第一部インフェルノ #2

 えーとですね、だんだんと、こう、まあ、深刻な文体を続けるのが面倒になってきてしまいましたのでね、ここからはちょっとずつカジュアルな感じになってきます。そういうのが苦手な人は注意して下さいね。

 はい。

 それは。

 それと。

 して。

 真昼の目の前にいるその男は、つまり「あの少年」は……確かに、その男は少年だった。その男を、初めて見た時に。それが視界の片隅で捉えただけのことであったとしても、人間は、必ずこういった印象を受ける。例えば、とても規則が厳しい全寮制の寄宿学校から、たった今、こっそりと、逃げ出してきたばかりの学生。きっといつ先生に見つかって学校に連れ戻されるんじゃないかとドキドキしているのだろう、いつも体の一部が緊張で麻痺しているような、そんな風に見える。しかし、それでいてその男は……真昼は完全にそれを理解していて、そのせいである種の不気味な感覚をその男から受けたのだが……どう考えても、決して、少年ではなかった。もっと、何か、別のもの。もっと、何か、歪なもの。

 だから、真昼は警戒したのだ。

 少年の姿をしたその男のこと。

 絶対に、信じてはいけないと。

 とはいえ、そういったことのその前に……その男の服装について説明しておいた方がいいかもしれない。これから始まる真昼の運命、地獄の底で溺れるように沸き立つ憎悪と闘争と絶望との物語の中では、きっとそのことについて触れている暇などないだろうから。その男は、笑ってしまうことに、といっても真昼は笑ってしまえなかったのだが、まさに寄宿学校の生徒が着ていそうなスーツを着ていた。胸の部分を細く締め付けるタイプの、肩パットのない、ひどく華奢なあのスーツだ。首のところにはネクタイを締めて、足元にはローファーを履いて。スーツもネクタイもローファーも、まるでこの世界の最初の夜のように完全な黒い色をしている。それと対照的に真っ白なのが、スーツの下のシャツだ。洗い立てとしか思えない、信じられないくらい清潔なシャツを身に着けている。

 ただ、そういった部分よりも、その男の服装の中で、より一層目を引く部分は……その頭を覆っている部分だろう。そう、その頭は覆われていた。一枚の頭巾によって。それは、死体を埋めるために掘られた穴にゆらゆらと溜まった、何らかの冷たい液体にも似ている、眠るような緑色をした頭巾であった。頭部の全体をすっぽりと隠していて、その下からは、少しだけ乱れた髪の毛と……それから、もちろん悪戯っぽく笑う純真な笑顔が覗いていて。

 そして、その純真な笑顔に向かって。

 真昼は、自分の怯えを悟られないように。

 ひどく頑なな声をして、こう問いかける。

「あんたは、誰。」

「デニーちゃんだよー。」

「デニー……?」

「ええーっ、知らないのーっ? デニーちゃんのことーっ?」

 まるでロメリーの栓をぽんっと抜いた時のように。デニーと名乗ったその男は、ぱっと両手を広げて、自分が真昼の答えにひどく驚いたということを示して見せた。それから可愛らしい声で「もーっ!」と呟きながら立ち上がると、きゅっと握った拳を腰の辺りに当てて、真昼の方に体を傾けて。まるでぷんすかぴーとでも効果音の付きそうな調子で、こう言う。

「で、な、む、あーんど、ふ、う、つ……デナム・フーツ! それがデニーちゃんのお名前だよ! どーお? デニーちゃんにぴーったり! 強そうで、賢そうで、すーっごく素敵なお名前でしょ? 全くもーお、しっかり覚えてね!」

 いや、そういうことを聞きたいわけではないのだ。確かにデナム・フーツという名前が分かれば、真昼もまあこの男のことをどう呼べばいいのかということが分かるから、便利といえば便利なのだが。しかし、真昼が聞きたかったのは、そういうことではなかった。もっと核心的なことというか根源的なことというか……だから、真昼は。きゃるーんっという感じでウィンクを仕掛けてきたデニーに向かって、今度はこう問いかける。

「あんたは、私を、どうするつもりなの。」

「どうするつもりって、きーてなかったの?」

「何を。」

「デニーちゃんが言ったことだよう。」

 どうやらデニーという男は、一秒たりとも落ち着くことができないらしく。真昼の方に傾けていた体を起こすと、今度は両方の足でステップを踏み始めた。随分と陽気なステップではあったのだが、そのステップが踏まれるたびに、デニーの足元に落ちている花びらが踏みにじられて。真昼は、何となく鳥肌が立つような感覚を覚える。

 軽く首を傾げて。

 甘く笑いながら。

 デニーは、言う。

「デニーちゃんは、真昼ちゃんを、助けに来たのです。」

「助けに?」

「そーだよお、真昼ちゃんのおとーさんに頼まれてね。」

「静一郎が……?」

 真昼は父親のことを名前で呼ぶ。恐らく父親のことを自分の父親だと認めたくないという心理が作用しているのだろう。それはともかく、真昼には俄かには信じられないことだった。静一郎が、少しでも、自分のことを気に掛けるなんて。自分のために救助の部隊を送り込んでくるなんて。

 とはいえ、全く信じられないというわけではなかった。例えば、静一郎が真昼を助けるために誘拐犯(今回の場合はREV.M)との交渉に応じるとかそういった話よりは、よほど信じられる話ではあったからだ。

 そんなことを考えながらも、真昼はデニーの方をしっかりと睨みつけたままでデニーが話していることに耳を傾け続けていた。デニーは、まだ、ずっと、喋り続けていたからだ。くるくると表情を変えながら、まるで生まれたばかりの小鳥のように、ということはつまり口を閉じたら死んでしまうとでも思っているかのように、喋りまくる。

「デニーちゃんはコーシャー・カフェっていう組織で三番目に偉いんだけどね。その組織の一番偉い人が、どうしても真昼ちゃんのおとーさんとお友達になりたいーって。だから真昼ちゃんを助ければお友達になれるんじゃないかなって思ったの。それでね、デニーちゃんがね、真昼ちゃんのことを助けに来たっていうわけ。っていうかさーあ、聞いてよ真昼ちゃん! ほんとーならフランちゃんが来るはずだったんだよ? だって、デニーちゃんの担当はワトンゴラだし……でも今回の件はすっごくすっごく重要だし。それに色んな組織に怪しまれないようにアーガミパータで動き回るには、ぜーんぶのことを一人でできなきゃいけないでしょ? だからって、だから仕方ないなあって、デニーちゃんが引き受けたーっていうわけなんだよお。」

 その話の内容について、ある部分は真昼にも理解できたのだが、他の部分は理解できなかった。分かった部分というのは、こういうことだ。つまり、このデナム・フーツという男は静一郎の会社とコネクションを結びたいコーシャー・カフェという組織の人間で。そのコネクションと引き換えに、静一郎の頼みを聞いて、真昼のことを助けに来たのだろうということだ。

 しかし、真昼はコーシャー・カフェという名前に聞き覚えはなかったし、それに話の後半については全く理解できなかった。フランちゃんという名前の人間が誰なのか真昼は知らなかったし、ワトンゴラという国名くらいは知っていたのだが、その担当という意味もよく分からない。ただ、まあ……この男についての情報、そのうちの必要な情報は、随分と大雑把なものではあったが、得ることができた。

