第7話 一波乱ありました

 扉の前で駄々をこねてみるも、アイリスとヴェイルによって強制的にギルドへと連れ込まれてしまった。

 ギルド内はちょうど、依頼を達成して帰ってきた冒険者が多いのか適度に盛り上がっている。併設された酒場ではジョッキを片手に騒ぐ人がたくさんいて、ウェイトレスさんたちが両手に料理の皿を持って右往左往している。

 窓口にも冒険者が列を作っていて、あれはきっと報告と報酬の受け取りをしているんだと思うな。


「すごいでしょ。バネルサの冒険者ギルドは辺境だけど大樹海が近いから稼げるスポットとして人も多いんだよ」


 なんてアイリスが言っているけど、今回に関しては非常に迷惑。できることなら私のレベルを知る人間の数を減らしておきたかったから、全員どっか行ってくれないかな?


「ほら、こっちこっち!」

「この時間は新規登録も少ないですし、早く済ませてしまいましょう」


 二人に連れられ、暇そうなお姉さんが座っている窓口の前へと歩いて行く。


「あ、ようこそ冒険者ギルドへ! アイリス様のお知り合いですか?」

「そうなんだ。ギルマス呼んでくれる? 登録のことで話したいこともあるし、ついでに依頼の報告もあるから」

「分かりました!」


 分からなくて結構です!

 なんでギルドマスター呼んじゃうかな!? やめて私のライフはもうゼロよ……。

 お姉さんはすぐに上の階へと駆け上がっていって、それからすぐに若い女性を連れて戻ってきた。

 魔法使いのようなローブに身を包み、スリット加工で大胆に足を露出させた大人の雰囲気が漂う女性。年齢を感じさせる気配だけど見た目は二十代くらいだから、実年齢は三十は迎えてないと思うな。紫の髪も綺麗だし。

 でも、若いのに感じる魔力は相当ある。レベルにして30前後かもう少し低いか、ってところだと予想する。


「お帰りなさいアイリスちゃんにヴェイルちゃん。それで……その子が冒険者登録で何か訳ありの子?」

「そうなんですよ。別室で登録作業できますか?」

「用意するわ。さ、こっちに来てね」


 奥の部屋に通されるらしい。

 二人が先にカウンターの奥に入っていったから、今ならもしかすると逃げることができるかも。

 けど、逃げたら逃げたで面倒な事になりそうだし……水晶に触れてレベルを映すなら、ワンチャン魔力量を測定してレベルを予想している説もあるか。

 なら、流す魔力を抑えれば誤魔化すことができるかも。

 よし、そうだと信じよう。


「メランコリー? こっちだよー」


 アイリスが手招きしている。

 こうなりゃかかってこいだ。絶対に実力は誤魔化してみせるぞ!


◆◆◆◆◆


「アイリスちゃんが苦戦するほどの魔物……!? それをこの子が簡単に倒したって……!? にわかには信じられないわね……」


 受付のお姉さんが水晶を用意している間、ギルマスの女性がアイリスの報告を聞いて驚いていた。

 私は用紙に必要事項を記入しながら、おかしなことを言われないかと隣の会話に耳を傾ける。


「でも、本当なんですよ。メランコリーの実力は私が保証します」

「レベルにして40とかいってても私は驚かないですね」


 やめてよヴェイルなんでそんなにハードル上げるの!

 ほら! ギルマスが期待の目で私を見てるじゃん!


「それはそれは楽しみね。さて、そろそろ書けたかしら?」

「あぁはいどうぞ」


 書き終わった用紙をギルマスに渡すと、簡単に確認した彼女は次に水晶を用意しているお姉さんに視線を移した。


「測定の水晶はどう?」

「準備できてますよ」


 その言葉にギルマスは頷いて、私に触れるように促してくる。

 さぁ、運命の時だ。今後の私の命運を分ける緊張の瞬間だぞ。

 大丈夫、魔力の操作は完璧。

 ほどよく弱い魔力を流して、アイリスより少し強めくらいを狙って……。


――ビキッ


 嫌な音が聞こえた。

 思わず固まった笑顔で水晶をそーっと見下ろすと、それはもう立派な亀裂が生じている。

 うん、終わった。


「水晶が割れた……!?」

「しかもこんなに黒く染まる事なんてありましたか?」

「私が知る限りはないわね。これは一体……」


 お? どうやら水晶が黒く染まるのは闇属性の魔力による影響だとは知られてない?

 もしそうなら首の皮一枚繋がった! ただのレベル100なら殺される心配は……王家とかに危険人物認定されたら殺し屋とか差し向けられそう。返り討ちにするけど。


「レベルはどうなってるの?」

「えっと……それが……」


 受付のお姉さんが困惑している。

 差し出された板状の魔道具を私を含めて全員が確認すると、そこにはかすれた文字で04と表示されていた。


「レベル4……?」

「前に0が付くのもこんなにおかしな表示になっているのもおかしいですし……どうしたというのでしょう?」


 皆が混乱してるけど、ひょっとしてひょっとするとこれはあれじゃなかろうか。

 この魔道具はレベルを二桁までしか測定できなくて、それで私のレベルはいつの間にか104に上がっていてそれで後ろの04だけが表示されたんじゃないだろうか。

 もしそうなら……チャンス! このままレベル4で押し通す!


「あ、案外低いですね~」

「そんなわけないよ! メランコリーはもっと強いよ絶対に!」


 余計なこと言わないでいいんだよアイリス!

 と、ギルマスは顎に手を添えてうーんと唸り……。


「これは、水晶か魔道具が壊れているのかもしれないわね」

「そんなことあり得るんですか?」

「もうこれも古いから。そうね……アイリスちゃんの話を信じて、レベルは34として登録しておきましょうか」


 はいよっしゃセーフ! 34なら特に目立つことはないはずだから一安心だよ。

 冒険者レベルの最高記録を塗り替えちゃったけど、それでも辺境にいるし大した話題にはならないことを信じるよ。


「改めてようこそ冒険者ギルドへ。私はバネルサ支部のギルドマスター、セレスティアナです。これから仲良くしてくださいねメランコリーちゃん」


 ギルマスもといセレスティアナさんが手を差し出してきたから、それに応じて握手を返す。

 どうにか困難は乗り切れた。

 ここさえ乗り切ればもうこっちのもんよ! お金を稼いで優雅にのんびり生活するぞ~。

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