第9話 石像族



 『擬態』を手に入れたゼロだが、目的のスキルではないので、続けて岩山を登り続けていた。




(『擬態』はいいスキルだが、欲しいのと違ったな)

『……お兄ぃ、出来た』

(……へ? 何が…………はぁっ!?)

『……統合した。『魔力隠蔽』と『擬態』で『隠密』が出来た』

(手に入れて、いきなり統合!? ………………まぁ、いいや。で、効果は?)


 もう終わったことを言ってもしょうがないので、切り替えて『隠密』の効果を聞いた。

 切り替えが早いのがゼロの良いところだ。

 説明を聞いたら、『隠密』を使えば、魔力、聴覚の察知では感知出来ないようになる。

 レイの説明では、『擬態』は視覚をごまかすことが出来るが、ゴーレムの身体は岩で出来ているから、岩場に隠れることが出来た。

 だが、草原や森などでは、効果が薄いと言うらしい。

 つまり、俺が使っても透けているだけの身体では、『擬態』の効果は役に立たないらしい。


 便利だなと思ったゼロだったが、話を聞いたらガッカリしていた。

 せっかく七回、戦い続けて得たスキルだったのに、それが役に立たないときた。

 だから、レイは統合に使い、ゼロでも使えるスキルに作り変えたようだ。

 視覚は擬態の効果を組み込めるが、無駄だけなので排除して、視覚の代わりに聴覚を察知出来ないようにしたのだった。




 さすが……、レイだな。無駄をなくし、使えないスキルを使えるスキルにするとはな……




 レイは統合を使いこなしていた。そのことに敬意を覚えるゼロ。




(良くやった! さすがのレイだなっ!)

『……ふふん♪』


 そのやり取りは、思考空間ではやっていて、現実では一秒も経っていなかった。




(さて、ゴーレムじゃないなら、もう一つのゴーレムの方かな?)

『……いるか、わからないけどね』


 そう、ゴーレムは一種類だけではなかった。

 さっきまで戦っていたゴーレムは、普通に隠れるのが上手いゴーレムとして、もう一種類は、フォネスの話では、武器を作り出すと言われているゴーレムがいるのだ。

 そのゴーレムは先程のゴーレムより強いので、変異種では? と考えられているようだ。




(そっちの方が可能性があるんだけどな……)

『……頑張ろ……』


 いるかわからないゴーレムを探しつづけるゼロ達。


「なぁ、目撃した場所は知らないのか?」

「ええと、確か、頂上で会ったと本に書かれてありました」

「本?」

「はい。 私は落ちこぼれで、相手してくれる人はいなかったので、本ばかり読んでいました」

「そうなのか。本はどれくらいあったんだ?」


 ゼロにとってはフォネスの過去はどうでもいいので、本のことを詳しく聞いていた。

 フォネスにしては、過去のことは聞かれない限り、自分から話したいとは思わないので、聞かないでくれるのが嬉しく思う。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「へぇ、九尾族の歴史が書かれている本があったんだ」

「はい」


 目的のゴーレムがいそうな頂上に着くまで、フォネスに本のことを聞いていた。

 九尾族は長い歴史を持つ種族のようだ。

 魔物であり、知能を持って火を得意していた上位魔物として君臨していた。

 だが、最近になって人間や魔王から九尾族の領地を侵攻され、少しずつ弱体化を辿っている。

 今の九尾族では、前の九尾族の足元には及ばなくなったらしい。

 その話の中で気になったことがあった。




「待て、魔王のこと詳しく知らないか? そして、人間は昔の九尾族を追い込む程、強いのか?」

「すいませんが……、今の魔王は何人かいるしか知りません。人間のことも……」


 九尾族は領地を侵略されてから、森の奥に隠れ潜んでいたため、世間には詳しくないのだ。


(聞いたか? 今は魔王が何人かいるみたいだぞ)

『……魔王が、何人かいるなら、人間の方も勇者が沢山いそう』

(マジかよ。 世界征服するなら、あいつらも倒さないと駄目か)


 最終目的は、世界征服だ。そのためには、邪魔する者は消さなければならない。

 ゼロはもう目的を建てたには、諦めるつもりはない。

 続けて、フォネスに他の本のことも聞き続けていたら、頂上に着いたようだ。






 頂上に着いたゼロ達だったが、武器を作ると言われるゴーレムの姿は無かった。

 神を奉る社のような物がポツンと置いてあっただけだった。

 フォネスと同じ大きさの社、何のためにあるのかわからなかった。




「なぁ、ここって何か神様を奉っていた?」

「いえ、聞いたことがないです」


 なら、なんで社があるのか不思議だった。

 何の社なのか、近付いてみたら…………


『……っ!……ここから、離れて!!』


 慌てたような声に、ゼロは社から離れた。

 そうすると、社の門が開いた。




「な、なんですか、あの魔力!?」

「まさか、ここでボス戦とは言わないよな……?」

「え、ボス戦?」


 わからない言葉にフォネスは首を傾けていたが、ゼロはレイと会話をしていた。


『……ボス戦みたい……』

(だよな〜。マジでゲームみたいだな……)

『……あ! お兄ぃ、見て!』

(見て? あ、鑑定か……あ!!)




