第8話 ゴーレム



「よし、着いた!」

「ここが目的地なんですか?」

「そうだ。まさか、三日も掛かるとは思わなかったがな……」


 ここは初心者の森から大分離れており、岩がゴロゴロしている山だ。

 何故、こんなとこにゼロ達がいると言うのは……




(ようやく、あのスキルを手に入れられるか……)

『……絶対にあると言えないけど』

(いいさ。可能性があるなら、確かめるまでだ!)


 ここなら自分が欲しいスキルを持つ魔物がいるだろう。

 そこは、フォネスに案内してもらった。




「まさか、フォネスが知っているとはね」

「あ、はい。ここは故郷から近いですからね」

「なるほど。それであの魔物がいるのを知っていたんだな」


 あの魔物とは、ゴーレムのことだ。種族もゴーレムと二人の記憶と同じだった。




「しかし、あの魔物は強いですが、大丈夫ですか?」

「強いって、どれくらいにだ?」

「ええと、前の私だったら、勝てません。他に、剣での攻撃が効かないとか……」

「なら、防御力が高い魔物だと言いたいだろ?」

「……? 防御力ですか?」


 前の世界での癖で、ゲームでの知識が出てしまった。

 ここでは防御力と言うことはないのだからだ。




「ああ、つまり、守りに優れていると言うことだ。さらに硬いと言えばわかるか?」

「あ、はい。防御力というのは守りなのですね」

「そうだな。たまに知らない言葉が出ても気にしないでくれ」


 何故、知っているのか、説明出来ないからと言う意味も含めている。




「わかりました」


 すんなりと、納得し、了承してくれた。

 フォネスが素直で良かったと思いつつ、これから目的の魔物を探す。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 山登り……いや、岩登りと言えるだろう。

 沢山の岩が山になっているような状態だったから、足場が悪い。

 戦いになったら足場を気にしなければならないだろう。




「歩きにくいな……」

「岩場ばかりで魔物も見えませんね」

「どうぜ、隠れているだろう?」


 木が一本もないただ岩場があるだけで、見晴らしは良い。

 だが、姿が見えないということは、森と違った魔物が潜んでいる可能性がある。




(森の方はどうどうと歩いていたしな)

『……ここは待ち伏せが得意な魔物ばかりなのかな?』


 敵の反応は何もないから、ただいないだけのもありそうだが、時間は沢山ある。

 じっくりと探索して行けばいいだろう……


 だが、時間は沢山あるといえ、こっちはフォネスがいる。自分と違って、食事と睡眠が必要だ。

 ここは魔物が見付からない中、手持ちの食料はおそらく三日持てばよい程度しかない。

 フォネスによると、魔素があれば、ある程度は食わず飲まずの生活でも生きて行けるが、力は落ちてしまう。

 だから、食事は必ず摂ること! と厳命してある。

 そういう事情なので、二日経ったら、魔物が沢山いる近くの草原のような場所か森に行くことになる。




『……私達は食事いらずで、助かるねぇ』

(そうだな。食料を持つのはフォネス分だけで済むからな)

『……沢山持っていたら腐るし、戦いの時は邪魔になるよね』

(それも考えなければならないしな。二、三日分が一番だろう)


 レイとなんでもない会話を続けて歩いていると…………




「むっ?」




 ゼロの足場が揺れたと思ったら、レイから声が来た。




『……離れて!!』




 とっさに後ろに宙返りして離れる。フォネスもそれを見て、同様に離れていた。

 ゼロが立っていた場所には、岩場が起き上がるようにゆっくりと立っていた。それは………




『……ゴーレムだぁ……』

(うん、ゴーレムだ。しかし、今まで気付かなかったなんて……)

『……あ、スキル持ち。『擬態』を、持っている……』

(擬態だと?魔力も感じなかったんだが……)


 今も、魔力を感じない。『擬態』は魔力を隠す能力もあるのか? と睨んでいたが、レイが教えてくれた。




『……わかった、あのゴーレムはあのコアによって動かされている……』


 ゴーレムの心臓部に、確かに赤い球のような物が埋まっていた。




『……あの球、『魔力隠蔽』を持っている……』

(は? まさか、あの球も一体の魔物?)