 それでは、もう一つの知りたいこと。

 これまで、二度、その疑問を抱いて。

 二度とも、答えを、得られなかった。

「あんたは、あたしを助けに来たってこと?」

「そーだよっ!」

「分かった……じゃあ、教えて。」

 真昼は。

 三度目の正直。

 その問いを発する。

「ここは、どこ。」

「ほえほえ?」

 真昼としては簡明極まりない問いを発したつもりだったのだが。その問いに対してデニーは、真昼の言葉の意図するところがよく理解できないとでも言いたげな表情で、頭巾の中の頭、ぽへっと可愛げに傾げて見せた。

 それから「えー? ここはどこって言われてもぉ……」とかなんとか呟きながら。まるで後ろ向きに転びかけているかのごときやり方で、左足の踵、右足の踵、交互に、とんっとんっとんっと飛び跳ねるみたいにして。キャンディな視線は真昼の方を向いたままで、独房に開いた口の方へと退いていく。

 そして、その口にたどり着くと……例えばラミアと魚で遊んでいる子供が、もしかしてこの独房の外にラミアが近づいているんじゃないかと、こっそりと伺うかのように。ちらっと、その外側にプディングな視線を向けたのだった。廊下の、その左の方。つまり、あの像があった方に視線を向けてから。

「たぶん、マイトレーヤちゃんの石窟寺院だと思うけどお……」

「え?」

「デニーちゃんよく分かんないんだよね、如来って。どれがどれだかさっぱりっていうか……なんかさ、みんなおんなじ顔してるじゃないですかーあ。ヴァルナメダーちゃんも、マイトレーヤちゃんも、アクショードゥフカちゃんも、アミターシタちゃんも。ねえ、あれってマイトレーヤちゃんの像だよねーえ?」

 デニーは、廊下の左側、真昼が一瞬だけ恐れたあの顔のない巨大な像のことを指さしながら。なんだかひどく誰ともない感じで、独房の中の誰かしらに問いかけた。すると、デニーがこの独房にやってきた後、ほとんど非人間的なくらい静かに、機械人形か何かのようにじっと待機していた人々のうちで。やはりリーダー格の一人が、デニーの問いかけに答える。

「はい、あの像はマイトレーヤの像です。」

「ふっふーん! やっぱりね、デニーちゃん賢いっ!」

 得意げにそういいながら。

 真昼の方に、視線を戻す。

「ということで、ここはマイトレーヤちゃんの石窟寺院でーすっ!」

 しかし、デニーちゃんが賢かろうが賢くなかろうが。

 これもやはり、真昼が求めている答えではないのだ。

 デニーの答えからはここが何らかの石窟寺院であるということしか分からない。問題なのは、その石窟寺院が、世界の中のどこにあるのかということなのだ。まあ、寺院というくらいだから恐らく無教が関係する遺跡の類なのだろうし、ということは無教が信仰されていたか今もされている地域のどこかしらだということは、常識のある一般人だったら分かるのだけれど……真昼はろくに学校も通っていない低能少女だったので(ここで提示したいのは学校に通っていないから低能だという差別的な主張ではなく学校に行っていなくてかつ低能だという単純な事実だ)、世界の中での無教の伝播範囲もよく知らないのだった。

 だから、苛立ったように。

 デニーに、こう噛み付く。

「そういうことを聞いてるんじゃなくて!」

「ほえほえ? ぱーとつー。」

「ここが……ここが、どこの国なのかっていうことを聞いてんの! ここは、もう、月光国じゃないんでしょ! ここはどこなの、一体どこの国なの!」

 この世界には国家だけではなく、企業その他の集団による主権範囲も存在しているので、真昼の問いかけは自分の狭い価値観に従った、ひどく正確でない問いかけであったのだけれど。それでも、まあ、その意図するところは通じたようだった。その、真昼の、ほとんど叫喚といっても過言ではない問い掛けを聞いて。デニーはぱっと顔を明るくした。

「あっ、そういうことね!」

 そう言って。

 デニー、は。

 あたかも、そう、あたかも子猫の手の先のように。残酷で、気まぐれな、子猫の手の先のように、自分の手のひらを丸めて。その丸まった手のひらを、自分の口元へと持っていく。それから、デニーは……笑い始めた。口を押さえている小さな拳でも、その笑いを抑えきれないとでもいうように。くすくすと、あの笑い方で笑い始めたのだ。

 その笑い声を聞いて、真昼はぞっとした。もちろんその笑い声に何らの悪意があったわけではない。その笑いは、本当に、ただハッピーだけを意味していた。デニーが、ハッピーであることだけを。だから、だからこそ恐ろしかったのだ。真昼がこの場所がどこだか知らないことを知って、デニーが笑っている。鼠捕りの中にいるにも拘わらずそのことを理解していない鼠を見て、ハッピーに笑う子猫のように。

 デニーは、くすくすと笑いながら。

 それに、また、真昼のいる方へと。

 ひどく楽し気に近づいてきながら。

 真昼に向かって、こう問いかける。

「真昼ちゃん、ここがどこだか分らないの?」

「さっきから言ってるじゃないですか! 分からないって……」

「じゃーあー。」

 真昼の、すぐ目の前。

 べっとりと。

 溶けかけた。

 飴玉みたいな。

 声で。

「きっと、自分で見た方が早いよ。」

 そう言うと、デニーはぱっと真昼の手を取った。その行為は真昼が全然予測していなかった行為であって、しかもその上にデニーの手のひらの温度が凍り付きそうなくらい冷たかった(あるいは火傷しそうなくらい冷たかった)ので。真昼は咄嗟に反抗的なリアクションを取ることもできずに、完全になすがままにされることしかできなかった。

 デニーの手は、例えばダンスにでも誘うかのように、いとも容易く真昼の体を立たせた。それからデニーは、真昼の手を握ったのとは反対の手、独房の中にいる人々のうちの誰かしらにひらっと向けて合図をすると。そのうちの一人が、持っていた鉈を大きく振りかぶって、凄まじい勢いで振り下ろす。がしゃーんと大きな音を立てて……真昼をこの部屋に繋ぎ留めていた赤錆びた鎖は、馬鹿みたいに簡単に断ち切られた。

「ほら、早く早く!」

「え? ちょっと……」

 固定されていたはずの物事が、いかにもあっさりと、急速に動き始めたせいで、どうすればいいのかという思考の処理が全く追い付いていない。そんな真昼のことをぐいぐいと引っ張って、デニーは独房の外に飛び出してしまう。全てが……全てがあまりにも呆気なさ過ぎた。閉じ込められていた場所から、これほど呆気なく自由にされてしまうなんて。

 軽やかに、踊るように、そして、そこら中にべったりと溜まっているどす黒い血溜まりをパシャパシャと跳ね上げながら。八角形の柱と柱の間を、広々とした廊下を、駆け抜けていく。真昼は、その時に……なぜだかは分からないのだけれど……まるで、デニーの体と自分の体が混じり合っているような感覚を覚えた。それは間違いなく怖気をふるうような出来事ではあったのだが、一方でそれは、何となく高揚感を感じるような、そんな気分にさせる出来事でもあるような気がした。これを、この感覚を、一体なんていえばいいんだろう。自分自身の、ずっとずっと奥の方の何かが、少しずつ解放されて行っているような。あまりはっきりとしていない、そんな肉体の印象とともに、真昼はデニーに導かれるまま廊下を駆け抜けて……突然、はっと気が付く。自分がこの廊下の先、目眩く光の方向へと向かっているということに。

