第30話

ジュンセside


そして…ついに…


C「…ジュンセ……」


家の作業室で俺がパソコンに向かっていると、いつもノックして入ってくるチアが余裕のない声で俺の名を呼んだので俺が慌てて振り返ると、そこにはお腹を抱えて汗をにじませるチアがいた。


J「チア!!まさか…陣痛…来た!?」


C「うん…もう10分間隔なんだよ…」


J「えぇ!?病院行かなきゃ!!」


俺はチアの陣痛の間隔を見計らうとチアの腕を自分の肩に回し、用意してあった荷物と車の鍵を持って家を出る。


駐車場にまで降りてチアを助手席に乗せると俺は運転席に乗り込んだ。


J「チア…大丈夫…?」


C「う……また陣痛キタ……早く病院…!!」


J「わ…分かった!!」


俺は焦る気持ちを落ち着かせ安全運転でアクセルを踏み車を走らせる。


しかし、街中は帰宅ラッシュということもあり渋滞で車が動かない。


俺はイライラしてどうにかして、この渋滞から抜け出したいのにその隙間すらないほど車で埋まってしまっている。


ヤバイな…救急車呼べばよかったかも…


助手席で大きなお腹を押さえ、呼吸法をしながら汗をにじませるチアを見て俺はそんな事を思った。


C「まだ…?まだ着かない?」


J「うん…とりあえず渋滞から脱出して抜け道で……」


C「あぁ…!!」


チアがそう声を上げるとチアの服が濡れていきチアの顔色が変わる。


J「…まさか……」


C「破水した…どうしよう…もう生まれちゃいそう…」


J「待って待って待って!!もうすぐ着くから!!我慢して!!」


C「無理ぃぃぃい!!」


そう言ってチアはついにいきみ始めた。


俺は慌てて後ろに置いたカバンに手を伸ばしバスタオルを取り出す。


C「ぁぁぁあぁぁあ!!はぁ…はぁ…はぁ…頭が…出ちゃった……」


J「えぇぇぇええぇぇえ!!!?」


俺はアタフタしながらシートベルトを取り、電話で救急車を呼ぶと手を伸ばして出てこようとしているマメの頭を支えた。


J「これ…もう…産まれるよね?」


俺の言葉にイラッとしたのかチアは俺のもう片方の手をギュッと握る。


C「産まれるに決まってんでしょ!見て分かんないの!?」


J「で…ですよね……すぐに救急車は来てくれますからね!!」


C「もうどうでもいい…とりあえず…いきませて!!」


J「わ…分かりました…ヒッヒッフーですよ!!はい!!」


ヒッヒッフー!!


ヒッヒッフー!!


ヒッヒッフー!!ヒッ………


おんぎゃぁぁぁぁぁあぁぁあ!!!!


