第三部パラダイス #53

 その瞬間に、真昼が、殺意の刃が、突いたところ。岩盤のその部分が、悍ましく禍々しい音を立てて罅割れた。いや、正確にいえば、岩盤が罅割れたのではない。その岩盤が所属しているファクト自体が罅割れたのだ。

 フェイク・ニュース、フェイク・ニュース。もちろんそれは嘘のニュースである。とはいえ、誰が本当のことを知っているというのか? あらゆるデータは観念であり、観念である以上は普遍的でも絶対的でもない。科学も魔学も、数値化された経験の全般が便宜上当て嵌められた記号でしかなく、認識から離れた物自体という観念でさえ観念でしかないのであれば、いうまでもなく物自体は認識としてしか存在し得ない。物自体を認識でしか認識出来ないのではなく、物自体という物自体が、既に認識なのである。この世界は、何もないのではないとすれば、結局は認識なのだ。あらゆるデータは解釈によって全然変わりうる。そうであるとすれば、誰が、真昼の福音を、フェイク・ニュースと呼ぶことが出来る?

 罅割れは、広がる、広がる、大地の上、瞬く間に広がっていく。リチャードとグレイと、その二人の足元まで広がっていく。リチャードは「うおっ!」と叫ぶ。それから、「クソ、んだよっ!」と言いながら、自分の前に立っていたグレイのことを掻っ攫うようにして引っ掴んだ。そのまま、どうっと大地を蹴り飛ばして。大きく大きく伸ばした翼によって、一気に上空へと浮上する……そして十ダブルキュビトほどの高さまで上がると、そこで停止した。これ以上、真昼から離れるわけにはいかないからだ。

 もしかして、この罅割れがただの虚仮威しであるという可能性もないわけではないのだ。罅割れによってリチャードをこの場所から引き離して。そうしているうちにすたこらさっさと逃げてしまおうとしているわけではないとはいい切れない。もちろん、ここまでの展開から、そういうことが起こるとは考えがたいが。念には念を入れておかなければいけない。そんなわけで、真昼との距離を一定の範囲内に保っておく必要があったのだ。そのような警戒をしながら、リチャードは状況の推移を見守っていた。

 大地の罅は……既に、結界の全体に広がっていた。その光景は、例えるならば、この星が破滅していくその瞬間のようにさえ見えた。まるで、深い、深い、夜の奥から、一つの、暗い、暗い、闇の星が墜落してきて。この星の中心核を破壊してしまったかのようだった。そのせいで、この星が内側から爆発しようとしているその瞬間のようだった。

 いや、違う。もっと、この光景に相応しい比喩表現がある。つまり、これは、リチャードの眼下に広がっているこれは、「サンダルキアの滅亡」だ。そう、そうだ。トラヴィール教会の美術表現において、非常に頻繁に取り上げられるモチーフ。アドナイ、アドナイ、主に反逆し、裏切りの刃を向けたケレイズィが住んでいた大陸であるサンダルキア。サンダルキア・レピュトス前記において、そのサンダルキアが、天から降り注ぐ星、星、星、によって、砕かれて。そして、火に包まれて、暗く広い海の底に沈んでいったあのシーン。リチャードが見ているのは、まさにその光景だった。

 天使。

 天使。

 闇の天使が。

 星を。

 星を。

 星を。

 落としている。

 そう、これはサンダルキアだ。そうであるならば、この罅割れは、ただの罅割れであるわけがない。この下には、滅亡が横たわっているはずなのだ。サンダルキアを一口に丸呑みした滅亡。つまりは、冷たい、冷たい、あの海が。

 と、リチャードがそこまで理解した瞬間に。まさにその瞬間に、全地のおもて、罅割れ、全部全部から、一斉に、光る星が一つも見えない完全な闇、夜が噴き出した。

 リチャードは「なっ……しまっ……!」と口走る。だが、遅かった。遅過ぎた。夜は、瞬く間に、こぼれ出て、溢れ出て、それは全てを飲み込む空黒の洪水であった。

 はははっ、素晴らしい。なんて素晴らしい光景なんだろう。洪水とは、つまり、「そうではない別のあり方であるべき」ものを洗い流すための一つのシステムである。一つのファクトが機能不全に陥った時、そのファクトを滅ぼすためのシステムである。もちろん、サンダルキアは「そうではない別のあり方であるべき」だった。お姫様は嘘だった。怪獣は嘘だった。赤い龍、バシトルーは嘘だったのだ。だから、暗く広い海によって洗い流された。「そうであるべき」真実によって代替されるために。

 だからこそ……今、ここで、洪水は、あらゆるものをその内側に飲み込んでいく。この結界の中にあるもの、この結界の中で起こったこと、その全てを。

 どうどうと、ごうごうと、凄まじい勢いで闇の水が結界の内部に充満していく。もちろん、リチャードは、あるいはその腕に抱かれたグレイは、逃れる暇もない。眼下の大地から、波瀾のように、いや、まさに波瀾として押し寄せてくる闇の水を見下ろしながら。グレイは、自分の腰の辺り、左の腕だけを回して抱き上げているリチャードに向かってこう叫ぶ「リチャード! 「機関」を起動するぞ!」。

 以前も書いた通り、グレイの「機関」は不完全な代物であるため範囲制限がある。それゆえに、常時起動し続けておくというわけにはいかない。見ていないテレビは消すように、家にいない時はエアコンを消すように、使っていない時は実行待機モードにしているのだ。ただ、今は、明らかに、のんべんだらりと実行の待機をしているような状況ではなかった。すぐに待機を解除して、あの洪水に対するなんらかの防御を実行しなければいけない。

 と。

 グレイには。

 思われたの。

 だが。

「待て! グレイ!」

「な……リチャード!?」

 リチャードは、それを押しとどめた。押しとどめたといっても、別にグレイに何かを強制することが出来るような手段をリチャードは持っていなかったのだから、グレイはグレイで、勝手に起動すればいいだけの話なのだが。ただ、グレイは、こういう時のリチャードの判断に対して絶対的な信頼を置いていた。

 リチャードは、どうやら、この洪水に窮迫の危険性を感じていないようだった。「まだだ、まだ起動するな!」と叫ぶ。もしも、それが、防御する必要がないものであるならば。あるいは防御しても仕方がないものであるならば。「機関」の使用可能範囲をいたずらに消費してしまうような真似はしない方がいい。

 グレイは、軽く舌打ちしてから「賢明な判断だとは思えないな!」と言う。そんなグレイに、リチャードは何か言葉を返そうとするが……その瞬間に、二人の体は、ずおうっと波打った洪水の中に、取り込まれてしまう。

 二人は悲鳴にも似た声を上げかける。「あっ……」「うおっ……」けれども、その直後に気が付く。これは普通の洪水とは異なっているということに。「なっ……」「クソが……やっぱりか……」読者の皆さんはそれぞれのセリフをどっちが口にしたか分かるかな~? まあ、前者がグレイで後者がリチャードなのだが、それはそれとして、二人を取り込んだこれは水ではなかった。

 液体ではなかった。その証拠に、通常通り呼吸が出来た。正確にいえば、リチャードは純種のノスフェラトゥであって、呼吸は必要ないため、呼吸をするというのはグレイにとっての通常でしかなかったが。とにかく、グレイは呼吸が出来た。

 「リチャード、これは……」グレイは、愕然とした表情で、自分を抱きかかえているリチャードに顔を向ける。それに対してリチャードは、ぎいっと吸痕牙を剥き出しながら、非常に忌々しそうな顔で答える「ああそうだ、あのメスガキのオルタナティヴ・ファクトだ」。

 そういうことだった。つまりは、この洪水は、真昼の観念世界から流出した、真昼の理想。真昼の夢、真昼の愛、真昼の希望だったということである。真昼が思い描いた絵空事が、この現実世界を、洪水の形で侵食していたということである。

 と、ここで、読者の皆さんはこう思われるのではないだろうか。いや、そもそもこの現象が起こる時に、真昼ちゃん、オルタナティヴ・ファクトって言ってたじゃん。リチャードも、グレイも、今更、何をそんなに驚いているの?