 光。

 光。

 光。

 それは恐らく太陽の光だった。沸騰するみたいに生命の力に満ちた、決して人工の光ではありえない、眩いばかりの光。いや、しかし、けれども。それが太陽の光だとすると、少しばかりおかしいところがあるような気がした。その光は、あまりにも……あまりにも? だが、それをどう表現したらいいのだろうか。あまりにも、あまりにも、その光は……永遠であるような気がしたのだ。もちろん、それを表現するのに永遠という単語は正しくはない。とはいえ、それ以外に、それを表現できそうな単語を真昼は知らなかったのだ。信じられないくらい甚大で、厖大で、莫大な、エネルギー。そんなエネルギーが、まるで呼吸でもするみたいに当然に、溢れかえり、沸き立っている。この光は、つまり、凄まじ過ぎたのだ。生命力に、充ち溢れ過ぎていたのだ。

 そんな光。見るものに、畏怖の感情さえも起こさせるような光。その方向へと向かって、でも、デニーは、まるで躊躇うような様子さえ見せずに。駆けていく、駆けていく、駆けていく、もちろん、真昼の腕をしっかりと掴んだままで。二人が向かう方向に、永遠の光が大きく口を開けている。それは、真昼にとって……信じられないくらい恐ろしくて、けれどそれだけではなく、信じられないくらいわくわくすることで。どうしちゃったんだろう、自分を抑えることができない。例えば、夜の闇から、燃え盛る炎の中へと飛び込んでいく、愚かで無力な、一匹の蛾のように。デニーが真昼を振り返る「ほら、真昼ちゃん!」無邪気な少年の表情で「あそこが出口だよ!」。

 光。

 光。

 光。

 そして。

 それから。

 真昼は。

 全身を。

 その光で。

 焼かれる。

「な……」

 結論からいうと、それは間違いなく太陽の光だった。真昼の靴、蹴り上げた血溜まりでぐじゅぐじゅと濡れたスニーカーが、大地の上の乾ききった砂を踏みしだく。真昼の左足に嵌まったままの足枷、その先で途切れた鎖が、同じ乾ききった砂をしゃらんと払う。デニーに導かれて、監禁されていた場所、マイトレーヤの石窟寺院から、ついに抜け出すことができたのだ。そう、そして、真昼は、慄然とするほど青い空の真ん中の、その太陽を見上げている。

「そんな……!」

 しかし、それは間違いなく太陽ではなかった。ありえない、これが太陽なはずがない。もしも、これが太陽だとするのならば……それは、まるで世界を飲み込もうとでもしているかのように、あらゆる存在を照らし出す光。真昼が知っている太陽の何倍もありそうな球体が、禍々しいほどに美しい光を放ちながら、音一つ立てず、絶対の静寂の中で、真昼のことを見下ろしていた。永遠だ。真昼は思った。あそこに永遠がある。この世界の全ての生命が目覚める前から存在し続けていて、この世界の全ての生命が死に絶えても存在し続けているだろう、絶対的な存在。

 奇妙なことに、それだけ強烈な光でありながら。その光は決して真昼の目を焼くことがなかった。確かに、暗く閉ざされた空間から、いきなり光に満ちた外部へと飛び出して。そのせいで目が慣れるまでは少しばかり眩しくは感じたのだけれど。それでもいくらその光を見つめても真昼の目が燃え上がるようなことはなくて。だから、真昼は、その球体の内側に……何かが蠢いているということを知ることができた。

 その、巨大な球体の中。

 巨大な、生き物がいた。

 まるで胎児のように丸くなって。

 真昼には、想像できないような。

 美しい、美しい、夢を見ている。

「ねえ答えてよ……あれは、あれは……一体……!」

 怯えていることを、隠すこともできずに。

 縋るような眼、真昼は、そう問いかけた。

 しかし、そんな真昼の怯えを。

 ちょっと揶揄うみたいにして。

 デニー、は。

 こう答える。

「太陽だよー。真昼ちゃん、見たことないの?」

「太陽? あれが太陽なの?」

「そう、太陽だよっ! あ、でも真昼ちゃんがいつも見てる太陽とは違うかもね、だって、あれは、ほんとのほんとの太陽だから。太陽ってね、じ、つ、は、この世界でいーっちばん古いデウス・デミウルゴスの卵なんだよ。知ってた? 真昼ちゃん。さぴえんすはあの卵のことを太陽って呼んでるけどー、正しいお名前はヒラニヤ・アンダっていうの。それで、それで、第二次神人間大戦の時の休戦協定の影響で、ナシマホウ界のほとんどの場所からはほんとのほんとの姿は見ることができないんだけどー……えへへ、たった一か所だけ、ナシマホウ界でも、ほんとのほんとの姿を見られる場所があるの。だって、その場所はまだ休戦協定が有効じゃないから。」

 真昼は、理解できなかった。

 あまりにも、混乱しすぎて。

 デニーが言っていることが。

 一つも、理解できなかった。

 でも、たった一つだけ、天啓のように分かったことがある。

 何か、途轍もなく恐ろしいことが起こっているということ。

 真昼は、その「太陽」から、ようやく目を離して。

 自分の隣に立っている、少年の姿をした男を見る。

「それでね、それでね。」

 その男は、くすくすと。

 くすくすと笑いながら。

 真昼の方。

 見ている。

「この場所が、その場所なんだよ!」

 まるで。

 まるで。

 それは。

「真昼ちゃん。」

 美しい。

 こども。

「ようこそ、アーガミパータへ。」


 大抵の生命体は、アーガミパータのことを地獄だという。それに同意しない生命体であっても、アーガミパータが血と内臓の泥沼であるという意見には賛成するだろう。

 さて、これは大変勘違いされやすいことなのだが。アーガミパータが敵と味方と罪のない一般市民との区別もつかないような内戦に次ぐ内戦の土地となったのは、実は第二次神人間大戦後からではない。アーガミパータは神話の初めからそういう場所だったのだ。その死臭に満ち満ちた神話・歴史が形成されるに至ったのには、まあそんなことは誰にだって予想できる事実だろうが、このアーガミパータという土地の特殊性が関係している。

 一般的に、全部で九階層に分かれるリリヒアント境界帯のうち、リリヒアント第五階層(つまりナシマホウ界)と、その他のリリヒアント階層(つまりマホウ界)とは、摂理的に分断されている。これはナシマホウ界が科学的な時空間に属しているのに対して、マホウ界は観念重力による沈下現象により形成された魔学的な穴の中に属しているという原因によるものだ。だから、人間による歴史が始まる前の神話の時代、確かに一時的にナシマホウ界とマホウ界が接続されていたことがあるが、それは自然にそうなったというわけではない。それは神々が無理やり法則を捻じ曲げることによって、神工的に接続しただけの話なのだ。

