第3話 この世界について教えてもらう
道すがら、アイリスとヴェイルはいろんな事を教えてくれた。
この世界には三つの大陸が存在する。
魔王が支配する北の大陸。私たちが今いる西の大陸。多くの人間種や亜人種が共存する東の大陸。
北の大陸と西の大陸は、西大陸の北部三分の一を占める降魔の森という、魔獣や魔物が無数に生息している危険地帯を隔て、細い半島が両者を結んで陸続きになっている。だから必然的にこの西大陸の北寄りにあるここの国家が魔王軍との戦争における最前線になるんだって。
てか、やっぱりこの世界にも魔王がいたよ。異世界から来た魔王ですなんて名乗らなくて良かったと心から思う。
そして、私たちが向かっているのはそんな西大陸の北西の端の方にある中規模の町、辺境都市バネルサ。
世界最大規模の国家であるアルマントン王国領の一部ではあるんだけど、バネルサを含む北西地域にあるいくつかの町を訪れるには険しい地形を乗り越えていかなくてはいけないから、王国は北西地域にはあまり関心がないみたいだった。北西地域を治める辺境伯にかなりの自治権を認め、納税の時以外で関わろうとしないほどに放置されているみたい。あまりパーティーとかにも呼ばれないって。
一応、私たちがさっきまでいた大樹海と呼ばれる大森林では上質なポーションや強力な魔道具を作るために必要な素材がたくさん採れるみたい。でも、西大陸の南側にも同じような素材が大樹海よりも安全に採れる場所があるようだから、わざわざここに固執する理由はない。
魔王軍は大樹海の資源を狙っているみたいな噂もあるみたいだけど、バネルサと降魔の森の間には広い大河が横たわっているからまとまった軍勢を送り込むことができないでいるみたいだね。
とまぁそんな感じの世界に転移してきた訳なんだけど、話を聞く限りはバネルサこそ私が求めた理想郷って感じがするよ。
「いいね、そのバネルサって町」
「気に入ってもらえたのなら私も嬉しいよ。ヴェイルもそうなんじゃない?」
「そうですね。バネルサを気に入るのは変人ばかりと酷いことばかり言われ続けてきましたから……!」
目尻に涙を浮かべておいおいと泣いちゃったよ。
でも、変人ばかりとは失礼な。スローライフを送りたい者にとっては理想の環境なのに。
「あ、見えてきたよ」
アイリスがそう言って前方を指さした。
見えてきたのはのどかな町だった。
元の世界では必ずと言っていいほど存在していた町を守る城壁などというものは存在せず、簡単な関所があるだけ。町中にも緑が溢れて高くて派手な建物は見えず、町を流れる水路の水は透き通る透明感を誇っていた。派手な喧噪はなく、けれど静かではっきりとした営みの雰囲気が遠くからでも感じられる。
大きな建物と言えば二つ並んだお屋敷くらいのもの。他は一般的な大きさの民家や商店がゆったりとしたスペースを確保しつつ建っている。
そして、町の向こう側に広がる白い砂浜、青い海。山と海がすぐ近くにあるなんてなんと素晴らしい自然に恵まれた土地柄なのだろうか。白い羽毛の渡り鳥が遙か彼方へと飛んでいくのが見える。
「あれがバネルサ。私たちが拠点にしている町だよ」
素晴らしい。ぜひとも永住権が欲しいところだよ。
よし決めた。お金稼いでこの町で家を買って静かに暮らす。余生はエルフみたいな暮らしを送るんだ! ……訂正、元の世界のエルフたちは好戦的な奴らが多かったから、絵本の中のエルフたちみたいな暮らしを送るんだ!
「さっ、行こうかメランコリー」
「うん! 案内よろしくお願いします!」
アイリスとヴェイルに先導してもらって、私たちは丘を降りていく。
草の香りをいっぱいに含んだ風が鼻腔を満たす。血の臭いにまみれていた魔王城とは天地ほどの差だよこれ。
しばらく歩いていたら、もう関所が目と鼻の先まで近付いていた。
腕を組んで詰め所の壁にもたれかかっていた兵士さんが私たちに気づく。
「あっ、お帰りなさいませアイリス様。そちらは……?」
「この子はメランコリー。大樹海で危ない目に遭っていたところを助けてもらったんだ」
「大樹海で、ですか?」
うわー、めっちゃ怪しい人を見る目で見られてる。いやまぁ怪しいことに変わりはないんだけどさ。
兵士さんは私の周りをぐるっと一周回ると、フッと吹き出した。
「この町に来るのは訳ありの人ばかりでしたね。いや手間を取らせて申し訳ない」
「あ、いえ、お気になさらず?」
「通してもいいよね?」
「もちろんです。アイリス様と一緒なら通行料も不要ですので」
なんだかよく分からないけど、どうやら町に入ることを許されたっぽい? これは安心していいのかな?
「決まりで町に入るには冒険者証のような身分証の提示か、通行料として銅貨五枚を支払う必要があるんですよ」
ヴェイルの補足説明に納得して頷く。そういえば元の世界でもそんな話があった気がする。
と、思えばさっきの兵士さんとの会話、なんとなく違和感があったような。
少し気になったから戻ってきたアイリスを捕まえる。
「ねぇ。もしかしてアイリスって偉い人?」
「んー、まぁ偉い立場にいるかもしれないかな。でも、さっきの人は多分だけど冒険者としての私を知っているからだと思うよ」
「私たちはこの町ではかなり強いパーティーとして有名ですからね。大樹海であんな醜態晒した後じゃ信じられないかもしれませんが」
「ジェネラルウルフは強いから仕方ない。二人が強いって疑ってないよ」
この世界ではどうか知らないけど、第七階級魔法と言えば人類でも発動できるのは歴史に名を残すような英雄たちでも一握りだからね。それを使えるジェネラルウルフが相手だと苦戦するのが当たり前だと思う。
「さて。じゃあ行こうか。早くメランコリーにお礼を渡さないといけないからね」
「ゆっくりで大丈夫だよ」
既に情報というたくさんのお礼をいただいてしまいましたから。
前を歩く二人についていきながら、これからお世話になる町の様子をきょろきょろと見回す。
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