 まあ、そういわれたらその通りなんですが。とはいえ、ちょっと思い出して頂きたいことがありまして候でしてね、それは、つまり、オルタナティヴ・ファクトは、本来、現実に展開することが出来ないはずのものだということだ。

 確かに、デニーは展開した。現実に、自らのオルタナティヴ・ファクトを。ミヒルル・メルフィスのswarmとの戦闘の際に、展開することが出来た。ただし、それはデニーだからである。魔王。ナイン・ホーンドのデウス・ダイモニカス。それほど強く賢い生き物だからこそ出来たことなのだ。

 真昼は、人間である。弱く、愚かな、生き物。救いようもないほど下等な下等知的生命体であるところの生き物なのである。そのような人間が……現実における確定を、つまり、存在に向かって行なわれるところの概念による決定を、排除して。そして、自らの決定を押し付けることなど出来るわけがないのだ。

 それに、それだけではない「しかし……たかが人間がこれほどまでに巨大な……」「ああ、あり得ねぇな。ただ、それでも、これが現実だ」。これはグレイの疑問にリチャードが返答した会話であるが、この会話が示している通り、人間のオルタナティヴ・ファクトがこんなに大きなものであるはずがないのだ。

 リチャードとグレイとが見ている前で、いや、二人もその中に沈んでいるので上記のような他人事の表現はおかしいかもしれないが、とにかく、洪水は、真昼のオルタナティヴ・ファクトは、見渡す限り氾濫していた。上も、下も、右も、左も。それは既に結界の内部、その全体に、充満し、遍満し、なみなみと満ち満ちていた。つまり、真昼は、直径数エレフキュビトの半円を、完全に、自らの理想によって満たしてしまったということである。

 確かに、百エレフキュビトを超える真円の、その円柱を丸ごとオルタナティヴ・ファクトにしてしまったデニーに比べれば、それほどでもないかもしれないが。それでも、明らかに人間が持つことの出来る理想を超えていた。

 例えば、一度説明したように、中等知的生命体である商武でさえもちょっとした倉庫程度の大きさのオルタナティヴ・ファクトを作るので精一杯なのである。しかも、そのようなオルタナティヴ・ファクトを外部展開することなど思いもよらないようなことであって。こう書けば、真昼がなしたことがどれほど異常なのかということを理解して頂けるかもしれない。

 リチャードもグレイも、聞こえていなかったわけではない。真昼の発声。真昼の言葉。とはいえ、信じちゃいなかったのである。なんか言ってんな、くらいしか思っていなかったのである。人間が、こんなことが出来るなんて思っていなかったのである。

 真昼を中心として。

 真昼の理想的世界。

 真昼の言葉を借りれば。

 御伽話の世界が。

 沈むように。

 沈むように。

 広がって。

 沈むように。それは、あたかも主によって罪を受け罰せられたサンダルキアが暗く広い海に沈んでいくかのように。真昼のオルタナティヴ・ファクトは、間違いなく、暗く広い海であった。真昼の精神の内側に広がっている、美しい、美しい、理想の、世界は。要するに暗く広い海であった。

 何度も何度も、真っ暗な寂しい部屋で、広々とした虚ろな部屋で、真昼が開いたあの絵本。あのページに描かれていた、サンダルキアの洪水、夜の洪水。

 そして、その夜の中心には……一匹の赤い龍がいる。いや、赤いドレスを着たお姫様がいる。赤い龍の名前はバシトルー。お姫様の名前はバシトルー。

 ああ、そうだ、そうだったのだ。「この」サンダルキアの中心に立っているあの少女の名前は。「この」理想郷の中心で、赤い、赤い、力の波動を身に纏った少女の名前は。真昼の名前は、バシトルー。真昼は怪物だったのだ。夜になると赤く光る怪物だったのだ。暗く広い海、の、中心で、いつまでもいつまでも覚めることのない夢を見ている怪物のお姫様なのだ。

 さて。

 さて。

 バイ・ザ・ウェイ。

 このようにして真昼はオルタナティヴ・ファクトを展開した。舞台は、舞台装置は建築し終えたわけだ。それならば、あとは、その上に役者を配置していくだけである。せっかくの葬式なのに、真昼、リチャード、それにグレイ、三人だけってんじゃああんまりに寂し過ぎるもんな。ということは、他にも参列者が必要になってくるっていうことだ。

 ここは暗く広い海。

 そうであるならば。

 相応しいのは。

 怪物の参列者。

 ああ。

 そう。

 つまり。

 真昼にとって。

 暗く。

 広い。

 海。

 うじゃうじゃと。

 泳いでいる。

 怪物。

 怪物。

 怪物。

 だけが。

 真昼のための。

 大軍勢、を。

 構成しうる。

 と。

 いう。

 こと。

 真昼には……怪物しかいなかった。絵本の中に描かれた怪物しかいなかった。だって、誰も、誰も、真昼のことを愛してくれなかったから。父親は真昼に興味がなかった。母親は真昼を残して自殺した。誰も、誰も、真昼のことなんて好きじゃなかった。真昼なんて、どうでも、どうでも、良かったのだ。真昼は、たった一人で、暗くて広くて、誰もいない、夜の部屋の中で泣いていた。そして、そこにいる怪物だけが真昼の友達だった。

 真昼は、ゆっくりゆっくりと空を見上げた。正確にいえば、十ダブルキュビトほど上のところを飛んでいるリチャード・アンド・グレイを見上げた。そのままの顔で。そのままの仮面で。真昼は、そっと口を開く「さあ、舞台は設えた」そして、二人に向かって、こう言う「それじゃあ紹介させて貰おうか……あたしの、可愛い、可愛い、怪物達を」。

 その瞬間に、真昼の周囲を取り巻いていた力の波動が、あたかも一つの意志、今ここにある瞬間そのものの意志のようにして、するりと動いた。散漫に散乱し、あちらこちら好き勝手に些喚いていた力の波動が、明確な一つ形として結集する。真昼の背後。あたかも早送りされた時計の針が、一瞬にしてクレープを円形に引き延ばすかのように……つまり、それは……真昼の背後に、あたかもデナム・フーツが背負っていたマンドルラ、光背のような形状を作り出したということだ。

