第2話 強さと検証



 ゼロはこの世界での目的を決めたところで、これからの指針をレイと話し合う。




(まず、自分が強くならないと駄目だな)

『……そうだね、仲間か部下を作るには自分自身の強さが必要』


 強さとは何か?と考えてみる。人間だったら、権力、金、知識だが、今は魔物である。

 魔王を目指すなら、先程の三つともう一つ、力が必要だ。

 ここはどう考えても、ステータスがあるし、スキル、魔法、魔物等が存在するなら、異世界としか考えられない。さらに、自分が魔物になっていることが一番の証拠だろう。

 今の容姿は、身長が120センチ程度で人の形をしている。見た目は九重が子供だった頃の姿に近い。




(さて、この洞窟にいる魔物を全滅させてみるか?)

『……油断はダメ』

(わかっているさ。この洞窟にいる魔物の強さを知らないしな)


 ゼロは慎重に洞窟の中を歩いて行く。

 力はどうやって計るのか、魔物の場合は魔素が多いほど強いらしい。

 何故、そんな情報があるのかは、『知識者』が魔物についての情報がレイに与えていた。おそらく、魔物であるゼロを鑑定をしたため、魔素についての情報を手に入れていただろう。




(魔素と言ったか? それが多いからって、絶対じゃないだろ?)

『……そこらはゲームに、似ている』

(魔素はエネルギーで、目には見えない技術(レベル)があると言いたいだろ?)

『……当たり。他に弱点、スキルの有無にも関係がありそう』

(そこらも強さと言えるな……)


 ゼロとレイは思考空間を使って話をしながら洞窟の奥に向かっていく。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「お、いたいた」


 ゼロが見付けたのは、火玉のようなものだった。魔物を探して、初めて会ったのはゼロと同じ種類のゴースト。




(しかしなぁ、あれが俺と同じゴーストには見えねぇな……)

『……お兄ぃは、変異種だから』


 ゼロのいうとおりに自分と同じゴーストなのに、姿が全く違っている。

 ゼロと言う幼霊体(ゴースト)は変異種であり、自我を持っていて特殊な存在であるため、他のゴーストとは違うのだ。




(じゃ、最初の糧になってもらうか!)

『……お兄ぃならやれる』

(おう、まずスキルを試してみるか)


 『魂吸者(スイトルモノ)』の吸収をゴーストに向けて、使ってみる。

 ゼロは前もって、レイと吸収についての使い方を話し合ったから準備は万全なのだ。




「まず、”生命吸収(ライフドレイン)”!」

 技の名前は二人で決めた。名前があった方がイメージしやすいのもある…………が!

 一番の理由はゲームのように言ってみたかっただけなのだぁ!!


 ゼロは手を伸ばして、50センチぐらいの火玉を掴むように、触って発動する。




「おおぅっ?」


 触った瞬間に、火玉は小さくなって、最後には……………………消えたのだった。




『……おめでと、初戦闘、勝利ぶぃっ』

(…………)


 レイが指を二本立てて称賛する姿が見えたような気がした。




(……これって、戦闘と言えるのか?)


 当のゼロは、自分が思った戦闘とは違うような気がしたが、とりあえず勝ったので気にしないことにした。




『……仕方がない。お兄ぃの魔素はさっきの火玉の百倍ぐらいはあったから』

(え、そんなに差があったのか!?)

『……今ので、少しだけ魔素が増えたみたい』

(確かに、何か身体に入ったような気がしたな。あれが魔素って奴か)


 ”生命吸収(ライフドレイン)”を発動した時、冷たい空気みたいのが手の平から入ってきたのだ。

 ゴーストの身体は魔素で出来ているから、吸収した分、そのままゼロに足されている。




(ふむ、スキルはなかったみたいだな?)

