第2話 ネコの国は近づいた
僕、沼田健は気が付くと白い空間にいた。どこまで続くかわからない白く靄がかかった場所にテーブルが一つ置かれ、供えられた椅子に僕は座っていた。目の前には体長1メートルぐらいある虎・・・?いや、この柔和な表情は猫か?よくわからないが、背中から全体が茶色で腹と尻尾が白い毛並みの、老けた猫科動物が鎮座していた。
僕は直前まで神社にいて、不思議な声を聞いたのを思い出した。猫の社にお参りをした結果ここに来たということは、この巨大な獣は金運を司ると言われる猫神様なのだろうか・・・
怪訝な目で怪生物を見つめると、あちらもこちらが目覚めたことに気付いたようだ。驚くことにその巨猫は流暢に日本語を操って話しかけてきた。ここは夢の中なのだろうか?
猫神?「お主が儂に救いを求めた人間じゃな?儂はお主のネッコ。道に迷った者を導く伝道者。とりあえず・・・センとでも呼んでくれい!」
やっぱりネッコ、つまり猫なのか。センとは仙?もしかして仙人のことだろうか。神社に奉られている神様なのに仙人というのは違和感があるが、地方の伝承から生じる神仏の中にはそういう出自のものもあるのかもしれない。だいたい聖書の看板を掲げているようなフリーダムな神社なんだから、細かいことを突っ込むだけ野暮だろう。
健「・・・どうも、猫神様・・・いや、セン様。僕の名前は沼田・・・」
セン「ケンじゃろ? お主はケンでネッコの儂はセン。まさにビッタリじゃ」
何がどうピッタリなのか全然わからないが、腐っても神様か。微妙にイントネーションが違う気がするが、僕の名前ぐらいはお見通しらしい。
健「ひょっとして、僕は死んだんですか?確かに内臓がボロボロでもう長くはないと医者には言われましたが、宣告より随分早くありませんか? 気付かないうちにトラックにでも轢かれましたか? 現世では願いが叶えられないから異世界に転生して、チート能力を使って順風満帆な人生を送れってことですか?」
セン「待て待て、そういうことじゃない!お主は存命じゃ。だいたいお主が死んでいれば、ネッコの儂とてこうしてはおれん。儂はお主の悲痛な叫びを聞いて、それに応えるためにこの場を用意したのじゃ。本来なら儂らがこうして会話することなどあり得ないのだが、おそらく何かが力を貸してくれたのじゃろうな」
健「僕の叫び・・・?」
セン「『引き寄せの法則なんてインチキだ!』と大声て喚いておったじゃろ?」
健「そういえば・・・そんなことも言った気がします」
セン「お主は自己啓発本やセミナーを通じて熱心に引き寄せの法則を勉強したようじゃが、根本的に間違えておる。そのような誤った努力を続ければ弱った身体を回復させるどころか、さらに寿命を縮めてたちまち死ぬぞ。儂としてはそれも一興とは思うが、少し手を加えてやった方が面白いと判断した」
健「ええ!? 僕の何が間違っていると言うんですか!? 先生の通り感情をコントロールして、引き寄せを実践しましたよ!?」
セン「何もかもじゃ。お主もその先生も、引き寄せジプシーはみんな間違えておる。だから儂がここで本当の引き寄せと潜在意識の仕組みについて語ってやるのじゃ」
無駄に大きな身体を揺らし、老猫は自信ありげにフフンと鼻を鳴らした。なぜ猫なんぞに人の生を説かれなければいけないのか知らないが、追い詰められたもう僕に打つ手はない。
藁にもすがる想いとはこのことだ。この猫だか神だか仙人だかわからないヘンテコな動物に、僕はこれまで溜まっていた疑問を投げかけることにした。
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