第二部プルガトリオ #8

 Attention!

 このイシューからとあるキャラクターが登場します。このキャラクターは冷笑的な態度が大変ムカつくキャラクターで、生理的に受け付けないというか、お前何様のつもりなんだというか、一つ一つのセリフを読んでいるだけでぶっ殺したくなるというようなキャラクターです。こんなキャラクターは誰も好きにならない。作者でさえも好きにならない。しかも、ただムカつくというだけではなく、第二部プルガトリオ、その全体の約半分がこのキャラクターの一人語りで構成されています。なんでそんなことするんだよと不思議に思われるかもしれないですし、実際のところ、こちら側としても、なんでそんなことしたんだろうと不思議に思っているのですが、ただ、とはいえ、これは物語の構成上仕方がなかったことで、これ以外にこの物語を構成する方法はなかったのです。たぶんね。まあ、それはそれとして、それを読むことは単純な煉獄です。書いている方がここまで精神的苦痛であったのだから、恐らくは、読者の皆さんにおかれましては、それ以上読むことが耐えられなくなることと思われます。普通に読むのやめると思います。いや、マジで。本当に。そのようなわけでして、えーと、ちょっとしたご提案なのですが、ここを読まれる前に、先に「第三部パラダイス #34」をお読みになることをお勧めします。なぜかというと、「第三部パラダイス #34」において、このキャラクターは、今までの冷笑的な議論を完全論破された挙句の果てに、真昼に全力でぶん殴られるからです。このシーンを読んでからだと、このキャラクターが何を言ったとしても「まあ、こいつ、後で完全論破されるしな」「まあ、こいつ、後で全力でぶん殴られるしな」と思うことが出来るので、精神衛生上非常によろしいというわけです。まあ、そんなこんなで、そろそろ本文に戻ろうと思います。レディ、オア、ジェントルマン……準備はAK? さあ、マコト・ジュリアス・ローンガンマンの登場です!


 デニーがそのように声を掛けた先には一人の人間がいた。そう、それは鬼神の類ではなく、明らかに人間であった。デニーが、このようなシチュエーションで、ただの人間に声を掛けるということだけでも、ちょっと意外なことであったが……それ以外にも、その人間には色々と興味を惹かれるところがあった。

 まず、その人間は……この場所がアーガミパータであるというにも拘わらず、真昼と同じ海果系の姿形をしていた。要するに、黒い瞳に黒い髪の毛に、それに加えて典型的な黄色人種の肌をしていたということだ。どう見ても混血には見えないので、愛国の人間か、もしかして月光人という可能性もあるだろう。

 そして、その人間が何をしていたのかというと。パレードに盛り上がる一般市民の姿をしきりにカメラに収めていた。レンズを向けてぱしゃぱしゃとシャッターを切って、時折、イパータ語らしき言葉で何かを話し掛けている。一般市民も一般市民で大分とノリがいいらしく、その言葉に答えてカメラの前でポーズをとったりもしていた。

 その行為に一体どういう意味があるのかということは、その人間の服装を見れば分かるだろう。その人間は、黒く頑丈そうなヘルメットを被って、黒く頑丈そうな防弾ベストを着けていたのだけれど。その黒地の上には、白い文字で、でかでかと、「PRESS」という文字が書かれていた。要するにその人間は、カメラマンだか記者だか、そういうたぐいの人間なのだ。

 今。

 その人間。

 あるいは、マコトが。

 こちらを振り返って。

 いかにも意外そうな顔をして。

 こう言う。

「あらららら? デニーさんですか?」

 真昼は……その顔を見て少し驚いてしまった。なぜかといえば、その左側に、かなり大きな傷があったからだ。口の辺りから耳の辺りまで、斜めに上がっていくようにして引き裂かれている。特に口が一番ひどく、左の半分、何本か、歯が、完全に露出してしまっていて。まるで顔の片側だけでいつまでもいつまでも笑っているみたいに見える。

 ただ、そういった傷を別としても、マコトは笑っていた。にやにやとした……見る者に対して、曰くいいがたい不快感を与える笑い方で。どこといって特徴があるわけではないのだが、とにかく、こちらを馬鹿にしているような、そんな不愉快な笑顔なのだ。真昼はそれはなんでだろうと考えてみたのだが。どうやら、目のせいらしかった。ウルフカットといえば聞こえがいいが、ざんばらで、暫く散髪をしていないということを明確に表している髪。その髪の向こう側からこちらを見ている眼は……その笑顔とは全く独立したものであるかのように、全く笑っていないのだ。

 そして。

 恐らく愛想笑いだろう。

 そんな顔をしたままで。

 マコトは、こちらに歩いてくる。

「あー、やっぱりマコトちゃんだー!」

「どーもどーも、ご無沙汰してます。」

 マコトという名前や、その顔付き体付きからは、男とも女とも判断がつきにくかったのだけれど。その声は、明らかに女のものらしいと真昼は思った。その真昼の推測は正しく、マコトの性別は女であった。ただ、生理だのなんだのが色々と面倒なので、生殖器官は綺麗さっぱり切除してしまっていたのだが。

 それにしても。

 マコトという名前の、ジャーナリスト。

 真昼には何か引っ掛かるものがあった。

 それはともかくとして、マコトは、人込みからこちらまでやって来て。そんなマコトを見て、デニーは、どうやらとても喜んでいるらしかった。いつも高いテンションが、更なる高みを目指して。ぴょんぴょんと飛び跳ねてさえいたのだ。マコトが目の前に来ると、ぱっとその手を取って、両手できゅっと握って。それから、ぞっとするほど可愛らしい、甘えるような声で言う。

「なになに、どーしたのこんなところで!」

「いつもの通り、取材ですよ。」

「取材って、今回の小競り合いの?」

「ええ、そうです。全く……私も言ったんですけどね、こんなのはちょっとしたいざこざなんだから、別にわざわざ取材するほどのことでもないだろうって! でも、レイフェルさんが取材してこい取材してこいってうるさいもんで。」

「ほえー、大変だねー。」

「そんなことよりデニーさんこそどうしたんですか? 珍しいじゃないですか、アーガミパータで会うなんて。デニーさんって、確かワトンゴラ担当じゃなかったでしたっけ?」

「えー? もう、マコトちゃんってば……油断も隙も無いんだから! それって、記者としての質問かな? それとも、マコトちゃんの個人的な質問かな?」

「はてさて、どっちでしょうね。」

「んー、ここにデニーちゃんがいたってことは、デニーちゃんがいいよって言うまで内緒にしておいてね。」

「お望みならばそう致しましょう、ミスター・フーツ。」

「デニーちゃんもね、お仕事で来てるの。要人警護って感じかな。ここにいる真昼ちゃんっていう子をね、無事におうちまで届けるっていうお仕事。」

「真昼?」

 そう言うと、マコトは。

 真昼に、視線を向ける。

「もしかして……砂流原真昼さんですか?」

「そうそう、その真昼ちゃん。」

「へえ、すごいですね! まさかこんなところで会うなんて。REV.Mに誘拐されたって聞きましたけど。」

「わー、マコトちゃん、お耳が早いね!」

「はははっ! これでも一応記者ですからね。」

 マコトは、そんなことを言いながら。つっと滑るみたいな動き方で、デニーの後ろに無言のままで立っていた真昼の近くにやって来た。真昼は……普段であれば、こういった人間には、強い拒否感を覚えるところであろうが。例の思考の欠如のせいで……まあ、この戦争について「ちょっとしたいざこざ」だとか「わざわざ取材するほどのことでもない」だとか言ったことに対しては、理性的な嫌悪感を抱いてはいたのだが。ただ、その嫌悪感もそれほど強くなることはなく、なんとなくぼんやりと、不快な人間だな、といった程度の感情しか抱かなかった。