『……そうみたい。赤い球と岩のゴーレムで二体の魔物が共有して生きている』

(ほう、面白いな)


 二体が助け合って生きている魔物、それがゴーレム。しかも、二体ともスキル持ちであった。

 『魔力隠蔽』は持っているが、『擬態』のスキルは持ってない。

 ぜひ、欲しいと思った。

 ゴーレムが行動してくるまで、ゼロ達は気付かなかったのだからだ。




「フォネス! 鬼火を試してみな!」

「はい!」


 まず、高温の火で溶かせないか試す。

 フォネスの鬼火は簡単に当たった。ゴーレムは三メートルぐらいあって、鈍いから的と変わらなかった。

 しかし…………




「弾かれた!?」

「やっぱり、ダメか」


 当たったが、やはり火は岩には勝てなくて霧散するだけで焦げ一つもなかった。




「フォネスは援護、俺が突っ込む!」

「は、はい!」


 ゴーレムには火は効かない。なら、フォネスにはサポートに徹してもらう。

 幻覚や変化などの能力もあるのだから。


(剣じゃ、斬れないと言っていたな……)

『……魔素を沢山、使うけどアレはどう?』

(面白そうだな!)


 二人は一心同体なので、アレだけで通じる。

 剣の時より沢山の魔素で作った武器。

 ”魔重鎚(グレードハンマー)”、片方の先が尖っている巨大なハンマーを作り出した。




「おらぁぁぁ!!」


 小さな身体を目一杯使って、”魔重鎚(グレードハンマー)”を振り回した。

 ゴーレムの右手の肩に当たり、粉々に砕いた。球は反対側だったからまだ生きているが……




「まだまだ!!」

「鉄に変化させます!」


 そこで、フォネスが変化を使ってハンマーの先が尖っている部分だけ鉄に変えた。




「砕けろぉぉぉっ!!」


 今度は胸にある心臓部を狙って球を砕いた。

 ゴーレムは意思がないのか、何も言葉を発せず、ボロボロと崩れた。

 ゼロは砕いた球と大きめの岩を拾って吸収をしてみたが…………




『……ん、魔素は吸い取れたが、スキルは吸えなかった』

(まぁ、そこらは運だから仕方がないな。だが、死体でも殺した後に、すぐ吸収すれば魔素を吸い取れるし。

 さらに、運が良ければスキルも、吸収出来るとわかっただけでもいいじゃないか?)

『……だね、球を狙えば、岩の方も崩れるみたい』

(そうだな。強いと言っていたけど、攻撃が当たらなければ問題ないな)


 ゴーレムの弱点がわかったし、次の獲物を探すことに。




「フォネス、援護お疲れ様。さっきの援護は良かったぞ」

「ありがとうございます!」


 フォネスは褒められて喜んでいる。親にも褒められたことがないフォネスは褒めてくれる人がいるだけでも、嬉しいのだ。


 それからも先程と同じゴーレムと戦い続けて、7匹目で『擬態』のスキルを手に入れたのだった…………




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ゼロ達はゴーレム狩りをしている時、ギルドの方では……




「三方、よく来てくれた。まず、先程の依頼を受けてくれることをお礼を言いたいと思う」

「それは良い。放っとけば、危険だろ?」


 応接室でギルド長を待っていた三人がいた。

 お礼はいいと止めた男、欠伸をしてソファーに寛ぐ男、じっと次の言葉を待つ女。

 それぞれの冒険者は五年以上も冒険者として活動しているベテランの冒険者だ。

 そんな三人はパーティ仲間であり、ギルド長の依頼を受けてくれるパーティだ。




「爆発を操る魔物……、そんな魔物が初心者の森にいるとは、信じられない情報ですが……」

「ああ、実際に爆発音を聞いた人が報告してくれた方の他にいたということで、信憑性が高いのです」

「例えば、何人かの魔術師が同時に火炎魔法を使った可能性は?」


 女も魔術師である。魔術師が何人か集まって発動すれば人間でも可能であると考えている。


「それだと、何のために初心者の森で発動したのかわからない。強い敵がいるならわかるが、そんな目撃情報はなかった」

「それでは、魔物である可能性も低いのでは?」

「ああ、どちらの可能性は低いが、街の安全のために、調べて欲しいのだ」


 今回の依頼は探索である。その探索で何かがわかればそれでいい。

 そんな魔物はいなかったとしても無駄ではないとギルド長は思う。




「ふーん、こっちはそんな魔物が出て来れば楽しめるんだがな」

「コーラス! そんなことを言うべきではないだろ!」

「ラスガよ〜、ここら辺には強い魔物はいねぇし、前の魔物なんて、期待外れだったしな」

「コーラス……」

「ちっ、メイまでそう言うか……」


 ラスガとメイに言われ、コーラスはその辺で話を止めた。欠伸しながらソファーに寄り掛かる。




「ギルド長、すいません」

「いや、いい。では、依頼は頼んだぞ」


 三人共、了承して応接室を出た。

 ギルド長はため息を吐いていた。


 確かに、あの魔物を簡単に倒しては、今回のはつまらない依頼だと思うが……




 ギルド長も応接室から出て次の仕事に取り掛かるのであった。






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