 ただ、デナム・フーツのそれとは違うところもないわけではなかった。その光背は、現時点では完全な円形であったわけなのだが……少し前、真昼がリチャードに向かって絶叫していた、その時のように。それは要するにオーディオ・スペクトラムとしての機能を果たすものだった。今、それが円形であるのは、真昼が完全な沈黙を保っているからというそれだけの理由である。もしも真昼がその沈黙を破れば、あたかもその音楽を視覚化するかのようにして、というか事実その通りに、その光背は動き出すだろう。

 舞台の上に。

 煌めく。

 星が。

 一つ。

 静かに。

 静かに。

 瞬くことさえなく。

 沈んで。

 いる。

 暫くの間、そのような状態のままで真昼は沈黙を保っていた。いや、真昼が、というか、舞台の全体が。リチャードとグレイと、たった二人しかいない観客の、その客席まで含んだ舞台の全体が、どこかきらきらと張り詰めた、引き攣ったような緊張感によって成立している静寂に包み込まれていた。針で刺しても割れることのない風船のような静寂。

 と……何かが、どこかから、聞こえてきた。まるで、それは、恐ろしい、恐ろしい、ざらざらとしていて、透き通っている、冷たい、冷たい、錆びついたスカルペルのような、殺されるものが殺しながら笑っている悲鳴のような、笛音。骨を刃物で断ち切る時のような高音の、そのような笛の音が、遠く、遠く、例えば海の向こう側にあるどこか別の国から聞こえてくるかのようにして聞こえてきたのだ。

 笛。

 笛。

 とっくに滅びて誰も住まなくなった都市だけに生える竹、ぽつりぽつりと幾つかの穴を開けて、とろりとろりと溶かした屍蝋を塗りつけることでつやを出した笛のような、そんな笛だろう。

 それはなんの音か? 最初は、全然分からなかった。まるで認識そのものに紗がかけられてしまったのようだった。だが、そのうちに理解する。それは口笛だった。真昼の口笛だったのだ。

 たかが口笛が、これほど物悲しい、ある種の滅びの音楽。墓場から墓場へと夜を通り抜けていく風のような音を出すことが出来るということは信じがたいことであったが、それでも間違いなかった。真昼の、仮面が、その舌先によって音楽を奏でている。

 そうして……

 その後で……

 なんの前触れもなく……

 本当の唐突さで……

 とうっ、という。

 鼓の音が、響く。

 打楽器などどこにもなかったにも拘わらず、それでも、確かに、そのような音がした。まるで、真空に根を張り、宇宙空間に満たされた放射線を飲み干す、一本の大木の内側を抉り出して。その巨大な虚空に重力を張り渡した太鼓。そのような太鼓が、誰にも叩かれることなく、自ら音を鳴らしたような音がした。

 それもまた、真昼が音として音にした音であった。右手に持っていた殺意の刃で、大地を叩いたその音だったのだ。つまり、この太鼓の音は、真昼が、その上に立っている大地。リチャードが、グレイが、その上を浮かんでいる、この星の表面そのものが鳴らしている音だったということだ。

 とうっ。

 とうっ。

 ひゅーるるるぅ。

 ひゅるるるるぅ。

 とうっ。

 とうっ。

 ひゅーるるるぅ。

 るーるるるるぅ。

 リチャードと、グレイと、二人は、震えていることを感じていた。真昼が発している音楽。自らの身体を笛として、その身体が拠って立つ大地を鼓として、内側と外側とその全部によって奏でられている音楽。それが、震わせている。

 何を? 膜を。あれとこれと、それとそれとを境している、その膜を。疎隔性を、生命を。真昼のその音楽は、生命を震わせていた。いや、というよりも、生命に触れていた。真昼の全部が、ここにある生命に接触してきていたのだ。

 真昼の生命が憑依している。

 この場所に、憑依している。

 やがて、真昼が口を開いた。いや? しかし、真昼は既に口を開いていたはずではなかったのか? だって、真昼は口笛を吹いていたではないか。だが、それにも拘わらず……真昼の仮面は、口笛を吹きながら、そのような口とはまた別の口を開いた。真昼の仮面に二つ目の口が現われたということだ。その口が、また口笛を吹く。その後で、三つ目の口が開く。また、口笛を吹く。あたかも、デニーが、ティンガー・ルームでの戦い、ASKとの戦いの時に、三つの口によって詠唱していたように。今の真昼は、三つの口によって口笛を吹いていた。

 そして……四つ目の口。いや、これが本来の口、真昼の仮面の、口が開いている位置に開いている口だった。その口が、何かを歌い始めた。最初は、歌は歌として意味をなしていなかった。歌というよりも、何かが流れ出しているような。とうとうと何かが流れ出し、誰もそれを止めることが出来ないような。真昼の口から、真昼の生命とは無関係に、何か、途轍もなく力あるものが。聖なる聖なる流れが流れ出しているかのような歌だった。真昼は歌っている。ろおおろ、ろおろお、あらりあらりらあらりらあらりら、あらりあらりらあらりらあらり。

 無秩序な神。光背。オーディオ・スペクトラムは、抑え切れない衝動としてその数値を連続的に表示していたが。やがて、そのようなノイズがチューニングされてくる。真昼は、その流れを調整する。まるで、星の引力が洪水を導いていくように。そのような、真昼の歌は、このようなものだった「ふりてふれ、ふれてふるなりふるやふる、ふれなふれふりふりやふるふる、たまやたまやてふるやふる、たまてたまてやふれやふれ、あとななとあとあとなとあとな、たまやふれふれあとなとふれれば」。

 それを何度も何度も繰り返す。円環。もちろんだ。最も重要なのは、構造の全体を閉ループさせることなのだから。とはいえ、それが停滞していてはいけない。それは動いていなければいけない。滞水は腐敗する。真実の力とは、常に流水である。新しくなければいけない。ただし、その新しくなることもやはり構造に組み込まれていなければならない。兎の神は神話に混乱をもたらすが、その混乱は神話自体によって予定されている。

 真昼。

 は。

 舞踏。

 する。

 歌いながら。真昼の身体は、触れる、触れる、触れるかのように震えている。真昼の舞いは、まさに流星群の夜のようだった。無数の星屑が、死んでしまった星に降り注いできて。幾つも、幾つも、その表面に触れて、そこから内側へと入り込んで。振るわせて、振るわせて、振るわせて、その星を、もう一度、呼び覚まそうとしているかのようだった。

 真昼は、まず、ゆっくりゆっくりと両腕を開いた。右の腕と左の腕と、真っ直ぐに、水平に、伸ばす。その瞬間の真昼は、まさに、四方八方に凄まじい威光を放つ恒星であった。それから、ゆっくりゆっくりとそれを閉じていく。抱き締める、抱き締める、力の焦点を抱き締める。もちろん、それは、ある意味では祈りと呼ばれる種類の動作に酷似していた。とはいえ、それは、厳密には祈りではなかった。真昼の動作の全ては、まさにこの場所の、まさにこの現在の、原理の起動と操作とに関係していたからだ。