『……うん、たかがゴーストだから?』

(俺もゴーストだけどね……)


 スキル持ちの魔物は珍しいなのかはわからないが、まだ一匹しか会ってないのだから、次を探せばわかるかもしれない。

 というわけで、続けて次の獲物を捜し始めた。




 今まで出会った魔物は、ゴーストが5匹だけだった。

 ゼロは洞窟の奥に進んで行っているが、まだ最奥には着いていない。

 初めからいたこの洞窟は思ったより広いようだ。たまに別れ道もあり、レイに脳内でのマッピングを頼み、先に進んでいる。




(まだ奥まで着かないなんて、広いな? まさか、あの定番のダンションと言うものじゃ?)

『……わからない。魔物も、ゴーストしかいないし』

(そうだよな、俺の身体は睡眠や食事が必要ないから、飢えないのは助かるな)


 周りに魔素があれば、それを吸収だけで、生きている身体であるため、食事や睡眠は必要ないのだ。

 レイも、スキルなのでゼロと同様に必要ないので、準備はいらずに洞窟の奥を目指せる。


 他に物がないしな……。


 持ち物は何もないのだ。ゼロは、裸でいる趣味はないので初めから服を着いていたのは良かったと思う。

 服ごと透けているがね…………




『……あ、また敵がいる』

(ん、あれは…………骨?)


 曲がり角を曲がろうとした時に、骨が歩いているのが見えた。

 レイが鑑定したら、あれはスケルトンと言うようだ。




『……お兄ぃ』

(了解……)


 ゼロはレイの言いたいことは伝わったようで、静かに頷く。

 敵は骨が一人だけ。だが、武器を持っていたのだ。




(剣か……、俺の身体は剣で斬れるのか?)

『……多分。洞窟の壁を通り抜けられないなら透過能力はない』

(確かに。ゴーストのクセに実体があるんだよな……)


 ゼロは壁を触る。ゴツゴツとした感触を感じられる。

 触れるなら、剣も間違いなく自分に触れることが出来るだろう。




(『無痛感』で痛みは無くなっているといえ、剣の相手をするには、勇気がいるな……)

『……こっちは素手だもんね』


 今のゼロが出来ることは、気付かれずに近付いて奇襲することだ。




(何かスキルがあればいいんだがな……)

『……鑑定したら『魔力操作』があった。だけどっ、手に入れるかは運だから』

(お、あるんだ? 何もなかったゴーストよりはマシだろう!)


 奪えるスキルがないよりあるだけ、やる気が違う。

 もし、手に入れたら出来ることが広がるのだから。




『……もうすぐで後ろを向くよ』

(ああ……)


 息を殺すように静かに、元から小さい身体を低く伏せ、チャンスを待つ。

 相手が後ろを向いたら、獲物を狙うように飛び掛かるのだ!




………

……

…今だっ!!




 ゼロはスケルトンが背を見せた瞬間に手を伸ばして、飛び出していた。

 それで、隙だらけの背中に触れることが出来た。




「吸い取れ、”生命吸収(ライフドレイン)”!」


 背骨から魔素がゼロに流れていくのを感じる。

 ゴーストのようにすぐに消えることはなかったが、スケルトンは苦しみながら剣を振ってきた。

 デタラメに振られた剣に当たるはずもなく、しばらく吸い取ると…………




 ポロポロォォォ………




 骨を支えていた魔素がなくなったからなのか、スケルトンはバラバラに崩れていった。

 レイは何か気付いたのか、こっちに声が掛かった。




『……あ、スキル……!』


 一匹目でもうスキルが手に入ったみたいようだ。


(『魔力操作』だったか?)

『……うん、魔素を動かせるみたい』

(そうなのか。なら魔素操作と言う名でもいいような気だするんだが……)

『……そこは重要?』

(うーん、どうでもいいことだったか? なら、いいや)

『……多分、魔力は魔素と似た意味だと思う』


 同じ意味だけで、名前は重要ではないと言いたいらしい。

 新しいスキルを手に入れたので、何が出来るのかレイと検証をし始めた。




(で、『魔力操作』は魔素を操るんだよな?)

『……うん、お兄ぃは身体の中にある魔素、わかる?』

(ああ、スケルトンと戦ってから、身体の中に何かがあるのがわかる)

『……それが魔素で魔力らしい』

(ふむ……)




 洞窟の奥に進むのを止めて、この場で何が出来るのかレイと話し合いを始めたのであった…………






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