2.4

「おはよ……って、どうしたの、その目」


 翌日、目元を擦りながら登校していたところ、後ろから来た優にそう言われることにより、クマが出来ていることに気づく。


「寝ぐせもついてるし、何かやってたの?」


「うん、ちょっと」


 疲れからか、発声が上手く出来ず、気力だけで歩きながら学校に向かう。優は前を歩きながらも私を気にかけるように、しばしばこちらを振り向く。


「大丈夫だよ、少し寝不足なだけ」


 手を小さく振りながら心配をかけないようにそういう。優は立ち止まってこちらに振り返り、光により照らされている青みがかる黒髪を指先でいじりながら、口を開く。


「それならいいけど、無理しないでよ」


 そういうと、向こう側の方に視線を戻し、優はまた歩き始める。ほのかな幸せを感じることにより、私の頬は自然に緩む。


「うん、ありがとう、優」


 いつものように彼女についていく中、私は脚本のことについて考える。テーマは昨日考えたもので大丈夫そうだが、問題はそれ以外にある。というか、それ以外の全てが問題だ。配役、尺、内容、衣装……考えただけでもキリがない。ある程度は癪だが佐々木先輩に頼ればいいとして、大方は自分でやらないといけない。


「どうすればいいものか……」


「ん? どうしたの、澪」


「え?」


 どうやら私の知らないうちに口の中から零れてしまっていたらしい。こうなれば優にも相談しようと思い、私は事情を細かく話した。それを聞いた優は少し悩んだ素振りを見せた後、ひらめいたように手のひらに握り拳を当てる。


「過去のやつを参考にすればいいじゃん。去年の分は、紙にもあったんだし」


「あ、そうか」


 そういえば、前例はあったんだ。寝不足だからか分からなかった。

 気づいてくれた優に対しペコリと一礼して感謝を伝えると、指を二本突き立て大きな青色の瞳を閉じながら微笑む。随時魅力を思い出させる彼女に対し、知らないうちに顔を赤くさせる。

 そんな優を前にふと、こう思う。何か、ご褒美はないものなのかと。

 もちろん、我儘を言ってることは承知の上だ。優の近くにいたいという、自分のエゴを優先してやった行動だと。だけど形式上では、頼まれ事を引き受けたという立場のはず。何かをねだっても、誰にも文句は言われないはずだ。

 寝不足だからか、いつもより判断力が鈍っていた私は、今考えたことをすぐに行動に移した。


「あのさ、優」


 そういうと優は立ち止まり、「どうしたの」と呟き、こちらを向きながら立ち止まる。


「何か、ご褒美が欲しい」


「ご褒美?」


「うん、ご褒美」


 普段の私なら絶対に言わないであろう発言を、今日は簡単に吐いていく。睡眠不足のせいにして、私は優の返事を待つ。


「うーん……そうだね。いいよ、ご褒美」


「……え?」


 快諾してくれた目の前の彼女に対し、すんなりと通ったことに対し驚いた私は口を開き、呆気にとられたような表情になる。だがすぐに両頬を叩いて切り替え、夢にみていたことを言葉にする。


「……それなら一緒に、カフェに行きたい」


 頬を赤らめながら、そう口にする。私と優は仲が良いと言えるであろう関係だったけど、休日にどこかに遊びに行くことはしたことがなかった。いつか行ってみたいという欲望をこのような場所に使ったことに負い目を感じるが、それはそれだ。


「そんなのでいいの?」


「そんなのがいいの」


「そっか。じゃあ、場所と日にちは澪に任していいかな?」


「うん。任せて」


「了解。じゃあ、行くとしますか」


 優はそういうと、先ほどと変わらない調子で歩き始める。私も同時に足を動かすも、妙に意識してしまいぎこちない歩き方になってしまう。優との距離が、縮まったり遠くなったりする。そんな中、私はニヤニヤを止めることはできなかった。

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