 しかしアーガミパータだけは違う。アーガミパータだけはとある理由によって(この理由について説明するとめちゃくちゃ長くなるのでカットします)、ナシマホウ界とマホウ界が自然の状態で接続しているのだ。いや、それを接続と呼ぶのはおかしいかもしれない。どちらかといえば、アーガミパータにおいて、ナシマホウ界とマホウ界はぐちゃぐちゃに混ざり合っている。それだけではない、リリヒアント第一階層から第九階層まで、天堂から神獄まで、全ての時空間が複雑に絡み合ってしまっている。

 そのため神話の時代には、天堂と神獄との縦方向の争い、あるいは先住民族であるヨガシュ族と侵略者であるゼニグ族との横方向の争いによって、アーガミパータは(一言でまとめるなら)とっても悲惨な有様だった。しかし、それがどんな風にとっても悲惨だったのか、あるいはその悲惨な有様に無教がどうかかわっていたのかというのは、ここで語るべきことではない。この物語にはほとんど関係ないし、第一なんらかの生き物が惨たらしく死ぬ以外の出来事はほとんど起こらないので、ちょっとばかり退屈な話になってしまうからだ。とにかく、ここで重要なのは、第二次神人間大戦後のアーガミパータについてである。

 人間が神々、及びその他の主だったゼティウス形而上体に対して反旗を翻し、遂には力づくで己の世界を勝ち取るに至った第二次神人間大戦。その戦争によって、ナシマホウ界とマホウ界との間に開いていたヴェッセルは(一部を除いて)閉ざされた。しかもその上(一部を除いた)人間達の記憶の中から、あらゆるマホウ界の情報は失われてしまった。もしも記憶を残しておけば、いずれ人間達が自分達の世界に攻め込んでくるかもしれないと恐れた神々が、その頭の中から全ての記憶を拭い去ったからだ。

 そう、ヴェッセルは閉ざされた。だから、ナシマホウ界とマホウ界がヴェッセルによって繋がっていた場所においては、その接続は切断された。だが……アーガミパータは違う。アーガミパータはもともと、その二つの時空間が入り混じった場所であって。だからアーガミパータは(未だに開いている一部のヴェッセルおよび愛国の水鬼角を除いて)世界で唯一、この時空間、つまりナシマホウ界から、あの時空間、マホウ界に向かって、開いている場所となったというわけだ。

 さて、ところで。この世界においてProblemを構成するElementsは主に四つだ。なんでいきなり汎用トラヴィール語を使い始めたのかと思われる方もいるかもしれないが、特に理由はない。とにかく、それは四つであって、それは愛と・富と・権力と・名誉とだ。もちろんこれ以外の原因が闘争を引き起こすこともあろうが、ここでは平均値の話をしている。平均値で見てみればこの四つが明確な闘争領域を形成しているということに反対する者はいないだろう。そして、アーガミパータが地獄、あるいは血と内臓の泥沼になるに至った原因についても、間違いなくこの四つ、その内でも特に愛と富とが関係している。

 まず。

 愛。

 先ほども書いた通り、第二次神人間大戦が終わってもアーガミパータだけはナシマホウ界とマホウ界がぐちゃぐちゃに混じり合ったままだった。一方で、第二次神人間大戦の休戦協定が発効されるのは人間の世界、つまりナシマホウ界だけであった。と、いうことで。この二つの事実から簡単に導き出せる結論であるが、アーガミパータにおいては、休戦協定は発効されなかったのだ。そして、その結果として、アーガミパータに住む人々の頭の中からは神々の記憶が拭い去られることはなかった。

 ここで一つ当たり前の事実を指摘しておかなければならないのだが、いうまでもなくナシマホウ界の全ての人間が人間至上主義者というわけではない。今まで何千年、何万年の長きにわたって、人間は神々に服して生きてきた。今更その生存の方法を変えろといわれても、それを受け入れるものばかりではないのは当然のことだろう。それに人間という生き物は本質的に無秩序な自由よりも秩序だった服従を望むものだ。というわけで、神々の記憶を失わなかった人々の内には、神々への服従、つまり神々への愛を守り抜くために。押し付けられる無慈悲な自由に対して雄々しく雌々しく立ち向かうことを選択した人々がいたのだ。彼ら/彼女らは神国主義ゲリラと呼ばれた。そして、神国主義ゲリラは、人間至上主義勢力に対して、アーガミパータの各地でゲリラ戦を仕掛け始めた。

 次に。

 富。

 それではアーガミパータという土地を全く別の観点から見てみよう。その土地が有する資源という観点だ。アーガミパータはナシマホウ界でありマホウ界である。ということは、本来ならばマホウ界にしか存在するはずのないマギメタルや魔玉を、ナシマホウ界にいながらにして獲得することができるということだ。これは非常に魅力的なことだ。本来であればそういったものは、第二次神人間大戦後も継続して神国であり続ける月光国や、あるいはユニファルテによる第二神政が敷かれているアフランシといった国々を経由しないと手に入らないのだから。

 となれば、アーガミパータにそういった資源が眠っていることを知っている人々、つまりアーガミパータ外の世界で神々や第二次神人間大戦やの記憶を失っていない一部の人々が、そういった資源を手に入れようとしても、それは人の情がなしうるとこ、人間であれば誰とて責められることではないだろう。ただ、少し困ったことに、ここで困っているのはトラヴィール教会やASKやヴァンス・マテリアルやパンピュリア共和国政府といったアーガミパータの資源を狙っている人々なのだが、困ったことにアーガミパータは人間至上主義勢力と神国主義ゲリラとの熾烈な闘争の場となってしまっている。何も考えずにその土地に行って、はいはいと掘らせてくれるような状況にはない。

 そこで、各々の強欲なプレイヤーが、そのゲーム、人をたくさん殺した方が勝ちという簡単でやりがいのあるゲームに参加することになった。もちろん自前の軍隊を送り込んだり雇った民間軍事企業を送り込んだりといった分かりやすい方法で参加したプレイヤーもいた。しかしながら、そういった方法は、なんというか、ちょっと評判が悪い。信徒や国民の皆様に説明する時に色々と面倒だし(説明しなければならない場合の話だが)、企業コンプライアンス的にどうかと思う(ファニオンズはそういうどうでもいいところにうるさいのだ)。

 ということで、別の方法を取る集団もいた。その方法とは、もともとゲーム盤の上にいるプレイヤー達に代わりにゲームをプレイしてもらうという方法だ。人間至上主義勢力、人道目的で派遣されているBeezeutの多集団籍軍、それに、神国主義ゲリラ。特に神国主義ゲリラは使い勝手が良かった。ゲリラ部隊はいくらでもあったし、自前のメディアを持つゲリラ部隊は少なかったからだ。何か問題があれば簡単に部隊を皆殺しにできたし、簡単に次の部隊に乗り換えることができたということだ。というわけで、ゲーム盤の外にいるプレイヤー達は、神国主義ゲリラに非常に有望な投資を続けて……その金で神国主義ゲリラは肥え太っていった。

