廃棄ダンジョンのぼっちな魔物

しぇもんご

竜が護る国

第1話 プロローグ

 それはダンジョンと呼ぶには、あまりにも歪で、異常な場所であった。そのダンジョンには解除できない二つの効果がある。


 一つは固定。それは試練の強制であり、ボス部屋などで限定的に付与される脱出不可の効果。しかし、このダンジョンでは全てのフィールドにこの効果が付与される。つまり、ひとたびそのダンジョンに足を踏み入れれば、あらゆる脱出手段が無効化され、踏破するまで決して元の世界に帰ることができない。


 そしてもう一つが分解。ダンジョンを構成する地形以外のに、解除不可の分解効果が付与される。武器も肉体も魔素もすべて例外なく分解される。


 それは試練と呼ぶにはあまりにも悪辣な罠であった。何も生み出さず、招きいれたすべてを無に帰すそれは、ダンジョンとしては明らかに失敗作であった。何より不可解なことは、その異常な効果がダンジョンの魔物にも適用されることである。故にこのダンジョンに魔物はいない、たった一匹を除いて。


 それはダンジョンの意思だったのか、それとも誕生と分解の無限のループの中で生まれた魔物の願いであったのか。ある時一匹のスライムが生まれた。侵入者を殺すための爪も魔法も持たないそのスライムには、しかし異常な回復力があった。それはダンジョンの分解速度を上回る無限の回復力。


 たった一匹。


 それもちっぽけな、スライム。


 それでもついにこの過酷なダンジョンに適応した魔物が生まれた。そしてその一匹を最後に、ダンジョンは魔物を生み出す機能を完全に停止した。


***


 ダンジョンとは試練である。意思ある者の挑戦に応え、成長を促し、そして力を与える。しかし、そのダンジョンに挑んだものは何一つ得られない。それどころか一人として帰ってくることはなかった。何もわからず、全てを飲み込むそのダンジョンに、やがて自ら挑む者はいなくなった。力を求める者にとって、それはあまりにも過酷で理不尽で意味不明な場所であった。


 しかし、他の者にとっても同じとは限らない。入ったものが決して帰ってこないその場所は、何かを隠し棄てるにはうってつけであった。だから罪を犯したもの、秘密を知ったもの、手に負えない厄災が際限なく放り込まれた。ダンジョンとしての機能を果たさず、ただ全ての罪と秘密が棄てられるその場所は、いつしか廃棄ダンジョンと呼ばれるようになった。



 棄てる棄てる棄てる。



 そこに一匹の魔物がいることを知らずに。



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