 マコトは。

 にーっと笑って。

 軽く頭を下げて。

 それから、こう言う。

「初めまして、私はマコト・ジュリアス・ローンガンマン。イエロー・タイムズで記者をしています。マコトがファースト・ネームでジュリアスがバプテスマル・ネーム、一応はトラヴィール教徒なものでしてね。ああ、フクロウ派じゃなくてオンドリ派です。」

 その自己紹介を聞いて。

 真昼の表情が。

 はっと変わる。

「イエロー・タイムズの、マコト・ジュリアス・ローンガンマン?」

「ええ、そうです。」

「もしかして、あなた……MJLですか?」

 その真昼の問い掛けに。

 意外そうな顔をして。

 マコトは、答える。

「おやおや、私のことをご存じなんですか?」

「あの……あなたが書いた記事、いつも読ませて頂いてます。」

「へえ、光栄ですね。まさか砂流原家のご令嬢が、私の記事を読んで下さってるなんて。」

 読んでいる、どころの騒ぎではなかった。真昼は、新しく書かれたマコトの記事が出るたびに、貪るみたいにして読んでいるし。過去に書かれたという記事も、アフォーゴモンのアーカイブからなんとか見つけ出して、その全てに目を通していた。

 マコト・ジュリアス・ローンガンマン。記事に入れられる署名からMJLとも呼ばれているこの女は……現代社会において最高のジャーナリストの一人ともいわれている、「反骨」の記者だ。エスペラント・ウニートにおけるオルタナティヴ・メディア、独立系新聞社の一つであるイエロー・タイムズに所属しているマコトは、大手メディアであれば絶対に踏み込むことの出来ない権力の闇に果敢にも光を当てて、腐敗した搾取者達の非道・無道な行いを次々に白昼の下に晒している。

 ム=フィニ・ベインガによる暴露以前に、ワトンゴラで行われていたスペキエースに対する人体実験についての記事を書いていたのは、ほとんどマコト一人だった。第二次神人間大戦後に次々と誕生したポンティフェックス・ユニットの新興政権が、どれほどギャングと近しい距離にあるかということを暴いたのはマコトだった。愛国における少数民族虐殺の実情についてマコトほど詳細な記事を書いた記者はいないし、エスカリア独立戦争時にエスペラント・ウニートの軍需企業がどれほど貪欲かつ悪辣な役割を果たしたのかということを明らかにしたのもマコトだった。何より、現在進行形で連載されている「アーガミパータ・レポート」は……間違いなく、ジャーナリズム史に燦然とその名を刻むであろう、報道による抵抗の記念碑、傑作だった。

 記事を書く際には、必ず現地に赴いて、自らの目と耳とで何が起こっているのかという「事実」を確認する。何日も、何か月も、時には何年も。自分が納得するまで取材を行って、丁寧に丁寧に虐げられた人々の声を拾い上げる。そうして手に入れた膨大な情報を、鋭く研ぎ澄まされた批判的な視線によって解体して。社会情勢に対する学術的な分析とともに、子供でも理解出来るような記事に落とし込む。

 それに、何より、マコトの記事には……間違いなく、人間の血が通っているのだ。マコトの書く記事からは、人間の怒りが伝わってくる。権力によって搾取される者・権力によって虐待される者の怒りが。時には、感情のままに紙面に叩きつけたのではないかと思うほどの熱量を持つ表現を使って。マコトは、腐敗しきった支配者の不正行為を告発する。挑発的で、情熱的で、感情的で。そう、マコトの記事には感情があるのだ。

 マコトが使うインクは虐げられた人々の涙で出来ている、といわれるほどだ。徹底的に、弱く正しい人々に寄り添うその姿勢。それから、苛烈なまでの叫び、目を覚ませ、目を覚ませ、目を覚ませ、怠惰という罪、凡庸なる悪、無関心であることによる加害行為に加担するな。

 それゆえに。

 真昼は。

 マコトの書いた記事。

 愛読して、いるのだ。

 先ほども書いたように、イエロー・タイムズはエスペラント・ウニートの新聞だ。だから、紙によって出版されているものを手に入れることは出来ない。だが、それでも、オンラインの記事を読むことは出来る。イエロー・タイムズの社長兼編集長であるレイフェル・ウィトレットの、絶対にスポンサーをつけないという経営方針のせいで、購読料金の月額はエスペラント・ウニートの貨幣単位で十八アラン三十ムーアと決して安くはない(エスペラント・ウニートにおけるオンライン新聞の平均価格は月額九アラン二十ムーア)。それに、サーバーの容量なのかなんなのか、バックナンバーの閲覧も出来ない。それでも真昼は……アルバイトで稼いだ僅かな金を使って、購読をしていた。

 マコトの記事を読むために、だ。真昼にとって、マコトは、本当に信じることの出来る数少ない人間のうちの一人だった。真昼の生きる指針は、その大部分が、マコトが示したもので。真昼にとってのマコトは、この世界というものを教えてくれる先生だった。サヴィエト・ルイドミに販売されたサリートマトの兵器がいかにして発展途上国のテロリストに流出しているのかについて書いた記事によって、弱冠二十歳にしてアイズナー賞を受賞したマコトは、真昼にとっての永遠のヒーローといっても過言ではなかった。

 そして。

 そのマコトが。

 今、目の前に。

 立っている。

 ジャーナリストであるにも拘わらず、マコト自身はほとんどメディア露出をしないということで有名だった。それには二つ理由があるらしく、まず一つ目は、顔が知られていると潜入取材をしにくいということ。そして、二つ目は、あまりにも本質に迫る記事内容のせいで、様々な勢力から命を狙われているという理由だ。そのため、真昼は、今の今まで、マコトがどのような姿形をしているのかということを全く知らなかった。

 まさか……まさか、これがMJLだというのか? にやにやと皮肉気に笑う、この女が? アーガミパータにおいて、たくさんの人々が犠牲になった戦闘を、「ちょっとしたいざこざ」であって「わざわざ取材するほどのことでもない」と言った、この女が? そんなこと、真昼には、信じられないようなことだった。マコトの書く記事からは想像が出来ない……マコトの書く記事には、皮肉など、全く含まれていない。そこにはこの世の中の悪に対する純粋な怒りがあるだけだ。

 いや、もしかして何かの間違いではないか? さっき、デニーとの会話の中で聞こえたと思った、ああいった、被害者達のことを馬鹿にするような言葉は。全て聞き間違いではないか? そう思って、真昼は、更に言葉を続ける。