 武器を買い揃え、その武器を有効に使用できるようにするために民間軍事会社に訓練を受けて。最初は吹けば飛ぶような弱小勢力であった神国主義ゲリラは、次第に次第に強力な軍隊へと変貌していった。そして、そういった現象によって、本来であれば人間至上主義勢力が簡単に駆逐できたであろうところの神国主義ゲリラは。なかなか排除できない手ごわい集団、つまりは神閥へと変貌を遂げたのだ。それは、あたかも、あどけない少女が艶やかな大人の女へと変貌を遂げるようにして。

 そんな、こんなで。

 アーガミパータは。

 深く深く歪んだ思惑と。

 蜿蜒と続く死体の舞踏。

 英雄なき、闘争の土地。

 要するに。

 地獄へと。

 相成ったわけで。

 そして。

 それから。

 今。

 真昼は。

 その。

 地獄に。

 いる。

「……ってゆーわけでね、みんな死んじゃって、ここもずっとずっと昔に使われなくなっちゃったの。ほっらー、そもそもマイトレーヤちゃんって未来の如来さんだからこの時間帯には存在してないでしょお? だから、信徒の管理とかそういうのもすっごい適当なの。そういうところもよくないと思うんだよね、デニーちゃん的には。とにかく! この石窟寺院は使われなくなって、そーだなー、何千年だったっけ、三千年? かな? そのくらい経ってて、この場所を知ってる人もぜーんぜんいなくなっちゃったんだけど。もちろんデニーちゃんは知ってたよ! デニーちゃんはさぴえんすと違ってとってもとっても賢いからね! それでー、こっそり隠れるのにちょうどいいと思ったんじゃない? REV.Mの子達がここを秘密の場所にしたってわけ。秘密の場所っていうのは、誘拐してきた子達を閉じ込めておくとこって意味だけど……」

 デニーが、何かを、喋っていた。

 真昼は、ほとんど聞いていない。

 ただ。

 視線の。

 先の。

 光景を。

 見ていて。

 ここは……随分と、高いところにあるようだ。というか、はっきりといってしまえば、はるか眼下に悠々と流れる川を見下ろす渓谷、その断崖の半ばにこの洞窟は掘り抜かれていた。断崖といってもそれほど急なものではないが、当然ながらなだらかといえる斜面ではない、よく訓練された者でなければこの断崖を伝って川辺へと降りていくことはできないだろう。そういった断崖、赤褐色に灰色を混ぜた色をした、骨みたいに乾ききった岩によって形作られた断崖が、見渡す限りどこまでもどこまでも続いている。

 そう、この場所は乾ききっている。そして、度し難いほどに熱い。だから真昼の視線の先にはほとんど樹木の影は見えなかった。川辺には少しばかり緑があるが、そういった叢もところどころが死んだように黄変している。まるで生命維持装置によって何とか此岸に繋ぎ止められている救いようがない重度の病人みたいだ。

 そんな渓谷に、真昼が今いる洞窟と同じような洞窟が幾つか口を開いている。もちろん渓谷の雄大さに比べてみれば蟻が幾つか巣穴を作った程度のものではあったが。また、それらの洞窟は、明らかに造成的に削り抜かれたらしい階段や通路で繋がっていた。それらの階段や通路は全てがむき出しで、しかも人二人がやっとすれ違えるくらいの幅しかなかい。ここを通る人間が少しでも立ち眩みを起こせば、即座に彼方の崖下へと落下していくだろう。

 真昼には、あまりにも広大すぎて、目の前の渓谷がどれくらいの大きさか分からなかった。しかし、真昼のいる洞窟の入り口、その大きさが大体五ダブルキュビトかける五ダブルキュビトくらいで。そんな洞窟が蟻の巣穴ほどにしか見えないという事実から、この渓谷が、少なくとも月光国人の感覚からは誠に信じがたい巨大さだということが分かるだろう。

 視界が、続く、限り。

 青と、赤褐色と。

 濁った川の鉛色。

 それだけが。

 真昼の目に入ってくるもので。

 本来であれば、これだけの情報では、真昼は判断できないはずであった。デニーの言葉が真実であると、つまり、この場所がアーガミパータであると。しかし、それでも、真昼は……完全に、完璧に、あるいは語の意味そのものとしての完膚なきまでに。理解していた、この場所が、アーガミパータであると。

 自分がそのように理解している理由を、真昼は理解できていなかったが。ただ、その理由は簡単なことだった。アーガミパータに来た人間は誰であれその場所がアーガミパータだと理解できるものだ。なぜなら、その場所には、死の感覚が満ち満ちているから。いや、もちろんそれ以前に、見て分かる人間が見ればヒラニヤ・アンダを見れば一発で分かるのだが、真昼は見て分かる人間ではなかったし、まあそれは別として。

 とにかく、真昼は理解した。

 ここがアーガミパータだと。

 だから、今立っている場所。

 そこに、へたり込むように。

 力なく、座り込んで。

 そして、デニーに、問いかける。

「なんで、なんで……」

「なーに?」

「なんで、アーガミパータに……」

「なんでって、どーいうこと?」

「だって、REV.Mってスペキエースの組織でしょ! なんでアーガミパータなの! 普通だったら、ワトンゴラとかエスカリアに拠点を作るものなんじゃないの? だって、だって、アーガミパータは神々と人間至上主義の内戦地帯だし、そんな場所に……」

「えー、真昼ちゃん知らないのー?」

 真昼の言葉。

 ぷぷーっという感じ。

 笑いながら、遮って。

 デニーは、答える。

「確かにー、スペキエース解放軍はそんな感じだけどね、REV.Mは違うの。そもそもあの子達ってさ、ほら、スピーキーのための独立国を作りたがってるでしょ? それで、アーガミパータってこんな感じっていうか、ぴっぴろぴーって感じじゃない。だ、か、ら、きっとムバクちゃん、頑張れば少しくらい自分のどみにおーんにしちゃえると思ったんじゃない? アーガミパータの土地とかそーいったあれこれをね。そーいうわけで、REV.Mはアーガミパータにれっつごー!し始めたの。それでー、そもそもアーガミパータってすっごいすっごい神国主義の場所だったから、スペキエース差別もすっごいすっごいだったのね。そういう風にいじめられてきたスピーキーに、REV.M人気がだーいばくはつ!ってなっちゃって。最近のほとんどの活動はアーガミパータでやってたはずだよーお。真昼ちゃん、そーいうこと、おとーさんに教わってなかったのかな?」

 そこまで言うと、デニーは。

 ばちこーん!という感じで。

 素敵にウィンクをして見せた。

 そのウィンクは、なんというか、人の神経を逆撫でするという慣用句では表現し切れないくらいクソむかつくものではあったが。ていうかぴっぴろぴーな感じってどういう感じだよ、それでもデニーが言ったことは、ほぼ完全に正しいもので。特に、真昼に対して発された「おとーさんに教わってなかったのかな?」という言葉は非常に正鵠を射た指摘であった。

