第7話 階段:かけおりる

失敗だ。

暗殺失敗だ。


私は、とある組織に属している、

どういう組織かは、いわないでおく。

ただ、その組織で暗殺技術なども叩き込まれた。

組織のために動く。

それが私の全てだった。


私は、道具だ。

誰かを殺す、道具だ。


私には姉がいる。

それを知ったのはつい最近で、

その姉の恋人を暗殺することが、

今回の命令だった。

私は道具だから、道具だからと何度も思った。


一度だけ、聞いたことがある。

いつか王子様が忘れたガラスの靴を持って、

迎えに来てくれると言う話。

誰から聞いたのだろう。

もう、忘れてしまった。


出来るだけ普通の格好をして、

私は標的の部屋に行く。

散々部屋を蹂躙するように標的と私は暴れて、

アラームがなったのに瞬間気を取られ、隙を作ってしまった。

苦し紛れにガラスのくないを投げつけたけれど、

あれで身元割り出されて、終わるだろう。


私は階段を駆け下りる。

「クソッタレ」

何に対してだ?

しとめられなかった自分か。

予想以上に強かった標的か。

組織に泥を塗ったことに対してか。


階段を駆け下りる。

みんな組織なんて知らなくて。

私のことなんて知らなくて。

姉のことは、私が一方的に知っているだけで。

もしかしたらそれも嘘かもしれなくて。

怒りのような、また、別の感情。


上のほうで誰かがつまづいて、

派手に空き缶がばら撒かれる。

空き缶で生きることの意味が変わるものか。

空き缶はガラクタ。

私もまた、ガラクタの道具に過ぎない。


私は、走りながら階段の下を見据える。

そこに、私は見つけてしまった。

栗色の髪の、私の姉。

落ちてきた空き缶に足をとられ、姉は残り数段で転びそうになる。

それを支える初老の男。

冷やかす若草色のシャツのおばあさん。


私は、階段を駆け下りきった。

姉には、姉の人生がある。

私は組織で道具になろう。

姉が壊れなければ、それでいい。


ガラスのくないを持って私を探しに来る王子様など、きっといない。

私は幸せそうな姉の横顔を焼き付け、

その記憶で生きていこうと決意する。

私の事なんて、姉は知らなくていい。


微笑が浮かんだ気がした。

そう、それでいいんだ。

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