 そして。

 真昼は。

 また。

 ゆっくり。

 ゆっくり。

 両腕を。

 開く。

 凝縮し。

 一点に。

 集中させた。

 力の。

 焦点。

 を。

 開かれる。

 ああ。

 そう。

 だから。

 その。

 瞬間。

 に。

 死霊学が。

 励起する。

 とうっと、音がした。今までの音、鼓を打つ音の中でも、特に象徴的で、特に印象的で。例えば頭蓋骨の中の脳髄が、不思議な現象によって、ずるりとずれてしまったような。あるいは、時空間の連続性の中で、ここだけ、可能性が、断層のずれを起こしてしまったような。

 そう、そうなのだ、その瞬間に、まさに世界が震わせられたのだ。真昼が作り出した力の焦点が解かれて、世界の全体に向かって放たれたのである。あまりにも質量の大きい恒星が、自らの重さに耐えられず、その中心部が崩壊してしまったせいで、外側に向かって大爆発を起こすかのようにして。

 それでは、その大爆発はなんのために起こったのだろうか? 当然ながら真昼は自然現象ではない。真昼は、神話である。そうである以上、その神話には構造がある。神話には、意味も、方法も、目的もない。ただ、それでも、部分によって規定される全体がある。真昼という部分は、一体、全体の、何を規定するために力を動作させたのか。

 ところで……読者の皆さんは、果たして覚えていらっしゃるだろうか。真昼がいるこの結界がいかにして形成され、いかにして維持されているのかということを。いや、というよりも、この結界の中心には何があるのかということを。そう、そこには結界の発生装置があったのだ。お城、お城、素敵なお城。御伽噺に出てきそうな、ドリーミングでファンタジックなお城。

 小さな。

 小さな。

 女の子が。

 可愛らしい。

 夢の。

 中で。

 住んで。

 いる。

 ような。

 その。

 お城。

 が。

 リリハ。

 リリハ。

 フェテ。

 ラ。

 ルハミア。

 メリア。

 まるで。

 スカァトを。

 ふわりと。

 翻してる。

 天真。

 爛漫。

 みたいに。

 して。

 深紅に染まった空の方向、に。

 ふわりと浮かび上がっていた。

 リチャードは、思わず「な……?」と声を上げた。自分が見ているその光景が、あまりにも異様で、何かインピュリパーテーション様式の一枚の絵画のようにさえ見えたからである。インピュリパーテーションとは、第二次神人間大戦期、人間至上主義諸国において非常な勢いで流行した芸術の一様式だ。「個人的な生活の尊厳によって真聖性を汚すこと」を方法論としたその芸術は、超現実的であり不条理であり、極端なまでにあり得ないことを引き起こすことで神が定めた法則に対して反乱の烽火を上げた。そこで最も好まれたモチーフは、無論、人間的奇跡によって初めての「神に対する反逆」を成し遂げたところの族長ダニエルである。

 ちょうど、リチャードがいる方向から見た時に。そのお城は、真昼の真後ろに聳え立っているはずであった。リチャードがいる方が結界の外縁に近く、真昼がいる方が結界の中心に近い。そして、その城は、まさに結界のセントラル・ポイントだからだ。

 二百ダブルキュビトの高さがあるそのお城は、真昼の背後、二エレフキュビトほど向こう側あるにも拘わらず、それでもかなりの迫力によってリチャードのことを圧倒している。

 あれは。

 お城。

 お城。

 お姫様のための。

 素敵、な、お城。

 そして、それは、あたかも聖書に描写されているアレクの山、無原罪の別名ともなっているその山のように、大地に、しっかりと、根を下ろしているはずであった……宇宙に刻まれた偉大さの象徴であるかのように……肉体として、労働として、霊的支柱として…それは殉教であるはずだった……そう、それは根を持つものであるはずであったのだ。だが、それにも拘わらず。それは大地から浮かび上がっていた。疑念さえ疑念する疑念に、よって、善良さを疑念する疑念によって。つまりは、自らのみを疑念する疑念によって、その拠って立つ基底から遊離していたのだ。

 要するに、何が言いたいのかといえば。そのお城は、そのお城が建てられていた岩盤ごと、ごっそりと、アイスクリンによって抉り取られでもしたかのように、何か、何か、凄まじい力によって持ち上げられていたということだ。

 もちろん、その凄まじい力とは、真昼の力である。しかし、しかし、そんなことがありうるのだろうか? あのお城は、魔王であるデナム・フーツによって建てられた物だ。しかも、グロスター家の後継者であるリチャード・グロスター・サードによって強化さえされているのである。それほどの建造物を、あれほどまでに、やすやすと、簡単に、子供がおもちゃを拾い上げるかのように、拾い上げることが出来るものなのか?

 出来る、出来るのだ。つまり、それが真昼の力であった。真実の実存に、その胸の奥で、奇跡、奇跡、と、音を鳴らしている心臓に、目覚めた真昼の力であった。お城は、ゆっくりゆっくりと、浮上していく。どこに向かって? 天国の方に向かって。がりがりと食い崩されたような岩盤から、ゆらゆら、ふるふる、ぼろぼろ、と、薔薇の花が落ちていく。とうとうと咲き誇る花畑から溢れ出た結界の花束が滴り落ちていく。

 真昼は。

 踊っている。

 とくん。

 とくん。

 と。

 真昼の。

 悪魔の。

 心臓が。

 笑っている。

 その笑いの。

 通りに。

 「ふれやふれやとなとあとふれや」真昼の仮面は歌っていた。舞踏しながら。舞踏とは、まさに踏みつけることである。まさに、この世界を、足蹴にし、自らに隷属させるということである。真昼の足は、大地を……いや、真昼にとって、既に大地という観念さえも考慮するに値しないものだった。大地になんの意味がある? 重力になんの意味がある? 自らの帰る場所、自らの帰る家。父に、母に、自分自身が自分自身であるために絶対に必要なものに、一体なんの意味がある? 真昼には、既に、足場など必要なかった。そこには、そもそも、重力を感じるべき真昼が存在していなかったからである。

 恩寵、なき、真空。恩寵、が、否定、された、後の、真空。それが真昼だ。つまり真昼は隷属する者ではない。隷属させる者なのだ。それが真昼の御稜威であった。だから真昼は……一体、真昼が、この星の上に立っている必要がどこにある? そもそも、こんな星は神々からの借り物の星に過ぎない。真昼は、真昼こそが、星なのだ。まつろわぬ星、まつろわぬ星、天津甕星なのである。そうである以上、真昼は大地に立つ必要などない。

 だから、真昼は、虚無の上に立っていた。お城が宙に浮かび上がるのと同時に。真昼自身も、宙に浮かび上がっていたということだ。そして、何もない足元を……いや、それゆえに、全てを。この世界の全てを、真昼は踏みつけていた。真昼の舞踏、右足が、左足が、世界を踏みつける。そのたびごとに世界の全体が震える。どうん、どうん、と、痙攣する病的な力が放たれるのだ。「ふるやふるふるふるやふるふる」と、真昼の仮面は歌っている。

 何かが。

 動いている。

 その。

 さんざめく、感覚。

 が、共鳴するのだ。

 舞踏は、いうまでもなく、下半身だけで成り立っているわけではない。下半身は荘厳だ、それは上から下へと睥睨する圧制の象徴である。一方で、上半身は。それは崇高である。それは重さによって力であるわけではなく、光であることによって力であるのだ。きらきらと、きらめく。それは禍々しく、不安を掻き立てる。例えば、夜の底に蹲っている肉食の獣の、その目が輝いている光のようなものである。

