第3話 ネコは心を見る

※ここからは健と猫神の対話オンリーになります


健「仕事、投資、恋愛、そして健康・・・僕は沢山のことを願って引き寄せの法則を実践しましたが、一つも上手くいきませんでした。就職は9割がたエントリーシートで落とされ、なんとか面接までこぎつけた企業も全部落ちました。何年かバイトをかけもちして、爪に火を灯すような節約生活で貯めたお金で新興企業の株式を買いましたが、なんとかショックとやらが来て倒産し、紙切れになりました」


セン「うむ、全て知っておる。なかなかに波乱万丈で、とても楽しい日々じゃった」


健「何が楽しいんですかっ!? 女性に声をかけても全く相手にもされない。生来の虚弱体質にムチ打って深夜バイトを続けたおかげで、すっかり身体を壊して入院しました。これまで順調に株価が上がっていたのに、なぜか僕が買った途端に大暴落しました。呪われているんじゃないですか?」


セン「そうじゃな、ケン・・・エゴにとってはそれは辛い体験じゃったのかもしれん。しかして、それが引き寄せの法則のインチキを証明するじゃろうか?」


健「僕の人生が完璧に証明しました。引き寄せマスターは『思いは実現する』と言いましたが、全然実現しなかったんですから!」


セン「思いを、どう実現しようとしたんじゃ?」


健「マスターの言う通り、クラッシックを毎日3時間聴いて心の周波数を上げ、ポジティブな感情で成功した自分をイメージしました。バイトを卒業して正社員になった自分、株価の爆上げで1億を超えた口座残高、奥さんや子供に愛された結婚生活、病気の治った壮健な身体を想像して、何ヶ月も脳に刷り込ませました。もちろん実際の就職活動や投資、健康療法も実行しているので、妄想だけじゃありません。引き寄せの法則が正しいなら、最低でもどれか一つぐらい叶ってもいいはずです!」


セン「なるほど、努力はしたのじゃな。しかし、それは間違った努力じゃよ。引き寄せの法則はそういうものではなく、そもそも方法論ですらない。

ボールを宇宙空間に投げたら『慣性の法則』に従ってまっすぐ進んでいくが、それは純然たる事実であって、メソッドと言うようなものではあるまい。引き寄せの法則も、宇宙が正常に機能するための物理法則の一つ。お主の心を誤差なく伝えて世界に投影する、鏡のようなものなのじゃ」


健「鏡って? 僕の心が汚れていたから、体も汚れてしまったってことですか?」


セン「そういうことではない。今の現実はお主の願望を正確に反映したから、『欠乏』が形になって現れたのじゃよ。お主はその半生をもって、引き寄せの法則を完全に証明しておる―――」

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