 ここで軽く説明しておきたいのだが、先ほどのアーガミパータについての記述の中に、一部を除いた人間たちの記憶からマホウ界についての記憶が拭い取られたという一文があったと思う。実はその一部の人間の中には月光国の人間が含まれているのだ。いうまでもなく月光国の人間の全員が全員、マホウ界についての完全な知識を有しているというわけではない。しかし、月光国は、この世界にたった二国だけ許された神国の内の一国ということで、マホウ界についての記憶の削除がかなりトレランスなものだったというわけだ。大抵の月光国人は神々について知っているし、知っているどころか神話の授業で習っている。というわけで真昼は、神々について小学校卒業レベルの知識を持っているのだが――そして中学校以上の知識については度重なる不登校のせいで微妙なのだが――しかし、それだけでは、アーガミパータについての知識はそれほどのものではないはずなのだ。

 なぜなら国民がアーガミパータについての正しい知識を得てしまうと政府としては大変面倒なことになってしまうからだ。実はというか当然ながらというか、月光国政府もアーガミパータで行われているゲームの強欲なプレイヤーであって。そりゃあ国民としては自分達の政府が自分達の土地ではない土地で殺戮を繰り返していると知ったらいい気分がしないだろうし、そうすれば政府への非難が高まってくることもやむ終えず、となれば政府による国民に対する弾圧は不可避となり、それによって財政が圧迫されてしまうこともやはり避けられず、そうなれば各省庁の予算配分が大変面倒になるということだ。なので、月光国政府はこれ以上予算で揉めないようにするために、大半の国民に対してアーガミパータの情報をほとんど与えないようにしている。

 大半の国民、そう、大半。

 もちろん、これにも例外となる人間がいる。

 そして、砂流原静一郎は、その例外だった。

 静一郎は知っていた。人間としては知りすぎているほどに色々なことについて知っていた。無論のこと、アーガミパータについても知っていた。そして、その知識を、真昼に与えていた。少なくとも真昼が家にいたころには。

 しかし……残念なことに。最近は、というのはつまりREV.Mがアーガミパータに進出し始めたころからは。真昼は、ほとんど家に帰らなくなっていて。そのせいで、静一郎から、知っていれば今この時に大変為になったであろう知識、最近のアーガミパータについての知識を受け取り損ねていたのだ。

 とにかく。

 そういう。

 わけで。

 どうでもいいけど「とにかく」っていう単語、ちょっと使いすぎかもしれませんね。今から気を付けます。ともかく、クソむかつきはしたが、デニーの解き明かしによって、真昼はなぜスペキエースの組織であるREV.Mが、スペキエースによるパーセキューションの地であるワトンゴラや、ある種のスペキエース・ガバメントであるエスカリアではなく、アーガミパータにその拠点を置いているのかという理由を知ることができたのだった。

 さて、それから真昼は……ようやくのこと、少しばかり落ち着いてきた。その落ち着きには二つの原因があって、誰かが落ち着いたからといっていちいちその原因まで書く必要があるのかといわれるとたぶんそんな必要はないのだろうが、一つ目の理由は先ほど随分と取り乱してしまったということだ。これは、大体の人は経験があることと思われるが、人間というものは一度感情を爆発させると何となくすっきりとして、すとんと憑き物が取れたような気持ちになるものだ。真昼もその例外ではなく、まあまあヒステリックに喚いたことで、かえって冷静になることができた。

 また二つ目の理由としては、これは単純な理由であるが、自分が今置かれている状況について段々とその全体像が掴めてきたということだ。確かに、その掴めてきた全体像はお世辞にも理想的とはいい難い。REV.Mに誘拐されてやってきて、助けられたのはいいが今いる場所はアーガミパータ。しかし恐怖というのは無知から立ち現われるものであって、知識の光によって掻き消すことができる類の感情だ。だから、真昼の中の恐怖も、十分に消え去ったわけではなかったが、少なくともまともにものを考えられるまでには朧に薄れていったのだった。

 そして、真昼は。

 ウィンクをキメたデニーに。

 また、睨みつけるみたいに。

 その視線を向ける。

 冷静になった頭で、まともに物事を考えると。この、デニーという男は……明らかに、どこか、おかしい男だった。どう考えても信用できそうな生き物ではない。もちろん、真昼は、第一印象からこの男に不信感のようなものを抱いていた。だがそれはあくまで本能的な感覚だった、この男の真ん中に、歪に口を開いている、何らかの欠如に対する、脊髄による反応。

 しかし、そういった本能的な感覚だけではなく。論理的な思考によっても、このデニーという男は怪しかった。まず、静一郎と関係を持ちたがっている組織の人間であるという点。静一郎の会社は……ここでは詳しいことは説明しないが、あまり「良い」会社ではない。従って、静一郎は、善良な人間であればお友達になりたいと思うはずがない人間だ。ということで、デニーという男も、少なくとも善良とはいえない生き物であるということは間違いなかった。また、それだけではなく。この男は先ほどの言葉の中で「スピーキー」という言葉を使っていた。これはスペキエースに対する侮蔑語であって、例えば月光国人に対して「ルナティック」という呼称を使うに等しい。そういう言葉を使う人間を真昼はとてもじゃないが信用できない。

 それに。

 あの。

 くすくすという。

 笑い声。

 真昼はあの時、あの笑い声を聞いた時、独房の中にいた。だから、外で何が起こっているのかを、はっきりと見たわけではない。けれども、その音は、どう考えても、殺戮を意味していた。その音は、どう考えても、人が人を殺している音だった。

 その殺戮についてさえ、真昼は……まだ、納得のいっていないところがある。確かに、それは真昼を助けるための行為であっただろう。しかし、本当に、それしか方法がなかったのか? 他に、人を傷つけない方法があったのでは? それに相手はただのテロリストではない、スペキエース・テロリストだ。真昼には確かに誘拐されるだけの理由があって。それなのに殺してしまうなんて。真昼はそういうことを考えてしまうような他愛のない少女なのだ。

 まあ、それはともかくとして、デニーという男は笑っていた。自分の周りで次々と人が死んでいく、そんな状況の中で、あんな笑い方をして笑うことができるなんて普通じゃない、間違いなく真昼とは異質な神経の持ち主だ。真昼は、つまりは、そう考えたのだった。

 そう。

 あれは。

 殺戮で。

 そういえば、あれが殺戮であったのならば。いや、殺戮であったことはまず確実なのだが、そうだとすれば、死体はどこにあるのだろうか。殺戮という行為の主たる要素を構成しているのは、「殺」戮というくらいなのだから、何かを殺すという行為だ。今回のケースでは、殺されたのはたぶんREV.Mのテロリストであろうが、その殺されたテロリストの死体が、真昼の見渡す限りの範囲、どこにもないのだ。それだけではない、デニーに手を引かれて洞窟の中、廊下を駆け抜けた時。もちろんその廊下は薄暗く、しかも巨大な柱に隠されて見えない部分も多かったのだが。それでも、見える限りの範囲には、一つの死体も転がっていなかったはずだ。

 デニーからふっと目を逸らして。真昼は、もう一度、自分の周囲を見回してみる。洞窟の入り口の辺りで、乾いた砂をべっとりと濡らしている、どす黒い血だまりはある。けれども、それしかない。やはり死体はどこにも見当たらない。死体が真昼の目に触れないように、どこかに隠したのだろうか? 真昼に気を使って? あまりありそうにない仮説だが、それくらいしかこの状況の理由を思いつけなかった。