 真昼は、舞う、舞う、殺意の刃を、絶対的な「死」そのもののエネルギーを、錯乱のように散乱させながら。真昼は、驚くほど軽々しく、そこに何もないものを振り回しているかのようにして、自分の身長よりも巨大な得物を振り回している。

 「ふりてふりふりふらふらふるれ」と、真昼の仮面は歌う。指先で、殺意の刃をくるくると回転させながら。あるいは、右手から左手、左手から右手、次々と、放り投げるかのように、殺意の刃を持ち替えながら。真昼はスウィングしている。

 Swing。

 Swing。

 Swing。

 殺意の刃は。

 振られ振られて。

 揺り動かされる。

 そのたびに。

 しゃらしゃらと。

 真銀で出来た。

 鈴が。

 笑う。

 ように。

 光。

 光。

 そのもののの光を。

 放射する。

 そして、いうまでもなく、ただ単にスウィンギングであるというわけではない。それは鬼がかりのスウィンギングなのである。花鏡を叩き壊し、その屑を、光り輝く幽玄の花弁をそこら中に撒き散らす。つまり、真昼の得物、殺意の刃は、それが些喚くごとに、それが触れる時空間を破砕する。

 「たまふるふるれやふるふるなとあ」、これこそが真昼の仮面が歌う歌だ。その歌とともに、殺意の刃が時空間を響かせる。それは、つまるところ、一度叩けば壊れてしまう鼓なのだ。口笛、三つの口から流れ出る口笛の音は世界を覚醒させる。そうして覚醒した世界を、真昼は、破砕している。

 殺意の刃がキラキラと光っているのは、殺意の刃が輝いているというよりも、その刃に破砕された時空間の最後の瞬間の閃光が輝いているのだった。純粋な力。真昼が、あちらを、こちらを、殺意の刃の切っ先で、どうっと突く。それは、確かに、鼓を叩く、その神のリズムでときめいている。

 ああ。

 そうだ。

 真昼は。

 まさに。

 障礙の神だ。

 ステッピン。

 ステッピン。

 星を。

 震わせ。

 摩多羅の。

 リズムで。

 ダンスを。

 している。

 その通り、障礙の神は星宿の神である。なぜなら、舞踏は星を呼ぶためのものだからだ。その星は、いつでも悪しき運命の到来を告げるものであるからだ。悪しき運命! これほど真昼に相応しい言葉があるだろうか! つまり、真昼は、星を宿らせているのだ。この場所を、真昼と、それにリチャードとグレイと、三人が殺し合うべきこの結界を、星が宿る場所にしようとしているのである。とはいえ、星は、一体、どこにあるのだろうか? デニー、デニー、デニーが、夜の王が、真昼のために残しておいた星は一体どこにあるというのか?

 もちろん、真昼は分かっていた。これ以上ないというくらい分かりやすいところにそれはあった。プレゼント、プレゼント、お姫様に憧れている可愛らしい女の子のために、一体どこにプレゼントを置くべきか? 決まってる! 花畑だ! そうなのだ、デニーからの最後のプレゼントは、花畑の中に置かれていた。つまり、あのお城だ。あのお城こそが真昼へのプレゼントだった。

 そう。

 要するに。

 あのお城は。

 星、なのだ。

 リチャードが「なんだ、なんだよ!」と言う。「クソが……何が起こってるっつーんだよ!」と続ける。確かに、リチャードが見ている光景に、何かが起こり始めていた。具体的にいえば、ふわふわと空に浮かんでいるあのお城に何かが起こり始めていた。

 お城は、大体、二エレフキュビトほどの高さの位置まで上がっていたのであるが。そのお城が、静かに、静かに、形を変え始めていたのだ。真っ白な石材の一つ一つが、例えるならば、現実そのものにノイズがかかってしまったように、そのブロックノイズのように、分解され始めたのである。

 積み木で作ったお城を、もう一度組み替え直しているみたいだった。城壁が、ばらばらになる。尖塔が、ばらばらになる。コラムが、ピアが、アーチが、扉が窓が階段が、お城を構成していたはずのあらゆる要素がばらばらになっていく。それどころか、タペストリーだとかカーペットだとか、そういった付属品さえも、繊維の一本一本にまで分解されていく。

 ああ、そんなこと、するなんて。それは冠だったはずなのに。あんなに、あんなに、綺麗な冠だったはずなのに。それなのに、真昼は、お姫様の冠を壊してしまった。宝石を引っこ抜いて、残りの貴金属を粉々に打ち砕いてしまった。

 ねえ、真昼は、なんでそんなことをしたの? だって、もう、必要なかったから! 真昼には、もう、冠なんて必要なかったから! 王子様が死んでしまったのだ。もう、真昼の王子様は死んでしまった。それなのに、冠に、なんの意味がある?

 だから。

 真昼が。

 必要と。

 しているものは。

 他に。

 ある。

 構成部品は一度、無数の根源的要素にまで分解される。そして、そうした後で、また組み立てられる。ただし、今度は全く異なった形へと。ブロックノイズのブロックが、まるでそのようになるべきであったように、それがあるべきである位置へと収まっていく。つまり、真昼がそうあるべきだと観念した位置へと。

 ねえ、知っている? お姫様がその中で眠りについているお城はね、夢を見ているお姫様の、その夢で出来ているんだよ。じゃあ、お姫様はなんの夢を見ているの? 真昼は……もちろん……星の夢を見ている。この世界の底知れぬところを開くことが出来る鍵を持った星の夢を。だから、お城は、その星なのだ。

 お城であったはずの一つ一つの部品が、かちゃりかちゃりと、もう一度、形になっていく。小さな小さな子供が、パズルで遊んでいるみたいなやり方で。お城の形をしていたものは、星の形へと作り替えられていく。紡がれていく、紡がれていく、繋ぎ合わされていく。完全な真球が……それを見た者に、ぞっとするような畏怖を与えるほどに、一点の歪みも一点の崩れもない、人間的な不完全性が一切感じられない真球が。

 ああ。

 そして。

 そこに。

 あたかも。

 夜の海。

 その、水面に、映し出された。

 一つの、星の、姿の、ように。

 生と死と。

 その境界。

 に。

 現われる。

 星が。

 現われる。

 舞踏する真昼の背後に、こうこうと、ろうろうと、一つの清明な沈黙のように、不死の星が輝いていた。あたかも、暗く広い海、その真っ黒な背景色から浮かび上がるかのように。その色は、完全な白、そこに何もないという意味での空白ではなく、まさにそこに何かがあるということの白い光であった。

 不気味であった。あまりにも、聖なる、聖なる、力であるがゆえに。そこに何かがあるということは、常に何かの凄惨と惨憺とを予感させる。それが、これほどまでに純粋な、駆動する力であるということであれば。それはもう、災害に等しかった。

 そうなのだ、そもそも、この星は、デナム・フーツが作り出した結界の発生装置である。いい換えれば魔王が作り出した魔学的エネルギーのエンジンであるということだ。そこからは、対神兵器が発生させる力と同じレベルの力が吐き出されている。

 ただ。

 一つ。

 奇妙な。

 ことが。

 ある。

 そのように作り出されているエネルギーが、一体、何に使われているのかということだ。というのも、どうやら、そのエネルギーは、現時点において結界の維持に利用されていないらしいからである。結界は、確かに、維持されているのだが。その維持は、どうやら真昼がそれをなしているのだ。つまりは真昼のオルタナィヴ・ファクトが結界の代わりの役割を果たしているということだ。そうであるとすれば、星の、作り出している、エネルギーは。一体、なんのために使われるエネルギーなのか? それは、どこに向かってその方向性を指示しているエネルギーなのか?