「ワトンゴラについての記事……何度も何度も読み返しました。その……「仮にこの少年のことをテロリストと呼びたいのならば、それでもいい。そう、確かにこの少年はテロリストだ。私達によって虐げられ、私達によって見放され、その絶望ゆえにテロリストとなる以外の選択肢を奪われたテロリストなのだ」っていうところ、すごく好きです。」

「あー、そうですか。あはは。」

 真昼の言葉に、マコトは……なんとなく困ったような、はぐらかすような表情でそう答えた。その表情は、あるいは、その乾いたような笑い方は。真昼の知っているMJLでは有り得ないようなそれであった。MJLは、こんな表情はしない、こんな笑い方で笑わない。この世界中の全ての人間の中から、絶対にMJLではない人間を一人だけ選べと言われたら、真昼はこの女を選ぶだろう。マコトはそんな女だった。

 あまりの戸惑いに。

 あまりの違和感に。

 真昼は、更に、何かを言おうとするが。

 しかし、それを遮るようにして。

 ぷーっと頬を膨らませ。

 ちゅっと唇を尖らせた。

 デニーが。

 口を挟む。

「そーそー、そーだよー! マコトちゃんが書いたあの記事! あの記事のせいで、デニーちゃん、すっごくすっごく怒られたんだからね! あれのせいで、パンピュリア共和国には国際的な圧力がかかるし、Beezeutも動き出したし! 揉み消すの、とーっても大変だったんだから!」

「もー、デニーさんってば! あの件に関しては何度も何度も謝ってるじゃないですか。それにですね、デニーさんが名前出すなって言ったから、記事の中でデニーさんが出てくるところ、全部仮名にしましたし。」

「そういう問題じゃないぞお!」

 MJLが……デナム・フーツと親しげに話している。反骨の記者が、ギャングの幹部と、良好な関係を築いている。真昼にとって、それは、まるで現実味のない光景だった。ある種の悪夢みたいだ、着ぐるみショーに出てくるヒーローの着ぐるみの中から、ヒーローでもなんでもない人が出てくるところを、うっかり見てしまうような。そんなたぐいの悪夢。

「それよりもですよ、今は砂流原さんの話をしてたんじゃないですか! 話を戻しましょう、そうしましょう。それで……なんで、砂流原さんの救出のために、デニーさんみたいな超大物が出張ってくることになったんですか? 砂流原さんの身柄にディープネットが賞金を出したとか、そういう話は寡聞にして存じませんけど。もしかして……遂にコーシャー・カフェがディープネットと何かの協力関係を持つことになったとかですか? そういうことなら、世界を揺るがすビッグ・ディールじゃないですか。」

「おーっと、さすがマコトちゃんだね! すぐに話を取材の方向に持ってくんだから。真昼ちゃんも気を付けないとだめだよ、マコトちゃんにかかれば、ないしょにしておきたいお話もぜーんぶ聞き出されちゃうんだから。お口にぴったり接着剤! ノーコメントだよ、ノーコメント!」

「あっはっは、そんな人聞きの悪いこと言わないで下さいよ。それで、実際のところ、どうなんですか?」

「んもー、マコトちゃん! そんなこと、デニーちゃんの口からお話し出来るわけないでしょ! それよりも、マコトちゃんの方はどうなの? 取材は順調に進んでる?」

「相変わらず話を逸らすのが下手ですねー。取材……んー、そうですね。まあ順調といえば順調なんですけど、もう戦闘の大部分が終わっちゃいましたからね。その戦闘の内容も、いつもの通りっていうか、盛り上がりに欠けるっていうか、そういう感じでしたし。これから記事を書かなきゃいけないんですけど、どうしてもワンパターンな感じになっちゃうんですよね。どうすればいいのかって悩んでるところですよ。

「ただ、今回は、暫定政府軍が馬鹿みたいなことをしたって聞いたんで、それにはちょっと期待してるんですけどね。デニーさんはご存じだと思うんですけど、ほら、ハーフラインのこっち側にポータル・ベースを作ったっていう話。タンディー・チャッタンの近くだったかな? あそこら辺は、そのせいでまだ戦闘が続いてるらしいんで、このパレードの取材が終わったら、ちょっと行ってみようとは思ってるんですけど。」

「あ、そうそう、タンディー・チャッタン!」

 マコトの言葉に、デニーはそう言うと。

 自分の胸の前で、ぱんっと手を叩いた。

「あらららら。その様子だと何かあったみたいですね。」

「あそこの指揮官の蛇のこと知ってる?」

「シャーカラヴァッシャ代将ですよね。」

「そうそう、あの蛇がね、対神兵器を使ったの!」

「えー、対神兵器! 本当ですか!」

「ほんとーだよ! デニーちゃん、見てきたもん!」

「いつですか?」

「ついさっき!」

「等級は?」

「鵬妓級。薨々虹蜺だったよー。」

「ちなみに……何人ぐらい死にました?」

「たぶんだけど、五万人くらいは死んだんじゃないかな。」

「それは面白いことになりましたね。」

「でしょー! これは記事になるんじゃない?」

 そのデニーの言葉に、マコトは。

 ほんのちょっとだけ、何かを。

 考えるような仕草をしてから。

 残念そうに、答える。

「うーん、確かに大ニュースなんですけど……ちょっと、記事にするのは難しいですね。」

「えー、どうして?」

「ちょっと読者受けが良くなさそうなんですよね。こう、パンピュリア共和国とかエスペラント・ウニートとかの驕り高ぶった先進国に操られた姑息で卑劣な暫定政府が、アーガミパータにあるか弱い地元政府に対して、破壊と殺戮と、悪逆非道な行為を繰り返しているっていうのが読者の望んでる記事なんです。それなのに、その地元政府が大量破壊兵器を使ったってなると……認知的不協和が起こっちゃって。下手したら記事自体を読んで貰えない、みたいなことが起こりかねないですからね。」

「へー、なんだか難しいんだね。」

「そうなんですよー。普通だったら、こういうことを考えるのって編集長の役目なんですけどね。ほら、ウィトレットさんってああいう人でしょ? 真実一路っていうか、馬鹿正直っていうか。だから私が考えないといけなくて……まあ、でも、今回の件に関しては、そういったことは関係なく記事には出来ないですけど。」

「ほえ? なんで?」

「なんでって、休戦協定ですよ休戦協定。対神兵器について書くと、マホウ界が関係してくるから、即座に検閲が入って没になっちゃいますね。」

「あー、そっか! そうだったね。」

 話の内容が、一段落したところで。

 マコトがほへーっと溜め息をつく。

「これが、暫定政府軍が不定子爆弾を使用したーみたいな話だったら、最高の記事が書けたんですけどね。」

「んー、そうだねー。っていうかさ、暫定政府軍って、なんであんなお馬鹿さんなことしたんだろうね。あんなところにポータル・ベースなんて作ったら、壊されちゃうに決まってるのに。」

「あー、例のパイプライン関係らしいですよ。」

「ほえ?」

「ほら、あったじゃないですか。ヴァンス・マテリアルズだとかバビロンエクスプレスだとかが支援して、ここから中央ヴェケボサニアに向かって、液化させた赤イヴェール合金を輸送するためのパイプラインを通すって話。もしもそれが実現したら、ここで採掘した赤イヴェール合金が人間至上主義諸国に大量に輸出されることになって、そうなると暫定政府にとっては色々不都合じゃないですか。それに対して反対するっていう意味でああいうことしたらしいです。」

