第7話 人間側



 ここはメイガス王国。

 世界の国の中では中堅と言えるぐらいの大きさだが、初心者が鍛えるには、ピッタリの森があるため、初心者の冒険者が多い王国である。

 王国の真ん中には、立派な城が建っている。

 だが、今回は用があるのはあの城ではなく、近くに設置されているギルドと言う建物なのだ。

 そこで、先程のことを話す勇者パーティの三人とギルド長の偉い人が応接室のような場所にいた。




「ふむ、爆発を操る魔物ですか……」

「そうだ、離れていたのに、爆発音が聞こえた。おそらく、小さな村なら簡単に消し飛ぶような爆発があっただろう」

「そうよ! 一人の魔術師では、あんな威力は出ないわ」


 筋肉質の男と魔術師の女が説明する。勇者は二人が言いたいことを説明したので、何も言うこともなく黙って話を聞いている。




「話はわかりました。だが、根拠が薄いのですぐにギルドから依頼と言うわけにはいけません」

「な!? あんな危険な魔物を放っておくと言うのか!!」

「そう言っていない。まず、現場を見に行くべきだろう。

 実際に、魔物と出会ったわけでもないだろう?」

「そ、それは……そうだけど……」

「こちらも危険な魔物がいるなら放っときたくないですが、何も情報がない魔物を討伐しろと言われても困るだけではないか?」

「確かに……」

「だから、まず爆発音があった場所を中心に、ベテランの冒険者に調べてもらう。

 もし危険な魔物がいた場合は、ギルドから依頼を出す」


 ギルド長は的確に、無駄なく依頼を完遂してもらうため、情報が必要だと言う。




「わかった。それで頼む」

「なら、ベテランである二つ名持ちのお二人方に頼めませんか?」


 筋肉質の男と魔術師の女はギルド長の言う通り、ベテランの冒険者である。王宮に勤めるそんな二人に依頼を頼もうとしたが…………




「それは出来ないわ」

「ああ、王様の命令で、勇者を育てないと駄目だからな」


 ギルド長は勇者と呼ばれている男を見た。

 その姿は、まさになりたての冒険者と変わらないようだった。




「そうか、王からの命令なら仕方がないな。他の人に頼もう」

「す、すいません……」


 勇者は自分のせいで、ベテランの冒険者の二人を縛っている。

 そのことにすまない気持ちになっていた。


「いやいや、勇者のせいじゃないんだから!!」

「そうだ。俺達は勇者を自分から育てたいと王様に言って、配置してくれたしな」


 二人は勇者は悪くないと優しいことを言ってくれる。そのことに勇者は心が軽くなった。




「気にするな。ベテランの冒険者はまだ何十人もいるから問題ない。

 で、勇者の名前を聞かせて貰えないか?」

「あ、はい。自己紹介はまだでしたね」


 勇者は立って、ギルド長と目線を合わせて言う。




「僕の名前はカズト・アンドウと言います」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 勇者パーティが帰った後、ギルド長は窓から帰る途中の勇者を見て思う。




 次々と、何かが起こっていては、気が休まる時が無いな……




 そう、最近は色々なことが起こりすぎなのだ。

 魔王の一人が他の国に攻め、勇者を何人か召喚に…………、今回の爆発事件と来た。

 色々なことが起こりすぎだろ! と思うギルド長だった。

 今回、初めて勇者を見たのだが……


「まだひよっこだったが、その後はわからんな……」


 まだ冒険者になったばかりの男にしか見えなかった。だが、素質は感じた。

 ギルド長は見る目が必要なのだ。

 カズト・アンドウは確かに、強いスキルを持っていた。ギルド長は一目を見ただけで素質はあるとわかった。

 だが……


 その目はまだ純粋さがあった。つまり、まだ死を知らないと言うことだ。

 身近で死を感じて、それでも戦い続けられるのか、それが予測出来ないから、素質はあるが、その後はどうなるのかはわからないのだ。




「……いや、考えても仕方が無いな」


 資料を纏める。先程の爆発事件、起こった場所は初心者が良く行く狩場だ。

 早めに手配しないと、初心者の冒険者が沢山死んでしまう可能性がある。

 だが、初心者でも狩れる魔物しかいない場所に爆発を起こせる魔物がいるということは疑わしいことだった。


 王宮で働く奴らに頼まれたことは断るにはいかないだろう……、と諦めてギルド員に指示を出す。

 ベテランの冒険者をここに呼ぶために……




「はぁ、また魔王が生まれたなんて、言わないよな……」




 ギルド長はため息を吐きながら仕事を進めていく。

 ギルド長の悩み種になりつつである本人の方では…………




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「……あ、フォネス。たった今、思い付いたんだが、お前の変化で服を作り替えればいいじゃないか?」


 今、フォネスの服はこの前に殺した盗賊の物だ。今では、もうボロボロになっている。




「それはいい考えですが、変化していると魔素が減っていくので、長時間は使えないのです」


 ”大焔剣(ホムラソード)”を作る時、鬼火に変化を使っているが、剣自体が焔その物だから、使える時間は短いのだ。だから変化に使う魔素は少なく済む。

 鬼火の方に使う魔素が大変多いのだが……




「そうか……、新しい服が欲しいが、なかなか人間には会わないしな」


 盗賊の後、ずっと人間に会っていないのだ。

 もし、いたら剥ぎ取ってやろうと思ったんだがな……




『……お兄ぃ、それは変態にしか、見えない……』

(ハッ!? そう言われると、確かに……)

『……でも、殺した後に、剥ぎ取るんだよね?』

(そして、こっちは魔物だし、いいんじゃね?)

『……それは、そうだね』


 結果、服の剥ぎ取りは変態行為ではない。

 何故なら、こっちは魔物だからだっ!!




 と、爆発事件の犯人は残念な話をしていたのだった。






(まぁ、それはいいんだが、服に困るなら人間の街に行くことを考えた方がいいだろう。見た目は人間と亜人に見えるしな)

『……お兄ぃは透けてるし、フォネスは尻尾の数が、多い』

(はぁ、問題はそこなんだよな。フォネスは服を買いに行く時間だけ短い時間なら変化で隠せるだろう)

『……お兄ぃも、変化に近いスキルを手に入れないと、ダメ』


 レイの説明によると、スキルで身体の構成そのものを変化させるスキルがあれば、人間にしか見えないように出来るということ。




(そんなスキルはあるかぁ? う〜ん…………)

『……ある』

(お、さすがの我が妹だ!!)

『……ふふん、もっと褒めるの……』

(よっ、天才! レイが一緒で良かったよ!! 世界で一番愛してる!!)

『……へへっ、で、そのようなスキル、あの魔物なら持っている可能性がある……』

(……その魔物とは?)

『……お兄ぃも知っている』

(俺が知っている魔物? それは小説や漫画から抜き出しているよな)


 今まで、会った魔物にはそんなスキルを持っていそうな魔物はいなかった。

 つまり、俺が知っている魔物ということは、前の世界で知った魔物のことだ。




『……ヒント、……物理……無機質……』

(物理に、無機質、構成…………あ!!)

『……わかった?』

(あー、アレなら持っていそうだな!!)

『……それは……?』


 レイが答え合わせするように聞いてくる。

 ヒントから、ゼロが思い付く魔物は一つしかいない。

 その魔物とは…………






(ゴーレムだ!!)






 人間の街に入るために、あるスキルを持つ魔物がいそうな場所に向かうゼロ達…………






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