1.4

 後日、放課後のとある教室。私と優は体育祭実行委員会に入ったので、会議のため特別教室に向かって歩いていた。

 優の斜め後ろを歩いている中、彼女の青いリボンが僅かに揺れているのを見ていると、ある疑問があることを思い出し、そのまま口に出す。


「そういえば、優。なんで、体育祭実行委員なの?」


 委員会をやりたい理由は何となくわかる。ただ、何故これを選んだのかは分からなかった。


「……ちょっとね、してみたいことがあって」


「してみたい、こと?」


「うん。けど今は、内緒だよ」


 そういうと、優は口元に立てた人差し指を当てて、可愛らしく右目でウインクをする。そんな優を見ると理由なんてどうでもよくなり、返事を頷きで返す。

 そうして特別教室までたどり着くと、扉を音を立てながら開け、自分たちのクラスの席を探す。そんな時だった。


「……もしかして、優ちゃん?」


 突然、目の前の彼女を呼ぶ声が私の耳に届く。音の発生源の方を確かめてみると、そこには私たちよりも一学年高い、二年生の生徒が優を指さしながらそういっていた。


「……日和?」


 優もそう口にしながら、困惑の表情を浮かべる。ただ、その表情に込められている意味は、驚き以外にもありそうだった。

 どういうことだ。私はその状況を上手く理解することが出来ず、形容しがたい表情を顔に浮かべる。本当にどういうことか、分からなかったから。

 頭の回っていない私が、どうしようもなく優とその二年生を交互に両目で追っていた時。椅子に座っていた二年生の人が、突然立ち上がった。


「久しぶり!」


 そういうと、勢いよく優に抱き着き、背に手を回す。突然抱き着かれたことに驚いたのか、優は普段ならしないような表情を見せながら、頬を赤く染める。


「日和、どうしてこの学校に?」


「父の転勤で、結局戻ってきたの。家は、前とは別の場所だけどね」


 私の知らない情報の開示が、目の前で行われていく。

 ……え? いやいや、ちょっと待て。まだ、状況の把握が追いついていない。私ですら、未だ優に抱き着いたことないんだけど。というか、それよりも。


「……あなた、誰ですか?」


 いい加減、言葉に出すことを我慢できず、顔をしかめながら赤色のリボンを胸にする彼女にそう尋ねる。彼女はその態勢を保ったまま、口を開く。


「佐々木日和。それが私の名前だよ。ところで、そんなあなたは?」


「まず、優から離れてもらえませんか?」


 そういうと、彼女は「おっと、失礼」と呟きながら、優から離れる。それでもなお、八方美人な笑顔を優に向ける。まずい、不機嫌なオーラが周りに出てるかもしれない。

 そんな彼女を睨みつけるようにしていると、優がわざとらしく咳をする。おのずと、視線が優の方に行く。


「澪、紹介するね。この人は、佐々木日和。私の幼馴染で、今知ったんだけど、ここの先輩みたい。で、日和。この人は、不知火澪。私の友達だよ」


 優が私とその日和という人に対して交互に紹介をしている中、私は「友達」という言葉に引っかかる。だけど今は、そんな場合じゃない。私の中に生まれた羨望を、睨んだ目に変えて彼女に向ける。それとは正反対に、屈託のない笑顔を私に向け、なおさら劣等感が増す。


「よろしくね、澪ちゃん」


「……よろしく、お願いします」


 許可もとらず敬称で私を呼ぶ彼女、日和さんが私に対して握手を求める。だけど私は、それに対して返すようなことはしなかった。突然出てきた異分子の存在に、ただただ睨みつけることしかできなかった。

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