第2話 対決の聖女と魔王
「あなたが……魔王? 笑えない冗談ですね。あなたからはそれほどの魔力を感じません」
アーシェはどこか息詰まるプレッシャーを感じながらも、そう言ってのけた。実際、オディナと名乗ったこの魔族の力を、アーシェはそれほどすさまじいとは感じない。なのだが息が詰まり、脂汗が法衣の下の肌を伝うのは……、やはり本能的な恐怖を惹起されているということか。
「わたしが本来の力を解放してはこの王都シーザリオンを崩壊させかねませんので。そういうことはわたしの望みではありません」
魔王オディナはそう言って、柔らかく笑う。どこか寂しげな笑みに、アーシェはわずかに引き込まれるものを感じた。が、すぐに思い直す。相手が真実、魔王であるなら、誑かされてはならない。彼はアーシェ達人間の敵であり、女神グロリアの敵だ。容赦なく倒さなくてはならない!
聖杖ユースティアを構え直す、アーシェ。タレ目がちの大きな瞳を細く鋭くし、魔王を勁烈な視線で射貫く。
「あなたは、女神グロリア様を弑す、といいましたね……? ならば、あなたを倒す理由は十分です!」
聖杖から飛ばす雷撃が通用しなかったのは先の交戦で証明済み。ならば直接、敵の身体に打ち込み、雷撃に自らの神力を乗せる! アーシェはそう決して、オディナへと攻めかかる。アーシェの身体は16歳不相応に発育して豊満だが、聖女の技芸のひとつとして東方・拳法と兵法の国【華国】桃華帝国の武芸師範から仕込まれた体術は彼女を鈍重にさせない。硬軟取り混ぜ、ときに激越、ときに柔らかい動きで聖杖を払い、さらにそこから肘うち、回し蹴り、掌打、もういちど蹴りを放ち、そして真っ向唐竹割で聖杖を振り下ろす!
が、魔王には当たらない。ほとんど動いているようにも思えないのに、こちらの攻撃が魔王を避けているように、絶妙にすべてが外されてしまう。
「く……、これは……?」
「魔王の格とでもいいましょうか。あなたの力がわたしの怒りを恐れているのですよ。……わたしとしてはこのくらいのことで怒ったりするつもりも、ないのですが」
「戯言を……!」
笑顔を引っ込めることもない魔王オディナの胴を目掛け、アーシェの聖杖がフルスイングで打ち込まれる。直撃! しかし快哉を叫ぶ余裕はなく、打ち込んだアーシェのほうに強烈な神力の衝撃が襲う。
「あぁっ!?」
自身の神力を完全な形で返されて、アーシェは呻き、悶える。苦悶する聖女を弄うこともなく、むしろ慈悲深く心配する瞳で、魔王は告げた。
「わたしに神力は効きません。もともとわたしはグロリアとおなじ、古き世界の神の生き残りなのでね」
「はぁ……はぁ……っ、あなたが……神? 女神グロリアさまと同じ……?この世界に男の神などいないはず……」
「それはグロリアが粛清したからですよ。聞きますか? かの女神の行った悪行の数々を?」
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