第陸話 海斗の卒論、その「参考資料」

「次は〈しんじぃ~、しんじぃ~〉」

「ムニャむにゃ、ん? 『しんじ』……、神事……?、えっ、えぇぇぇ~~~、〈宍道〉だとぉぉぉ~~~」

 海斗は、机の上で両腕を枕にし、突っ伏していた状態から上半身を跳ね上げた。


 夜を徹して書いていた卒業論文の「序論」を読み直している途中、おそらく、岡山と倉敷の間で、海斗は寝落ちしてしまったのだが、気付くと、サンライズ出雲は「宍道駅」に到着せんとしていた。

 時刻は九時四十五分少し前、宍道は、サンライズの終点である出雲市の一つ手前の駅で、列車が終点の出雲市駅に到着するのは九時五十八分、あと十五分しか時間がない。


 サンライズ号が東京駅を発った後、横浜駅から岡山駅までの約七時間の移動中、海斗は、広い机の上に置いたノートパソコンのキーボードをひたすらに打って、卒論の執筆をした。

 パソコンのディスプレイ上には、ワープロソフトに加え、執筆の際に参照したサイトが幾つも開かれており、海斗は、作成したファイルを保存してから、後からでも確認できるように、サイトをブックマークしていった。


〈ブックマーク・WEB〉(二〇二三年十一月二十三日閲覧)

 「祭典・神事」「出雲大社祭日表」「出雲大社境内図」「出雲大社境外図」、『出雲大社』。

 「神在月」、『出雲観光ガイド』、(一社)出雲観光協会。


 それから、海斗は、机上の空いているスペースや、眠るためには結局使わなかった幅広のベッドの上に散っていたた数冊の本を片付ける事にし、持ってきた本のリストをチェックしていった。


〈チェックリスト・書籍〉

☑:一.千家尊統『出雲大社』、東京:学生社、一九六八年(第三版、二〇一二年)。

☑:二.皇学館大学 、古代出雲歴史博物館編『伊勢と出雲の神々』、東京:学生社、二〇一〇年。

☑:三.三橋健『図解伊勢神宮と出雲大社:神話と現代を結ぶ二つの神社』、東京:PHP研究所、二〇一一年。

☑:四.千家和比古、松本岩雄編『出雲大社 :日本の神祭りの源流』、東京:柊風舎、二〇一三年。


 置き忘れ防止目的の照合作業を済ませた海斗は、持参した硬質プラスチックのクリアケースに、書籍を丁寧に入れていった。これら、出雲旅行に持ってきた本は全て、大学の図書館から借りてきた物なので、万が一にも汚損させる分けにはいかないのだ。


「あっ! やばっ、一冊、忘れてたわっ!」


 出雲大社関連の本ではなかったので、チェックリストに入れておかなかった、自分の持ち物である単行本サイズの本を、海斗は、慌てて鞄に入れたのであった。


 「旅と鉄道」編集部、『寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」の旅 (旅鉄BOOKS056) 』、東京::天夢人、二〇二二年。

 

 


 

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