「どしたの真昼ちゃん?」

「……何でもない。」

 真昼は、答えながら。

 その場で立ち上がる。

 ゆっくりと、また倒れこんでしまわないように。けれども、それでいて、デニーに対してなるべく弱い姿を見せないように。真昼は立ち上がる。その拍子に、ふと、頭の上に何かが乗せられたままになっているということに気が付いた。立ち上がってから、それが何なのかを思い出そうとする。それは、鮮やかな植物の感触で……はっと、真昼は思い出す。自分の頭に乗せられた花冠の存在を、デニーによって乗せられた花冠の存在を。その花冠は、まるで真昼のことを馬鹿にするみたいにしてすとんと乗っかっていて。真昼は、かっとなってその花冠を自分の頭の上から引き剝がしてしまった。

「あ、ひどーい!」

 デニーがぶーすかぴーという感じで抗議の声を上げたが、もちろん真昼は無視して。ぐっと振りかぶると、目の前の渓谷に向かって、思いっきり放り投げた。花冠は、まるで一筋の……儚い流れ星か何かのようにして。歪んだ弧を描きながら、静かに、静かに、谷底へと落ちていった。

「んもー、せっかく真昼ちゃんのために作ったのにー!」

「あのさ。」

「ほえ?」

「ちょっといい?」

「なーに?」

「あんた、さっき、あたしのことを助けに来たって言ったよね。」

「そーだよー。」

「じゃあ、ここから助け出してくれるってこと? この……アーガミパータから。ここから助け出して、月光国にまで連れて帰ってくれるってこと?」

「うん、そのとーり!」

 この男は……一体、何者なのだろうか。見た目だけは年端のいかない少年、せいぜい真昼と同い年くらいの少年に見える。けれど、そんなことは、有り得ない。ただの少年が、こんな……こんな目をしているはずがないのだ。

 しかし、そうではあっても。この男が、得体のしれない男であっても。どうやら、この場所で、この地獄で、このアーガミパータで、真昼が頼ることのできる生き物は、この男しかいないようだ。となれば、真昼は……この男に、頼るしかない。

 だから。

 真昼は。

 デニーに。

 こう言う。

「……分かった。」

「えへへ、安心してね、真昼ちゃん。デニーちゃん、頑張るから!」

 ときめいてしまいそうなくらい。

 キュートな笑顔で、そう言って。

 そんな風にして、真昼がデニーに対して、ようようのこと申し訳程度の譲歩をして。「でも、助け出してくれるっていったって、こんなところからどうやって……」とかなんとか言いかけた時に。洞窟の入り口からこちらの方へと、数人の人々、つまりデニーの部下だか何だかと思しき陸軍戦闘服の人々が向かってくるのが見えた。多少は冷静になった今の視点で見ると、それらの人々は、各々がその頭、ヘルメットのところに、一輪ずつ花をつけていた。ラッパみたいな形をしたいかにも南国っぽい花で、一輪一輪が違った色をしている。それが、どう見ても陸軍戦闘服には似合っていなくて、真昼にはただただ不気味に見えたのだった。

 ところで、それらの人々は。ただ、こちらに向かってくるわけではなかった。誰か、陸軍戦闘服を着ていない人間を、こちらへと引きずってきていたのだ。恐らく月光国人らしき女、けれど、真昼が一度も見たことのない女。まあ、月光国人だからといって誰しも友達であるわけではないし、真昼が知らない月光国人がいるというのは当然なのだが。それはそれとして、その女は。血液と砂で薄汚く汚れ、そこら中に傷がついた、スーツのような服を着ていて。右側にいる陸軍戦闘服の人と、左側にいる陸軍戦闘服の人と、そのそれぞれに、右の腕と左の腕を抱えられるようにして。そして、真昼は……なんだかそのスーツに見覚えがあるような気がした。それは、ほとんど襤褸布のようになってしまっていたが、そう、真昼は確かにそのスーツに見覚えがあった。

「ミスター・フーツ。」

「はいはーい。」

「ご命令の生存者です。」

「さーんくす、ぎびんぐっ!」

 そう言うと、デニーは、まるでピルエットのようにくるんと振り返って。片方の手、人差し指をくっと伸ばして、それとは直角に親指を立てて、まるで拳銃のような形にした手を、そちらに向かってばきゅーんとして見せた。そちらに向かって、つまり、ご命令の生存者に向かって。

 月光国人の女、スーツを着た女、ご命令の生存者は。そんなデニーのことを、憎しみに満ちた目で睨みつけていた。その憎しみは……真昼には想像がつかないような、憎悪だった。ぎりっと、その口の中で血が滲んでいそうなほどに奥の歯を噛み締めて。そのままデニーの目の前に無理やり跪かされる。両ひざを折って、地面に付いて。それから、両方の腕を、陸軍戦闘服の人々に捩じり上げられるようにして。それでもその女は、その燃えるような両眼を、デニーから離すことをしなかった。

 けれども、そんな、炎を。

 まるで感じた様子もなく。

 デニーは。

 にへーっと。

 笑いながら。

「はじめまして、デニーちゃんだよっ!」

「知ってます。」

「わー、嬉しいっ!」

 けらけらと笑いながら。

 デニーは言葉を続ける。

「で、お名前は?」

 口を閉じたまま、女は答えない。

 デニーは、もう一度問いかける。

「お名前はーあ?」

「……パロットシング。」

「パロットシングちゃん! いいお名前だね!」

 大していいお名前と思っていなさそうな言い方で、それでも満面の笑みでにこにことしながらデニーはそう言ったのだが、それはこの際問題ではない。問題なのは、女の答えを聞いた真昼の反応だ。真昼はその答えを聞いてようやく思い出した。そのスーツをどこで見たのか。それは芥川のスーツだった。そしてこの女が何者であるかを理解した。この女は真昼を攫った女だ。パロットシング、シェイプシフトのスペキエース。つまり、その正体が、この姿ということだった。

 真昼がもっと女のことをよく見ていたら、その首には首輪が嵌められていることに気づいていただろう。濁った色をして光る、鈍い虹色の首輪。それはスペキエースの能力を一時的に封印することのできる首輪で、といってもどんなスペキエースについてもその能力を封印できるというわけではないのだが、取り敢えずのところパロットシングの能力は封印できていて、そのせいで正体を現していたのだった。

「色々とね、聞きたいことがあるの。」

 両手を背中に回して。

 るんっと首を傾げて。

 デニーは、続ける。

「デニーちゃんは、パロットシングちゃんにね。」

「答えるつもりはありません。」

「えー、そんなこと言わないでよー。」

 何か……何か、不穏な空気を、真昼は、感じていた。

 とても、恐ろしいことが、起こりそうだという空気。

「とにかく! 一つ目の質問ね。」

 整然と並んで、顔色一つ変えていない。

 まるで非人間的な、陸軍戦闘服の人々。

 人形にも似た、その人々に、囲まれて。

 デニーは、ゆっくりと、顔を近づける。

 パロットシングの、その顔に。

 キスでも、しそうな、くらい。

「ここにいた子達の他に、誰がこの作戦に関わってるのかな?」

 もちろん、パロットシングは答えない。

 唇が触れてしまいそうな距離のままで。

 デニーは、質問を続ける。

「真昼ちゃんみたいにとーっても大切なターゲットに対して、ここにいたみたいな子達だけが作戦のメンバーなんだって思うほど、デニーちゃんはお馬鹿さんじゃないよ。たぶんなんだけどー、ここは、ただの、中継地点、だよね? それで、パロットシングちゃん達は、ただの運び屋さん。ということはー、きっとどこかにいるはずだよね! この作戦の本隊が。それか、少なくとも、バックアップ部隊が。そういう子達は、一体どういう子達なのかなあ? 何人くらいいて、どんな素敵な能力を持っているのかなあ? それに、それに、今、一体、どこにいるのかなあ? ね! ね! ね! 教えてよ、パロットシングちゃん! い、じ、わ、る、し、な、い、で。」