マメは大きな産声を響かせながら産まれた。


俺はそのままマメを抱きとめタオルに包み、目に涙を浮かべるチアにマメの顔を見せてあげる。


チアは涙を頬に流しながらそっとマメを抱きしめた。


C「やっと会えた……私たちの可愛い赤ちゃん……」


元気に生まれてきたのは可愛らしい男の子で、俺は赤ん坊を抱きしめるチアごとギュッと抱きしめる。


J「おつかれさま…ありがとう…俺たちの子供を産んでくれて…」


涙で溢れるチアのまぶたにキスを落とすと、チアは泣きながら微笑む。


チアの腕の中にいるマメは大きな声で泣きながら自分の存在を主張している


J「んふw可愛いw」


俺がそう言ってマメを包んでいるバスタオルを指で動かしほっぺを突っつくと、マメの右肩にあるものを見つけて俺は目を丸くした。


J「え……嘘…だろ……」


C「ん…?」


自然と俺の目からは涙が溢れ笑みがこぼれ落ちた。


J「チア…ここ見て…肩に…右肩に2つのホクロがある……」


C「えぇ!!」


チアも慌てて確認すると嬉しそうに笑いながらまた、腕の中にいる赤ん坊を抱きしめた。


J「チビ…また会えたな…」


C「チビちゃん…本当にまた来てくれたね…」


チアの腕の中で眠る赤ん坊の肩にはチビと同じ場所に同じ形のホクロがあり…


生まれてきたその子に俺たちは「ジチア」と名付けた。


そして、6年後


J「チア?ジチアは?」


C「あぁ…さっきお昼寝するって言ってからまだ起きてこないんだよ…ほんと寝坊助。」


J「チアに似たんだなきっと…」


C「え…ジュンセの間違いでは?」


なんて言いながらも俺たちはジチアがお昼寝中なのをいい事にチュウチュウとキスをする結婚7年目のラブラブ夫婦。


ジチアが生まれて2年後には娘にも恵まれて今、チアのお腹の中には3人目が宿ったばかり。


お昼寝中のジチアを起こそうと俺はリビングで大の字になって眠るジチアの体を揺する。


J「ジチア〜起きろ〜もうすぐ晩ご飯だぞ〜!!」


どんなに起こしても一度寝ると石のようになって起きないジチア。


そんなジチアを見ていつもチアは似なくて良いところまで似ちゃうんだね…なんて言うけど俺からしたらチアにそっくりだと思う。


J「おぉおぁぉおい!!起きろ!!」


俺がどんなに起こしても起きないジチアに呆れていると、チアがゆっくりとやって来てジチアの横に座った。


C「起きないと…もうちゃあちゃん…一緒にお風呂入ってあげないよ。」


チアがジチアの耳元でそう呟くと、ジチアのぱっちりとした目がキラーんっと一気に開く。


J「起きた起きたw」


「やだぁ!!ちゃあちゃんといっしょにおふろはいる!!」


ジチアはいまだに母ちゃんとはちゃんと呼べず、母ちゃんが訛って「ちゃあちゃん」とチアの事を呼んでいる。


C「父ちゃんと入れば〜?」


チアはわざとジチアにそう意地悪をすると、ジチアのビー玉のような目にみるみるうちに涙が溜まっていく。


👦「やぁぁだぁぁあ!!ちゃあちゃんがいいーーーー!!とうちゃんはやだぁぁぁあぁぁあ!!ちゃあちゃんじゃなきゃやだぁぁぁあぁぁあ!!ぶえぇ〜ん〜(ノД`)」


お分かりの通り、ジチアは見た目はもちろん、好きなものも趣味志向までも俺にそっくりで、チアがいないと生きていけないところまで俺と瓜二つ。


C「ごめんごめん。ちゃあちゃんが意地悪だったね。一緒にお風呂入ろうね?はい、仲直りのぎゅーしよ?」


そうチアが言えばジチアはチアにぎゅーっと抱きつき、チアの唇にチュゥとする姿はあまりにも手慣れすぎていて我が息子なのに腹ただしい。


C「ジュンセw息子にヤキモチ妬かないのw」


J「いいもん…子供達が寝たらそこは俺だけのモノなんだもん…」


C「んふwはいはいw我が家の男たちはホント甘えん坊ですね〜」


なんて言いながらチアは自分と全く同じ顔をした我が家の姫である娘に愚痴をこぼす。


「とーたんもジチアにぃも〜ちゃあちゃんのストーカーだね。」


なんてどこで覚えてきたのかわからない生意気なことを言うクールな娘。


チアと瓜二つなのになぜか、中身はチアのような天然ではなくとてもクールでドライな娘だ。


C「ホント…2人ともちゃあちゃんのこと好きすぎて困っちゃうよ…」


👧「ホントだねぇ…でもわたちも…しゅきなひといるのぉ!」


C「え…そうなの?誰?父ちゃん?それともジチアにぃ?」


👧「とーたんも…ジチアにぃもしゅきだけど……いちばんは…ミナグくん!!わたち…ミナグくんとけっこんしゅる!!」


J「ア…?アカーン!!!!!!」


C「んふふふw」


👦「ジチアは〜ちゃあちゃんとけっこんしゅる!!」


J「そ…それもアカーン!!!!」


俺の叫び声も虚しく…


娘はTVに映るミナグさんに目を輝かせTVに駆け寄り、ジチアはチアの唇にチュッとキスをした。


不思議な経験をした俺たち2人は今、チビのおかげで幸せに暮らしている。


チビがジチアなのか…


ジチアはチビだったのか…


それはいまだに俺もチアも分からない。


ただ俺たちが知っていることは…


チビが俺の元に来てくれたおかげで俺とチアはまたやり直すことができ…


ジチアがチアのお腹に宿ってくれたおかげで俺たちは家族となったということ…


そして、チビもジチアも同じ場所に二つ並んだホクロがあり、チビとジチアが瓜二つだということ。


俺たち達が幼かった頃に失ってしまった小さな命であるチビも、俺たちが大人になって恵まれたジチアも…そして、娘もこれから生まれてくる赤ん坊も、俺たちにとったらとても大切な命であり宝物にちがいない。


命の大切さを言葉にしてしまえばそれはあまりにも軽く聞こえてしまうが、俺の人生においてこの小さな命たちが俺を男へと変えてくれた。


もし…あの時俺が大人だったら…


何度も悔やんだその想いをかき消せたのは紛れもなくチビのおかげた。


J「チア…愛してるよ…」


C「ジュンセ…私も愛してる…」


世界で一番、愛してる人の肩を抱きながらそう愛を囁けるのもチビのおかげ…


チビ…そっちに行ったら一緒にいっぱい遊ぼうな…


そう心の中で呟きながら俺は今日も空を見上げる。


おわり

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小さな天使〜遺言〜 樺純 @kasumi_sou_happiness

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