第2話 美少女たちを助けた!

 大きく吠えたジェネラルウルフが爪に風の魔力を集めていく。

 威力的には第五階級魔法に相当する攻撃だろうね。ジェネラルウルフはたしか第七階級魔法までの魔法を使えたはずだから、私もずいぶんと舐められたものだよ。

 私にそんな攻撃は効かない。と、信じたいけど念のために魔法防御を固めてから親指を下に下げて挑発する。

 怒って再び吠えたジェネラルウルフが勢いよく腕を凪ぐと、爪の形をした緑色の風の斬撃が私へと迫ってきた。


「まさか第五階級魔法の【キラースラッシュ】!? 危ない!」


 青髪の女の子が警告を発してくれるけど、まぁ結論を言えば私に攻撃は通じなかった。

 魔法が私に当たる直前、正面に赤黒い障壁が出現して魔法を反射する。

 跳ね返った魔法はジェネラルウルフに直撃し、右腕を肩から切り飛ばすことに成功した。

 よし、この能力は使えるみたいね。


「なに、が……?」


 後ろで銀髪の女の子が驚いているから、声には出さないけど種明かしをすると、私の魔王のスキルの一つ、【魔法反射】だね。

 一定レベル以下の存在が放つ超次元魔法未満の魔法……つまり第一から第十二階級までの魔法を発動者に跳ね返すという能力。

 一見すると強いと思われる力だけど、私のレベルは100だから反射できるのはせいぜいレベル75以下の存在が放つ魔法のみ。元の世界では全体で見るとかなり強い部類に入るけど、勇者の仲間が確か平均レベル100、魔王軍幹部の連中が平均レベル130、勇者がレベル160で常闇の使徒がレベル180はあったかな。

 ここまで言うと分かると思うけど、肝心なところでちっとも役に立たないゴミスキルなんだよねこいつは! 勇者との戦いで効果を発揮しないとか意味ないじゃん!!

 でも、どうやらこちらの世界でも問題なく発動するらしい。で、発動したということはこのジェネラルウルフのレベルは75以下ということになる。

 それならば私が負けるなどあり得ない! 私のレベルは100だからなぁ!

 腕を失って痛みに顔を歪めたジェネラルウルフは、血を撒き散らしながら飛びかかってきた。

 ついでだしこっちの【魔の絶対服従】も試しておこっと。


「頭が高い。平伏せよ」


 そう口にすると、途端にジェネラルウルフが勢いを失って地面に頭を擦りつけた。

 それはもう見事な服従の姿勢に、後ろにいた二人が目を瞬かせている。

 こっちのスキルも問題なく発動――、


『ガアアァァァァァッ!』


 と、思ったけどこっちは一瞬しか効果がないっぽい!

 ジェネラルウルフが再び飛びかかってきたから、私はつい手を突き出してしまって――、


「“プラズマカノン”!」


 ついお気に入りの第八階級魔法である【プラズマカノン】で攻撃してしまった。

 青白い電撃の波動が一瞬にしてジェネラルウルフを呑み込み、あっという間に肉体を塵に変えてしまった。あと、攻撃の余波でジェネラルウルフの後ろにあった木々がごっそりと消滅する。

 さすがにやり過ぎてしまったかもしれない。

 おそるおそる振り返ると、二人とも呆然とした様子でその場に立ちすくんでいた。

 先に青髪の女の子が座り込む。


「た……たすかった~」


 ……あれ?


「よかった……死ぬかと思った~」

「あなたすごいんだね! 助けてくれてありがとう!」

「はっ! そうでした! 私とアイリス様を助けてくださってありがとうございます!」


 二人に深々と頭を下げられた。

 てっきり、魔王としての力に怯えられて逃げられるか襲いかかってこられるかのどちらかを覚悟していたんだけど、でも感謝を伝えられる結果になったのは悪くない。


「気にしないで。偶然居合わせただけだし、それに無償って訳でもないからね」


 本当は報酬なんて正直どうでもいい。

 でも、人間はこういう場合に何かしらの対価を求められる方が信頼できるって、昔住んでいた町に流れ着いた人間のお姉さんが言っていた気がする。私としても、これで情報やら困ったときにお金を貸してもらう口実ができるわけだから助かるし。

 銀髪の女の子は、細剣を鞘に収めると何度か頷いた。


「それはもちろん。ただ、ごめんね。実は今お礼に相応しいだけの手持ちがなくて……町に帰ってからでもいいかな?」

「うん! あ、でも、正直お金も欲しいけど一番に欲しいのは情報かな。実は今迷子になってて……」

「大変じゃないですか! どこから来たんですか!?」

「それも分からなくて……」


 異世界から来た魔王でーす!

 なんて馬鹿正直に答えたら絶対にまた何かトラブルに巻き込まれる。この世界に魔王がいるかは知らないけど、そいつと一緒に討伐対象にでもされたらたまったものじゃないからね。

 ここは上手く誤魔化す方向で進めよう。


「気づいたら知らないこの場所にいたから、常識とかそういうのも分からなくて」

「想像以上に重症だねそれは。……うん、分かった。じゃあ今から私たちの町に帰るから、一緒に来てよ」

「いいの?」

「もちろんですよ! 私たちの命の恩人なんですから!」


 銀髪の女の子も青髪の女の子も優しそうで本当に安心した。不安だったけど、異世界でのファーストコンタクトは上手くいったみたい。


「あ、そうだ。私はアイリス=メルーサ。あなたは?」

「私はメランコリー。……メランコリー=アゼルレン」


 私を騙したのは常闇の使徒だけど、魔王になるための力を与えたのはアゼルという邪神。

 そのアゼルが生み出した魔王子供という意味のアゼルレンを名乗るのは迷ったけど、別に不都合はないと思うからいっか。


「メランコリーが名前で家名がアゼルレン、ね。聞いたことある?」

「すみません私は覚えがない家名ですね。あ、私はヴェイル=バネッサです。よろしくお願いしますメランコリー様」

「メランコリーでいいよ。ヴェイルさんもアイリスさんも」

「では、私のこともヴェイルとお呼びください」

「じゃあ私もアイリスで」


 太陽のように眩しいアイリスの笑顔。

 握手を求めて差し出された手を、私もそっと握り返した。

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