第6話 階段:つまづく
嫌われたくない。
誰にも何にも嫌われたくない。
だから、私はまず、嫌っちゃいけない。
みんなを好きになって、みんなに好かれないといけない。
でも。
みんなが怖い。
私は学校の実験に使うらしい、
空き缶を取りに行ったところ。
あまり重くはないけれど、
手伝ってくれる人はいなかった。
私はひとりで大きな袋に入った空き缶を持って、
前がよく見えないまま、階段を歩いていた。
視界にはどうしても見える空き缶。
銀色のそれに、いろんな人の色がうつる。
階段にいる人たちの色なのかな。
私はそれをちゃんと見ることが出来ない。
足元に注意することをやめたら、つまづいてしまう。
役立たずといわれたくないの。
一方的に謝ることはもう嫌なの。
役に立っていると思われたいの。
好かれたいの。
それでも。
私の内側に、くすぶる何かがある。
白い人影が銀の空き缶いっぱいにうつったそのとき、
私は思わずつぶやいていた。
「クソッタレ」
私の声でない気がした。
ふっと何かが抜けたそのとき、
もうすぐ上りきるはずだった、階段で、
私は思いっきりつまづいた。
空き缶は派手な音をしてばら撒かれた。
私はそのまま倒れるかと思われたけれど、
痛みを覚悟していてもそれがやってこないので、目を開けた。
私のバランスは崩れてなどいなくて、
私は立ち尽くしていた。
「大丈夫か?」
水色ネクタイの怖い顔の人が声をかけてくれた。
「す、すみません!」
こんなとき、謝るしかできない。
迷彩柄の服の人が、どこかから飛んできた空き缶を、
無造作に手にして私に渡して、どっかに走り去っていった。
私は手にした空き缶を、見ていたら、
抱いてはいけない感情が湧いてきた。
怒っても、いいのかな。
私は力任せに思いっきり空き缶を下に投げる。
水色ネクタイの人は、ちょっと驚いたような顔をしていたけど、
「なんか清々しました」
と、私が言ったら、怖い顔だけど微笑んでくれた。
つまづくのはバランスの悪い証。
そして、つまづくのは、決して悪いことばかりじゃない。
しかし、倒れなかったのは何でだろうね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます