第6話 新天地の冒険者

 冒険者。それは、素材の採集や魔獣魔物の討伐、人々の困り事を解決してお金を稼いでいる何でも屋のようなもの。

 そして、冒険者ギルドというのは人々から依頼を受け付けそれを仕事として冒険者に斡旋する組織。

 大体がこんな感じだと、アイリスから説明を受けた。ほとんど私の世界の冒険者と同じっぽいから、新しく覚える必要がありそうなものは少ないね。

 さて、遅くなったけど一応ここらで魔に属する存在について説明でもしておこうか。ちょうどアイリスも話し始めたから、相違点が見つかるかもしれないし。

 まず、魔獣というのはそこら辺の動植物が何らかの理由で魔力に汚染されて変異した個体だ。ほとんどが凶暴で、普通の動植物より頑丈で攻撃力も高く危険だけど魔法は使えない。

 次に、魔物というのは大気中の魔力が命を得て生き物になった存在。魔法を使えるようになった魔獣のようなもの、というのが少し違うけど近い感じの説明になるのかな。

 で、魔族というのは主に魔人と魔神を総称してまとめられる。ゴブリン族やセイレーン族、ヴァンパイア族のような有名なお話に登場する種族もいるし、デミゴル族みたいに角が生えた人間のような見た目をしている者もいる。大体が人の姿、あるいはそれに近い形状を取ることができて、知能もかなり高い。魔物を意図的に生み出したり使役したりする力を有している種族も時々いるね。

 ここまでが魔人の説明。そして、その上にいる魔神というのはマジでやばい。明確な区別はないけど、種族を支配する長のような存在や種族一の戦士なんかは大体がこの魔神だね。知能も戦闘能力も文字通りの桁違いだ。魔王軍の幹部連中も、いや、その幹部が従えていた軍団長と呼ばれていた魔族たちも全員が魔神だった。

 まぁ、魔神の上に私のような魔王がいるんだけどね。魔王こそが絶対なのだ。

 それが私の世界での魔の存在たちで、アイリスの話を聞くと大体が近いけどかなり違う部分も多かった。

 まず驚いたのが、この世界ではゴブリンは魔人ではなく魔物らしい。他にもオーク族やジャイアント族などの私の世界では魔人だった種族が魔物として扱われているらしく、私の世界のよりも知能が低いっぽい。

 こっちの世界での魔人と言えば、私たちの世界で言うデミゴル族やアイッグ族のような、人間に近いけど人間じゃない者がそうらしい。セイレーン族やヴァンパイア族のような人間と魔物が合わさったような姿の種族は少数派か魔物として見られているって。

 そして、こっちの世界ではどうやら魔神というのはいないみたいだ。それに関しては一安心。

 魔神クラスになると普通に私よりも強くなるから、私が魔王としては弱いだけなんだけどそんなのに襲われると私死んじゃう。【魔の絶対服従】が通用しないのは既に実証済みだし……。

 まぁ、魔神がいないのは単純にレベルが足りないだけなんじゃないかとも思ったのだけど。


「私のレベルが今は27。で、ヴェイルはたしか23だったっけ?」

「そうです。冒険者としてはアイリス様はほとんどトップクラスに強くて、私も結構強い方だと思いますけど、魔人はそれよりも強いですからね……」

「王都にいる最高レベルの冒険者がレベル30。で、魔人の中でもまぁまぁ強い方だって自称する敵といい勝負を繰り広げて勝ったみたいなんだ」

「勇者様が同じ種族の魔人を少々の負傷で倒したみたいです。勇者様のレベルがたしか50なので……魔人はレベル30~45くらい……それよりも格上がいると考えた方がいいでしょうね」


 というのがアイリスとヴェイルに教えてもらったこと。

 感想を先に言うと、弱いなっていうのが本音だった。

 魔人でそのレベルなら逆に心配になってしまうよ。私がよく魔法で作り出す魔物でもレベル50前後が当たり前なのに。

 多分だけどその予想でいくなら魔王のレベルは大体60後半くらいなんじゃないだろうか。軍団長たちは平均レベル92はあったから、私の魔王軍の一部で魔王を倒せるかもしれないんだけど。弱い私でもレベル100はあるのにな。

 というか、アイリスの話を聞いて思うのはあのジェネラルウルフはだいぶ強かったんだなって。アイリスを追い詰めるくらいだからもしかすると、ジェネラルウルフじゃなくてそこからさらに一段階進化したアドミラルウルフだったのかもしれない。

 どっちにしろ、私の命を脅かしそうな存在はいないみたいで安心……


「待って勇者いるの!?」


 そういえば危うく聞き流すところだった! 憎い勇者がこの世界にもいるってか!

 でも、レベルはそれほど高くないようだし、関わりにならなければいいのか……な?

 いやまてそういえば――、


「ですが、こんな場所に魔人なんてそうそう来ないでしょうし心配はないですよ」

「それに、メランコリーは私よりも強いのは確実だから絶対安心だね。冒険者の最高レベルの記録、塗り替えちゃうかも」

「……ちなみになんだけど、レベルってどうやって分かるの?」

「冒険者登録の時に水晶に触れてもらうの。そうしたら連動する魔道具にレベルが表示されるんだ」


 あ、終わったかもしれない。

 途中まで、アイリスよりも強いくらいで目立たないレベル30辺りを自称しようかなって思っていた。他人のレベルなんて第十階級魔法の【レベル・アナライズ】でしか分からないからね。

 でも、こっちだとそんな公開処刑みたいなことされちゃうんだ。

 これマズくない? レベル100だなんてバレたら、勇者が私のこと殺しに来ない?

 水晶って大体その者が持つ魔力属性も映しちゃうんだよね。闇属性のレベル100とか殺さない理由を探す方が難しい。

 返り討ちにするのは多分簡単だけど、でもそうするとアイリスたちと今の関係は続けられなくなるし、一カ所に留まるなんて事が誰にも見つからない秘境の奥でしかできなくなりそうだし……。

 自給自足もいいんだけど、でもやっぱり自然を楽しみつつもお金で楽できるところは楽したい私にとってそんな隠者生活は避けたい。

 どうにか打開策はないものかと必死に頭を回転させる。


「あ、見えてきたよ冒険者ギルド」


 はい、終わりましたー。

 無慈悲にも見えてきた冒険者ギルドの看板に、私は思わず天を仰ぎ見る。

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