 鑑定でステータスを見たら、『物質構成』と言うスキルがあったのだ。

 まさに、求めていたスキルを見付けたのだ。



「フォネス! あの獲物、逃がすな!!」

「は、はいぃ!」


 急にテンションが上がっていることに驚いていた。

 しかも、強そうな敵を獲物と言っているのだ。




「ん? 種族がゴーレムじゃなくて、石像族と出てるが?」

「せ、石像族!? ゴーレムより上の、上位の魔物ではないですか!?」


 その種族名を知っていたのか、石像族は上位の魔物らしい。

 社から現れた石像族の男がこっちに話しかけてきた。




「久々のお客が来たと思えば、こちらを獲物だとほざくとは想像してなかったぞ」

「ふん、獲物だから獲物と言ったまでだ」


 態度も変えず、言い放つゼロ。

 普通ならキレるが、石像族の男は笑っていた。




「ハハッ! ゴースト程度がこちらに舐めた口を聞くとはな! それに魔王にここを任された配下である俺にな!」

「え、魔王の配下!?」


 いきなり目の前の男が魔王の配下だと言われ、フォネスは驚愕していた。

 まさか、ここら辺に魔王の配下がいるとは思わなかったのだ。

 それでも…………




「だから、何だ? お前が魔王の配下だからといっても獲物に代わりはない!」

「なっ!?」

「それに、こんな所に魔王の配下? イベントを早めすぎんだろ!! 初心者の森の近くで魔王の配下がいるって、馬鹿じゃねぇのかよ! お前は魔王の配下と言っても、こんな所の領地を持つなんて、実力は下の下だろ?」


 ゼロは相手には通じない言葉を交ぜていたが、石像族の男はこっちをナメていることはわかっていた。




「ふざけるな……、俺は魔王ラディア様の第八の配下、オズールだ!! 下の下とふざけたことを抜かすお前は消す!!」

「ふん、第八って、部下の中で八番目だろ? 駄目じゃん。せめて、第一と言えよ?」

「な、なっ……」


 魔王ラディアの配下は魔王の中では数が少ないが、五百は越える。その中で八番目に強いのはかなり実力だと証明されている。

 だが、ゼロは…………




「ふん、俺はゼロだ。これから死ぬお前に名を名乗っても無駄だが、優しい俺は冥土への土産として、教えたからな?」


 尊大な態度は変わらず、言い放った。




「この……! たかがネームドモンスターになった程度でナメるなぁぁぁ!!」


 オズールは、スキルを使った。『物質構成』で、岩の中にある鉄の成分をかき集め、二本の剣を作り出した。




「フォネス、こいつは俺がやるから戦いに巻き込まれない場所で変化のサポートを頼む」

「ゼロ様だけで戦うのですか!?」


 ゼロが頼んだのは自分の”魔素剣(コストソード)”を強化するための変化だ。




「ああ、お前には剣の強化を維持してもらいたい。長時間、維持しながら戦うのは無理だろ?」

「う、それは……」

「それに、俺はあの石像から力を奪うんだ。だから、フォネスが塵にしてしまったら困るんだよ」


 遠回しに、フォネスでもオズールに勝てると言っていた。

 そのことを聞いていたオズールは怒りで覇気を周りに散らばっていた。

 それを見て、ゼロも剣を二本作り出した。




「ふむ、変化を頼む」

「え、あ、はい!!」


 ”魔素剣(コストソード)”は、自分の魔素を節約するために使う武器だ。つまり、ゴーレム相手に使った”魔重鎚(グレードハンマー)”より長時間は使える。

 その分、威力が落ちてしまうため、フォネスに変化で鉄に変えてもらった。

 これで、長時間、鉄の剣として戦いつづけられる。




(行くぞ!)

『……沸点は低いね。これで、攻撃がわかりやすくなる』


 ゼロがオズールを怒らせたのは、わざとなのだ。オズールの実力は、わからないが、魔王の配下でネームドモンスターなのだ。

 だから、油断はせずに、怒らせて冷静に行動させないようにしたのだ。




(さぁて、これで斬れるかな?)

『……大丈夫、じゃない?』


 とりあえず、斬ってから考えることにした。


「ふっ!」


 魔素を使って、身体を強化してオズールの懐に潜った。


「ぬぁっ、ゴーストの癖に、早いな!?」


 油断があったのか、簡単に懐に潜れ、突き刺そうとしたが、うまく剣で防がれていた。

 そのまま、もう一本の剣で脇腹を狙うが、防いだ剣の方で、こっちに押し込まれ、吹き飛ばされた。




(ふん、力はそっちが上みたいだな)

『……経験も。こっちはまだ一週間、ぐらい……』

(なら、スピードで撹乱か? いや、強化にも制限時間があるから早めに潰したいんだがな……)

『……なら、こうすればいい』


 レイから案が出た。聞いてみると、それならすぐに終わりそうだと感じた。




(よし、それでいい!)

『……準備、オッケイ……』


 会話は終わり、オズールに向き合う。こっちは時間をあまり掛けたくない。

 勝ったら、制限時間がある魔素で作った武器ではなく、普通の武器を使って戦おうと考えるゼロだった…………






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