「えーっと、つまり……どういうこと?」

「いやー、私もよく分かんないんですけどね。つまり、暫定政府軍がその気になれば、人間至上主義諸国の手を借りなくてもああいう場所にポータル・ベースを作れるって示すことで、いざとなったら何をしでかすか分からないって思わせるため、みたいな。なんていえばいいのかな、人間至上主義諸国が、暫定政府の反対を無視してパイプラインを通すつもりなら、こっちもこっちで考えがあるって意思表示って感じですかね。」

「あー、そういうことか!」

「そうそう、そういうことです。だから、最初から、あのポータル・ベースを絶対に守り通すぞーっていうテンションじゃなかったんでしょうね。まあ、記事としては……暫定政府の政治的思惑に翻弄された兵士達が、最初から陥落することが決まっていたポータル・ベースの防衛のために、何千人も何万人も犠牲になった、っていう風にまとめるのが一番無難ですかね。」

 さて。

 このような会話を。

 聞いていた真昼は。

 さすがに。

 吐き気が。

 してきた。

 もしも例の精神的な欠損がなければ、マコトに向かって殴りかかっていたのではないかと思うほどだった。というか、精神的な欠損があってさえ、かなりの不快感を覚えている。あのMJLが。高潔で清廉な人権の闘士が。こんな、こんなことを、へらへらと笑いながら口にするなんて。

 一体どういうことなんだろう。真昼には全く理解出来なかった。MJLと署名された記事から浮かび上がってくる人物像と、実際のマコト・ジュリアス・ローンガンマンとは、あまりにもかけ離れていた。もしかして……全てが。真昼が、今まで、生きるにあたって指針としてきた全てが。「読者受け」のために作られた、虚構だったということなのか?

 ちなみに。

 結論だけを先にいえば。

 まさにその通りですね。

「と、そんなわけでですね。私は、今、記事の種に飢えてるところなんですよ。そんなところにデニーさんが現れたっていうことで、これはもうヨグ・ソトホースのお導きとしか思えませんね。」

 しかしながら。

 そんな真昼の思いなど。

 お構いすることもなく。

 マコトは、話を続ける。

「それで、どうなんですかデニーさん。今回の件はSKILL兵器の販売ネットワークにどんな影響を与えるんですか?」

「わー、お話がもとのところに戻ってきちゃったよー!」

 デニーは、そんなことを言いながらも。マコトの、強引とさえいえる取材に対して、それほどの不快感を覚えている様子はなかった。なんというか、慣れているというか、いつものことなのだろう。両手をぱっと開いて、自分の顔の横でひらひらとさせて。どうしようー困ったなー、みたいな感じの、わざとらしいジェスチュアをしていたのだが……やがて、また口を開く。

「あ、そうだ!」

「あらら、どうかなさったんですか?」

「ふっふっふー、そういえばね、デニーちゃんには、とーっておきの情報があるんだよ。」

「とっておきの情報?」

 マコトは。

 明らかに。

 興味を惹かれた声で。

 そう言った。

「マコトちゃんも、アヴィアダヴ・コンダのことは知ってるでしょー?」

「知ってます知ってます、暫定政府がASKに売っ払ったところですよね。」

「そうそう、そこだよ!」

「あそこに住んでるダコイティの方々に同行取材をしたこともありますよ。二か月くらい前だったかな……まあ、その直後にこっちで戦闘が始まって、それに付きっ切りになっちゃったんで、まだ記事にはしてないんですけど。」

「そのダコイティの子達がね……なんと、遂に殲滅されちゃったのです!」

「え……えーっ! それ、マジですか!?」

「ほんとーだよ、ほんとー!」

「え? いつですか?」

「つい昨日だよー。」

「昨日? 昨日って、昨日ですか? うわー、最新ニュースどころの話じゃないじゃないですか。え? でも、なんでそんなことになったんですか? あそこ、確か、デウス・ダイモニカスが十人かそこらいましたよね。しかも、そのうちの一人がフォー・ホーンドだったはずですし。結界の中にいる限り、そう簡単には陥落させられないと思ってたんですけど。」

「あーっと、ちょっと色々あってね。」

「もしかして、デニーさん……またなんかやったんですか?」

「えへへ。」

「へえ、やっぱりそういう感じですか。デニーさんって……ノスフェラトゥとグールの戦争の時といい、エスカリアの時といい、本当に疫病神みたいな人ですよね。まあ、デニーさんはデミウルゴス種じゃないですけど。」

「マコトちゃんてば、ひっどーい! そんなこと言うと、何が起こったかっていう詳しいこと、教えてあげないぞ!」

「あはは、すみませんすみません。でもそれ、本当に、超スクープですよ。こっちの取材を切り上げて、すぐにでも現場に行かないと……第一報だけでも今日中にウィトレットさんに送って、それから、近くの難民キャンプまでポータルで送ってくれるように教会に頼んで……忙しくなりそうだな……デニーさん、詳細情報、いつ頃送って頂けますか?」

「うーん、このお仕事が終わってからになっちゃうけど、少なくとも数日中には送ってあげられると思うよ。」

「となると、明日中には現場に入って、ダコイティの森の開発状況を写真に撮って……潜入記事と一緒に乗せれば、数日くらいは穴埋め出来るかな。それから、デニーさんから貰った情報を、匿名の情報提供者からっていうことで記事にして。その後は……アーガミパータにあるASKの支配地域を一つずつ回って、大々的に反ASKキャンペーンか。いや、これはいけますよ。ASKっていったら、分かりやすい搾取者の代表格ですからね。それが、果敢にも立ち向かった抵抗者、現地住民を虐殺したんですから。読者は大喜びですよ、泣きながら自淫するんじゃないですかね。はははっ。」

 話がここまで来て。

 とうとう、真昼は。

 耐え切れなくなった。

 精神的な欠損があって、本当に良かった。もしもなかったら、間違いなくこの女を殺していただろう。ダコイティの犠牲を、パンダーラの犠牲を、にやにやと笑いながら冗談の種にしているこの女を。ほとんど衝動的に、この左腕から、矢を放っていたに違いない。そして、薄笑いを浮かべている口に手を突っ込んで、その舌を引き抜いていたに違いない。

 真昼は、デニーに「ねえ」と声を掛けた。「なあに、真昼ちゃん」「いつまでも喋ってないで」「ほえ?」「そろそろ行かなくていいの、もう、日が暮れる」「あー、そうだね、そろそろ行かないと……」と、このように言葉を交わした後で。デニーが、ふっと、何かを考えるみたいな顔をした。

