと、防具も一緒に買っておかないと!」

「お金なら心配ありません。土地も家もお父さんに話したら安く済むよう取り計らってくれましたし、私たちの家なのですから私たちも当然出しますしギルドから補助金も出ます。家具なんかも知り合いの店なら融通してくれるのでまずはメランコリーの装備一式を揃えましょう」


 パーティーを組んだから同居は確定なんだね。私は歓迎なんだけど、アイリスみたいな美少女と一緒の家とか心臓耐えれるかな……。

 体は闇の衣を纏えば勇者の聖剣とかじゃない限り大抵の攻撃を無効化かほとんど威力を減衰させることができるんだけど……それを言っちゃうのは野暮だしなんか違う気がする。

 さて、じゃあ今日は私の異世界ライフを充実させるための一日としましょうか。

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