第8話 仲間との酒盛り

 アイリスたちは依頼の報告があるみたいで、私は先にお暇しようかとも思ったんだけど、下の酒場で待っててと言われたからおとなしく席に着いている。

 いやー、それにしてもいろんなメニューがあるね。お酒も充実してて素晴らしいっ。

 海が遠いからかそれとも輸送法が元の世界と比べて劣っているからかは分からないけど、魚料理はなくて肉料理がメイン。でも今は肉料理の方がありがたい。

 不自由がないよう常に【トランス・ランゲージ】を発動している状態だから、正直に言って魔力の消費量がすごいことになっている。

 魔力総量も自然回復量も自信はあるけど、現状ギリギリ回復量が上回っているような状態だから、他に魔法を併用するといつかは魔力切れを起こしてしまう。

 それを防ぐために食物による経口回復が必要になるからね。

 魔力を回復するために必要な栄養素は動物性タンパク質の中に、それも陸上の動物肉に多く含まれている。

 だからこそ手っ取り早く魔力を回復させたければお肉をたくさん食べるといいんだよね。


「すみませーん! 子羊のシチューと鹿のステーキ、あとシーザーサラダにミードの水割りで!」

「はーい!」


 ウェイトレスさんに注文を伝えて料理を待つ。

 今の私は大量の金貨でほっくほくの状態だからね。美味しい料理をたくさん食べても問題ないのだ。

 家と家財道具の購入資金が少し足りなくなったとしても、そこは依頼を受けて……もう冒険者だしクエストって言うか。

 とにかくクエストを受ければいいから遠慮なく飲み食いできる。


「お待たせしました~! お先にこちら、ミードの水割りでーす!」


 琥珀色をしたお酒が目の前にドンと置かれた。

 待ってましたよミード! お酒と言えばこれってくらい私が好きなやつ!

 魔族はワインとかエールとかを好んで飲んでいたけど、どうも私はあれらの渋みとか苦味が口に合わなかったんだよね。

 で、幹部の一人が滅ぼした人間の国で作られていたこのミードを口にして以来、もうすっかりこの甘味とすっきりした味わいの虜になっちゃった。

 早速グラスを手にして一気に喉へと流し込む。

 口の中いっぱいに広がる濃密な蜂蜜の香り。そして、さらりと甘さを残して喉の奥へと流れていく素敵な味わい。

 こっちの世界でもミードが飲めるだなんて……私もう感激!


「お待たせメランコリー! って、泣いてる?」

「どうしたんですか?」

「感動の涙だよ……!」


 泣きながらミードを楽しんでいると、注文した料理が運ばれてきた。

 鹿のステーキはまだ作ってるみたいだけど、それ以外が目の前に並べられる。


「あ、私はエールとロースチキンで。ヴェイルは?」

「私も同じものを」


 二人もそれぞれの注文を伝えていた。

 そして、私がシチューに入っていた子羊肉を堪能していると、アイリスがぐいっと前のめりになって顔を近づけてくる。


「それでねメランコリー。いきなりで悪いんだけど、相談いいかな?」

「相談? いいよ」


 ドレッシングがかかったサラダを食べながら返事をする。あ、これ美味しい。


「ありがと。それでね、もしよかったらなんだけど私たちとパーティーを組んでくれないかな?」

「パーティー? それを組むと何かメリットあるの?」

「パーティー専用クエストというものを受けられるようになったり、生活拠点が同じだとギルドから特別支援金が支給されたりするんです。もちろん、クエスト達成報酬は山分けになるので配分に不服があるなら後でメンバー間での話し合いにはなるのですが」


 パーティーについてヴェイルが丁寧に説明をしてくれた。

 なるほどなるほど。私にとってかなりメリットがあるお話じゃあありませんか。


「私たちの実力がメランコリーに届いていないのは分かってる。でも、私はあなたの強さを近くで実感してもっと強くなりたいの!」

「私からもお願いします! どうか仲間になってほしいんです!」

「うん、いいよ~」


 ミードを飲みながら軽く返事をした。

 二人とも少し驚いた表情になっているのが面白いかも。さては断られると思っていたな?


「私としても断る理由なんてないし、改めてよろしくね。アイリスにヴェイル」

「っ! ありがとうメランコリー!」

「ありがとうございます!」

「じゃあ、私たちのパーティー結成を記念して祝宴だ! 今日は私が払うから二人ともじゃんじゃん食べていいよ!」

「マジ!? すみませーん! 子羊のシチュー特盛りとミード水割りでおかわり! あと黒パンにキッシュに骨付き肉の丸焼き追加でー!」

「メランコリーって実は大食い?」


 そうなのだ!

 以前、ジャイアント族五人分の料理を美味しく完食したらジャイアント族にドン引きされたからね。

 あれは今でも解せない。なぜなのだ。


「お待たせしました~!」


 ウェイトレスさんたち数人が料理とお酒を持ってきた。

 私たちの机が一気に華やかになる。


「じゃあ!」

「うん!」

「はい!」


 三人でグラスを持って、机の上でぶつけ合った。


「「「かんぱーい!!」」」

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