 暫く。

 呆けたような顔をして。

 思考を巡らせていたが。

 やがて。

 マコトに向かって。

 また、口を開く。

「ねえ、マコトちゃん。」

「はい? なんですか。」

「マコトちゃんって、これから、忙しい?」

「いやいやいや、デニーさん、今の話聞いてなかったんですか? めちゃくちゃ忙しいですよ。スクープは鮮度が命ですからね。」

「へー、そうなんだ! えーっとね、それでね、マコトちゃん……デニーちゃん、お願いがあるんだけどお……」

「ちょっと待ってください、デニーさん。嫌な予感がするんですけど。デニーさんがその顔した時って、大抵、なんか面倒なことを押し付けようとしてる時ですよね。」

 ちなみにデニーがどんな顔をしてたのかというと、とても可愛い顔をしていた。軽く傾げた首、きゃるーんとした上目遣いでマコトのことを見上げて。片方の足、とんっと爪先で地面の上を叩くみたいにして。両手を、軽く、背中の後ろに回している。そうして、そんな可愛らしさのままに……蜂蜜に漬けた飴玉みたいにあまあまな声で、マコトに対して、こう続ける。

「ちょーっとの間だけでいいから、真昼ちゃんのこと、預かっててくれないかな。」

「は!?」

 今、「は!?」という叫び声をあげたのは、マコトではなく真昼の方だ。一体、いきなり、何を言い出したのだろうか。この女に、私のことを預ける? 今あったばかりのこの女に? 意味が分からない、全く意味が分からない。

「あんた、何言ってんの?」

「ほえ? えーっと、デニーちゃんが「借りたいもの」の確認をしてる間、真昼ちゃんのことを、マコトちゃんに預かって貰おうと思って……」

「それは分かってる! あたしが聞きたいのは、なんでそんなことを頼もうとしてるのかってことだよ!」

「あー、そういうことかあ。えーっとね、デニーちゃんが今から行こうとしてるところ、その「借りたいもの」があるところなんだけど、カリ・ユガちゃんのおうちの外側にあるんだよね。ここはヌリトヤ沙漠の南西の、端っこの方にあるでしょ? 一方で! その場所はね、真ん中のところにあるの。沙漠の真ん中。ということで、そこに行くのは、ちょーっとだけ危ないんだよね。まーあ、強くて賢いデニーちゃんがいれば、よーっぽどのことがない限りはだいじょーぶだと思うんだけど。で、もー……ここは、アーガミパータだからね。何か、びっくりしちゃうようなことが起こらないとも限らないし。ていうかあ、そもそもお、REV.Mの子達がいつ襲ってくるか分からないじゃないですか! んー、まー、まー、デニーちゃんの予測だと? た、ぶ、ん、明日くらいまでは襲ってこないと思うけどねー。明日の、お昼、ちょっと過ぎくらいかな。ただ、やっぱり、ムバクちゃんみたいな子が相手だと、いつどんなことが起こるのかーって、はっきりしたことは言えないから。あーんまり、真昼ちゃんのこと、危ないところに連れて行きたくないんだよねー。とにかく! そーいうことで! ここにいた方が、真昼ちゃんにとってはぜーんぜん安全っていうわけ!」

「でも、MJL……ローンガンマンさんは、あんたみたいに魔学者でもなんでもない普通の人間でしょ?」

「だいじょーぶだいじょーぶ! マコトちゃんは、さぴえんすの割にはしっかりしてる子だから! 確かに、真昼ちゃんの言う通り、魔学者ではないけどね。でもでも、ちょっとした防衛魔法のひとっつふたっつは知ってるし。真昼ちゃんのこと、ちゃーんとお守りしてくれるよ!」

「そういうことを言いたいんじゃなくて! 別に、いてもいなくても一緒でしょ! あたしだって、自分の身と……それに、マラーの身くらい守れる!」

「えー?」

 デニーは。

 なんだか。

 面倒そうな顔をしながら。

 それでも、言葉を続ける。

「でも、真昼ちゃん、ここの法律とかって知らないでしょ。」

「え?」

「法律とか、それに慣習とか。確かにここもさぴえんすが政体を作ってるから、月光国とそれほど変わってるわけじゃないけど。それでも、やっぱり、ちょっとは違ってるもん。それに、大体、真昼ちゃんってイパータ語分かんないよね。それじゃあ、誰かに何かをして貰おうと思ってもどーしようもないじゃないですかあ。」

「それは……そうだけど……」

「ねー、でしょー。だーかーらー、誰かが一緒にいないとダメなの! 分かった?」

 なんだか保護者面した、大変むかつく言い方で、デニーはそう言ったのだが。まあ、アーガミパータにおいては、実質的に真昼の保護者みたいなデニーであるので、それほど不当な態度だとはいい切れないだろう。とにかく、デニーの言っていることは大変もっともなことだったため、真昼としてもそれ以上口答えすることは出来なかった。

 口答えはしなかったといっても、もちろん「分かりました」だの「デニーちゃんのおっしゃる通りでございます」などということを真昼が言うわけもなく。ただそのまま、ふてくされたみたいな顔をして黙っていただけだったが。とはいえ、真昼が口答えをしないということは、それだけでデニーの言葉を受け入れたということを意味していることであって。デニーは、ふっふーんという感じ、大変気をよくした口調で「それじゃあ決まりだね!」といったのであった。

 しかし。

 それに対して。

 当たり前のように。

 マコトが口を挟む。

「いやいや勝手に決まりにしないで下さいよ!」

「ほえ?」

「まだ、私、砂流原さんのこと預かるって言ってないですからね?」

「でも、預かってくれるでしょ?」

「あのですねデニーさん。さっきも言ったように、これからかなり忙しくなる感じなんですよ、私。そりゃ、記事の種を下さったのはデニーさんですから、感謝はしてますよ? それでも……」

「でもさーあ、教会からテレポートの使用許可が出ない限り、マコトちゃん、ここから動けないよね?」

「それはそうですけど。」

「それに、第一報の記事だって、すぐに書き終わっちゃうでしょ? だって、今の段階では、そんなに書くことないだろうし。」

「まあ……そうですね。」

「じゃあ、ちょーっとくらい真昼ちゃんのこと預かってくれても、そんなに問題ないっていうことだよね! デニーちゃん、ぱぱーっと行って、ちらちらーっと見て、ささーっと帰ってきちゃうから。だいじょーぶだいじょーぶ、きっと日が暮れるくらいには帰ってこられるよ! それくらいなら、マコトちゃんにも、そんなに迷惑かからないでしょ? ねー、お願ーい! デニーちゃんがいない間、真昼ちゃんのことを見ててくれて、それから、ここら辺を、ほんのちょこっとだけ観光させてあげるだけでいいんだよ! いつも色々なこと教えてあげてるんだからー! この通り、お願いします!」

 デニーがここまで下手に出てるのはなんだか珍しい気がするが、何度も何度も書いてきている通り、デニーは絶対的強者なのだ。その気になれば力尽くでマコトのことを従えることなど容易いのであって、基本的には、デニーがお願いしたことに対して、マコトが断ることなど絶対にないのである(デニーが本気でいうことを聞かせようとしている時にそれを断れば死よりも悲惨な運命が待ち受けているということくらいはマコトも理解している)。ということで、デニーには、強者の余裕というものがあるので、下手に出ることにさほど抵抗感がないのだ。