 ところで、星の光というものは、ある種の液体として理解されることがある。したりしたりと夜の空から滴り落ちてきて、それは、海を満ちたり引いたりさせる。海とはいうまでもなく子宮のことである。満ちたり引いたりするというのは、別に波の話をしているわけではない。生命の話をしている。子宮の内側で、生命は、星の光によって、生と死とを繰り返す。

 生は死で死は生だ。原始的な思考において、死は、決して恐れるべきものではなかった。なぜというに、死は全ての終わりを意味したわけではなかったからである。生の世界と死の世界とは隣接しており、それは境界によって分かたれたものであった。その境界を司っていたものが、つまりは不死の星である。

 死者は目に見えないが、それはただ単にここにいないからである。そして、原始的な思考が恐れたものは、死そのものではなく、この死者であった。なぜなら、死者は暴力的だったからである。それは荒々しい禍事であり、腐敗、枯渇、穢れであったからだ。それは感染した。嫌悪の感染、感染の嫌悪。

 嫌悪に理由があるわけではない。原始的な思考は実際にそうであることを気にしない。原始的な思考にとって最も重要なのは、それがそうなるということである。そして、嫌悪とは、嫌悪する者が嫌悪させられるということを意味している。つまり、死は、それゆえに嫌悪されていただけの話なのだ。

 そして、夜は境界だった。夜は、目に見えるものと目に見えないものとの境界だった。つまり、生の世界が死の世界と接触する接点だったということだ。その中で、星の光は生命であった、死者の生命であった。星の光は、静寂という意味で死であったが、一方で、光という意味で生であった。

 不死の星は境界上にあるということだ。あたかも海、水面に浮かんでいるかのように。不死の星は液体を海の上に滴り落としていた。海とは不死の星が滴り落とした液体の集積した結果なのだ。それは他界との接続点なのではない。それ自体が、他界の一部なのだ。全ての生き物はあちら側に還っていく。全ての生き物はこちら側に還ってくる。

 星には、あらゆる死者を呼び起こす力があった。それが星の光だ。それは、何と呼ばれていたか? それは変若水と呼ばれていた。あるいは死水と呼ばれていた。どちらも同じだ、同じ質量で出来ている。シリミズはシニミズでありシニミズはシリミズである。その水を浴びることで、生と死との境界は曖昧になる。つまり、死者は、生き返る。

 つまり。

 不死の星は。

 その力によって。

 死霊の水を。

 作っている。

 今なんか変なノイズ混じってなかった? いや、まあいいか。ともかくですね、何がいいたいのかといえば、その星のエネルギーは、死霊の水を作り出すのに使われていたということである。死霊の水とは何か? 励起されたたましいの力とは何か? 「なとあとふれふれふれやふれ、ふるふるたまふるふるりらふるれ」それは、祝祭だ。祝祭の錯乱である。

 不死の星が……次第に、次第に、その光の強さを強めていく。内部に、蓄積している、稠密している、エネルギーが、その総量を、凄まじい勢いで増しているのだ。光は、強く、強く、強く、なっていって。そして、とうとう、光自体がその光に耐えられないほどのものになってしまう。

 不死の星が……その瞬間にどろりと濁った。あまりに鮮烈な光のせいで光自体が歪んでしまったかとでもいうように。真っ白な星であったもの、しゃらん、るうるう、別の色が混じる。要するに、何が起こったのかといえば、星の内側から、何かが、何かが、滲み出てきたということだ。

 赤。

 赤。

 赤。

 それは、赤。

 真昼の。

 心臓を。

 抉って。

 その傷口から。

 滴り落ちている。

 血液の色。

 その光景は……あたかも……不死の星が、血を流しているかのようだった。なんらかの疫病に侵された純白の皮膚が、その内側の肉と骨とから、どろどろとした血を染み出しているかのようだった。生き物の肉体を、ぐじゅぐじゅになるまで磨り潰した、その液状化した肉塊のような、べたべたとした質量を持った腐敗物。そのような、見ているだけで吐き気がしそうな悍ましい粘液が、不死の星から滲んでくる。

 その粘液は、不死の星の表面を覆っていく。白い光を赤い貪婪によって染めていくように。ふるふると震える流膠質が寄生していくかのように。不死の星の表面は、どろりどろり、と、その粘液によって覆われていく。

 ただ、とはいえ、全体を覆ってしまうというわけではなかった。なぜなら、その粘液は上から下へと流れ落ちていっていたからだ。つまり、その粘液は、星と星ととが引き合う力、重力によって引き摺られていたのだ。

 必然的に、その粘液は、星の表面の辺りに停滞していくことになる。赤い、赤い、血液のような粘液。いや、その、まさに真昼の血液であるところの血液。真昼が、リチャードへの復讐のために、自らの手首を噛み切って、そこから流した血液。不死の星の下半分を、あたかも海半球のように覆い尽くしている。その光景は、例えるならば……一つの巨大な眼球が浮かんでいるかのようだった。眼球が、ふわふわと、海の上を揺蕩っている。眼球は、その周囲に、涙を溜めている。その涙は、今にも、今にも、流れ落ちてしまいそうで。

 それから。

 次の。

 瞬間に。

 その眼球は。

 不死の星は。

 まるで。

 奇跡の。

 ように。

 涙を。

 流す。

 するり、と、他愛もない愛撫のように表面を滑り落ちた一滴のしずくが。甘く、甘く、溶けてしまうように甘く、もう一つの星に向かって、大地に向かって、滴り落ちた。ぽたん、と音がする。その音は、美しかった。美しいという形容詞でしか表現出来ないほどに、美しさのイデアだった。脳髄を震わせた。心臓を震わせた。そして、その瞬間、世界の肺が呼吸を止めた。

 その落涙の奥義はこうである。すなわち、その涙はダニエルの雨であり、その涙はアシュペナズの硫黄と炎とであり、その涙は奇跡である。バプテスマ、バプテスマ。バプテスマは水によって行なわれる。バプテスマは火によって行なわれる。どちらにせよ清めだ。そして、清めとは穢れである。あまりにも強力な力は容易に転覆すること。金の鉢の中に主の怒りは満ちた、聖なる聖なる方の血液は腐り果てた。ああ、奇跡です、奇跡です、わたしたちに奇跡が訪れました。その時には、もう、わたしたちは死を求めても与えられません、死にたいと願っても、死は逃げていくのです。

