第4話 お礼をもらった!

 町の中を突っ切り、やって来た場所はなんとまさかの丘から見えたお屋敷。それも二つ並んだうちの大きな方。

 やっぱりアイリスって冒険者云々とかじゃなくて社会的にも偉い地位の人なんじゃなかろうか。

 今さらながらだけど、私の世界では、というより魔族だとゴブリン族とかオーガ族、ジャイアント族の中でも虐げられている身分の者くらいが家名を持っていないっていう状態だったけど、人類だと平民は家名を持っていなかったみたいだしそれはこっちの世界でも同じ? なら、アイリスもヴェイルも貴族?

 なんだろう。アイリスがやたらと辺境伯家の事情に詳しかったのってもしかして……。


「お嬢様方お帰りなさいま……どうされたんですかその格好!?」


 庭で花の手入れをしていたメイドさんがアイリスの破損した装備を見て驚愕の表情を浮かべていた。

 そうだよね。誰も触れなかったけど、鎧が派手に壊れているとそりゃあ驚くよね。


「ヴェイル様もそんなになって……!」

「森で未知の災害クラスの魔物に襲われたの。で、そんな時にこちらのメランコリーが助けてくれたんだ」

「災害クラスの魔物!? あぁメランコリー様! なんとお礼を申し上げてよいのやら!」

「あぁいや、大したことじゃ……」


 人間からお礼を言われるのって、やっぱりなんだかむずがゆい。これまでは人間からぶつけられるのなんて呪詛か恨み言しかなかったから、新鮮味も感じるね。

 というか、一つ一つの動作が大げさなメイドさんを見ていると、笑ってはいけないと思いつつも笑ってしまいそうになる。


「メランコリーにお礼をするために連れてきたんだ。お父さんいたら呼んでくれる?」

「はいただちに!」


 メイドさんがスカートの裾を掴んで足早に走り去っていった。

 というかもうこれ確定だよね。こんないかにもなお屋敷で働いてるメイドさんが様付けしてるくらいだから、アイリスって絶対に辺境伯家の娘とかそういうのだよね。と、いうことはヴェイルはあれだろうか。アイリスよりも少し家柄が低い貴族とか?

 あまり私の世界と比較するのもおかしいとは思うけど、向こうだと子爵だか伯爵だかよく分からない貴族が町を治めて、辺境伯とか公爵とかなんかそういうのが広大な領地として複数の町とそこを治める貴族を管理しているって報告を聞き流した気がする。爵位とかの制度が魔族とあまりにも違うから中々覚える気になれなかったんだよね。魔界の統治のために政治を勉強したけど、まさか人間界に手を出すなんて当時は想像もしなかったんだから。

 仮にこの通りだとするならば、ヴェイルはあれか。バネルサの町を治める領主的な存在の娘なのか。

 と、そんな風に考えていると、ヴェイルが耳打ちをしてくる。


「メランコリー。これからアイリス様のお父様がいらっしゃいますが、決して驚かないように。あと、身体強化と防御の魔法が使えるのなら首から上はガチガチに守っていた方がいいですよ」


 何それ怖い! 私もしかして殺されるの!?


「聞こえてるよ~。メランコリーは女の子だから大丈夫だって」


 男なら死んでたってこと!? ほんとどゆこと!?

 あまりにも物騒な忠告に戦々恐々としていたら、なんか金属が削れるような嫌な音が聞こえてきた。


「私の大切な娘を助けてくれたクソ野郎がいると聞いたぞ!」


 待って感謝してるの拒絶してるのどっちなの!?

 もうめちゃくちゃな言葉が聞こえたと思えば、離れた所にいる大剣を引きずる男性と視線がかち合う。


「貴様が私の娘を助けてくれたクズやろ……あなたがアイリスを助けてくれた方か。本当に心から感謝をさせてほしい」


 待ってこの人二重人格?

 私を見るやいなや、急に態度を変えて大剣を庭の池に放り捨てて頭を下げてきたんだけど。これもしかして本当に私が男だったら首ちょんぱされてたんじゃないの?

 思わず引きつった笑顔になってしまうと、アイリスがぺしんと男性の頭を叩いた。


「もうっ。そういうのやめてって言ってるのに」

「すまないアイリス。だが、もしマッチポンプでお前に近付くクズ野郎かもしれないと思うと、宝剣ルグンベリルで頭をしばき倒してやろうと思ってだな……」


 ふつーに死ぬと思いますよそれ。


「国の財宝をそんなくだらないことに使わないでよね。災害クラスの魔物を使役する人間なんてあり得ないから」


 しかも国宝かよ。この人国宝をぶん投げて池に沈めたんだけどそれはいいの?

 ツッコミが追いつかずに疲れていたら、遠くから輝く槍を持った男性が走ってくるのが見える。


「我が娘をたぶらかしたクソバカ野郎がいると……ヴェイルを助けてくれたのはあなたなのか」


 お前もかよ。

 男性は池に槍を放り投げて、私に頭を下げてきた。二回目だし慣れてしまった自分が怖いよ。

 ヴェイルのため息が聞こえると、同じタイミングで先にヴェイルのお父さんらしき人が重そうな麻の袋を差し出してくる。


「私はヴェイルの父でこのバネルサを治める子爵家の当主、エドフォン=バネッサだ。娘の命を助けてもらったのにあまり大したお礼ができない不甲斐ない我が家を許してほしいが……どうかこれを受け取ってくれ」


 失礼かなと思いながらも、袋の口を緩めて中を見るとそれはもうご立派な金色の輝きがそこにはあった。

 続いてアイリスのお父さんらしき人がメイドさん二人に大きな箱を運ばせてくる。


「私はアルマントン王国の北西一帯を治めるメルーサ辺境伯家の当主、ガデルド=メルーサ。アイリスを助けてもらったにもかかわらずこんなしょぼいお礼しかできないが……どうか寛大な心で受け取ってくれると助かるよ」


 多分だけどこの箱にも金貨がたんまりと詰まってるんだろうなぁ。

 魔王城の宝物殿内の小分けスペースを一つ丸々埋め尽くしそうなほどの金貨に若干引くけど、とりあえずお礼を言ってからひとまず亜空間に収納しておく。

 異世界に来て無一文だった私は、なんだか一瞬で小金持ちになった……のかもしれない?

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