 それはそれとして。

 マコトは。

 ふーっと、一つ。

 溜息を、ついて。

 それから、こう答える。

「分かりましたよ、分かりました。砂流原さんのことは、このマコト・ジュリアス・ローンガンマンが責任を持ってお預かりさせて頂きます。」

「わーい! マコトちゃん、ありがとー!」

 と。

 このようにして。

 世界の、全ては。

 デニーちゃんの思い通りになるのだ。

 さて、マコトにとっても真昼にとっても不本意ながら、真昼の身柄は一時的にマコトが引き受けることと相成りました。デニーちゃんは久しぶりに(二日くらいぶりに)シングル・ライフを謳歌することが出来るようになったのであって。こういう時にシングル・ライフという言葉を使うのは変な気もするが、とにかくデニーはなんとなく浮き立つような感じ、すっきりかつさっぱりしたような様子で、真昼の方に視線を戻す。

「そんなわけで! ほんのちょっとの間だけど、デニーちゃんと真昼ちゃんとはお別れです! うんうん、そんな寂しそうな顔をしなくてもいいんだよ、真昼ちゃん。デニーちゃんは、ご用事が終わったら、すぐに帰ってきてあげますからね。その間、マコトちゃんに迷惑をかけずに、いい子にしてるんだよ。人がたくさんいるところでいきなり矢を発射したりしちゃだめだよ。なんだかよく分からないけど危なそうなものに触ったりしないでね。デニーちゃんに会いたくて会いたくてしょうがなくなったら、大声で泣いたりしないで、手に胸を当てて、そっと心臓の音を聞いてごらんなさいね。その心臓は、デニーちゃんが書いた魔学式で、ある程度操作されていることを思い出して……デニーちゃんが、いつも真昼ちゃんと一緒にいるっていうことを、思い出して! そうすれば、きっと寂しくなんてなっちゃうから!」

 いうまでもなく真昼は寂しそうな顔なんてしておらず、むしろかなりせいせいとした、清々しい心境であったし。(完全に善意からのコメントとはいえ)例の魔学式について思い出させられた方が不愉快であるということは自明の理であったが。それはそれとして、デニーは、そう励ましてあげた後で、真昼のことをぎゅーっと抱きしめたのであった。ちなみに、その行動に真昼はどう反応したのかというと、心の中をあらゆる嫌悪感でいっぱいにしながらも、なんらかの拒否反応を示すと面倒なことになるということは分かり切っていたため、完全に「無」の状態のままでデニーの抱擁を受け入れていた。

 涙、涙、涙といった感じの別れのシーン。血も涙もないデニーが涙を流すことはなかったが、それでも、いかにも感傷的に、ぽんぽんと真昼の背中を叩くと。デニーは、名残惜し気に真昼の体を離した。それから……ふと、そのタイミングで。急に、思い出したようにしてマコトが口を開いた。

「あー、そうだそうだ。」

「ほえ? なーに、マコトちゃん。」

「デニーさん、ご存じですか?」

「なにを?」

「「あの人」が、ミス・アネモネに接触したそうですよ。」

「え? フランちゃんが?」

 真昼が聞いていることを心配してか、マコトが一応ぼやかして「あの人」といった誰か。誰であるのかということを、デニーはすぐに理解したらしい。マコトの言葉にそう答えると、デニーにしては大変、大変、大変珍しく、本当に驚いたような顔をした。だが、そんな反応をデニーから引き出しておきながらも、マコトは、特に大したことない、なんということのない世間話みたいな調子で、こう続ける。

「近々、ブラッドフィールドで何かが起こりそうな感じです。まあ、デニーさんなら大丈夫だと思いますが、一応気を付けておいた方がいいかもしれないですね。」

「へぇー。あっ、そー。」

 ひどく。

 可愛らしい。

 好奇心、を。

 剥き出しにして。

 デニーは。

 くすくすと。

 笑った。

 と、このようなワンシーンを挟みながらも、大変感慨深い別れのシーンは滞りなく進んで。滞りなくも何も、そもそも滞るようなことが起こるようなシーンではないのだが、とにかく、とうとうデニーちゃんの旅立ちの時が訪れた。「マコトちゃんなら何があってもだいじょーぶだと思うけど……もしもたいへーんって感じのことがあったら、すぐにお電話してね」「ああ、お気遣いありがとうございます。分かりました。えーと、電話番号は以前と変わってませんよね?」「うん、変わってないよー」、そんな会話を交わした後で。デニーは、真昼達がいるところから、とんっとんっとんっという感じ、スキップな足取りで三歩ほど離れて。それから、くるっと振り返ると、マコトと真昼との二人に向けて(マラーには多分向けていない)こう言う。

「それでは! デニーちゃんは行ってまいります!」

「はいはい、気を付けて行ってきて下さいね。」

「心配してくれるの? マコトちゃん、優しー!」

「そういうのはいいですから。」

 それから、真昼達の方を向いたままで、ぶんぶんと、何度も何度も、頭上に向けて振り上げた右手を、大きく大きく振りながら。後ろ向きに、てってこてってこ歩き出した。てってこてってこという擬音語を使った割には結構な速足であって、一分もしないうちに、デニーの姿は荒野の真ん中辺りまで遠のいていたのだけれど。いつまでもいつまでも手を振っていたデニーの姿が、それくらいのタイミングで……あたかも虚無の中に紛れ込んだみたいにして、ふっと掻き消えてしまった。

 恐らくはデウスステップを使ったのだろう。すぐにそれを使うことなく、人込みからちょっと離れたところでそうしたのは、きっといきなり消えることで目立ってしまうのを防ぎたかったためだと思われた。まあ、人込みを構成している全ての人間は凱旋パレードに夢中になっていたため、気付かれる恐れはほとんどなかったろうが……念のためというやつだ。

 それは。

 それと。

 して。

 真昼は……マイトレーヤの石窟寺院で出会って以来、初めてデニーと離れ離れになったような感覚を、改めて、感じていた。実際のところは、ダコイティの森で、リビングデッドにパンダーラが仕掛けた魔法円を書き換えに行った時に、デニーは真昼のことを一人にしていたのだけれど。とはいえ、あの時は、こんな感覚を感じたりはしなかった。

 よくよく考えてみれば、あの時と、さして状況が変わるわけでもない。真昼にとって危険がありそうなところに行くから、真昼のことを誰かに預けて、デニーだけでどこかへ行く。それだけの話であって。だが、あの時は……別に、デニーから直接別れの言葉を言われたとか、そういうことではなかった。

 デニーに、ぎゅっと抱き締められて。「いい子にしてるんだよ」と耳元で囁かれて。そして、何度も何度も手を振って、遠のいていく姿が、ふっと消えてしまった時に。真昼が、本当に唐突に、何か大きな質量によって殴られたみたいに感じた感情は……絶対に、絶対に、真昼自身は、何があっても、認めるわけがない感情だったが……abandonedの感情だった。

 あの姿が消える。

 一瞬、前までは。

 こんな感覚。

 一欠片も。

 感じたり。

 しなかったのに。

 いい換えるならばorphan。端的に、見捨てられたような感覚。寂しさではない、もしもこれが「寂しさ」だというのならば、それはあまりにも圧倒的に過ぎる。自分がちっぽけな磁石であって、巨大な鋼鉄の塊から無理矢理に引き剥がされたような感じ。心臓を抉り出された後にぽっかりと開いた穴、そこを風が通り抜けているような感じ。凍えそうなくらい寒い喪失感。真昼にとっては、この置き去りにされたという思いは、ある種の暴力を受けた時に感じる感覚と等しいくらいの空虚であった。