 さあ、思い出しなさい。砂流原真昼は死人の中から蘇りました。砂流原真昼はもう死ぬことがなく、死はもはや彼女を支配しません。もしあなたがたが砂流原真昼と共に死んだなら、また彼女と共に蘇ることを信じるのです。砂流原真昼にあずかるバプテスマを受けたあなたがたは、彼女の死にあずかるバプテスマを受けたのです。すなわち、あなたがたは、その死にあずかるバプテスマによって彼女と共に葬られたのです。それは、砂流原真昼が奇跡によって死人の中から蘇らされたように、あなたがたもまた、新しい死によって死ぬためです。あなたがたはこのことを知っています。

 血液は大地の上に落ちた。あたかも、生命の全ての罪の全てを背負って死んでいったトラヴィールのように、ティンダロスの十字架に架けられて死んでいったトラヴィールのように、無残に墜落した。そのうちにはあらゆる穢れが閉じ込められていた。真昼の穢れ。真昼の感情。瞋恚、絶望、憎悪、醜念、要するに、真昼の復讐が閉じ込められていた。

 従って、それは恵みの雨であった。あらゆる穢れは転倒して春嵐となる。死は生になる。生は死になる。要するに、怨情とは、豊穣である。

 落ちたしずくは大地を震わせた。あるいは大地に触れてそれに憑依した。ごうごうと燃え盛る真昼の感情が萌芽のためのエネルギーとなる。

 柔らかに。

 一つのたまのように静まり。

 お前はなんと深い杯なのか。

 そうして、心持ち些喚くかのようにして。

 夜を曳航しながら沈んでいく悲しみの光。

 お前はあの日々の夢を背負って。

 なだらかに、その影を漂わせて。

 深く、深く、声を眠らせるのだ。

 ゆら、ゆら、と。

 身じろぐようなさざ波だ。

 ああ。

 お前は。

 呼び戻そうとしているのだな。

 過ぎ去ってしまった星の姿を。

 心の中に探し求めているのだ。

 手を動かせば散り散りになっていくような危うさ。

 震え慄きながら。

 お前は、湛え、溢れさせている。

 夜はお前の目の前で銀色に閉ざされた光だ。

 夜は細々とお前に群がっている透明な鼓動。

 そして。

 それは。

 よろめきながら流れる。

 薔薇の、怪物。

 そう、そうだ……薔薇の花、薔薇の花、薔薇の花。例えば一つのあぶくがぽかんと弾けて、内側に閉じ込められていた甘く切ないものの全てがばらばらに飛散するかのようにして。その赤いしずくが落涙した一点を中心にして、炸裂、爆発、一気に、大地に薔薇の花が咲き乱れた。

 いや、無論、それは植物としての薔薇ではなかった。そうではなく、それはあの薔薇だった。つまり、あのお城の周囲に、咲いて、咲いて、咲いて、お姫様のための幸せなお花畑を形成していた薔薇。一枚一枚の花弁が境界であるところの、ディスペンサティオとしての薔薇の花だ。

 ただ、あの薔薇と全く同じものであるというわけではなかった。銀とジュノスと。どういうことかといえば、お城の周りに咲いていたあの薔薇は、時空間に関する境界の定義だった。一方で、この薔薇は、生命の境界だった。生きているということと死んでいるということとの境界。目の前で溶解していく亡骸と、まさにその亡骸を凝視しているところの亡霊と、その二つの間を障害しているところの境界だ。

 いや、もっと正確にいえば、それは境界そのものでさえなかった。それどころか、それは、そういった分析の眩惑であった。そういった整然とした秩序を破綻させるためのもの。あちら側とこちら側との区別を嘲笑し、惑わすもの。それは発狂だった。その薔薇の花の、一枚一枚の花弁が、逆上した狂気の暴走であった。何がいいたいのかといえば……つまり……それは……錯乱。

 それはつまり。

 プカプカトン。

 の。

 錯乱。

 デナム・フーツの作り出したあまりにも強力なマジック・パワー・プラントが、計り知れないほど大量の魔力を発生させて。その魔力を、球形の集中装置の焦点部分で、可能な限り集中させて。そうして作り出された凄まじい魔力エネルギーを、死霊術の方法によって利用することによって、真昼は、無数の、無数の、非時香花を作り出したということだ。

 非時香花とは、こう書いて「ときじくのかぐのはな」と読むのであるが、儒学系の死霊学の一つであり、とはいえ、その一部分にミヒルル・メルフィス的なシュラマナ方法論も含まれている。まあ、そうではあるにせよ、ベースラインとしてはプカプカトン錯乱状態を利用するタイプの非常にオーソドックスな死霊学である。

 非常に単純化していうと、死霊学というのは、死体に魔学的エネルギーを注ぐことで死体内部の魄を操作可能にすることに関する学問である。非時香花は、一輪一輪の花が、そのような魔学的エネルギーと、それに操作魔法が一体化した、いわば寄生体を形成しているのだ。

 このような説明は、実は全然正確ではなく、分かりやすくするために細部を省いたり捻じ曲げたりしたものであって。実は、先ほど境界と書いたように、この花自体にジュノスの門のこちら側と向こう側との境界を一時的に曖昧化させる効果があり、そうすることで、向こう側にあるはずの、操作対象であるところの死体の魂を、ある程度こちら側の魄に共鳴させることが出来るのである。そうすると、死体の能力を生存時のそれに近付けることが出来たり、あるいは操作精度を格段に上げることが出来たり、そういうことが可能になるわけなのだ。が、とはいえ、そういうこまごましいポイントは、死霊学部の学部のテストとかでは重要になってくるかもしれないが、この物語においてはさして重要ではない。なので、ばっさりカットさせて頂きますね。

 そんなわけで、この花に寄生された死体は、この花の析出者によって自由自在に操ることが出来る操り人形になるということだ。ちなみに、実は、非時香花というのは、実際に存在しているスナイシャク特異点である非時香花の名前をとって名付けられたものであり「非時香花を利用して生き返らせた時と同じように死体を利用可能にする」というような意味がある。

 真昼は。

 その。

 非時香花を。

 オルタナティヴ・ファクト。

 その深海の、海底の。

 一面に、結んだのだ。

 とはいえ、そうすることに一体どのような意味があるというのだろうか? 確かに、その魔学的エネルギーは凄まじかった。本当に、一瞬で、海の底には燐光を放つ怪しい怪しい常世の花が敷き詰められた。それは、何か、別の世界、まさに夜を見る生き物のための世界であるかのように。とはいえ、それが咲いているところに何もないのであれば。そこに死者がいないのであれば、その花には意味がないのだ。ただ、ただ、美しいだけで……いや、待て。ここは、戦場であったのだ。ここはある軍勢とある軍勢とが死闘を繰り広げたその場所だったのだ。そう、つまり、ここには死体がある。しかも、大量に。数え切れないほど大量に。そうだ、そうだ、つまりはそういうことだった。真昼は、なんの理由もなくその花を咲かせたわけではなかった。たましいを震わせる力。たましいに触れる力。それは、あがなたまふる力だったのだ。真昼は、励起させた。停止したたましいを。就眠したたましいを。

 数百の。

 数千の。

 死せる。

 ノスフェラトゥの。

 たましいを。

 リチャードが、デニーに対抗するために結界の内側に呼び寄せて、死んで、死んで、死んでいったノスフェラトゥの死体。どこまでもどこまでも見渡す限り、ちぎれ飛び、積み重なっている、死体。それらの死骸に、非時香花が寄生していた。生命を失った、肉と骨と内臓との残骸に、幾つも幾つも、薔薇の花が根を伸ばしていた。あたかもそういった残骸から生命を吸い取って、そうして咲いているかのようにして。