 眼球の内側まで、覗き込むかのようにして。

 すぐそこにまで迫っている、デニーの視線。

 全然、怯むことなく見返して。

 パロットシングはこう答える。

「言ったはずですよ。」

「ほえ?」

「答えるつもりはないと。」

 そして。

 デニーの、顔に。

 唾を吐きかける。

 吐きかけられたデニーは、その行為に対して……笑った。声もなく、まるで子猫のように。にーっと、口を、引き裂くようにして笑った。一度、屈みこんでいた体を起こして。それまで近づけていた顔と顔と近づけていた距離を、そっと離す。それから……くすくすと、くすくすと。まるで、お腹をくすぐられた幼児みたいな笑い方をして笑う。

 ぺろり、と舌を出した。やけに長く、やけに赤く、それでいて、やかに子供っぽい舌を。そして、その舌で、頬のところ。パロットシングに唾を吐きかけられたところを、べろんと舐める。パロットシングの唾は、きれいに拭われて。デニーは、くすくすと笑いながら、こう言う。

「おいしいね。」

 さすがに……今まで不敵な態度を取っていたパロットシングも、デニーのこの行動については無視することができなかったらしい。ほんの一瞬だけ、憎悪の表情が剥がれて。ぞっとしたような、息を飲むような顔をする。そんなパロットシングに向かって、デニーは言葉を続ける。

「ぺっぺってしたものだけで、こんなにおいしいならーあ。」

 言いながらデニーは。またパロットシングに向かって、ゆっくりと、ゆっくりと、屈み込んだ。ちなみに、跪いているこの姿勢でなければ、パロットシングの肉体よりも、デニーの肉体の方が、ほんの僅かに小さい。それほどまでにデニーは幼く見える姿をしているのだ。ただ、それでも、そのように幼い姿は明らかにデニーの本当の姿ではなかった。

 パロットシングは、剥がれ落ちたはずの憎悪、もう一度、その顔に張り付けてはいたが。その感情は、既に仮面となり果てていた。その裏側には、明らかに透けて見えていたのだ。デニーという生き物に対する、怯え、恐怖の色が。しかし、そんな色のこと、気にもしないで。デニーは、その顔に、この顔を近づける。

 すうっと。

 可愛らしい蝶々が。

 枯れ果てた花の上。

 気まぐれに、とまるように。

 デニーの、甘い、甘い、唇が。

 パロットシングの、瞼の上に。

 優しく、触れる。

「きっと、もっーとおいしーんだろうなあ。」

 柔らかくくすぐるようにして、デニーの唇が動く。

 パロットシングの口から、ひっという声が漏れる。

「パロットシングちゃんの。」

 逃げられないように、両方の手のひらを。

 パロットシングの顔に、そっと、添えて。

 それから。

 デニーの。

 唇は。

 言う。

「きれいな、きれいな、おめめは。」

 がりん。

 噛み砕く音。

 それと絶叫。

 それは……どう聞いても、その声は、声ではなかった。人間の声のようには聞こえなかった、真昼は、こんな叫び声をして、人間が叫ぶ叫び声を、聞いたことがなかった。でもね、真昼ちゃん。それは、真昼ちゃんが、ほんとなら知らなきゃいけない色んなことを知らなかったっていう、ただそれだけのことなんだよ。さぴえんすは、よく、こーんな風に泣き喚くんだ!

 パロットンシングの叫び声は、悲鳴は、絶叫は。まるで、惨めに哀れに屠殺される直前の家畜のようだった。いや、それでもまだその声を表現するには生易しすぎる例えだ。それは、単純にアラートだった。警報、警告、それに、救助の要請。それだけのために、本能が喉を震わせる。そう、それは機械にも似た本能の行為。なぜなら、あまりの激痛のために、パロットシングは、理性や思考といった人間らしい機能を、完全に失っていたから。

 のたうち回る、少なくとも、のたうち回ろうとする。けれど、それさえもできない。両方の腕は、まるで捻じ曲げられるかのようにして、デニーの部下によって固定されているし。その両足も、よく見れば動くことができない状況にあった。地面の上に引きずるような形になった二本の足は、やはりデニーの部下によって、踏み潰すみたいにその場に押し潰されていたから。

 パロットシングの顔にその唇を触れさせて。あーんと開いた口、がりんと音を立ててから。デニーは、既にその体を起こしていた。パロットシングの顔の噛み砕かれた部分から、何かの楽しいおもちゃみたいにして鮮血が迸る。その鮮血がデニーの着ているスーツを汚す。デニーは、けれど、そんなことを気にすることもなく……にこーっと笑っていた。愛くるしく、愛々しい、べっとりと赤く濡れた笑顔で。それから、その口は……その舌は、口の中で、何かを転がしていた。ころころと、飴玉でも舐めているかのように。パロットシングは、そんなデニーの目の前で、低能のように頭を振り回している。片方の眼球を、失ってしまった頭を。

 デニーは。

 右の手のひらと。

 左の手のひらを。

 自分の体の前で。

 ぱんっと、合わせて。

 小さな口を、もごもごとさせながら。

 とっても幸せそうな笑顔、こう言う。

「おいしーい!」

 そして。

 頬っぺたのところに。

 飴玉をどかしてから。

 両方の手のひら。

 また、ぱっと開いて。

「さーて、パロットシングちゃん。」

 パロットシング。

 見下ろしながら。

 こう続ける。

「質問を、続けて、いいかなあ?」

 真昼は……真昼は。その光景を見ていた真昼は、何もできなかった。本当に、この語が示すその通りの意味で、何もできなかった。なにせ呼吸さえできなくなっていたのだ。喉の奥で、掠れた空気がヒューヒューといっている。本当に、真昼の体のうち、まともに動いていたのは心臓くらいだろう。そして、その心臓は、早鐘を打っていた。

 真昼は、どうやら、誤解していたようだった。この男は得体のしれない男なんかじゃない。この男の得体を、真昼はよく知っていた。悪魔だ。この男は、間違いなく、悪魔だった。それ以外にいるだろうか? これほどまでに楽し気に、これほどまでに無邪気に、これほどまでに愛らしく、他人の眼球を食い千切れる生き物など。本能が叫んでいる、動いてはいけないと。だから真昼は息をすることもできなかったのだ。なぜなら、真昼の目の前には、一匹の悪魔がいるから。

 そして。

 アーガミパータ。

 この地獄で。

 真昼のことを、助けてくれるのは。

 残念ながら、この悪魔しかいない。

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