 これは、一体。

 どうしたことなのだろう。

 たかが、数時間かそこら。

 離れるだけで。

 しかもその相手は、あろうことかデニーなのだ。真昼が、静一郎と同じくらい憎んでいる、この世界で唯一の男。真昼が真昼であるために必要だった全てのものを、真昼から奪った男。そんな男に対して、なぜこんな感覚を抱いているのだろうか。

 真昼は、完全に勘違いをしていたのであるが。人間にとって、重要であるという感覚は、プラスであるかマイナスであるかという方向性とは別個に存在している。それが愛情であろうが憎悪であろうが、どちらも同じだけの重量を持った感情なのだ。要するに、真昼のその感情は、確かに憎悪であったが……ただし、とてつもない重さを持った憎悪であったのだ。真昼がデニーと一緒にいたのは、たった二日であった。だが、その二日間は、真昼が今まで生きてきた十六年間に匹敵するほどの時間だった。真昼は、その二日で、十六年かけて築いてきた全てのものを失って。その空白地帯を、デニーへの憎悪によって埋めていたのだ。

 だからこそ。

 真昼は。

 デニーの言葉、デニーの仕草。

 真昼を置いてどこかに行くと。

 明示した、その態度によって。

 これほどまで、深刻な影響を受けたのだ。

 ただ、まあ、もちろんのこと、真昼のデニーに対する思い、無意識の領域では、憎悪以外の何ものかが萌芽していたのだが。そのことについて触れるのはまだ早すぎる。この芽が育ち、やがて甘い蜜を滴らせながら腐りゆく花を咲かせるのは、もう少しだけ先のことだからだ。とにかく、ここで理解しておいて頂きたいことは。真昼は、デニーに置き去りにされたという、どうしようもない孤独感を感じていたということだ。

 とはいえ、そんな思いにいつまでも囚われ続けている真昼ちゃんではないのである。あたしが……あたしが、デナム・フーツに置いていかれて、寂しがってる? そんなこと、あるはずがない。それどころか、せいせいしているくらいだ。あの男がどこに行くにせよ、そこから永遠に帰ってこなければいい。本当に、あたしは、そう思ってる。それに……そうだ、あたしにはマラーがいる。何よりも大切なはずの、マラーがいる。だから、デナム・フーツなんて、必要ないんだ。そんな風に、自分自身に向かっていい聞かせながら。真昼は、しっかりと、マラーの手を握ったのだった。

 一方で。

 マコトはと。

 いいますと。

「いやー、あの人、本当に行っちゃいましたね。」

 呆れたような口調でそう呟いた。真昼とは違って、孤独感などまるで感じていない様子だ。そもそもこの女が孤独という感情を理解出来るのだろうか、そんなことさえ思ってしまいそうな、上っ面を撫で回すような態度。それから、デニーが消えた方に向けて、一枚だけぱしゃりと写真を撮ると。真昼の方を振り返って、さっぱりとした声でこう言う。

「さて、じゃあ、私達も行きますか。」

 よく見ると、そのカメラはKENTのカメラだった。月光国の老舗のカメラメーカーで、だからどうしたというわけではないのだが。それと、あと、今時珍しく、デジタル式ではなくフィルム式だった。これはきっと、いろいろと過酷な環境で取材をする時に、フィルム式の方がなんとなく安心だからだろう。なんとなく壊れにくそうな気がするし、それに壊れたら壊れたで自分で修理をするのも簡単だし。そんなことを考えながら、真昼は言う。

「行くって……どこにですか?」

 声に。

 不信感が。

 混ざって。

 しまう。

 裏切られたという思いが強過ぎて、どうしてもこの女のことを信用出来ないのだ。これは、まあまあ真昼の勝手な思い込みが原因といえないこともないのであるが、マコトもマコトでちょっと良くなかったんじゃないかと個人的には思います。だって、ねえ。書いてる記事があれで、本人の性格がこれでしょ? そりゃあ、ちょっといかがわしい人なんじゃないかって思いますわ。もう少し、こう、なんというか……裏表をはっきりと区別した方がいいというか。マコトは素直過ぎるし、あけっぴろげすぎる。自分の性格が万人受けしないことが分かっているんだから、きちんとそれなりに対処した方が良いように思います。

 それはそれとして。

 マコトは、答える。

「んー、どうしましょうかね。デニーさんが、観光させておいてーみたいなことを言ってたんで。ちょっと、そこら辺を一周してみますか? まあ、見るべきものっていわれても、そんなにないんですけどね。」

 マコトのこの提案に対する真昼の率直な意見としては、観光なんて全然したくなかった。この女と一緒にアーガミパータの観光をするなんて。もしも、MJLと一緒に観光出来るというのならば、それはとても嬉しいことで、真昼としてもわくわくしてしまうような出来事であろうが……この女とそんなことをするなんて、虫唾が走る。どこか、どこでもいいから、座れるところに座って。マコトは記事を書いているでもなんでもいいから、真昼には一言も話しかけることなく。真昼は、ただ黙ってデニーのことを待っている。これが理想的な形だ。

 というか、今からよくよく考えてみれば、デニーは、真昼のことを、今夜止まるはずの場所に連れていってくれれば良かっただけではないか? エーカパーダ宮殿とかいうところだったか、そこに連れていってくれれば、部屋の一つはあるだろうし。この女と観光なんてするくらいなら、真昼は、そこで、大人しくお留守番でもしていた方が遥かにましだった。まあ、今となっては、考え付いてもなんの意味もないことだったが。

 とにもかくにも。

 観光なんてしたくない。

 出来る限り、自分のことを。

 そっとしておいて欲しいと。

 真昼は、そう告げようとしたのだが。

 その前に。

 真昼が、口を開く暇もなく。

 何かを思い出したみたいに。

 マコトが、言う。

「ああ、でもその前に。」

 それから、右の手で真昼の顎をくっと持ち上げた。あまりに突然のことで、真昼はびっくりし過ぎてしまい、抗議の声を上げることも出来なかった。ちなみに、マコトが持っていたはずのカメラの方はというと、首からストラップでぶら下げていたのでご安心下さい。とにかく、マコトは、真昼の顔を、自分に向かって上向かせて。そして、真昼の目の中を遠慮呵責もなしに覗き込んだ。ひどく図々しく感じるようなやり方で、じろじろと、真昼の両眼を観察していたのだけれど。やがて……ふいっと、その顎を離して。その後で、真昼に向かって、また口を開く。

「まずはそれを外しにいかないと駄目ですね。」

「それって……それってなんですか。」

 隠し切れない嫌悪感を含んだ声で真昼はそう言った。マコトに触られたところがなんだかひどく穢れてしまった気がする。ただ、その穢れの感覚は、デニーに触られた時とは少し違っていた。デニーの場合、それは邪悪の感覚だ。人間を超越しているかのような、純粋な邪悪。だが、マコトの場合は……まさに人間そのものの穢らわしさだった。あまりにも卑劣で、あまりにも陋悪で。人間からあらゆる良心を抜き取ればマコトが出来上がるだろうという感じ。もしもこの精神的欠損がなければ、きっと、顎に触れていたあの手を叩き払ってしまっていただろう……と、そこまで考えた時に。

 真昼は、ふと。

 思い当たった。

 もしかして。

 マコトが言ってるのは。

 この精神的欠損のことか?