 禍々しく光り輝きながら、薔薇は、ずるりと、その根を死体の中に滑り込ませた。その死せる魄、開いたままになっている「門」の内側へと侵食していく。「門」とは、簡単にいえば、生命の内側にある「道」と生命の外側にある「道」とが接触しているポイントのことである。「道」は、いうまでもなくスナイシャクの流れ道のことを儒学においてそう呼んでいる名前のことであるが。「門」は、そのスナイシャクの流れ道が外部に向かって開いている部分を指している。

 薔薇は、そうやって、ノスフェラトゥの死体、スナイシャクの通り道の全体に、真昼の魔法を流し込んでいく。真昼の震え、真昼の賜い、要するに、真昼の夢幻能を。夢と、幻と、その能力。夢を見ていたのだ。この世の夢を見ていた。それは理解出来ないが、そうであったとしても、弔い、弔い、弔いを求めている。生きているのだ。死んでいるのだ。そして、それは夢幻なのだ。何もかも曖昧になる。境界が融けていく。まるで、暗い夜、眠る直前のように。現実の世界を、夢が蝕んでいく。それは現実でも夢でもない、生きているわけでも死んでいるわけでもない何かになる。

 ああ。

 そう。

 そうなのだ。

 結局は。

 それは。

 死者が。

 真昼の。

 夢を。

 生きて。

 いるに。

 過ぎない。

 ノスフェラトゥの死体、そのうちの一体、舞台の上で、そのたった一体にスポットライトを当ててみよう。そうしてスポットライトが当たった瞬間に、それは、その死体は、読者の皆さんにとって、いうまでもなく他の無数のノスフェラトゥにとっての代理的象徴の意味を持つ一体となる。

 花の下にて……ふらり、と、指先が、彷徨うかのようにして揺らめいた。一瞬、見る者の視覚が戸惑っただけなのかと思ってしまうほど、その死体を照らし出す薔薇の花の光が見せた幻惑なのかと思ってしまうほど、ささめいて。

 とはいえ、それは見間違いではない。確かに動いたのだ。その証拠に、見よ! 見よ! その手のひらを! 刃のような、針のような、その五指を! それは、がたがたと、耐えられないほどの激情に耐えているかのように震えている。震えながら、ぎりぎりと、自らの身体の下、硬い、硬い、岩盤を、抉り取るかのようにして握り締める。

 ずるう、と、いう音を立てて。その死体の腕が、まるで死体の腕のようにして、肘の部分が引き摺り上げられる。右腕、左腕、その身体を中心として、その身体に向かって架橋したような形になる。そして、手のひらに、腕に、力が込められて。とうとう、その身体、上半身が、引き上げられる。

 その瞬間に、そう、その身体の全身を埋め尽くすかのような薔薇の花、よりも、更に、更に、巨大な花。たった二枚の花弁の花が咲き誇るかのようにして、ノスフェラトゥの背、右翼、左翼、双方が、斉一的に開かれる。

 さばり、さばり、と、二度ほど、感覚を確かめるかのようにして羽搏くと。それから、ぞうっと、音を立てて。周囲の暗黒を羽に巻き付けて、それを大地に向かって叩きつけるみたいに、ノスフェラトゥは飛翔した。その海中を、暗く広い海を、真昼のオルタナティヴ・ファクトを、一気に駆け上がっていく。

 そして、もちろん……このようにして見てきた、このようにしてスポットライトを当てられていた、このノスフェラトゥは。何百鬼、何千鬼、ここで死んでいるノスフェラトゥのうちの一鬼に過ぎなかったのだ。そして、そのような、何百鬼、何千鬼、ノスフェラトゥの大軍勢が。その一鬼一鬼が、今、飛翔した、このノスフェラトゥと同じように。死んでいたはずのその身体を起き上がらせて、それから、上の方に向かって上昇していく。

 一つ。

 一つ。

 地のおもてから。

 天空に向かって。

 打ち上げられる。

 その姿は。

 無数の。

 無数の。

 花鬼。

 当然だ、当たり前のことである。王子様からお姫様への贈り物にこれほど相応しいものがあるだろうか? 大地の一面に広がる、大空の一面に広がる、あるいは、海の全体に充満するかのような、大きな大きな花束ほどに。お伽話の中で死んでしまった悪魔の王から、誰からも愛されることがなかった少女に対して贈られるべき贈り物として相応しいものなどあるはずがないのだ。

 舞踏する真昼の周囲に、一鬼、一鬼、その全身を花束にしたノスフェラトゥのリビングデッドが……まさに、真昼がそう言っていた通り。一万に近付かんとする、その散乱する空華は、要するに花鬼の大軍勢だった。

 怪物は怪物を呼んで、その夢は遠い遠い海の底に繋がれていく。花粉の奏でる艶やかなる香りは、もう二度と開くことがない瞼の裏を、羽搏いては消えていく過去の残響によって塗り潰す。黒く、黒く、吹雪のように醜悪なる復讐の感情は乱舞する。そして、その奥に、甘い想起の透明な相貌が消えていくのだ。花弁は暗い水の中をしきりに浮かび上がってくる。揺れて、揺れて、その鏡にも似た表面を微笑のように震わせている。ああ、見えざる星の鬼よ、見えざる星の鬼よ。今、この世界の奥津城に何も映し出さぬ鏡を備えよ。

 薔薇の。

 薔薇の。

 薔薇の。

 葬列。

 を。

 背後に。

 従えながら。

 真昼は。

 その舞踏の最後のひとしきりに入っていた。不死の星を背後の光景に映し出して。その周囲に、数え切れないほどの花鬼を従えながら。真昼は、すうっと、あたかも聖なる聖なるティンダロス十字そのもののようにして浮遊していた。それ、は、遺骸の象徴化、にも、似て。真昼は、両腕を、緩やかに伸ばして。右手を右の方に伸ばして、左手を左の方に伸ばして、部隊の真ん真ん中に、光り輝く十字の星のようにして、立っていた。

 いうまでもなく始まりは終わりであり終わりは始まりである。ということで、真昼のこの舞踏も、その終わりは始まりのようにして終わるのだ。真昼は、ゆらりと伸ばしたその両腕をゆっくりゆっくり、自分の目の前で閉ざしていく。腕を、柔らかく伸ばしたままで、その仮面の視線の先、手のひらを合わせるかのように。それから、また、その両腕を開いていく。開かれたものは閉じられ、閉じられたものは開かれる。円環の闌位。

 鬼の体から、剥がれた。

 死者の薔薇の、花弁が。

 ひらり。

 ひらり。

 と。

 舞い落ちる。

 そう。

 要するに。

 これが。

 至花道。

 真昼の仮面は。

 天女のごとく。

 皮。

 肉。

 骨。

 万体の。

 花鬼に。

 風合連曲して。

「魔王崩御の悲しみの舞なれば。」

 美しい。

 美しい。

 仮面。

 が。

 風に消える。

 花のように。

 こう。

 言う。

「一舞舞おう夢跡却来華。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る