「何って、カリ・ユガさんの思考ロックのことですけど。」

「思考ロックって……ポゼショナイズですか?」

「ええ、まあ、そうです。」

 ポゼショナイズ。この汎用トラヴィール語の名称が既に学術的な用語となってしまってはいるが、無理矢理にでも共通語に翻訳するとすれば「属人化」となるだろう。これは、この言葉の通り、人間を国家の「属人」とするために行われる一種の精神的切除術のことだ。

 人間というものはとかく愚かなものなので、なんとなくなあなあに過ごして皆で仲良くしていればそこそこハッピーでいられるものを、そんなことどうでもいいだろと思ってしまうようなことで、すぐさま殺しあったりする。その殺し合いの結果として世界が変わるのかといえば、絶対にそんなことはなく、一連の物理法則・妖理法則はその殺し合いが起こる前と完全に同一のもののままなのであるが。それでも、まるで一つの虫籠に閉じ込められた二人の太った男のように、いつまでもいつまでも一つのドーナツを巡って争い合うことをやめないのだ。

 それでも、どこか誰も知らないところで、誰なのかということを誰も知らない二人が、勝手に殺しあっている分には。全く問題なく、もう好きにして下さいという話なのだが……ただ、これが、ある国家の領土内で、ある国家の国民が行うとなると、話が変わってくる。国家には秩序というものが必要であって、その殺し合いは国家の秩序を乱す行為だからだ。はっきりいって、クソほどに迷惑なのだ。このように、人間の愚かさとは、国家を治めようとしてる側からすれば大変頭が痛い問題なのである。

 この問題に、どう対処すればいいのか?

 簡単な話だ。

 その愚かさを。

 精神から。

 すっぱり。

 切除してしまえばいいのである。

 それがポゼショナイズだ。その内容を詳しく書き連ねていけば、万巻の書物でも足りないような、そんな人間の愚かな部分を。その中でも特に、国家の秩序を脅かしそうなものを。全て、綺麗さっぱり、切り捨ててしまうということ。

 ここまでは、まあいいだろう。それが正しいと誰でも首肯しうること、全くその通りだと納得出来ることを、ただただ実行に移すというだけのことなのだから。ただし、ここで、一つだけ問題がある。それが一体、なんなのかといえば。

「でも、ポゼショナイズって……デウス・デミウルゴスとか、デウス・ダイモニカスとか、それかノスフェラトゥとかしか出来ないことじゃないですか。」

 そういことだ。ポゼショナイズとは、ゼティウス形而上体か、それに匹敵するほどの力の持ち主にしか出来ないはずの行為なのである。一般的に、ポゼショナイズという言葉は、脳髄における神的レセプト器官であるところのジェインズ野に対して行われるテレパシー的な処置を指す。これがデウス種の生き物であればデウスパシーに、ノスフェラトゥであればノソスパシーになるが。とにかく、遠隔的に、かつ大量の生き物の精神を操作することが出来る何者かでなければ、それを行うことなど出来ない。

 もしかして、カリ・ユガという生き物が支配しているこの領土には、そういったテレパシーを模倣する装置でもあるのか? レーグートが官僚をやっていて、舞龍が将軍をやっているような場所だ。そういった装置があってもおかしくはないのだが……などということを、真昼が考えている時に。

 マコトが。

 他愛のない事実を指摘するみたいな。

 どうってことない口調で、こう言う。

「それから洪龍も出来ますよ。」

「洪龍? なんで今、洪龍の話を……」

「え? もしかして砂流原さん、デニーさんから何も聞いてないんですか?」

 マコトは、驚いたような、呆れたような、半々に入り混じったような顔をしてそう言った。「全く、あの人は……」みたいなことを言いながら、頭にかぶったヘルメットの上に手を乗せて、参ったね、みたいなポーズをする。

 そして。

 言葉を。

 続ける。

「カリ・ユガさんは龍王ですよ。」

「龍王!?」

 真昼は、マコトのその言葉に。

 大変、驚愕したようなのだが。

 読者の皆さんの中には、何を今更驚いているんだ思われる方もいらっしゃるかもしれない。この場所は、今まで、何度も何度も、「カリ・ユガ龍王領」と呼ばれていたのだから。カリ・ユガが龍王であるということなど自明の理ではないかと。

 しかし……もしもそう思った方がいるのならば、もう一度、ここまでの文章を読み直して頂きたい。ここまでの文章の中で、「カリ・ユガ龍王領」という単語が出てきたのは、一か所を除き、全てが地の文においてのことなのだ。会話文においては、デニーはずっと「カリ・ユガのおうち」と呼んでいたし。それにタンディー・チャッタンにおいては「本領」と呼ばれていた。

 そして、その例外の一か所であるが。デニー達が、ASKの「サフェド湖の製塩所」を離れる際に、ミセス・フィストが、たった一度そう呼んだというだけなのだ。その当時の真昼の心理的状況としては、パンダーラとダコイティとに対して自分がしてしまったことのせいで、抑え切れないほどの罪悪感が暴れ狂っているような感じだったのであって。確かに、デニーの言葉に対しては、もう二度と騙されないようにということで、全神経を注ぐみたいにして注意していたのだけれど。ミセス・フィストの言葉にまで注意を払う余裕などなく……その唯一の「カリ・ユガ龍王領」を聞き流してしまっていた。

 いわゆる叙述トリックというやつですね。

 まあ、この叙述トリックに。

 なんの意味があるのかということは。

 誰にも、分からないこと、なのだが。

 それに、もしも、真昼がその「カリ・ユガ龍王領」を聞き逃していなかったとしても。きっと聞き間違いか何かと思っていただろう。なにせ、龍王とは、龍王なのだから。すぐ直前にポゼショナイズの説明をしていて、また龍王の説明をすると、読者の皆さんからすれば、また説明かよみたいな気持ちになるだろうと思われるので、詳細については省くが。洪龍の中でもデウス・デミウルゴスに匹敵する力を持つものが、「王」として支配対象を手に入れた時に、それは龍王と呼ばれる。要するに神に等しいといえるほど強力な洪龍だということだ。そんな生き物と、デニーとが、「お友達」なんて。真昼には俄かに信じることが出来なかっただろうからだ。

 しかし。

 真昼が、信じようが信じまいが。

 カリ・ユガは、龍王なのである。

「そうです、龍王です。それから、ここはカリ・ユガ龍王領。そんなわけで、砂流原さんは、この場所に足を踏み入れた瞬間から、固定されたカリ・ユガさんのデウスパシーによって思考ロックをかけられているというわけです。」

 両手の人差し指、ぴんと突き立てて。

 上の方に向けて、軽く動かしながら。

 マコトは、当たり前みたいにそう言った。

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